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ただの枝切れ

「な……!? 馬鹿な、神の魔方陣が……なぜ黒く染まっていくのだ!?」


空中を見上げた親父――エルロッド公爵の顔が、驚愕と恐怖で歪んだ。


国王直属の近衛魔術師団が総力を挙げて展開した、国最高峰の迎撃システムである黄金の魔方陣。それが、俺がただ足元の枝を地面に突き立てたというそれだけの理由で、完全に制御を乗っ取られ、不気味な黒紫色の幾何学模様へと書き換えられていた。


「総員、術式を破棄しろ! 強制逆流が来るぞッ!」


上空で近衛魔術師長が悲鳴のような怒号を上げるが、もう手遅れだ。

移行度30パーセントに達した俺の上級エディット権限の前では、彼らの組み上げた魔術など、子供の落書きを消しゴムで消すよりも簡単だった。


「システム書き換え。出力元を反転。親父、お前たちが大好きな、その数字の暴力で押し潰してやるよ」


俺が指先を軽く上へ跳ね上げると、反転した黒い魔方陣から、かつてないほどの高密度な魔力の奔流が、王都の軍勢に向けて一斉に降り注いだ。


ドガァァァァァン!!!


地響きと共に、黄金の光をまとっていた近衛魔術師たちの防壁がガラスのように粉々に砕け散る。

国最強を誇る魔導鉄騎兵団の鎧は、その凄まじい衝撃波だけで次々とひび割れ、兵士たちは武器を手放して無様に地面へと転がっていった。


「ヒッ……あ、悪魔だ……! ALL 0の悪魔が、国の最高魔術を片手で操っている……!」

「レナード様、お下がりください! 敵いません、これでは勝負にすらならない!」


後方では、兄のレナードが腰を抜かしたように地面に座り込み、ガタガタと震えていた。かつて俺を無能と見下し、路頭に迷わせた天才の面影は、そこにはもう無かった。


「クソがぁぁぁ! 貴様のようなゴミに、我がエルロッド家が遅れを取るはずがない!」


執念だけで立ち上がった親父が、世界システムから授けられた神罰の剣を狂ったように振り下ろす。その刃から放たれた黄金の斬撃が、一直線に俺の首をハネようと迫る。


だが。


カツン、と軽い音が響いた。


俺が片手で構えた【そこらへんに落ちていた木の棒】が、その神の斬撃をただのハエ叩きのように虚空ではたき落とし、完全に霧散させたのだ。


「そんな、馬鹿な……神の剣の威力を、ただの、枝切れで……!?」


親父の思考が完全に停止したその隙に、俺は一歩、彼との距離を詰めた。


「親父。お前たちが崇めているその世界システムは、俺を無能と判断したんじゃない。器が大きすぎて、測定不能だっただけだ」


俺の背後で、エルフィリアがその光景をうっとりとした、まるで本物の神を見上げるような瞳で見つめている。


「チーン、システム警告。王都軍の戦闘不能を検知。世界の最適化プロセスがさらに加速します。現在の移行度:45パーセント」


脳内のアナウンスと共に、親父の手の中にあった神罰の剣が、まるで塵のようにサラサラと崩れ落ちて消えていった。それと同時に、王都の軍勢全員の身体が、これまでにないほどの激しい疲労感でその場に崩れ落ちる。国全体の機能が、今や半分近く俺に乗っ取られたのだ。


「う、嘘だ……エルロッド家が……国が、本当に終わる……」


絶望に染まる親父たちを見下ろしながら、俺はさらにその先、王都のさらに奥深くにある「王城」の方角へと視線を向けた。

移行度が45パーセントまで上がった今の俺の目には、現国王が、この事態に恐怖してガタガタと震えながら、ある「禁断の最終兵器」を起動しようとしているのが手に取るように分かった。


「まだ足掻くか、国王陛下」


俺は不敵に笑い、さらに深まる世界の主導権をその手に感じていた。

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