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市街地奪還作戦 8

あづま総合運動公園・段列

 22即機を先頭に部隊が続々と敷地内へ入り、誘導灯を翳す後支の隊員によって予めて指定された駐車位置へ車両を停車させていく。無数の投光器が照らし出す中で乗車していた隊員たちが外に出て来た。

「小隊毎に集合、整列!」

 号令一下、残りの体力を使ってキビキビと動いた。小隊毎に纏まった所へ小・中隊長たちが一堂に会する。

「各員ご苦労だった。明日に備えて休んでくれ。食事と入浴のどちらが先でも構わん。就寝は22:00、起床の時刻は06:00だ」

「武器に問題がある場合は武器科の方へ回せ。装備品に不良が生じているなら補給に交換を申し出ろ。双方の各受付時間は21:00までだからその間に済ませるように」

「3日目の作戦開始時刻は今日と同じく09:00の予定。06:30から整備に出した物の受領を受け付けるが移動開始も今日と同じで08:00だ。遅れるな」

「各小隊毎に割り当てられた天幕で休め。案内所が至近に複数設けられているので移動の際は遠慮なく質問していい。以上」

 伊達市から段列までの移動時間は約40分あまり。今から使える自由な時間は5時間程度。必要な事を全て終えたら寝るだけしかないかも知れないが、この時間をどう使ったかや必要な行動を全て終えられた、もしくは終えられなかった等のアンケートを後日に行う予定だった。一先ず派遣部隊は可能な限りここで寝泊まりさせるため、全体における生活サイクル確立が急がれてもいた。


福島駐屯地

 44連隊の1・3・4中隊も久しぶりに駐屯地へと戻り、いつの間にか出来ていたヘリポートや11設群、会計による臨時に編成された警備チームを視界に捉えつつ宿舎に入る。

 何年も戻っていなかったような感覚に襲われながら装備を解き、何故か懐かしく思える食堂で夕食を済ませて入浴まで終えた。窓のカーテンは閉めているがヘリのために光っている無数の照明と定期的に離発着を繰り返すローター音が深い睡眠を妨げる。それでも布団で横になれると言うだけで昨晩と環境は違った。布1枚向こうが野ざらしでないのも大きい。

 翌日早朝5時半。福島駐屯地では何名かが微妙に覚醒し始める。ヘリの離着陸が熟睡を妨げ、ローター音がする度に目を覚ます者も多い。段列の方は流石に疲労が蓄積しておりまだ全員が眠りの中にあった。

 双方のDSは一晩中を整備点検に費やし作戦3日目の遂行能力を維持させるため心血を注ぐ。20連隊の1/2tには生物の血が付着しており下手に触れず、6特防や9化防が念のため除染を行ってからの整備となったためこっちの仕上がりは明け方前となる。

 これが影響して野外病院では身体の一部を食われた隊員たちの治療に待ったが掛かった。未知の細菌やウイルスによる感染症を考慮して一次閉創は行わず、傷口の洗浄及び損傷が激しい部位を切除する等の処置を行った後に福島赤十字病院へ移送が決定。本格的な手術と入院に備えて動き出した。

 時刻が6時を回って起床の時間になり朝食と身支度が始まる。昨夜に点検を申し出た武器がある者はそれを受領し、土嚢で囲まれた簡易な射撃レーンで何発か試射を繰り返した。


午前7時

伊達体育館・作戦指揮所

 作戦2日目終了後、各種報告と指示出しの終わった松浦陸将は一旦帰宅し朝6時に再び登庁。7時になると同時に定例会議を開始した。昨日に比べ小奇麗に見えるも顔色は回復仕切っていないのが窺える。

「夜間の内に発覚した問題点があれば聞きたいがどうだ」

「アドニスへの20mm弾補給はあと2回が限度と分かりました。想定より早い消耗です。ハイドラはまだまだ余裕がありますしTOWに至っては1発も使用していませんので問題ありませんが、効果的な地上支援を行う上では最大の問題点かと」

「吉井の支処からここまで陸路での所要時間を教えてくれ」

「約6時間以内と見積もれば間違いないと思われます」

 関東補給処吉井分屯地は東部方面隊の弾薬保管場所だ。木更津にも4対戦の弾薬は最低限置いてあるがそこから引っ張ってしまうと彼らの作戦行動を妨げる恐れがある。

「用賀にはどれぐらい残っている」

「半分程度を持ち出しました。仮に何かしらの事態が発生した場合を考慮するとこれ以上は」

「3部長と4部長、今日の見通しを」

「青春夢通り以東ですが、県道150号線から南は22即機と44連で同時に内部検索を進める方針ですので早ければ今日中、遅くても明日の午前中には掌握出来るものと見ております。150号線以北は20連隊のみでの対応となりますのでもう少し時間が掛かる想定です。ヘリの殆どは20連隊の支援に回した方がいいかも知れません。県立伊達高から東は田園地帯が多いのでここならハイドラも適時使用出来るかと思われます」

「明日はどうか分かりませんが今日においては20mm弾を問題無く供給可能です。関東補給処に今から要請を出すなりして算段を整えれば明日以降の分は確保出来るでしょう。それをせずに節約したいのであれば例えばですが、UHの50口径を活用する等の対策が必要になります」

 松浦陸将は少しだけ考える素振りを見せたが1分もせず口を開いた。東部方面隊を通してM197用の20mm弾輸送を要請し明日以降に備える事となる。

 続いて福島駐屯地で後詰めとして待機中の44連2中を20連隊に加えてほぼ1個連隊並への戦力増強が決定。時間差は生じるが到着次第で参戦して貰うのと、武器庫の弾薬をある程度持ち出して桃陵中に補給拠点を設ける提案も生まれた。2中隊はこれのために11設群の3t半を引き連れて出発する準備に入った。


 午前8時。44連2中隊はまだ準備の最中だが他の主力地上部隊は一斉に出発。未だ確認はおろか兆候すら見られないが東方向からの敵増援を警戒し機動戦闘車2個小隊も随伴する。この小隊は伊達署の東に広がる田園地帯を監視するので途中で別れた。市街地を大きく迂回して目的地に向かうためだ。

 昨日に瞬間的な激戦が繰り広げられた青春夢通りへ部隊は再び展開。移動の邪魔になる死骸は道路脇に押し退けてある。後日に化防、特防を呼んで消毒等の作業が必要になるだろう。

 そして午前9時、作戦の3日目がスタート。事前に上空偵察を行ったが生物の大半は市街地から東へ散っており昨日よりも数が少ないらしい。

 ただ見落としや屋内に居る可能性は否定出来ず警戒を続ける事に変わりはなかった。

 駐屯地で休めた44連は大分回復しているも22即機及び20連は同じレベルに至っていない。だが入浴と早めの就寝があっただけ2日目の開始とは違った。表情にもある程度は生気が窺えるし動きも軽い。

「1中隊から前へ。LAVを先頭に前進」

 ついに前線が保原駅より前に動かされる。駅の北東に広がる赤橋と呼ばれる地域に44連隊が分け入り出した。

「各班は取り付き次第で内部検索を開始。手早く行くぞ」

 市内を斜めに突っ切る県道349号へ差し掛かった最初の民家へ1個班が着手。侵入の痕跡が見られたため89式に着剣し、1番員はセレクターをフルオート、2番員が3点バーストに設定する。

 班長が緊急脱出用ハンマーで窓ガラスを割り、鍵を開けて中に踏み込んだ。

「……クリア」

 純和風の居間。散乱する家具。恐らく定位置から大きく動いたであろう、血が飛び散るこたつテーブル。床の畳は傷付いているか引き摺ったような跡が見られる。血痕はどれも既に乾いていた。

「廊下の所まで行け」

 1番員が居間と廊下を仕切る戸襖へ取り付く。向こう側に耳を澄ますが音は聞こえなかった。

「俺が開ける。左右を警戒」

 班長は自ら戸襖を開け放った。1番員と2番員が左右へ銃口を向けるも生物の姿は無し。

 ゆっくり廊下へ足を進めると出て左側が玄関と分かり、開錠して外の仲間を呼び込んだ。屋内の滞留した空気が外へ出て行き妙な息苦しさも紛れる。

 支援体制が十分になった所で更に奥へ。風呂場、トイレ、台所、他の部屋に生存者も生物も確認出来ない。続いて2階だ。45度より傾斜がキツい階段。手すりがあるので高齢者も住んでいる可能性が高い。登る度にギィギィと鳴るガタの来ている階段を少しずつ上がると、左右に分かれる廊下が見えた。

「左から見ろ」

「了解」

 階段を登り切る前に89式を突き出して左方向の警戒。引き戸の閉まった部屋が1つだけ。銃口を上に向けてスイッチングし今度は右へ。人の死体が目に飛び込んだ。腐敗が進んでいて損傷も激しい。

「遺体を視認」

「他は」

「部屋があります。そこだけ普通のドアです」

「2番員、左を探れ。前進」

 廊下まで進み2番員は左の部屋へ。1番員と班長はなるべく鼻呼吸をせず遺体を退かした。どうにも意図的なものを感じた班長がドアをノックする。

「誰か居ますか」

 返事は無い。ドアを開こうとしたが少しだけ動いて止まった。内側のノブに何かが結び付けてある。隙間から中の様子を見ると、奥の方に足が見えた。人間の足だ。血の付着は窺えない。

「救助に来ました、聞こえますか!」

 足は動かなかった。銃剣で結び付けられたのを何とか切り落としてドアを開け放つ。そこには憔悴仕切った母娘が抱き合ったまま目を瞑っていた。怪我はしていないらしいが急いで運び出し後送の手筈を整えて内部検索は終了。色々と思い浮かぶ事はあれど今は動くしかない。迅速に進めていかなければ助かるものも助からないのだ。

 44連隊が逃げ遅れをポツポツと見つけては後送を繰り返す中、22即機は東から近付く個体を排除しつつ東根川を制圧のラインとするため川沿いに部隊を南下させていた。まだ残っているかも知れない生物の遁走及び新たな侵攻を阻止する。

 川の向こうに居た数体がこちらの存在を察知したのか足早に向かって来た。

「各個に応戦!」

「1班撃ち方用意、目標、前方の敵生物」

 20式小銃とミニミの放つ22口径が生物を貫く。進行方向から喰らい付いた幾重もの衝撃は生物の前進を押し留め、次々に地面へその身を預けさせていった。距離が開いている個体は動いていないが接近するなら同じように黙らせればいい。


 作戦開始から1時間ばかりが経過した頃、市内北方に展開する20連隊の下へ44連2中隊が到着。引き連れて来た11設群の車列が桃陵中に弾薬を積み上げるのは無事に見届けていた。

 車列の一部はそのまま桃陵中に残り、要請を出せば補給に向かえるよう準備も整う。

 2中隊は一時的に20連隊指揮下となり行動を開始。桃陵中の方向から南下する形で住宅地に入った。真新しい装備品や場慣れしていない雰囲気が目立つ

 しかし昨日の損害でおっかなびっくりな意識が芽生えてしまっていた20連隊にとっては大きな心の支えだ。44連が最初期から対処して来た各種の対応における情報の精査と今日まで得られた戦闘の経過から、2中隊なりに考えていた内部検索のフォーメーションや警戒手順で作戦を進めて行く。

 また、20連隊は伊達高を掌握しドローン班のための監視基地に選定。東根川までにおける状況の偵察を開始した。

「敵小集団を確認。だて支援学校の北東」

「先に叩いた方が良さそうだな」

 モニターを見ていたドローン班長が呟く。今日が初戦の44連2中隊に位置が比較的近い。

「20連ドローン班から地上管制、アドニスの支援を要請する。送れ」

「こちら地上管制、ある程度の集団は掌握しているがJA物流センターの方か。どうぞ」

「いや、だて支援学校の北東だ。このまま接近されると危険性が高くなる」

「了解。対処する」

 上空待機中のアドニス3と4へ要請が飛んだ。20mm弾の件があるため、まずハイドラで制圧を試みる。

「ノスリ1から両機。20mmの残弾が僅かなのは聞いているだろうが難しいと感じたら使用は許可する。本日中なら十分な補給が受けられるのは確認済みだ」

「アドニス3了解」

「4了解」

 2機は小集団の南へ回り込む。そこから北は民家も何軒かあるがほぼ畑だけだ。FLIRを通して屯する生物を確認。

 パッと見で数は10体ばかりだが地上部隊にはこれでも十分恐ろしい数に違いない。

 もう少し距離と高度が必要と判断されたのでホバリングのまま下がりつつ上昇後、位置取りの調整が終わった。これで機首を下に向けて降下すれば目標との射線が確保出来る。

 一先ず、今積んでいるロケットは使い切ってしまう予定だった。こっちの残弾はまだ豊富なので今が使うチャンスだ。

「アタック、レディ」

 速度を上げながら降下開始。スタブウィングのポッドから細長いロケット弾が無数に飛び出した。概ね進行方向に対して真っ直ぐ飛行する。それでも若干バラけるが半数は敵小集団の中心に殺到。黒煙が連続して立ち昇り生物の死骸を増やしていった。1射目が終わると同時に機首を上に向けて北へ離脱後、また南へ戻って同じ事を繰り返す。北側から撃つと件の支援学校や至近にある住宅地を巻き込んでしまうためこうするしかなかった。


 時刻が11時を過ぎる。ここまでは取りあえずでも順調だ。

 昨日の戦闘で敵の数が減ったのは結果的に今日の開始をスムーズにしていた。割を食った20連隊にとってあまり納得の出来る事ではないが、その恩恵は大きいものがある。

 もしかすると今日中に市街地を取り戻せるかと師団長を含めた幕僚が考え始めた矢先、通信の人間が微妙な表情で近付いて来た。

「報告、アドニス5から入電、市役所施設内に生物と思しき熱源複数を感知したと」

 嫌な報告で指揮所の空気が凍り付き、斎木の目付きも険しくなる。間に合わなかったのだろうか。それとも何か存在を知られるような行動をしてしまったのか。

「……市長たちの生存は確認出来るか」

 誰も発言しようとしない中で斎木は一歩踏み出す。感知しただけで、まだ市役所の誰かが死んだ訳じゃない。その筈だ。

「人間大の物も捉えており少しずつ移動しているそうです。恐らくまだ無事と思われますが」

「県庁から連絡です。生物が市役所のガラスを破壊し内部へ侵入。上階への道にバリケードを設けたそうですが何時まで察知されずに居られるかは不明。可能なら早急な対応を願うと」

 通信の人間がもう1人やって来た。更に飛び込んだ情報で斎木は視線を柏戸に向ける。それを受け止めた柏戸は指示を飛ばした。急げば間に合うかも知れない。

「アドニス5へ侵入の状況を出来るだけ詳細に観察しろと伝えろ。対応は一旦考えると県庁に返答していい」

「了解」

「伝えます」

 数分後、アドニス5から可能な限りの情報が齎された。屋外には5~6体ばかりの生物が居座り、ガラス張りになっている南北の内で南側が数枚破られてそこから侵入しているそうだ。屋内は現状4匹の熱源を感知。上階部分の熱源が市長以下の職員たちなのは間違いない。

 仮に伊達署へ何らかの協力を求めれば向こうで知恵を絞って部隊を差し向けるぐらいの事はしてくれそうだが今の段階ではまだ危険だ。あっちもこれ以上は危険な役回りをさせられない。

 かと言って屋内へ悪戯に突っ込めばこちらもリスクは大きい。何より身を隠す空間が限られる。

「何とも難しい展開だな」

 柏戸は帽子を脱いで頭を掻いた。まだ東根川までの掌握が済んでいない。あまり大きく部隊を動かすと相互の連携に支障をきたす。だが時間が掛かればそれだけ市長たちの生存も危うい。

「県警の主力部隊は何所に居る」

 急に何かを言い出した斎木は隣の渋谷を見た。あまりに素っ頓狂な発言で渋谷の思考は数秒止まる。

「……県警本部で待機している筈ですが」

「警備部と話したい。警察がやられっ放しを仕返しする最後のチャンスだと思わんか。それも市長救出のオマケ付きだ。師団長」

「手短に頼む。県庁に返答出来る内容なんだろうな」

「向こうも嫌だとは言わない筈です」

 斎木は自身が立案した救出作戦を柏戸に説明。一応20連、22即機の両連隊長にも意見を求めたが、今の段階で最適と思える案が浮かばなかったのでそのままGOサインが下る。要請は直ちに県警本部へ送られ向こうでも協議が始まった。

同様のサブタイは今回までになります。

次回は来週末の予定ですがそれを投下後、こちらの更新は暫く休ませて頂きますのでご了承願います。


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