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森のハイエルフは世界をまだ知らない ~世界初のタロット魔法で旅に出ます~  作者: スッピー
第一章

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第一話 世界で一番、愛された子(後編・前半)


「……ふぇ。」


 暖かい。


 最初に感じたのは、そんな当たり前の感覚だった。


 ふわりと身体を包み込む柔らかな温もり。


 鼻先をくすぐる花のような優しい香り。


 そして、一定のリズムで聞こえてくる鼓動。


(……誰かに抱っこされてる。)


 ぼんやりとした意識が少しずつ浮かび上がる。


 重たい瞼をゆっくり持ち上げようとして――失敗した。


(…あれ?)


 もう一度。 ゆっくり。


 本当に少しだけ、光が差し込む。


 (…眩しいっ!)


 思わず顔をしかめる。


 視界はまだぼやけている。輪郭も曖昧だ。


 けれど、その向こうで誰かが嬉しそうに笑った。


「……フィリア。」


「ええ。」


「見てくれ。」


「ちゃんと目を開けようとしてる。」


 低く穏やかな声。


 その声だけで、不思議と安心する。


(……誰?)


 いや。


 違う。知っている。

 知らないはずなのに。


 胸の奥が、この声が安心すると感じている。


 次に聞こえた声は、春の日差しのように柔らかかった。


「焦らなくていいのよ。」


「ゆっくりで大丈夫。」


 その声を聞いた瞬間だった。

 胸の奥で何かが弾ける。


 ――思い出した。


(あ……。)


 そうだ。


 私は。



 前世で死んだんだ。




 仕事をして。

 本を読んで。

 休日はお気に入りの喫茶店でコーヒー……は

 苦手だったから紅茶を飲みながら、

 タロットカードを眺めて。


 世界中を旅してみたいと思って。


 でも…、それは叶わなかった。


(……私、どうなったの?)


 思い返しても最後の記憶は曖昧だった。


 けれど、今の身体の感覚だけははっきりしている。


 小さい。


 驚くほど小さい。


 指を動かそうとしても、ふにゃりとしか動かない。


(私、赤ちゃんだ……。)


 それを理解した瞬間、妙に冷静な自分がいた。


(うん、ファンタジー好きだったしね。)


 異世界転生。

 小説では何度も読んだ。


 まさか自分がなるとは思わなかったけれど。


(じゃあ、ここって魔法がある世界なのかな?)


 その考えだけで、胸が少し高鳴る。


 もし本当にそうなら。

 今度こそ、世界中を旅してみたい。


 空も。


 海も。


 山も。


 誰も見たことのない景色も。


 全部、自分の目で見てみたい。


「……アルヴィン。」


「うん?」


「この子、笑ってない?」


「笑ってる!生まれたばかりなのに!」


 視界の中へ、二つの顔が近付く。


(うわぁ!!)


 思わず心の中で息を呑んだ。


 綺麗 という言葉では足りない。


 金糸のさらさらとした綺麗な髪。

 先が尖った長い耳。

 宝石のような緑の瞳。


 何よりも絵画から抜け出してきたような

 美しい男女だった。


(……美形すぎない?)


 思わず現実逃避したくなる。


 そんな私を見つめる二人の瞳は、

 驚くほど優しかった。


 まるで、世界で一番大切な宝物を見るような。

 そんな目だった。


 その視線が少しくすぐったくて。


 私は反射的に手を伸ばした。

 届くはずのない小さな腕。


 けれど


 小さな指先が、男の人の人差し指へ触れる。


 きゅっ。


 なぜか握ってしまった。


「…………。」


「…………。」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間。


「握ったぁぁぁぁぁっ!!」


 家中に響く声。


「ひょっ!?」

 私はびくっと肩を震わせた。


(うるさっ!?)


 男の人――たぶんお父さんは、涙をぼろぼろ零しながら叫んでいた。


「フィリア見たか! 今! 握ったぞ!」


「ええ、見てたわ。」


「私を選んでくれた!」


「たまたまです。」


「違う!」


「絶対違う!」


「これは父娘の絆だ!」


(いや、偶然というか赤ちゃんなら普通だと思う……。)


 前世が大人だからこそ冷静に突っ込める。


 でも

 その嬉しそうな顔を見ていると


(……悪くないな。)


 ふにゃりと、自然と頬が緩んだのがわかった。



後半へ続く

次は7/19更新

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