第141話 船種の違いとその苦労
「守様。
帆船らしき影をとらえました」
レーダーを監視している騎士の一人が報告してくる。
「ケリー、その影に向けて舵を切ってくれ」
「はい。急ぎますか?」
「いや、一応確認しないとまずいし、そのままの速度でいい」
俺は舵を握るケリーに声をかけた後、望遠カメラのモニターを操作し始める。
さすがにこの距離では、まだ判別どころか映像すら見えないだろうが、それでも30分とかからずにカメラでもとらえられるだろう。久しぶりに俺も仕事らしいことをしてみた。
何せ、ここは艦橋もいつもの半分しか人がいない。
残りは護衛役として帆船に乗艦させているし、そういう事情なので、こちらも少し人手不足だ。
本当に30分後、カメラが帆船をとらえた。
さすがにこの距離だと詳しく様子を調べることはできないが、船影は完全に俺たちの船だし、この付近を航行している船は他にない。消去法で考えずとも仲間だとはわかるが、ここで確認の手を抜くわけにはいかない。
「俺たちの船のようだ。そのまま追いかけてくれ」
「守様は?」
「ああ、一応最終確認後に向こうに連絡を入れる。甲板上の様子を見て、誰か知っている者がいないか調べてみるよ。
さすがにこの距離だと難しいしな。そうだな……あと30分くらいすれば人の顔までカメラで捉えられそうだし、もうしばらくこれを使っているかな」
「誰かに代わらせましょうか?」
「いや、今日は誰もが忙しいだろうから俺がやる。ケリーは操艦の方を頼む。
あと、レーダー監視は気を抜かずに続けてくれ」
「わかりました」
「はい、守様」
なんだかんだと、それから1時間後に俺たちは帆船と合流し、現在は曳航のための準備中だ。
曳航する際は帆が邪魔になるので、帆船側も畳帆(帆を完全にたたむ作業)を始めている。
この畳帆はとにかく重労働で、ほぼ船員全員が取り組むことになる。
俺も大学校時代、訓練で乗せられた訓練用の帆船で何度もこれをさせられたのを思い出す。
しかし、何であんな訓練をさせるのかと、当時は思ったものだ。
いや、今でもそう思うが、伝統だか何だか知らいけれど、船乗り養成の学校では今でもさせられる訓練の一つだ。
その訓練が、結構どころかとにかくきつく、今でも時々夢に出るくらいになっている。
何せ夜中でも訓練があったくらいだし。
確かに俺の乗っていた帆船は24時間交代で航海していたが、それでも機械で帆を巻き取る装置まで装備された最新型の帆船だった。
なのに、なぜわざわざ人が、それも全員で取り組まないといけないんだと、あの時は教官を恨んだものだ。
今も同じようなことを考えている連中はいるだろう。
あ、そもそも俺たちは巡視船やフェリーのように帆を持たない船を使っていたけど、この世界の人たちには帆船しかなく、帆の扱いなど船乗りなら当たり前のことか。
それ以外の船といえば、小舟でオールを使うか、ガレー船のように帆をたたむ以上に重労働で動かす船くらいしかない。
それにガレー船でも帆は使うしな。とにかく、船に乗る以上は重労働が当たり前の世界だ。
なので、曳航策などの準備は俺たちだけで行っている。
帆船側にもこういう作業に慣れた騎士たちがいるので、特別な打ち合わせもせずに始めているが、本当にケリーたちは船の扱いに、それも俺のいた世界の船の扱いに慣れてきた。
俺などほとんど指示らしい指示を出さなくても、作業はどんどん進んでいく。
畳帆とほぼ同じタイミングで曳航策の準備も整い、護衛として帆船に遣わしていた騎士たちも順次こちらに移乗してきた。
曳航をやめるときに、もう一度帆船へ移乗するらしい。
こちらの人手不足を懸念してのことらしいが、どうも帆船よりもこちらの方が慣れているし、何より快適なので戻ってきたようだ。
まあ、曳航中は護衛もいらないし、正直こちらも本当に人手が足りていないのは事実だ。
だけど、そのおかげで三直体制で船を動かせるようになり、目的地到着までの移動時間もだいぶ短くなりそうだ。
その影響というわけでもないだろうが、7日は見ていたけれど、5日もあれば着けそうだ。
帆船単独よりも半分以下の時間で目的地まで行けることは、俺たちにとってどこの勢力にも負けないくらいのアドバンテージになるだろう。
その機動力を今回は情報面のサポートに使おうと先方に提案しに行くのだが、多分、商人上がりが多いあそこではその価値をすぐ理解してくれるだろう。
もし相手の理解不足でこちらの思惑が外れるようなら別の策を考えるが……まあ、そこも含めてフランを通してフランの兄と十分に協議していくことになるから、俺は心配していない。
何せ今回の件は、俺たちの外交デビューともいえる出来事で、奪還作戦に加わるのだし、先方が断ったとしても、ひとまずは外交をしたという事実は残るからな。




