【第11話】赤いスープの温もりと、食材から聴き取る静かな脈動
ユアンとの共同生活は、驚きの連続だった。
入寮して数日もすると、わたしたちの部屋の半分は、見たこともない奇妙なもので埋め尽くされていった。
大小さまざまな陶器の壺、紐でくくられて天井から吊るされた干し野菜、そして鼻を突くような強い香りを放つ、鮮やかな赤色の香辛料の束。
「ユアン、これはいったい……?」
「これ、わたしの修行。チュニアの『医食』の基本ね。発酵させて、力を引き出すの」
ユアンはそう言って、誇らしげに大きな壺をぽんぽんと叩いた。
協会の食堂を利用する生徒が多いなか、ユアンは『医食の魔女』の修行の一環として、共同キッチンを借りて自分の食事を自炊していた。
ある日の夕食時、ユアンがキッチンから部屋に持ち帰ってきたのは、真っ赤なスープがぐつぐつと煮え立つ小さな鍋だった。
香辛料とニンニク、そして強烈な辛味を予感させる刺激的な匂いが部屋いっぱいに広がる。
「アルセアも、食べる? 少し辛いけど、体にいいよ」
「い、いただくわ」
恐る恐る一口食べてみて、わたしは目を見開いた。
口の中が火事になるような強烈な辛さの直後に、複雑に絡み合った食材の深い旨味と、体が芯からカッと熱くなるような強烈な生命力が喉の奥へと流れ込んでくる。
「おいしい……! すごく辛いのに、止まらないわ!」
「ふふん! でしょ?」
すっかりチュニア料理の虜になったわたしは、それから頻繁にユアンと食事を共にするようになった。
◆◆◆
食事のたびに、ユアンはその料理の効能を熱心に説明してくれた。
「この赤い根っこは、血の巡りを……ええと、チュニア語でヒョルエク。そう、血を早く回して、体を温める。こっちの葉っぱは、胃の疲れを取るの」
だが、専門的な医学や薬学の用語となると、いくらわたしの『聴き耳』があっても難しい部分があった。
感情や「伝えたい」という意図は汲み取れても、知らない国の専門用語の正確な意味そのものまでは変換しきれないのだ。
「ごめん、ユアン。今の『ヒョルエク』のあたりの効能が、うまく聴き取れなくて……」
「ううん、わたしのトヨノ語が下手だから……」
もどかしそうに眉を下げるユアンを見て、わたしはハッとした。
言葉で分からないのなら、別のものから『聴けば』いいのだ。
わたしはスプーンを置き、鍋の中で静かに煮込まれている赤い根っこや葉っぱに意識を集中させた。
目を閉じ、あの山での修行のように、対象の奥底にある脈動を探る。
すると、煮え立つスープの中から、食材たちが持つ『力』の波長が流れ込んできた。
熱を生み出し、臓器の働きを活発にし、余分な熱を汗として逃がす力。
「……ユアン、もしかしてこれって、ただ体を温めるだけじゃなくて、一度熱を上げてから悪いものを汗と一緒に外へ追い出す……解毒の働きがあるんじゃない?」
わたしがそう尋ねると、ユアンは弾かれたように顔を上げた。
「そう! それ! チュニア語でヘドク! すごいよアルセア、どうして分かったの!?」
「食材の効能を、直接『聴いた』のよ。ユアンの魔法が引き出した、この料理の力をね」
「えええっ、そんなことできるの!? アルセアの魔法、本当にすごい!」
ユアンは興奮したようにわたしの両手を取って、ぶんぶんと上下に振った。
言葉の壁があっても、わたしたちには魔法がある。
互いの魔法を重ね合わせることで、わたしたちは言葉以上に深く、相手の文化や理解に触れることができたのだ。




