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神木の防衛

王都から届く通信水晶の映像は、日を追うごとに緊迫感を増していた。

大結界の出力が15%低下したという事実は、王都の上層部──そしてエルロッド公爵家を底知れない恐怖へと突き落としていた。


『──探せ! 塵一つ残さず消し飛ばされたはずなどない! あのALL 0の少年、カイ・エルロッドは確実に生きている!』


水晶の画面の向こうで、宮廷魔術師団の長老が衛兵たちに向かって激昂していた。

その隣では、かつて俺を嘲笑ったレナードやバルトが、青い顔をして冷や汗を流している。


彼らの命綱である「ステータス」や「結界」の15%が、俺の生存と連動して世界から引き抜かれているのだ。国を維持するため、そして自分たちの特権を守るため、奴らはついに「無能」と切り捨てた俺の存在が世界の鍵であることに気づき、血眼になってその行方を追い始め始めていた。


「王都の精鋭スカウト部隊が、すでにこの周辺の領地にも派遣されているようです……」


神木の隠れ家の中で、エルフィリアが不安そうに外の様子を窺っていた。

元聖女である彼女の感覚は鋭い。この森の入り口付近に、王都特有の冷徹な魔力の気配がいくつか近づいてきているのを察知したらしい。


「ALL 0の魔力波形を逆探知しようとしているのでしょう。ですが、カイ様の数値は『存在しないゼロ』……彼らの魔導具では、探せば探すほどノイズが走って狂うはずです」


「ああ、だが物理的にしらみ潰しに探されたら、いつかはここに辿り着くかもな」


俺はベッドから腰を上げ、ポケットからあの『原初のコア』を取り出した。

移行度15%に達した俺の手の中で、石碑の破片は淡い白銀の光を放っている。


「エディット、中級機能──【情報遮断クローキング・プラス】を発動」


俺が神木の壁に手をかざすと、脳内のシステム画面が急速に書き換わっていった。

これまではただ「枯れ木に見せる」だけの隠蔽だったが、今度はこの神木を中心とした半径数百メートルの空間そのもののデータを弄り、侵入者の「認識」を狂わせるバグの霧を展開する。


『──認識書き換えを完了。対象エリアに侵入した個体の視覚および空間把握能力に、5%の座標ズレ(バグ)を強制付与します』


さらに俺は、手元にある例の枯れ枝に視線を向けた。

移行度15%の権限(中級エディット)を使い、そのシステム上の表記を完全に「偽装」する。


【偽装完了:神格の権限により、本質を隠蔽します】

表示名:【そこらへんに落ちていた木の棒】

耐久値:15(※実際は測定不能)

効果:叩くとちょっと痛い(※実際は空間を叩き割る)


これなら、もし王都の高性能な鑑定スキル持ちに見つかっても、ただのゴミ拾いをした変人にしか見えない。


「よし、これでよし」


直後、森の奥から草木をかき分ける足音が聞こえてきた。

神木の隙間から外を覗くと、王都の紋章を胸に刻んだ、見るからに腕の立つ隠密騎士たちが数名、剣を抜いて警戒しながらこちらへ近づいてくるのが見えた。


「おい、この先に妙な魔力の淀みがあるぞ。あの無能の死体が腐ってバグでも起こしているんじゃないか?」

「慎重に進め。長老の予言が正しければ、あいつは生きている。見つけ次第、四肢を叩き折ってでも王都へ連れ帰るぞ」


奴らは傲慢な言葉を口にしながら、俺たちがいる神木のすぐ目の前まで歩いてきた。

エルフィリアが息を呑み、俺の服の裾をぎゅっと握りしめる。


だが、騎士たちが神木の正面に足を踏み入れた、その瞬間──。


「……あれ? おい、どっちを歩いていたっけ?」

「待て、今まっすぐ進んでいたはずなのに、なぜ元の場所に戻っているんだ?」


エディットで書き換えた空間に入った瞬間、彼らの五感は狂い、神木の目の前にいるはずなのに、まるで蜃気楼を見ているかのように通り過ぎていく。一歩進むたびに空間のデータが5%ずつズレるため、彼らにはこの神木が「ただの背景の景色」にしか認識できないのだ。


「クソッ、この森はおかしい! 磁場が狂っているのか!?」

「引き返すぞ! 一旦体制を立て直す!」


大混乱に陥った王都の追跡者たちは、互いにぶつかり合いながら、無様に森の入り口へと逃げ帰っていった。


その様子を、俺は冷めた目で見送った。

奴らは必死に俺を探しているが、見つけたところで、今の俺を縛る鎖などこの世界には存在しない。


「カイ様……見事な手際です。武器の偽装まで完璧ですね」

エルフィリアが感嘆の声を漏らし、俺の前に深く頭を下げた。


「だが、これで王都も本格的に『ALL 0』の異常性に怯え始めたわけだ。次は向こうから、もっと大物が動くかもしれないな」


俺は手元で【そこらへんに落ちていた木の棒】(偽装済)を軽く回しながら、じわじわと追い詰められていく王都の自滅劇の「次のシナリオ」を、楽しげに思い描くのだった。

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