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6/12

氷の姫、配信中に隠れてホットサンドを食べさせられる

『今日、氷姫の通常配信あるぞ』


『黒角鹿の件、本人コメントするかな』


『粉砕しない氷姫、正直ちょっと良かった』


『いや解釈違いだろ。氷の姫は血を浴びないから氷の姫なんだよ』


『でも素材回収班的には神』


『肉質が死ぬ男、教育成功してて草』


『だから誰なんだよ肉質が死ぬ男』


配信開始前から、コメント欄は妙な熱を帯びていた。


原因は、前日の討伐ダイジェストだ。


氷室ソフィアが第十九階層で黒角鹿を討伐した、ただそれだけの映像。


本来なら、世界ランク上位の探索者が低層の中型魔物を処理したところで、大きな話題になるはずがない。


だが、その映像には一つだけ、これまでの氷の姫と違う点があった。


魔物が、粉々になっていなかったのだ。


脚の関節だけが薄く凍り、首元を正確に断たれた黒角鹿。


袖に残った、わずかな返り血。


完璧に美しく、何も汚さず、何も残さず敵を砕いてきた氷の姫にしては、あまりにも地味で、あまりにも実用的な倒し方だった。


そして、視聴者は覚えていた。


数日前の配信事故。


深層ボス部屋で聞こえた、謎の男の声。


――凍らせるな。肉質が死ぬ。


「……緊張するなぁ」


氷室ソフィアは、配信待機画面の裏で小さく呟いた。


もちろん、カメラには映らない。


映っているのは、冷たく整った横顔だけだ。


銀髪は綺麗に結われ、探索服にはスポンサー企業のロゴが入っている。

姿勢は真っ直ぐ。

表情は静か。

完璧な氷の姫。


けれど、内心では胃のあたりが妙に落ち着かなかった。


理由はコメント欄ではない。


今日の討伐対象、雷鳥(サンダーバード)のことを考えていたからだ。


「羽の付け根は潰すな。胸肉に氷を入れるな。首を落とすなら、血が胴に回る前にやれ」


昨日、遠野朔にそう言われた。


戦闘指南ではない。


食材回収の手順だ、と本人は言っていた。


ソフィアも分かっている。


これは配信だ。


世界中の視聴者が見ている。


スポンサーも、ギルドも、ランキング関係者も見ている。


ここで考えるべきことは、討伐の安全性と配信映えと魔力管理。


決して、夕飯の下処理ではない。


――ない、はずだった。


「配信、開始します」


通信からギルドスタッフの合図が入る。


ソフィアは一度だけ息を整え、顔を上げた。


カメラのランプが赤く灯る。


「皆様、ごきげんよう。氷室ソフィアです。本日は第二十三階層、帯電樹林エリアの通常討伐任務を行います」


声は乱れない。

丁寧で、冷たく、澄んでいる。


『姫きたあああ』


『今日も美しい』


『帯電樹林って雷鳥出るとこ?』


『雷鳥は速いぞ』


『氷姫なら一瞬で氷像だろ』


『いや最近の姫は素材に優しいからな』


『素材に優しい氷姫って何?』


ソフィアはコメント欄を視界の端で流しながら、森に似たダンジョンの中を進んだ。


黒い幹。

青白く光る葉。

枝の間を、微弱な電流が蜘蛛の巣のように走っている。

空気は乾いているのに、肌の表面だけがちりちりと痺れた。


帯電樹林。

雷属性の魔物が多く、機材トラブルも起こりやすいエリアだ。


配信用ドローンが、少し高い位置でソフィアを追う。


その時、枝の上で何かが光った。


雷鳥(サンダーバード)


鶏に似た体躯。

鋭い嘴。

青く帯電した羽。


次の瞬間、雷鳥が枝を蹴った。


速い。


青い稲妻のように、空中を滑る。


いつものソフィアなら、森ごと薄い氷で覆い、雷鳥の群れをまとめて凍結させていた。


美しい。

安全。

圧倒的。

だが、その場合。


胸肉に氷が入る。

羽の付け根が砕ける。

血が止まりすぎる。


――肉が死ぬ。


「……対象を確認」


ソフィアは右手を上げた。


生まれた氷は、大鎌ではない。


細い針。


昨日、黒角鹿の後に何度も練習した、指先から伸びる透明な氷の糸。


雷鳥が急降下する。


ソフィアは半歩だけ引き、氷の糸を空中へ走らせた。


狙うのは胴ではない。


羽の付け根。


飛ぶための関節。


「――そこ」


氷が刺さる。


雷鳥の片翼が、一瞬だけ止まった。


体勢を崩した雷鳥が落ちる。


その首元へ、薄い氷の刃が滑り込んだ。


一撃。


血は散った。


だが、胴体は潰れていない。


羽も、胸も、脚も残っている。


雷鳥はその場に沈み、青い電流だけが床の上で細く弾けた。


『え?』


『粉砕しない!?』


『今の氷、細っ』


『羽だけ止めた?』


『姫、制御変わってない?』


『素材回収班の人、今泣いてるだろ』


『肉質が死なない倒し方じゃん』


ソフィアは表情を変えなかった。


「対象一体の沈黙を確認しました。引き続き、周辺警戒を行います」


冷静な声で告げる。


けれど、内心ではほんの少しだけ、別のことを考えていた。


今のは、何点だろう。


――いや。


違う。


配信中に考えることではない。


遠野朔の採点など、今は関係ない。


関係ない、はずなのに。


「……四十点くらいは、欲しいな」


小さく呟きかけて、ソフィアは寸前で口を閉じた。


危ない。


配信中だった。


その後も討伐は続いた。


二体目。

三体目。


ソフィアは雷鳥をまとめて凍らせず、一体ずつ、関節と首元だけを正確に狙った。


見た目は地味だ。


以前のような、森全体が白銀に染まる絶景ではない。


だが、魔力消費は明らかに少ない。


視聴者にも、それは伝わっていた。


『今日の姫、燃費よくない?』


『いつもより氷が小さいのに精度えぐい』


『綺麗さは落ちてないのに実用性上がってる』


『氷の姫、進化してる?』


『いや飯で育成されてる説ある』


『飯で育成って何だよ』


四体目を処理したところで、ソフィアは一度足を止めた。


魔力は残っている。


呼吸も乱れていない。


だが、指先に小さな震えがあった。


広範囲で押し流すより、細い制御の方が神経を使う。


魔力の消費ではなく、集中力の消耗。


それは、今まであまり意識したことのない疲労だった。


「機材確認のため、一時的に映像を固定します」


ソフィアはカメラに向けて告げた。


配信ドローンが上空へ移動し、帯電樹林の全景を映す。


ソフィアはその死角に入るように、岩陰へ歩いた。


そこに、黒い手袋の男がいた。


遠野朔だった。


黒い防刃シャツ。

背負ったMontaBell(モンタベル)のバックパック。

腰のツールベルト。

当然のような顔で、配信用ドローンの死角にしゃがんでいる。


「カメラからの角度が甘い。二歩右に寄れ」


「……なぜいるんですか」


「この区画の後処理担当だ」


「偶然ですか?」


「申請は出した」


「つまり偶然ではないですよね」


「雷鳥は、あんた一人に任せると胸肉が死ぬ」


「私は今、配信中です」


「だから急げ」


朔はまったく悪びれなかった。


足元には小さなZOTO(ゾト)のバーナー。


その上に、UNI-FLAMME(ユニフラム)のホットサンドメーカーが乗っている。


黒い鉄の器具の端から、細い湯気が漏れていた。


焼けたパンの香ばしさ。

甘辛いタレの焦げる匂い。

生姜。

ほんの少しの山椒。

それから、澄んだ肉の香り。


帯電樹林の乾いた空気と雷の臭いが、じわじわと押しのけられていく。


ソフィアの喉が、分かりやすく鳴った。


「今のは、違います」


「まだ何も言ってない」


「言われる前に否定しました」


「その癖、直した方がいいな。余計に分かりやすい」


朔はホットサンドメーカーを裏返した。


じゅ、と小さく音が鳴る。


「今日の主役はまだ飛んでる。これは昨日の在庫だ」


「在庫……?」


月光兎(ムーンラビット)。第十七階層の夜行種。脂は薄いが、肉に澄んだ甘みがある」


「月光兎」


「細かい制御の前に入れるのが良い。胃も重くならない」


朔はそう言いながら、ホットサンドメーカーの留め具を外した。


中から現れたのは、きつね色に焼き固められたホットサンドだった。


端はしっかり圧着されている。


表面には薄く塗ったオーク脂が馴染み、焼き目がまだらに走っていた。


パンの隙間から、照りのあるタレが少しだけ滲んでいる。


甘辛い醤油。

煮切った酒。

すりおろした生姜。

焦がしネギ。


そこに、細く裂いた月光兎の肉が絡んでいた。


照り焼きだ。


ただの照り焼きではない。


濃すぎないタレを、肉の繊維に薄くまとわせて、パンの内側にだけ染み込ませてある。


外は香ばしく。


中はしっとり。


けれど、噛んだ時にタレが垂れないよう、ぎりぎりの量に抑えられている。


「……それ、絶対に美味しいやつじゃないですか」


「声が大きい」


「すみません」


「月光兎は火を入れすぎると紙みたいになる。先に軽く焼いて、タレを絡めて、余熱で戻す。ホットサンドメーカーで潰しすぎると食感が死ぬから、圧は弱めだ」


「ホットサンドにも圧の加減があるんですね」


「当たり前だろ。挟めばいいと思うな」


当たり前ではないと思う。


少なくとも、ソフィアの知っているホットサンドに、そんな考え方はなかった。


朔は焼き上がったホットサンドを半分に切った。


ざく、と小気味いい音がした。


切り口から湯気が上がる。


白いパンの内側に、照り焼きのタレをまとった月光兎の肉。

焦がしネギの黒。

細く刻まれた香味菜の緑。


その隙間から、肉汁と甘辛いタレが、ほんの少しだけ光った。


朔は片方を紙に包み、ソフィアへ渡した。


「食え」


「今ですか?」


「今だ。集中が落ちてる」


「配信中にホットサンドを食べるトップ探索者がいますか?」


「倒れたらもっと面倒だ」


正論だった。


ソフィアは戸惑いながらも、ホットサンドを受け取った。


熱い。


指先に伝わる温度だけで、胃が反応する。


「カメラに映るな。あと、声を出すな」


「分かっています」


ソフィアは小さくかじった。


ざく、とパンの表面が割れる。


焼き目の香ばしさが、最初に来た。


その直後、内側の熱がふわっとほどける。


月光兎の肉は軽い。


けれど、頼りないわけではない。


噛むほどに澄んだ甘みが滲み、照り焼きのタレがそれを逃がさず受け止める。


醤油の香ばしさ。

生姜の熱。

焦がしネギの苦み。

奥の方に、ほんの少しだけ山椒の香り。


パンの内側にはタレが染みているのに、外側はさくっとしている。


噛むたびに、甘辛い肉汁と焼けたパンの香りが重なった。


重くない。


胃に沈まない。


なのに、ちゃんと満たされる。


飲み込んだ瞬間、胃の奥に細い熱が落ちた。


魔力を一気に増やす飯ではない。


魔力の線を、細く、速く、通し直す飯だった。


頭の中のざらつきが消える。


指先の震えが、すっと引いていく。


枝葉の隙間を走る電流の向きまで、さっきよりはっきり見える。


「……っ」


声が出かけた。


ソフィアは慌てて口元を押さえる。


駄目。


配信中。


声を出してはいけない。


でも、頬が勝手に緩む。


目元がほどける。


甘辛い照り焼きと、月光兎の澄んだ肉の旨味と、焼けたパンの香ばしさが、冷たい氷の姫の顔を内側から崩しにくる。


朔が見ていた。


「重いか」


ソフィアは首を横に振った。


「ぼやける感じは」


もう一度、首を横に振る。


「味は」


「……」


声を出すなと言ったのはそちらでしょう……?


そう目で訴えると、朔は少し考えた。


「美味いなら親指を立てろ」


ソフィアは一瞬ためらった。


それから、ホットサンドを持っていない方の手で、小さく親指を立てた。


朔は頷く。


「ならいい」


何がいいのかは分からない。


ただ、ソフィアは残りを食べる手を止められなかった。


二口目。

三口目。


端の部分が、特に危険だった。


パンが強めに焼けて、タレが少しだけ焦げている。


甘辛い照り焼きが香ばしく煮詰まり、月光兎の肉に絡み、噛むとじゅわっと熱が戻る。


「遠野さん」


「なんだ」


「これ、半分ではなく、一個ありませんか」


「ある」


「本当ですか?」


「俺の分だ」


「……」


「見るな。戻れ」


「まだ、機材確認が」


「終わったことにしろ。雷鳥が逃げる」


「……はい」


ソフィアは名残惜しく紙包みを見た。


本当に名残惜しかった。


だが、配信中だ。


氷の姫に戻らなければならない。


彼女は表情を整えた。


冷たく。

静かに。

完璧に。


ただし、胃の中には月光兎の照り焼きホットサンドの熱があった。


「お待たせいたしました。機材確認を完了しました。探索を再開します」


映像がソフィアへ戻る。


コメント欄は、すでに少し騒いでいた。


『姫、今ちょっと表情柔らかくなかった?』


『機材確認長めだったな』


『なんか口元隠してなかった?』


『気のせいだろ』


『いや、目が優しかった』


『氷姫の目が優しいって何?』


ソフィアは反応しない。


次の雷鳥が、枝の上で鳴いた。


青い電流が走る。


ソフィアは右手を上げた。


指先から、氷の糸が伸びる。


さっきより細い。

さっきより速い。

震えがない。


雷鳥が飛ぶ。


ソフィアはその動きを、以前よりはっきり見ていた。


羽の角度。

電流の走る方向。

落ちる位置。

首元の血管。


「――そこです」


氷の糸が、雷鳥の両翼を一点だけ縫い止めた。


次いで、薄い刃が首元を走る。


一撃。


胴体は無事。


胸肉も潰れていない。


羽の付け根も、必要以上には凍っていない。


配信映えする大技ではない。


けれど、無駄がなかった。


『うっま』


『今の制御やばくない?』


『氷姫、こんな細かいことできたの?』


『いや前からできただろ』


『前はやる必要がなかっただけでは』


『絶対なんか変わった』


『飯か?』


『飯でこんな変わるわけないだろ』


『でも深層焼肉男がいる世界だぞ』


ソフィアは次々と雷鳥を処理した。


魔力は減っている。


だが、以前のように一気に空になる感覚がない。


細く使えば、氷はこんなにも長く保つ。


食事で胃が整い、集中が戻り、指先の制御がぶれない。


それだけで、戦い方が変わる。


ソフィアは初めて、カメラの前でそれを実感していた。


探索終了予定時刻まで、残り十分。


最後の一体を沈黙させたソフィアは、静かに息を吐いた。


「討伐対象の沈黙を確認しました。本日の通常討伐任務は、これで完了となります」


完璧な声。

完璧な表情。

完璧な締め。


そのはずだった。


けれど、配信ドローンのマイクは、最後に小さな呟きを拾っていた。


「……あと半分、残しておけばよかった」


一秒。

二秒。

三秒。


コメント欄が止まった。


そして、爆発した。


『今なんて?』


『あと半分?』


『何を?』


『姫、何か食べてた?』


『やっぱ機材確認中になんか食っただろ』


『肉質が死ぬ男、現場にいる?』


ソフィアは硬直した。


やってしまった。


今のは完全に、氷の姫ではない。


ただの、食い意地が張った女の子の呟きだった。


「……ご視聴、ありがとうございました」


彼女は強引に締めた。


カメラに向けて、静かに一礼する。


その瞬間、配信ドローンがわずかに角度を変えた。


画面の端。

ほんの一瞬。

黒い手袋が映った。


そして、その手が持っていたものも。


黒い、四角い鉄の調理器具。


UNI-FLAMME(ユニフラム)のホットサンドメーカー。


すぐに映像は切れた。


配信終了。


だが、もう遅かった。


掲示板には、数分も経たずに新しいスレが立った。


【疑惑】氷姫、配信中に何か食べてない?


1:名無しの探索者

最後の「あと半分」って何?


5:名無しの探索者

聞いた

完全に言ってた


9:名無しの探索者

機材確認の直後、なんか顔ゆるくなかった?


14:名無しの探索者

画面端に黒い手袋映ってたぞ


18:名無しの探索者

あと黒い四角いやつ


23:名無しの探索者

あれホットサンドメーカーじゃね?


29:名無しの探索者

なんでダンジョン配信にホットサンドメーカーが映るんだよ


34:名無しの探索者

深層焼肉男、今度はホットサンド焼いてる?


41:名無しの探索者

肉質が死ぬ男改め、ホットサンド男


48:名無しの探索者

弱そう


52:名無しの探索者

でも氷姫の戦闘精度上がってたよな


60:名無しの探索者

飯で強化されてる説、いよいよ否定できなくなってきた


その頃。


地上ゲート裏の古いアパートで、ソフィアは端末を両手で握りしめていた。


顔は赤い。


耳まで赤い。


配信中の冷たい氷の姫は、どこにもいなかった。


「……終わりました」


「討伐は成功しただろ」


朔は平然としていた。


黒いエプロン姿で、UNI-FLAMME(ユニフラム)のホットサンドメーカーを洗っている。


「そういう意味ではありません」


「顔は映ってない」


「ホットサンドメーカーは映りました」


「ならいい」


「よくありません」


「顔よりギアの方が高い」


「比較対象がおかしいです」


ソフィアは頭を抱えた。


朔はまったく動じていない。


むしろ、配信の戦闘部分だけを見返しながら、雷鳥の倒れ方を確認している。


壁際には、今日回収した雷鳥の入ったMontaBell(モンタベル)の保冷バッグが置かれていた。


外側だけを冷やし、内部には氷を入れていない。


朔がしつこく言った通りの運搬方法だ。


「羽の付け根は悪くない。胸も潰れてない。首元は少し深いが、昨日よりマシだな」


「今、私は社会的に少し死にかけています」


「雷鳥は死んでない。食材としては生きてる」


「会話してください」


朔は端末を置いた。


「五十五点」


ソフィアはぴたりと動きを止めた。


「……五十五点?」


「雷鳥の回収としては。黒角鹿よりはいい」


「それは、褒めていますか?」


「事実だ」


また事実。


それでも、ソフィアの胸の奥は少しだけ温かくなった。


配信事故寸前。


掲示板炎上寸前。


スポンサーに説明しなければいけないことが増えた。


それでも。


五十五点。


昨日より上がった。


それが、どうしようもなく嬉しかった。


その時、ソフィアの端末が震えた。


ギルド広報部からの連絡だった。


続けて、スポンサー担当者からもメッセージが届く。


ソフィアは内容を確認し、顔から血の気が引いた。


『次回配信について、人工魔力補給剤(クリスタルゼリー)のPR枠を正式に組み込みたいとの依頼が来ています』


『探索中の補給シーンを必ず入れてください』


『最近、補給剤関連の投稿が減っているため、ブランド側が懸念しています』


銀色のパウチの味が、記憶の中で蘇った。


人工甘味料。

薬品臭。

喉に貼りつく泥のような後味。


胃が、きゅっと縮んだ。


朔が端末を覗き込む。


「ゼリーか」


ソフィアは、無言で頷いた。


朔は少しだけ考えた。


励ましはしない。


慰めもしない。


ただ、棚の方へ目を向ける。


深層キノコの乾燥瓶。

オーク骨の白湯スープ。

RainPeak(レインピーク)の小鍋。


そして、まだ下処理前の雷鳥。


「胃が死ぬな」


「……ですよね」


「なら、死なないようにしないとな」


それだけ言って、朔は調味料ケースを取り出した。


次の配信。


氷の姫は、カメラの前でゼリーを飲まなければならない。


そして遠野朔はもう、その胃をどう守るかだけを考え始めていた。

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