神罰
王都の方角から立ち昇った黄金の光柱は、この遥か離れた森の空までをも白々と照らし出していた。
それは一見、世界を救う神聖な光のようでありながら、その根底にあるのは「自分に従わない不純物を力ずくで消去する」という、旧システムの冷徹な防衛本能そのものだった。
「カイ様……あの光は一体……。聖教会の伝承にある、世界を滅ぼす大災害の予兆のようです……」
エルフィリアが、その圧倒的なプレッシャーに息を呑みながら俺の隣に並ぶ。その身体は微かに震えていたが、彼女の碧い瞳は、もう光の主たちへの信仰を完全に失っていた。
「旧システムが、自分たちのお気に入りの玩具(国王たち)に、最後の武器を与えたのさ。俺という存在を、世界から完全に消し去るためのな」
俺は手元にある、そこらへんに落ちていた木の棒を軽く眺めた。
バルトから吸い上げたエラーデータのおかげで、移行度は30パーセント。上級エディット機能が解放された俺の視界には、これまでにないほど鮮明に「世界の構造」が視覚化されていた。
目の前の空間を軽く指先でなぞるだけで、大気の組成すら思い通りに書き換えられる。その絶対的な万能感が、俺の全身を満たしていた。
「カイ様、王都の魔力波形が急激にこちらへ向かって拡大しています! 逃げ帰ったバルトの情報か、あるいはあの光の力で、こちらの座標が完全に特定されたのかも……!」
エルフィリアの警告通り、遠くの地平線から、地鳴りのような轟音が響き渡ってきた。
それは、かつて俺をゴミのように見捨てたエルロッド公爵、つまり俺の親父が率いる公爵家直属の「魔導鉄騎兵団」の足音だった。さらにその上空には、国王直属の近衛魔術師団が展開する、黄金の光をまとった巨大な攻撃魔方陣がいくつも浮かび上がっている。
かつては「ALL 0の無能」と笑い、路頭に迷わせた一人の少年を殺すために、国がその総力を挙げて、神の力を借りてまで攻め込んできたのだ。これほど滑稽で、これほど最高なカタルシスがあるだろうか。
「逃げる必要なんてないさ。むしろ、わざわざ向こうから、次の移行度を運んできてくれたんだ」
俺は不敵に笑い、神木の拠点の前で堂々と立ち尽くした。
「カイ様……。私も、貴方と共に戦います。元聖女の力、今のシステムがどれほど偽物だろうと、貴方の盾になるためなら、私はいくらでも理を捻じ曲げてみせます!」
エルフィリアが覚悟を決めた表情で、俺の一歩後ろに控える。
地平線の向こうから、ついに黄金の鎧に身を包んだ、親父の姿が見えてきた。その手には、世界システムから与えられたという、まばゆい神罰の剣が握られている。
「見つけたぞ、世界の害悪め! 我がエルロッド家の恥晒しが、神の力を盗んで世界を滅ぼすつもりか! 貴様のその ALL 0 という呪いごと、この神罰の一撃で消滅させてくれる!」
親父の怒号が、魔力に乗って森全体に響き渡る。彼らの目には、未だに俺が「何か悪い呪いを使って調子に乗っているだけの無能」に見えているらしい。国全体の出力が30パーセントも落ちて、自分たちの足元が崩れかけているというのに。
「神罰、か」
俺はゆっくりと、そこらへんに落ちていた木の棒を構えた。
移行度30パーセント。上級エディットの本当の力を見せてやるには、最高の舞台だ。
「親父、それから王都の奴ら。お前たちが崇めているその神の座に、いま誰が座ろうとしているのか……その身で理解させてやるよ」
俺が木の棒を地面に突き立てた瞬間、王都の軍勢が展開していた黄金の魔方陣が一斉に静止し、その輝きがドス黒い俺の支配色へと反転し始めた。




