メグル「私は『まだ何もしていない』一万五千一人目だ」
ストックが品切れとなりました。
次回の投稿がいつになるかは正直な話分かりませんが、また書き溜めが出来たら一気に投稿したいと思います。
お読み頂きありがとうございました。
「そういえば、メグルはハコニワでどういうプレイスタイルにするつもりなの?」
こっくてーるちゃんも交えて、私の身にこの数時間で起こった出来事なんかを話していた時のこと。
話をとても楽しそうに、と言うかお腹を抱えて笑いながら聞いていたこっくてーるちゃんが、ふと思い付いたように尋ねてきた。
ちなみに、『木のしっぽ』はサブジョブで『人形遣い』を持つ彼女が作った人形が主に回しているらしい。
なので、こっくてーるちゃんは基本的に料理か人形製作にかかりきりらしく、こんな風に私達とお喋りしていても大丈夫なんだそうだ。
「え、プレイスタイル?」
「うん、生産メインとか攻略中心とか。
あ、あとソロで何でも出来るようにって、両方そこそこに出来る人ってのもいるけど」
こっくてーるちゃんの説明を聞いて、どう答えていいか悩む。
廃棄モンスターの救済は当然攻略じゃないけど、生産でもないし。
自己満足って言葉が一番ぴったり来るんだよなぁ。
「目的ははっきりしてるけど、どんなスタイルかは説明し辛いなぁ」
「ちなみにどんなジョブとスキルを選んだか聞くことって……ひぅっ! ごめんなさいっすー! 秘の鳥様ー!」
好奇心に駆られたアサヒさんがキーユちゃんに睨まれる。
「こらこら」とたしなめると、キーユちゃんは私の顔をじっと見つめてくる。
「メグルちゃん、覚えておくといい。
人のジョブやスキルを詮索するのはマナー違反。
……でも、私もメグルちゃんのジョブとスキル構成は聞いてなかった。
私がメグルちゃんの目的にどうやって協力したら良いかを考えたいから、私に教えて」
「ちょ、何で今あたしは睨まれたっすか!?」
「私とあなたがメグルちゃんの中で同位置であるはずがない」
「言い切った!? この人、どや顔で凄いこと言い切ったっすよ!?」
ははは、キーユちゃんとアサヒさん、いつの間にかとても仲良くなっているなぁ。
「あ、それで私のジョブとスキルなんだけど……」
「って、おねーさん! さらっとスルーしないでくださいっす!」
私、何モ聞コエナイ。
「『調教師』と『商人』か……これは見ない組み合わせだね」
「やりたいことするにはこの二つが重要だったんだよねぇ」
「メグルちゃん、何で『商人』にしたのに『鑑定』じゃなくて、わざわざ使い勝手の悪い『調教師』の『識別』にしたの?」
「『商人』が取れるこの二つのスキルが絶対必要だったの!」
「流石、白のおねーさんっす。ジョブとスキル構成がぶっ飛んでるっす」
「ぐっ」
「俺、『道具製作』取ってる奴初めて見たぜ。これ、「文房具作製スキル」ってβテストで散々馬鹿にされて死にスキル扱いされてる奴じゃん」
「い、いらないって言われてたって、もしかしたら正規版は何かアップデートがあるかもしれないし」
「戦闘スキルがないと一人で街の外にも行けませんね。新しい街へのボスイベントはわたくし達がフォローするとしても……これは」
「なりきりセットが! なりきり豹が何とかしてくれる!」
「てか戦闘スキルも『採取』もないから、最初の金策が辛いよね。
そこんとこメグルはどうするつもりだったの?」
「そ、それは……」
皆さん、ご覧下さい。
三十路女が年下から冷静にダメ出しされるフルボッコ会場はこちらです。
どうも、ぐうの音も出ない正論に何も言えなくなったメグルです。
ははっ、冷えきった紅茶が何だかしょっぱいや。
「……ふむ、メグルさん。
ボクは別に人のスキル構成をどうこう言う趣味はないんだが、ここまで目的の分からないスキル構成も珍しいよ。
これはボク個人の純粋な疑問だ。
メグルさん、あなたがハコニワにやって来た目的は何なんだい?」
シグルスさんの質問はハコニワに来る前にアルファさんからされたのと同じもの。
確かに、普通に考えてこのスキル構成は不思議だろう。
攻撃スキルがないから、戦闘がしたいようには見えない。
道具製作スキルしかないから、生産をメインにしそうには見えない。
ヤリ目的には到底見えないジョブとスキルには神経回路の回復の他に、何か明確な意志があることを感じさせるだろう。
「ここに来る前、あるスレッドを見たんだ」
みんなに気取られないよう、ゆっくりと深く息を吸い、肩胛骨辺りから悪いモノを吐き出すイメージをする。
テーブルの下の膝を掴む左手は、ズボン越しにも分かるくらい冷たい。
「そのスレッドでは、テイムされたモンスターについて語られていた。
……『使えない』『必要ない』『いらない』……
そういう風に言われる『廃棄』したモンスターに対する愚痴を話すスレッドだった」
声が震えないように気を付けて話す。
ここで声を荒げたって仕方ないんだから。
私の方へ向けられたみんなの顔が『廃棄モンスター』の単語に歪む。
みんな初期組だから、一連の流れも知っているんだろう。
もしかしたら、みんなも何とかしようと動いたことがあるのかもしれない。
「『ゲーム』を始めた理由は、この手足のリハビリだよ。
だけど『このゲーム』を選んだのは、『廃棄モンスター』のことを知ったから」
一度言葉を切り、息を吸う。
感覚のないはずの右手足がずきりと痛んだ。
「私は、『廃棄モンスター』を救いたい」
私を「必要だ」と言ってくれたおとうさんが楽しみにしていたゲームの中に、「必要ない」と捨てられる子達を作りたくない。
これは0と1のデータに本気になる大人げない私の、子供っぽいエゴだ。
「無理です! そんな出来っこない!」
「アサヒさん?」
思い切り椅子がひっくり返り、大きな音を立てた。
椅子を気にせず立ち上がったアサヒさんは、さっきまでの演技も忘れ、リアルの彼女の口調だろう言葉でまくし立てる。
「あなたは知らないかもしれないけど、初期は『調教』スキル持ちがたくさんいました! 誰だって漫画みたいにモンスターを連れ歩けることに喜んでた!
でも、少なくない夢人がテイムモンスと上手く行かなくてテイム解除をして、MOBに戻れないモンスの一部が暴動を起こしたんです!
夢人だけじゃない、それは箱人も巻き込んでの大騒動になりました。
最後は結局、暴動を起こしたモンスだけじゃなく、隠れていたモンス達まで倒す結果になって……
やっと落ち着いてきたんです。それをまた荒立てるようなこと……あたしは反対です!」
アサヒさんの大きな丸い眼鏡越しの瞳は鋭い。
それほど、彼女にとっては看過出来ない話なのだろう。
彼女のした話は攻略サイトにも載っていた話だ。
当時行われた試行錯誤の結果は惨憺たるもので、一時は調教師ジョブを持っていると言うだけで白眼視されていたらしい。
今はテイム解除されたモンスター達も逃げ隠れるようになって、大暴動のようなことはもう起きていないから、第三陣の中には話を知らない人もいるらしい。
私の行為は、確かに寝た子を起こすものだろう。
終わったことを蒸し返す、誉められた行為じゃないのかもしれない。
「確かに、一万五千人の夢人は出来なかった。
私も、何も出来ないのかもしれない」
でも、私は『まだ何もしていない』一万五千一人目だ。
「『かもしれない』はゼロじゃない。
ゼロに限りなく近くても、『出来ない』と決まったわけじゃない」
『必要ない』『いらない』と言われるモンスター達が、たまらなく自分と重なった。
『異端』と書かれた視線の痛みも、それに晒される孤独も、私は確かに知っている。
そしてそれとは逆に、『必要だ』と抱き締められる喜びも、私は知っているんだ。
「『神々の箱庭』は、私をかばって死んだおとうさんが、ずっと楽しみにしていたゲームなんだ。
私は、私を守ってくれたおとうさんが待ち望んでいたゲームで、『必要ない』って捨てられる子達を作りたくない。
だってその子達も含めて、おとうさんが楽しみにしていたものなんだから。
私には彼らは『必要』なんだ」
このゲームは神様の実験場。
何でも試せて、何でも起こせる。
現実では起こせないような奇跡も、現実でも起こせるはずの奇跡も。
何だって、実現出来る。
ゲームって、そういうものなんじゃないのかな。
「そこまで言うなら……何か、策があるっすか」
私から視線を逸らさなかったアサヒさんの口調が元に戻る。
ガタガタと椅子を直しながら尋ねられ、私は頷いた。
「うん、それがこの二つのジョブなんだ」
“調教師”と“商人”を見せてみんなへ説明する。
「“調教師”の持つ『意志疎通』と“商人”の『契約』 それに、『必要ない』と言われている『道具作製』
私はこれを使って、コミュニケーションの取れるモンスと雇用契約を結びたいと思ってる。
存在しないモンスターとの契約書も『文房具作製スキル』なら作れるんじゃないかって思ったんだ」
ジョブには必ず「必須スキル」と言うものが存在する。
剣士なら『剣術』だったり、調教師なら『調教』だったり。
商人の場合は『契約』で、これは契約内容の大きさに準ずるレアリティの「契約書」を必要とする代わりに、神の監視下で取り決められた約束を相手と取り付けることが出来る。
そして、その契約書を作るスキルが「文房具製作スキル」と揶揄される『道具製作』なのだ。
「調教でも召喚でもない、『雇用』と言う新しい契約をモンス達と結ぶ。
強要でも強制でもない、『共存』と言う新しい形をモンス達と作る。
これが、私の“神々の箱庭”でやりたいことだ」
一通りの説明を終え、私はアサヒさんを見る。
この方法はまだまとめサイトにも載っていなかった。
『道具製作』の取得者は統計サイトで皆無だった。
だから、誰もやっていないはずだ。
アサヒさんは鋭く細めていた瞳を元の大きく丸い目に戻し、強ばっていた表情をふっと見た目に合わない大人びた笑みに変える。
「契約書のひな形は『道具製作』スキルで自動作製っすよ。
新しい文言を作れるとは聞いたことなっす。
それはどうするおつもりで?」
「うっ」
アサヒさん、可愛いのに痛いとこ突くなぁ。
「そ、それは道具職人に弟子入りして教えて貰うつもりだったんだけど」
「甘いっすね、道具職人も意味を知らずに作ってるっす」
「マジで!?」
ど、どうしよう……。
おろおろする私を見て、アサヒさんはため息を吐いた。
うぅ、見通しの甘い三十路ですみません。
「仕方ないっすから、こちらも調べてみるっす。
『パパラチ屋』のツテを使えば何か分かるかもしれないっすから。
アサヒ、いいっすか」
「お、おう」
え?
えーと?
戸惑う私へ、アサヒさんは頬をかいてはにかんだ。
「もし実現出来たらニュースレターの一面を独占は確実っすからね。
出来るだけ協力するっすよ。
……おねーさんだけじゃあ、詰めが甘くて見てられませんからね」
じわじわとアサヒさんの口から出た言葉が頭に浸透する。
「あ! ありがっ!?」
「メグルちゃん!」
「メグルさん、大丈夫かい!?」
痛い。
思わず立ち上がろうとして体を支えられず、思い切りテーブルに倒れ込んでしまう。
キーユちゃんに支えて貰って立ち上がる。アサヒさんはそれを見て「興奮しすぎっすよ」と苦笑していた。
「嬉しくて……ありがとう、アサヒさん」
「さっき言った通り、打算ありきっす。
それと、あたしのことも普通に呼んで欲しいっす。こっちも好きに呼びますので」
「うん、分かった! アサヒちゃん」
「メグルさん、もちろんボクらも協力するよ。あとボクらもメグルさんの呼びやすいように呼んでくれ」
「ありがとう、シグルスちゃん!」
ここにいるみんなが協力してくれることになった。
各方面で有名な人達だから、とても心強い。
「メグルちゃん、良かったね」
「うん」
余り変わらないキーユちゃんが笑顔を見せる。
私も、それに笑顔で答えた。
思った以上に、『廃棄モンスター』問題は根深いみたいだ。
だけど、こうやって協力してくれる人達がいる。
進みは遅くても、着実に。
私はおとうさんの見たかった世界を作れるように頑張るよ。
「――メグルの冒険はまだ始まったばかり。先生の次回作にご期待ください」
「って、キーユちゃん終わらせないで! まだまだ続くから!」
っていうか、心読まないでください!
プレイヤーネーム《メグル》
《NRシステム利用中》
種族:夢人・無
所持金:450ルピス
SP:0
ジョブ1《調教師》
所持スキル一覧
《調教Lv.1》《識別Lv.1》《意志疎通Lv.1》
空枠:7
ジョブ2《商人》
所持スキル
《契約Lv.1》《道具製作Lv.1》
空枠:3
《ステータス》
Str:1[3]
Vit:1[10](7+3)
Agi:1[2](1+1)
Int:1[10]
Min:1[10]
Dex:1[3]
Luk:7[15](10+10)
※デスペナルティ発生中
称号一覧
《αの祈り》《βの慈愛》《γの禍福》
装備品一覧
頭《神使なりきりセット・牛耳(白)》
上体《夢人のシャツ・白》
下肢《夢人のズボン・白》
靴《夢人の靴・白》
装飾品一覧
《補助装具・NRS腕用・白》
《補助装具・NRS足用・白》
《杖・前腕固定型・白》
《痛覚50%減少のチョーカー・白》
《神使なりきりセット・牛尻尾(白)》
空枠:5
所持神器一覧
『神使なりきりセット・牛(白)』
『神使なりきりセット・豹(白)』




