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【第14話】南の海風と、母が仕込む奥深い壺漬けの味

 古都の協会から、ユアンの母国であるチュニアへの旅は、驚きと喜びに満ちていた。


 ただ一つ誤算だったのは、チュニアの協会は南部と北部の二か所に分かれており、ユアンは南部へ、わたしは北部へと配属されることになった点だ。


「せっかく一緒にチュニアに来られたのに、別の協会だなんて……!」


 ユアンは涙ぐんで残念がってくれたけれど、魔女としての適性や推薦枠の都合なのだから仕方がない。


 それでも、お互いの入寮日までの間、わたしは南部の街にあるユアンの実家に泊まらせてもらい、とても充実した春休みを過ごすことができた。


 港から吹き抜ける南の海風は、わたしの故郷よりもずっと暖かく、湿り気を帯びている。


 活気あふれる市場、独自のスパイスが香る街角、何百年も続く歴史ある建造物。


 現地でなければ絶対に触れられない、濃厚な空気がそこにはあった。


「お母さん、ただいま! 手紙に書いていた友達のアルセアだよ!」


 木造の風通しの良い家の扉を開けると、奥の台所から、ユアンにそっくりな黒髪を緩く束ねた女性が小走りで出迎えてくれた。


「おかえりなさい、ユアン! まぁまぁ、あなたがアルセアちゃんね。遠い西の国からよく来てくれたわ」


 ユアンのお母さんであるメイファさんは、初対面のわたしの手を両手でぎゅっと握りしめ、太陽のような満面の笑みを浮かべた。


「娘からいつも手紙で聞いていたのよ。料理の手際が良くて、優しい『聴き耳』の魔女さんだって。さあさあ、長旅で疲れたでしょう。お腹いっぱい食べてちょうだいね!」


 その日の夕食の食卓には、見たこともないほどの小鉢が所狭しと並べられた。


 胡麻油と塩で和えた青菜、甘辛く煮付けた小魚、薄く焼いた肉に、何種類ものナムル。


 そして食卓の中央に鎮座していたのは、ユアンが古都の部屋で作っていたものよりもずっと深みのある、鮮烈な赤色をした本場の『壺漬け』だった。


「アルセア、これがお母さんの漬けたうちの味だよ。食べてみて!」


 ユアンに勧められるまま、わたしは一切れの壺漬けを口に運んだ。


 その瞬間、頭の奥が痺れるような衝撃が走った。


「っ……美味しい!」


 ただ辛いだけじゃない。


 古都でユアンが作っていたものよりも、さらに一段と複雑で濃厚な旨味が口いっぱいに広がる。


 白菜の甘み、唐辛子の刺激の奥から、海から上がったばかりのような強い磯の香りと、発酵した魚介の奥深いコクが押し寄せてきた。


「これ、海の風の味がするわ。ユアンが作っていた壺漬けとは、お出汁が違うの?」


 わたしの言葉に、メイファさんは嬉しそうに目を細めた。


「ふふ、よく分かったわね。うちの壺漬けにはね、南の海で採れた新鮮な牡蠣と、小エビの塩辛をたっぷりと練り込んであるの。古都ではなかなか手に入らない食材だから、ユアンの作るものとは少し味が違ったでしょう」


「はい! すっごく奥深くて、これだけでご飯が何杯でも食べられそうです!」


「チュニアではね、家庭の数だけ壺漬けの味があるのよ。お母さんの手のひらの温度、住んでいる家の風通し、それに代々受け継がれてきた隠し味。どれ一つとして同じものはないの」


 メイファさんは、優しくユアンの頭を撫でた。


「ユアンが古都で作っていた味は、ユアン自身の味。そしてこれが、うちの味。たくさん食べて、南の空気を体に馴染ませてね」


 その言葉は、わたしの心にすっと温かく染み込んでいった。

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