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12/14

氷の姫、毒袋より危険な連絡先を手に入れる

遠野朔は、いつも料理している時より、少しだけ口数が少なかった。


それだけで、氷室ソフィアは理解する。


これは、いつもの料理ではない。

肉を焼く前の静けさでもない。

米を炊く前の段取りでもない。


もっと危ないものだ。


「一歩下がれ」


朔が言った。


「……はい」


ソフィアは素直に椅子ごと後ろへ下がった。


自分でも驚くくらい、素直に。

部屋の中は緊張感に満ちていた。


折りたたみテーブルの上には、毒沼ガニがいる。


甲羅は割れていない。

腹側も潰れていない。

脚は一本だけ欠けている。

けれど、腹の奥にある毒袋が、薄く緑色に濁っていた。


朔は細いピンセットで、腹側の隙間に紙片を差し込む。


簡易毒検知紙。

白かった紙が、触れた瞬間に黒く染まった。


墨を落としたような黒ではない。

内側から焦げたような、嫌な黒だった。


「……黒」


ソフィアの声が、少しかすれた。


朔は検知紙を見て、短く言う。


「この黒は、吸う毒じゃない」


「吸う毒じゃ、ない?」


「血に入る方だ」


ソフィアは息を止めた。


「分かるんですか」


「一度入った」


それだけだった。


まるで、昔一度だけ雨に降られた、くらいの言い方だった。

けれど、ソフィアの背筋には冷たいものが走った。


遠野朔は、モンスターの素材を平然と食材に変える。

毒も瘴気も、当然のように抜く。


だから、どこかで錯覚していた。


この人は危ないものを怖がらないのだと。


―――違う。


知っているのだ。

一度、血に入った毒の痛みを。

死の恐怖を。

それでも手を止めないだけだ。


朔は汚染した検知紙を、小さな密閉袋へ入れた。


次に、作業台の上へ道具を並べていく。


CAPTAIN STAGGERの作業バット。

耐酸仕様の小さなトレー。

細いメス。

毒抜き用のピンセット。

RainPeakのチタン鍋。

ZOTOの極小火力バーナー。


いつもの飯の支度にも見える。


けれど、今日は違った。


調理器具が並んでいるのに、部屋の空気は手術室に近い。


「朔さん」


「なんだ」


「本当に、やるんですか」


「やる」


「危ないですよね」


「危ないな」


「それでも?」


朔はようやく顔を上げた。


黒いエプロン。

後ろで雑に結ばれた黒髪。

耐毒グローブ。


その姿は、料理人というより、死にかけた生き物を前にした医者だった。


「食えるところまで持ってきた」


朔は言った。


「ここで捨てたら、あんたの七十点が無駄になる」


ソフィアは黙った。


褒め言葉ではない。

優しい言葉でもない。


でも、自分が毒沼で必死に守った甲羅も、バッグも、毒袋も。


朔はちゃんと見ている。


それが、少しだけ胸に来た。


「……お願いします」


「頼まれなくてもやる」


「今くらい、受け取ってください」


「邪魔しないなら受け取る」


「ひどい」


「今は本当に邪魔だ」


真顔で言われた。

ソフィアは反論を飲み込んだ。


朔は毒沼ガニの腹側にメスを入れる。


刃先が、甲羅の継ぎ目へ吸い込まれるように沈んだ。


ぎち、と小さな音がした。


カニが最後に抵抗するように脚を動かす。


ソフィアの指先に氷が集まりかけた。


反射だった。


危ないものを遠ざける。

汚いものを拒絶する。

自分のスキルの根っこが、勝手に動く。


「凍らせるな」


朔の声が飛んだ。

大きな声ではないが、鋭かった。


ソフィアは指先の氷を止める。


「すみません」


「今凍らせたら、毒袋が裂ける」


「……分かっています」


「分かってるなら、手は膝に置いておけ」


「子ども扱いでは?」


「毒袋の前では全員子どもだ」


妙に説得力があった。


ソフィアは両手を膝の上に置いた。


朔はもうこちらを見ていない。


メスの先で、腹側の薄い膜だけを開く。


中から、緑がかった透明な袋が見えた。


毒袋。


その奥に、濃い橙色の塊がある。


蟹味噌だ。

甲殻類らしい甘い匂い。

泥のような毒の匂い。


その二つが、ほとんど同じ場所から立ち上っていた。


ソフィアは思わず顔をしかめる。


「これ、匂いが混ざってます」


「混ざってる」


「分けられるんですか」


「分ける」


「どうやって」


「切る」


答えになっているようで、なっていない。


朔の指先が、毒袋の根元に触れた。


触れるか触れないかの圧。


少しでも強く押せば裂ける。


弱すぎれば支えられない。


朔は息を止めていなかった。


呼吸は浅く、一定。


メスを入れる。


緑色の筋だけを、橙色の味噌から剥がしていく。


その瞬間、朔の指先に淡い光が走った。


純造分解(エクストラクト)】。


見慣れてきたはずの光だった。


けれど、今日は違って見えた。


肉から毒を抜く光ではない。


死ぬ場所と食べられる場所の境目を、ぎりぎりの細さで削り出す光。


瘴気の根だけが、黒い糸のように浮き上がる。


朔はそれをピンセットで摘み、耐酸トレーへ落とした。


じゅ、と嫌な音がした。


トレーの表面が、少しだけ煙を上げる。


ソフィアは息を呑んだ。


「今の……」


「毒の根」


「そんなものが、見えるんですか」


「見えるというより、分かる」


「普通じゃないです」


「普通なら、これは廃棄だ」


朔は淡々と言った。


「研究所に持っていっても、たぶん食材扱いはされない。危険物として焼却される」


「じゃあ、朔さんがしていることは」


「危険物処理だな」


「料理ではなく?」


「料理にするための、危険物処理だ」


ソフィアは、目の前の男を見る。


黒いエプロン。

古いアパート。

折りたたみテーブル。

キャンプギア。


何度も見てきた光景のはずだった。


なのに、今はまったく別のものに見える。


朔の飯は、ただ美味しいわけではない。


ただの便利な補給でもない。


本来なら人を殺すものを、食べ物に変えている。


世界のルールを、台所の上で切り分けている。


「これ、人に知られたら駄目なやつですよね」


思わず、声が出た。


朔は毒袋から目を離さずに答える。


「だから映すなって言ってる」


「そういうレベルじゃないと思います」


「じゃあ、もっと映すな」


「軽いです」


「重くしたところで、毒袋は軽くならない」


「そういう問題ですか」


「今はそういう問題だ」


本当に、この人はぶれない。


おそらく世界的に危険な可食化技術。


ギルドが知れば囲い込むかもしれない。

スポンサーが知れば商品化しようとするかもしれない。

研究機関が知れば、絶対に放っておかない。


でも朔の関心は、毒袋が裂けるか、裂けないか。

蟹味噌が生きるか、死ぬか。


それだけだった。


やがて、朔は小さく息を吐いた。


「抜けた」


その一言で、部屋の空気が少しだけ戻った。


ソフィアは、膝の上で握りしめていた手をゆっくり開く。


指先が冷たかった。

自分が戦ったわけではない。

ただ見ていただけだ。


それなのに、ひどく疲れていた。


朔は処理済みの蟹味噌を、小さなRainPeakのチタン鍋へ移した。


別の鍋には、割った脚と甲羅の一部。


水。

少量の酒。

生姜。

それから、ほんの少しの塩。


ZOTOの極小火力バーナーに火が入る。


カチリ。


青い炎が、ようやく料理の気配を連れてきた。


甲羅が温まるにつれて、匂いが変わる。


さっきまでの毒の青臭さが薄れていく。


代わりに、甲殻類の殻から出る甘い香りが立ち上った。


海ではない。

けれど、どこか潮に似た深みがある。


泥と瘴気の底から、旨味だけを引き上げているような匂いだった。


「……急に美味しそうになるの、反則です」


「まだ食えない」


「分かっています」


「目が分かってない」


「目まで管理しないでください」


朔は聞いていない。


殻から取った出汁を()し、鍋に戻す。


そこへ、軽く洗った米を入れた。


米粒が、薄い琥珀色の出汁の中でゆっくり沈む。


弱い火で煮る。

沸かしすぎない。

表面に小さな泡が立つ程度。


朔は時々、木べらで底をなぞった。


「今日は強火にしないんですね」


「味噌が荒れる。毒を抜いた直後だから、熱を暴れさせると臭いが戻る」


「毒って、戻るんですか」


「抜き方が甘いと戻る」


「……怖いことを、雑炊の説明に混ぜないでください」


「説明した方が安心だろ」


「逆です」


朔は処理した蟹味噌を、小さな匙ですくった。


一気に入れない。

少しずつ。

出汁に溶かす。


橙色が、湯の中でほどけていく。


ふわり、と香りが変わった。


濃い。

でも、嫌な重さがない。


蟹味噌の濃厚な香り。


殻出汁の甘み。

生姜の細い熱。

米のやわらかい匂い。


毒の気配は、もうほとんどなかった。


ソフィアの喉が、小さく鳴る。


「今のは」


「聞こえた」


「最後まで言わせてください」


「腹だろ」


「……そうです」


今日は否定できなかった。


朔は雑炊を小さな椀によそった。


いつもの大盛りではない。


むしろ、少ない。


RainPeakのチタン椀の底に、ほどほどの量。


湯気の中で、橙色の蟹味噌が淡く光っている。


「少ないですね」


「毒・瘴気耐性飯だ。回復飯じゃない」


「おかわり前提では?」


「今日は駄目だ」


「まだ食べる前です」


「食べる前から目が言ってる」


「目が先走りました」


「止めろ」


ひどい。


でも、椀を前にすると言い返せなかった。


ソフィアは両手で受け取る。


温かい。


毒沼の冷たさが、指先から少しずつ溶けていく気がした。


「食え」


朔が言う。


「毒沼エリアで吸った瘴気の残りを抜く。薄い耐性膜も張れる」


「いただきます」


ソフィアは匙を入れた。


米が柔らかくほどける。


蟹味噌をまとった出汁が、匙の上でとろりと揺れた。


一口。


口へ運ぶ。


「……っ」


最初に来たのは、濃厚な旨味だった。


舌にまとわりつく。


けれど、重くない。


蟹味噌特有の深いコクがある。


殻から出た甘みがある。


生姜の香りが後ろから追いかけてきて、濃さを綺麗に切る。


米は柔らかい。

出汁を吸って、粒の芯まで旨味が入っている。


噛む必要がないほどなのに、噛むと甘い。


飲み込んだ瞬間、胃の奥に熱が落ちた。


毒沼で肌にまとわりついていた嫌な重さが、内側からほどけていく。


肺の奥に残っていた泥の匂いが薄れる。


喉が通る。


そして皮膚の下に、薄い膜が張られるような不思議な感覚があった。


「……抜けていく」


ソフィアは小さく呟いた。


「毒が、身体から」


「なら効いてる」


ソフィアは二口目を食べた。


今度は少しだけ多めに。


熱い。

濃い。

優しい。


怖いものを見た後なのに、身体が安心して受け入れている。


さっきまで目の前にあった黒い検知紙。

煙を上げた毒の根。

死ぬかもしれない処理。


その全部が、この一椀に変わっている。


「朔さん」


「なんだ」


「私、たぶん今、少し怖いです」


朔は鍋の火を見たまま、短く返す。


「正常だ」


「こんなに美味しいのに?」


「美味くても、危ないものは危ない」


「朔さんは怖くないんですか」


「怖いかどうかで毒は抜けない」


「……そういう返事になりますよね」


「でも、怖いと思ってるなら次はもっと丁寧に持ってこい」


ソフィアは椀を見つめた。


慰めではない。

励ましでもない。

けれど、奇妙に落ち着いた。


怖がることを否定されなかった。


その上で、次の手順に変えられた。


この人らしい。


本当に、どうしようもなくこの人らしい。


「次があるんですね」


「ある。毒沼ガニは使える」


「今、割と命がけでしたよね」


「使える食材だ。ただ美味いだけじゃない」


「食材への信頼が重いです」


「信頼じゃない。評価だ」


ソフィアは少しだけ笑ってしまった。


笑ったら、頬が緩んだ。


蟹味噌雑炊が、口の中にまだ残っている。


だめだ。

怖いのに、美味しい。


危ないのに、もう一口食べたい。


世界ランク3位の氷の姫が、危険を察知しながらも毒沼ガニの雑炊に完全に負けている。


「おかわりは」


「駄目だ」


「まだ言い切っていません」


「言い切る前から駄目だ」


「少しだけ」


「今日は少しが一番危ない」


「……毒ですか?」


「美味いものを少しだけで止めるのが一番危ない」


「それは、かなり分かります」


「分かるなら止まれ」


ソフィアは名残惜しく椀の底を見た。


最後の一口。


蟹味噌の濃い部分と、柔らかい米が残っている。


大事に食べる。

舌の上で、出汁の甘みがほどける。


飲み込む。

胃の奥が、じんわり温かい。


毒沼の瘴気が、遠い場所のものになっていく。


食べ終えた後、ソフィアはしばらく椀を持ったまま黙っていた。


朔は鍋に残った雑炊を、小さな保存容器へ移している。


その時、朔がふと思い出したように言った。


「次から、持ち込む前に写真を送れ」


ソフィアは固まった。


「写真」


「腹側。毒袋の位置。甲羅の割れ。脚の欠け。外側の汚染。冷却状態。現物を見る前に分かることがある」


「それは、つまり」


「連絡先を出せ」


あまりにも唐突だった。

あまりにも事務的だった。


だが、ソフィアの心臓は、今日一番大きく跳ねた。


毒袋の黒い検知紙より。

血に入る毒より。

煙を上げた毒の根より。


今の一言の方が、明らかに危険だった。


「れ、連絡先ですか」


「そう言った」


「私と、朔さんが?」


「他に誰が送るんだ」


「いえ、そうなんですけど」


ソフィアは端末を取り出した。


指が少し震える。


毒沼ガニの前では震えなかった指が、連絡先交換の画面で震えている。


冷静に考えると、おかしい。


いや、冷静に考えなくてもおかしい。


これは業務連絡だ。


素材管理。

毒袋確認。

作業効率。


それ以上の意味はない。


ない。


ないはずなのに。


「……朔さん」


「なんだ」


「登録名は、どうしますか」


「遠野朔でいいだろ」


「そのままですね」


「偽名を使う意味がない」


「では、私は」


「氷室ソフィア」


「そのままですね」


「誰だか分からないと困る」


「そういうものですか」


「そういうものだ」


ソフィアは少しだけ迷った。


そして、登録名を入れる。


遠野朔。


その三文字を端末の連絡先に入れた瞬間、なぜか胸の奥が落ち着かなくなった。


今まで、朔のアパートへ来るにはメモが必要だった。


裏口に立って、呼び鈴の紐に指を伸ばす必要があった。


配信中の補給も、紙に書かれた指示だった。


でも今は違う。


端末を開けば、名前がある。


連絡できる。


呼べる。


繋がっている。


「何を固まってる」


「いえ」


「送れ」


「今ですか」


「確認する」


ソフィアは少し悩んだ末に、メッセージを打った。


『氷室ソフィアです』


送信。


数秒後、朔の端末が震えた。


朔は画面を見て、短く頷く。


「届いた」


「はい」


「明日の朝、状態を送れ」


「毒沼ガニの?」


「それもだが、あんたの」


ソフィアは顔を上げた。


「私の?」


「毒沼エリアの瘴気を浴びた。雑炊で抜いたが、残る場合がある」


朔は端末を見ながら淡々と言う。


「胃。喉。皮膚。指先。魔力の通り。順に送れ」


ソフィアは、少しだけ言葉に詰まった。


胃だけではない。

素材だけでもない。


自分の状態を、明日の朝に送れと言われた。


朔にとっては、ただの管理なのだろう。


試食対象の安全確認。

毒沼ガニの効果確認。

次の調整材料。


たぶん、それだけ。


それだけなのに。


「……分かりました」


声が、少し柔らかくなった。


朔は気づいていない。


気づかないまま、保存容器の蓋を閉めている。


「あと、写真はぶれるな。腹側が暗いと意味がない。ライトは斜めから当てろ」


「連絡先交換の余韻を、素材撮影講座で潰さないでください」


「余韻?」


「ないです。今、なくなりました」


「ならいい」


「よくありません」


ソフィアは少しむくれた。


けれど、端末の画面にはまだ、遠野朔の名前が表示されている。


それを見ると、どうしても頬が緩みそうになる。


まずい。


これは、毒袋より危険かもしれない。


その夜。


氷室ソフィアは自宅に戻ってから、端末を何度も確認した。


何も来ていない。


当たり前だ。


さっき交換したばかりだ。


用事もない。

素材もない。

状態を送るのは明日の朝。


そう分かっているのに、なぜか画面を見てしまう。


「……業務連絡。素材管理。毒袋確認」


自分に言い聞かせる。


その時、端末が震えた。


ソフィアの肩が跳ねる。


画面を見る。


遠野朔。


メッセージは短かった。


『明日の朝、状態を送れ』


それだけ。

本当にそれだけだった。


絵文字もない。

余計な言葉もない。

おやすみもない。


大丈夫か、でもない。


ただの状態確認。


それなのに。


ソフィアはベッドの上で、端末を両手で握りしめた。


「……はい」


誰も聞いていない部屋で、小さく返事をする。


そして、少しだけ考えてから返信した。


『分かりました。胃、喉、皮膚、指先、魔力の通り。順に送ります』


送信。


すぐに既読がついた。


返事もすぐに来た。


『あと食欲』


ソフィアは、思わず笑ってしまった。


本当に。

本当に、この人はぶれない。


『食欲も送ります』


そう返すと、今度は少し間が空いた。


そして、次のメッセージが届いた。


『減ってたら朝飯を軽くする』


ソフィアは端末を胸に抱えた。


氷の姫でも。

スポンサーの広告塔でも。

世界ランク三位の探索者でもなく。


ただ、明日の朝の食欲まで管理される、一人の試食係として。


少しだけ、安心してしまった。


―――同じ頃。


探索者掲示板が、また妙な方向に盛り上がっていた。


【疑惑】氷姫、毒沼ガニを捕獲?


1:名無しの探索者

姫の記録映像見た?

毒沼ガニ、甲羅割れてないんだが


5:名無しの探索者

あれ普通は凍らせて砕くやつだろ


9:名無しの探索者

毒袋残したまま持ち帰ってるっぽい


13:名無しの探索者

正気?


31:名無しの探索者

素材回収班だけど、あの状態で持ってこられたら泣く


36:名無しの探索者

いや毒沼ガニの素材なんて誰が使うんだよ


42:名無しの探索者

食材じゃないよな?


49:名無しの探索者

食ったら死ぬ


55:名無しの探索者

じゃあ何のためにあんな綺麗に捕獲したんだよ


63:名無しの探索者

肉質が死ぬ男案件では?


70:名無しの探索者

ついに毒まで食わせる気か


78:名無しの探索者

氷姫、最近マジで何に育成されてるんだ


―――世界はまだ知らない。


毒沼ガニが、古いアパートの一室で蟹味噌雑炊になったことを。


それを食べた氷の姫が、毒沼の瘴気を抜かれ、耐性を身につけていることを。


そして何より。


裏方の男の端末に、氷室ソフィアの連絡先が登録されたことを。


その小さな変化が、毒袋より危険なものになるかもしれないことを。

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