28 魔塔主アルギナ・フォリューシオ
タイトル、コロコロ変えてすいません……。
迷走中です( ; ; )
魔塔の先端には、大きな木が描かれた風見鶏があしらわれているんだ……。
なんて思っている場合じゃない!!
空高く放り投げられた身体は言うことを聞かず、風圧のせいでホルンの声もよく聞こえない。
このまま魔力を注ぎ続けたら更に高く飛ばされちゃう。
握りしめていたネックレスから力を抜く。
「魔力を手放しちゃ駄目!」
「へぇ?」
ホルンの忠告は一歩遅く、風で具現化していたフクロウは花火のようにキラキラと弾けて消えてしまった。
「あ……、止まった……。」
そこはまるで無重力。
呼吸をするのも忘れるぐらい静か。
髪がゆっくりと風に靡くのを目で追えるほど、時間さえのんびりと過ぎていくような。
ここが魔塔の上である事も忘れてしまいそうになるほど、思考が停止した。
「止まってなんかないわよ、バカ!!」
そんな私の腕を強くホルンが握った次の瞬間、
「魔力の手放したら、落ちるに決まってるでしょうがァァア!!!」
私達は急激な重量に襲われた。
風を裂き、涙よりも速く。
口の中は唾液の生成が追いつかない。
背中に圧力を感じながら身体は落ちて、落ちて……。
あっさりと魔塔の先端を下に過ぎ去った。
「キキキロエ! 魔力、制御してっ!!」
ホルンの悲鳴に近い声が響いた。
今まで魔力は込めるしかやった事がない。
制御ってなんだ!?
「どうやって制御するのですかっ!?」
「はぁ!? 制御は制御よ!!」
答えになってない!!
全然分からない!!
「く、詳しく!!」
「そんな説明してる時間あると思う!?」
ホルンの言う通り、もう地面がだいぶはっきりと見えている。このまま落ち続けたら確実に重量に叩きぶされてしまう。
「とにかく、もう一度魔力を込めて!」
「はいっ!!」
言われるがまま、握りしめている手に魔力を込める。
——おかしい……。
なんの反応もない。
飛ばされないようにそっと手の中を開いてみると、現実は想像以上に悪かった。
「ホルン様……。ネックレス、壊れてます。」
「はぁ!?」
「鳥の羽根が破れていて。魔力が込められません。」
「う、嘘でしょ……。」
ホルンの顔に絶望が走る。
ここで死ぬかも知れないと、表現が物語っていた。
——私は……、修復師だ。
木彫りの鳥はシンプルなデザイン。
木の幹の構造は把握している。
——……大丈夫。直せる。
問題は時間だ。
杖を取り出してる時間もない。
やらないと、私がっ!!
鼓動が速い。身体が強張って上手く動かない。
なんとか、なんとか修復を……!!
『親愛なる古き大樹よ。ゆらり揺蕩う吾子を乗せ、我が道へ続く導きとなれ。』
その声は何処からか。
脳に直接語りかけて来たようにも思うし、都市全体に響いていた気もする。
分かるのはその声によって風の膜が私達二人を包み、落下が止まったこと。そしてそのまま、魔塔にあった大きな窓が勝手に開いて、その中に放り投げられた。
「……イタタ。」
身体全身で感じる見ず知らずの床。
お尻を摩るホルン。
私達はどうやら助かったらしい。
「良かった、です……。」
なにが起きたのかは全く分からなかったけど、取り敢えずの脅威が去って、ホッと胸を撫で下ろした私に忍びよる黒い影。
「なにが良かっただ。半端な魔力込めやがって。魔法使いの風上にも置けないクソ野郎は何処のどいつだ!!」
白狼だ。
唸る獰猛な獣を目の前にしたかのような威圧感。
そう見間違えるほど攻撃的な男が、目の前に立ち塞がった。
「…………てめぇか、コラ!?」
稲妻のように鋭く響く低音。
凛々しく立派な白銀の立て髪。
その瞳は春の花を彷彿とさせる撫子色。
その見た目、その声色、その性格。
全てがまるでリュゼと対極にいる存在のようだ。
「助かったよ、ありがとうね。アルギナ。」
「あ? ホルン、てめぇが居てどうしてこんな事になるんだ!?」
「アハハ。私もまさかだったよ。」
………………アルギナ?
今、アルギナと言った!!
「この方がアルギナ様ですか!?」
魔塔主と言うからもっと厳格で、年齢に見合った長く立派な髭を蓄えた方を想像していた。なのに、目の前に立つ男はリュゼと同じで、私よりちょっと歳上ぐらいにしか見えない。
「あ゙あ゙!? 出来損ないの分際で、なんか文句あんのか?」
威嚇みたいな咆哮に、私は思わず首を大きく左右に振った。
「ごめんね、キロエ。アルギナは魔塔主なのに口が悪いんだ。そして素行も態度も悪いの。」
ホルンの説明にアルギナが鋭く睨む。
「そんな事より、アルギナ。キロエをよく見て。」
「あ? なんでだよ。」
「ようやく来たんだ。外からの魔法使いだよ!!」
ホルンの言葉を聞いた瞬間、アルギナの目の色が変わった。なにも言わず正面に腰を下ろし、私の頬を片手で鷲掴みにすると、食い入るように眺め始めた。
「俺ぁ、ホルンみたくベルハーラ全員の顔と名前を覚えるなんて出来ねぇからな。外から来た魔法使いかどうかなんて判断出来ねぇ。てめぇ、何処からやって来た?」
嘘を吐いたら噛み殺されそうな勢い。
「私は……、キロエと申します。ここへ来る前はガルダ領地におりました。」
だが私だって、ここで怖気付いてなんていられない理由がある。
「ガルダ領主の名は?」
「ブルムゲレ・ガルダ辺境伯です。」
「現国王の名は?」
「ゼブラスト・スレイプ・オーディン国王陛下です。」
「…………全ッ然知らねぇ名前だ。」
「そ、そんな!?」
嘘はひとつも付いていないのに。
焦る私を横目に、アルギナは私の頬から手を離してその手で自身の髪をクシャクシャと掻きむしった。そして、ため息を一つ吐き出す。
「知らねぇ名前ってことは、本当に外から来てやがるんだな。」
「……今、なんとおっしゃいましたか?」
ボソッと吐き出した声はあまりにも小さく、聞き取る事が出来なかった。
「いや、疑って悪かった。お前を歓迎してやる。」
どう言う心境の変化なの?
全く理解出来ず未だ座り込む私に、アルギナは右手を差し出した。
「俺はベルハーラの魔塔主、アルギナ・フォリューシオだ。」
アルギナ・フォリューシオ……?
その名を何処かで聞いたような。
もちろん、アルギナの名前はリュゼからだ。
でも違う。もっと前から知っていたような……。
「おい、どうした。てめぇはずっとそこに座ってるつもりか?」
フォリューシオ……。
頭の中で何か引っ掛かる。
この違和感の正体は、なに?
「…………そうだ。〝基礎魔法の全て〟だ。」
それから〝聖地ベルハーラと世界樹について〟
「アルギナ様。」
「あ゙あ゙?」
「ベグラジ・フォリューシオ様を知っておられますか?」
私がリペアリアで魔法の知識を得る為、読んでいた本の著者の名前だ!
「てめぇ、その名をどこで知った!?」
「……ッ!!」
差し出されていた右手が一変。
アルギナに肩を掴まれ、そのまま押し倒されてしまった。
背中に鈍痛。
正面には怒りに満ちたアルギナ。
彼の目は、獲物を喰らう捕食者のソレ。
——殺される……!!
全身が粟立つ。
喉が縮む。
呼吸が、追いつかない。
「アルギナ、落ち着いて!!」
「これが落ち着いてられるかよ!!」
危険を察知したホルンが止めに入ってくれるも、アルギナの怒りは収まらない。
「ベグラジ・フォリューシオは、俺の父親の名だ!!」
「………………え?」
それは、あり得ない。
絶対にあり得ないんだ。
だって、あの本はかなり古い物だった。
リペアリアにあった本ですら、複製品。
最終ページに記されていた初版本の発行日は……、
「あの本の、初版本の発行日は、確か……。ベルハーラが消失するより前、だった、はず、です。」
そう、物理的にあり得ないんだ。
だってもし、本当にベグラジ・フォリューシオがアルギナの父親なら、彼の父は百年以上生きていた事になる。
「ベグラジ・フォリューシオ様が貴方様の父親であるはずが、ありません。」
「あり得るんだよ……。」
ホルンがようやくの思いで私の肩を掴んでいたアルギナの腕を退けてくれた。
「俺は……。いや、俺達ベルハーラに住む全ての住人は、」
彼はその場に座り込み、小さく項垂れて、こう言った。
「ある一年を百年間、繰り返している。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
キロエとリュゼの旅を応援したいと思っていただけましたら、☆☆☆☆☆評価やブックマークをいただけると、とても励みになります。
また次回、お会いしましょう。




