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市街地奪還作戦 7

 作戦2日目は部隊毎に昼食と休憩を挟んで午後へ移行。上空のヘリを一旦全て呼び戻しての補給、整備も挟まれたので休憩が長めとなる。この間に仮眠を取る隊員たちは数多く見られた。

 22即機及び20連隊のドローン運用については現状を鑑み各連隊における偵察監視のみを主任務と位置付ける。ドローンを保有していない44連隊はガン2を張り付けておき相互で情報を直接やり取りしながら行動出来るよう通信体系も調整済みだ。

 これによってヘリ全体の統制も変更が行われる。霊山町方向でもう1つの敵集団を監視するミヤギノハギは2機1組になり、1と2が監視中は3と4が福島駐屯地で待機。こちらの空中指揮はガン1が担当。残り4機は5と6、7と8で1組とし、同様に5と6が市街地上空において監視と地上掃射の支援を行う間は7と8が待機。ガン2はミヤギノハギ5~8の空中指揮も行うが負担を減らすためノスリ2が安全な位置関係で滞空して支援する。

 アドニスは1から4が3個連隊の支援を担当。指揮はノスリ1が受け持つ。5と6は遊撃となりFLIRで逃げ遅れ捜索と市役所及び伊達署の状況を監視。7と8が待機に回り遊撃の交替へ備えた。

 ベニバナ及びウミネコに関しても2機ずつで1組を構成。FOはベニバナが依然担当。重傷者空輸は両部隊の手透きヘリとされていたがこれはウミネコだけになる。更にウミネコへは周辺の状況確認を名目に野戦飛行場となりそうな場所の選定も命じられた。上からのリターンがあり次第で素早く施設部隊を向かわせるための用意だ。

 諸々の調整と準備が終わったのは午後14時を回った時点。本日の作戦終了時刻は17時の予定だったがこれも繰り上げとなり1時間早められる。

 ヘリの再進出を待ったので実際に行動が始まったのは更に15分ほど後の事だった。


保原駅

 上空に居るガン2が保原駅へ接近する車両を確認して地上の44連隊に連絡。間もなくして44連4中によって掌握された保原駅に9後支の輸送小隊が到着した。50口径を搭載する1/2tに率いられた7tトラックがロータリーに入って行く。

 7tトラックは保原駅正面出入り口前に停車。後部の幌は上に捲り上げてあるようで中から1人の隊員が顔を外に出した。

「降車、搬送用意」

 リアゲートが開かれ4名降車する。荷台に残っている隊員たちと担架を素早く展開させる横で助手席から降りた班長が駅舎内に足を踏み入れた。まだ消え去っていない血生臭さが鼻先を掠めて歩みが遅くなる。床の血痕も多くはそのままな上、更に嫌でも目を引くのが窓口の下にある"取りあえず拭った"感が否めない血溜まりの跡だ。

 その窓口の前に居た疲労の色を隠せない44連隊の人間が応対のため近付いて来る。89式の銃口は真下を向いているも妙に殺気立った雰囲気を発しているのは勘違いではなさそうだ。

「9後支輸送、遺体搬送作業を開始する」

「1階ロビーに7名、2階は6名。換気はしてあるが後は殆ど手付かずのため体調の急変に注意願う」

「了解」

 正面出入り口前で待機している部下へ作業開始を命令。念のため付けさせていたマスクのお陰かそこまで表情に嫌悪感は浮かんでいない。だが遺体を包んでいるポンチョから滲み出た血を見た瞬間は誰もが眉間に皺を寄せていた。長居は無用と言わんばかりに担架を荷台へ素早く積んでいく。

 順番待ちの担架が残り2つになった所で複数の銃声が輸送小隊の耳に届いた。あまり遠くはない。

 周辺を警戒していた運転手の隊員が銃声の聞こえた方に顔を向ける。咄嗟に89式を構えるも状況が分かる筈はなかった。住宅や店舗のせいで見えないのだ。

 先導の1/2t射手も50口径を銃声のした方向に向けているが同様に状況が分かっていない。しかしロータリーの外に居るLAVが全く動かないため少なくとも距離がある事は理解出来た。とは言えそれがいつまで続くか。この段階で急に襲って来られると車両を放棄しなければならない可能性もある。そうならないために急いで運転席に座りエンジンを再始動させて出発の号令に備えた。

「収容完了。出発」

 5分とせず待っていた号令が出る。班長も助手席に戻って来た。これでロータリーが出られる。

「出発!」

 進み出す先導に続いてロータリーの外を目指した。班長は周辺の状況を探るため無線に耳を傾けているが、青春夢通りの西進をし始めた所で顔を上げた。

「東からチラホラと流れて来てるらしい。3日目はスムーズな開始にはならないかもな」

「もっと盛大に色々と使えないんですか」

「逃げ遅れさえ居なけりゃ特科で存分に叩けるがそれだって簡単な話じゃない。事態収束までを見据えるなら陣地を作る場所はちゃんと考えないとダメだ。地形にも手を加えるってなると色々面倒な制約も増えるがこっちが気にしても仕方ない。今は余計な事を考えないで運転しろ」

 道路は青春夢通りから福島保原線に切り替わる中、2両は福島市内に向けて移動。北署の横にある第一貨物福島支店遺体安置所へ送り届け伊達体育館まで戻り次の要請を待つ。


福島県立伊達高校裏手・青春夢通り北 20連1中隊

 青春夢通りを今日の活動限界とする方針は既に下達されていた。一旦前進した22即機は保原体育館周辺へ戻って防御を固め、日没までの内部検索を続けている。青春夢通りにWAPCを展開させてはいるがこれも今日の作戦終了と共に引き揚げるそうだ。

 44連隊も近付く個体を排除するのを主目標に変えて、大きな動きは控えながら上空に張り付くガン2と連携しつつ、阿武隈急行線の向こうにあるスイミングスクールへ2個班を送り込む強行偵察を行っている。

 こうして3個連隊の主だった前進が停止。後は気を抜かずに16時を待つだけだと言う空気が流れ始める中、20連隊の展開地域で半ば押し出しに近い抵抗を散見。東から2~3匹ずつ斥候のように姿を現すのが繰り返されていた。しかし上空監視中のミヤギノハギよりある程度の纏まった集団が東進しているとの情報から20連隊の緊張感が一気に高まる。

「攻撃班、十字路に展開して東方向からの侵攻を阻止。各班は西側の歩道まで下がって可能な限り一定の距離を保ちながら撃退。今日の正念場だと思え」

 1/2tが動き出した。22即機の居る所までにある主だった十字路は3つだがそこに攻撃班が全て取り付くまでは少し時間が掛かる。

 搭載火器で確実に防げるとも言い切れないこの現状。もしかすると1両ぐらいはやられるかも知れない。次いでこの流れが変わるまで1~2個班程度からの負傷者に加え、相応の犠牲者も出る覚悟が必要になりそうだ。誰がそうなるかも予想は出来ない。

「50口径と機関銃は相互の連携を絶やすな。てき弾手、距離のある内に全弾撃ってしまえ。後は手榴弾で後方から援護。その際に各班も1名ずつ援護要員を出して全ての手榴弾を預けろ。無反動砲及びLAMは邪魔にならない場所へ集積。もしもの時は身軽な方がいい筈だ」

「ノスリ1から地上各隊、彼我の距離が至近のためCAS実施は困難と判断。側面から後方を叩く」

 攻撃班てき弾手が1/2tより前に出て小銃てき弾を撃ち始める。精度も何も必要ない。とにかく数を撃つ。

 独特の軽い音と共に飛翔したてき弾は生物集団の鼻先で炸裂。何発かは家屋に当たるが気にしている暇すらない。全部撃ち尽くして排除出来たのは目視で精々10体かそこら。後ろの方に飛び込んだのもあるから実際はもう少し多いだろうか。

「残弾なし!」

「後ろに下がれ。少しだけ車を通りに入れる」

 十字路に対して横向きだった1/2tが敵集団に正対した。続いて50口径が唸りを上げて灰色の硝煙を噴き出す。真正面から弾幕を食らった集団は前進を阻害されて動きが鈍るも後続が死骸を乗り越えて前に出続けた。

 防波堤に打ち消された津波がエネルギーを失うまで何度も押し寄せる如く、狭い路地は生物一色で満たされていく。

 アドニスは左右二手に別れて20連隊へ近付く集団を叩こうとしたがその殆どが住宅地に入り込んでしまっていたため積極的な攻撃を断念。通り目掛けてM197を小刻みに撃ち込む程度しか出来なかった。

 てき弾手が後ろから放り投げる手榴弾は各所で爆発しムカデの体を浮き上がらせる。真っ二つになった個体やダメージを受けて吹き飛んだ個体が前進を停止してもがいている間に50口径を叩き込んで仕留めるも丁寧な仕事をしている時間がない。迫り来る敵集団に照準を定めず、銃口を左右へ忙しく振って面制圧を行うのが最優先だ。

「正面2時方向、民家敷地内に敵生物視認!」

 歩道で成り行きを見守っていた1個班が声を荒げた。狭い路地から溢れた数体が民家の敷地より姿を現したらしい。

「3時方向に新手、数2」

「コメリの裏からどんどん来るぞ!」

「各隊直ちに応戦! 援護要員は原隊へ戻り手榴弾を返却、各班長指揮の下で適時使用!」

 夢通りへ次第に生物が躍り出て来た。一番近い所では相互の距離が数十メートルにまで狭まる。

 頭の上で20mmをバラ撒いて欲しいがそれはそれで危険な行為だ。迫撃砲も自分たちが危害半径に収まっていて撃てないし中多の照準をしている暇もない。

「前列撃ち方、目標正面敵生物、3点射、指名」

 単発だと押し切られる。だが連射は弾丸の消費スピードを速めてしまい生存の確率を結果的に低くしてしまいそうだ。ならばもう1つの機能として備わっている3点バーストが有効か否か。そう判断した1人の小隊長は指揮下の班を前後に分ける事も思い付いた。撃ち切ったら前列後列を入れ替えて継続的に攻撃を行い敵集団の前進を阻害する。これを弾の続く限り繰り返せば切り抜けられる。誰もがそう思いたい状況なのは間違いなかった。

 隊員たちがセレクターを3点バーストへ送り込む小さな音が瞬間的に喧しく鳴った。身を隠す必要が無いのは楽だが今の自分らが相手にしているのは何所ぞの兵士よりタチの悪い存在。体に変な力が入ってしまいそうになる。

「射っ!」

 1回トリガーを引く事で発射される3発の22口径弾。迫り来る生物の全身を幾度も貫いて前進する力を阻みながら効果的に黙らせていった。されど数を増すムカデは通りと同様に仲間の死骸をものともせず乗り越えて来る。

 どういう意思を持っているのか定かではないがこっちを食おうとするなら叩き潰すだけだ。

「前列撃ち終わり!」

「直ちに交替、射撃継続」

 小銃担当が主だった前列のため後列との入れ替えが急がれる。後列は無反動砲手やLAM手、機関銃担当に交じって班長たちも前に出た。

「後列撃ち方用意、3点射自由射撃、機関銃は射手の判断で任意のバーストを許可、突出した部分から狙え」

 さっきより少し控えめな小銃射撃が始まった。敵の数はまだまだ多いがその勢いをミニミが抑え込む。各機関銃担当は自身の判断で5点バーストや10点バーストを使い分けながら敵生物の先頭らしき一帯へ弾幕を浴びせた。

 89式の弾が切れたらまた前後の入れ替えを繰り返す。後ろに下がれないは以上ここで打ち崩すしかない。

「ドローン班、残りはどれぐらいだ」

「全体の半分程度が正面に居ます。後方の1部はアドニスが掃討しましたがこちらとの位置関係が影響して大した行動には出れていない模様」

「自力で切り抜けるしかない訳か。ドローンを通りの上に戻して南北が挟まれないか警戒しろ。それとミヤギノハギにも監視の支援要請を出せ」

「了解」

 アドニスがM197を撃ち下ろしている一帯から手前に居たドローンは20連隊が展開する青春夢通りの真上に移動。逃げ道は南北しかないため挟撃の警戒に当たらせる。更にミヤギノハギも呼んで監視の目を増やした。もしどちらかに新手が出現した際は居ない方へ全力で逃げる方針だった。

 4度目の押し出しを退けてようやく波が収まり出したかと思いきや、家屋同士の隙間を構わずに進んで来た小集団が十字路から3mばかり路地に入っている攻撃班の側面に飛び出して来る。

「右方向至近に敵襲!」

 1/2tの運転手はギアをバックに入れようとしたが右方向に出現した生物との距離が近過ぎた。

 もう小銃は間に合わないと判断しホルスターの9mm拳銃を引き抜いて全弾叩き込む。奇跡的に頭部へ集中した射撃により撃退するも更に現れたムカデが再装填のため銃口を上へ向けていた右腕に牙を突き立てた。

 迷彩服に血が滲み出る中で振り払おうとするが向こうの引っ張る力が強い。車外へ引き摺り出されればもう助かる可能性は0に等しくなる。

 左手に持っていた予備弾倉を放して助手席の右下にある手すりを掴み必死に堪えた。

「!!」

 右腕に別の激痛が奔る。肉を食い千切られる痛みだ。踏ん張りの利かなくなった右手から9mm拳銃が抜け落ちた。

 目の前で腕に噛み付かれている運転手をどうするか。50口径射手は悩む。今手を放せば波に呑まれるまで数分、下手すれば1分掛からない。しかし足元の小銃を手に取れば目障りな存在を排除出来る。

「撃ち続けろ、俺が行く」

 給弾係をするため1/2tに戻っていたてき弾手が助手席のミニミを持ち上げた。一旦車外に出てムカデの側面へ3~40発ばかり撃つ。流石に致死量のダメージとなり噛み付いたまま道路に力なくずり落ちた。ミニミは腰の後ろに回し依然突き立てられたままの牙を外そうと近付く。

「これ外すと出血が増えるか」

「分からん……頭切り落とす時間は無いな」

「また来たぞ!」

 てき弾手が牙に注視している間にまた家屋同士の隙間から1体出現。てき弾手の右ふくらはぎに噛み付いた。不意の襲撃でバランスを崩し力任せに引っ張り倒される。

「援護! 至急援護!」

 悲鳴に近い叫びを聞き付けた1個班が攻撃班後方より接近し、てき弾手に噛み付いている個体の排除を始めた。既にアスファルトへ血が飛散しており食われ出しているのが分かる。

 何とか上下を入れ替えようともがいてもふくらはぎを襲う激痛が全てを無に帰し呻き声を上げて暴れるだけの捕食対象と化していた。

 取り付いた1個班は1/2tを中心に左右へ別れ片方は救護。もう片方は前方の集団牽制に加わる。車体の左側をすり抜けて前に出ようとした所、またもや民家の隙間から襲撃され1人の隊員が勢いのまま伸し掛かられた。上半身を気色の悪い脚が包み込んでムカデ全体の3分の1が収まっている隙間に引き摺り込もうとする。

「機関銃、体の後方を撃て!」

 前に出る筈だった機関銃担当は振り返りムカデによって分断された後方に居る班長の指示を頭に入れながらその光景にギョッとした。押し倒された仲間はゆっくり引き摺られている。隙間との境界線目掛けフルオートで撃ちまくり、半ば切断に近い状態にする事でムカデは力尽きた。

「前方敵集団に注力! こっちは任せろ!」

 1/2tの右側における救護は終了。隊員の1人がてき弾手のミニミを引き受けて阻止火力を濃くする間に運転手へ食らいついたままの牙も外す事が出来た。

 流れ出る血を止血帯で押し止めながら2人を直ちに運び出して西側歩道までの離脱に成功。衛生担当による応急手当てが行われる中で攻撃も継続される。

 他の場所も同様に攻撃班が至近距離で襲撃を受けたらしく、北側では後退して来る1/2tのボンネットにムカデが乗ったままだが、これは運転手がフロントガラスごとミニミで撃ち抜いて射殺し事なきを得た。


 暫くして時刻がようやく15時半を回る。敵集団の行動は15時前に止み、その後は妙な静けさが辺りを支配している。

 青春夢通りに散らばる無数の空薬莢と弾倉。少し足を動くだけで半長靴が薬莢を踏み付けジャリジャリと音がする。他には小銃てき弾発射後に残るトラップ部。攻撃班が再装填の際に急ぐあまり車外へ落とした50口径の弾薬箱。全てがたった3~40分程度の出来事だが、この光景が十分に激戦を物語っていた。

 さっきまでの戦闘で発生した負傷者計10名ばかりの内で軽傷の者は22即機WAPCで後送。重傷者を最優先にしたかったが傷の具合を考えると下手に動かせず、安全が確認されるまで1t半救急車を呼ぶ事も難しいため対応が後回しになる。その待ち望んでいた救急車到着から暫くした時、伊達体育館より本日の行動を終了する旨が流れた。

「指揮所より各隊、本日の作戦行動は現時刻を持って終了。44連隊は駐屯地。それ以外は直ちに段列へ撤収せよ。以上」

 何はともあれ今日が終わった。20連隊は青春夢通りの南北に渡って比較的激しい戦闘を乗り越えた。これはこれで重要な経験値だ。活かせる点は明日に反映させていけばいい。

「撤収」

「撤収!」

 空の弾倉だけなるべく回収させて南下後に待機。迎えに来た3t半の車列へ分乗してリラックスしながら揺られ続けた。

 夕陽に染まる長閑な風景が次第に暗さを増す中で福島市中心部を迂回する。気が付けばスタジアムの照明が煌々と光る総合運動公園が間近に迫っていた。

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