4 洞窟探索?
あれから特に何かに出会うことも無く、洞窟に到着する。
それにしても。森ってもっと動物がいたりするんじゃないのか?
動物どころか鳥の鳴き声ひとつしなかった気がする。
「イグナス様、この洞窟…変じゃありませんか?」
「ああ、静かすぎる。それに、魔物が一匹もいない」
「心配しすぎなんじゃねーの? こんな時だってあるだろ」
三人が話す中、ソフィは一人だけ険しい表情をしている。
さっきの嫌な予感が気になっているんだろうか?
「…ソフィ? 大丈夫か?」
気になって声を掛けると彼女は険しい顔のまま口を開く。
「皆、一度町に戻ろう。これ以上先に進むのは危険だと思う」
「はあ? どうしてだよ?」
彼女が言うには、これほど大きな洞窟に魔物が住んでいないのはおかしい。森で遭遇したサイクロプスは元々この洞窟に住んでいて強い魔物に追い出されたのかもしれない。
そして、サイクロプスより強い魔物となると自分達だけでは手に余る相手の可能性があるとのことだ。
「ふむ、ソフィの言うことにも一理あるが…。危険な魔物がいる可能性があるなら尚更調べておくべきじゃないか?」
「それもそうだけど、何だか嫌な感じがするんだ」
「だから、心配しすぎだって。」
「…………」
「大丈夫ですよソフィさん。いざとなったら私の転移魔法で町にはすぐ帰ることはできますし」
ソフィ以外の三人は進む気だ。
俺も帰った方がいい気がするんだけどな。ソフィが言うように何となく嫌な空気が漂っている。
長い間奴隷として危険を避けてきた俺の勘がここは危ないといってるような気がしないでもない。
「……わかった。でも危険だと判断したらすぐに戻るからね」
「そうだな。それでいい」
進むことにきまったようだ。
できる事なら帰りたかった。本当帰りたかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
洞窟の奥に進むにつれて何だか生臭いというか、なんとも不快な臭いがしてくる。
なんだこの臭い。洞窟の奥は基本こんな臭いなのか? だとしたら俺は一生洞窟を好きになれないな。
「うぅ…。臭いがきついですね」
「これは死臭だな。何かの死体が腐っている臭いだ。あまり嗅がないほうがいいぜ」
「気分が悪くなってきました…」
口と鼻を布で覆うエレノア。俺はずた袋を被っているから必要ない。ずた袋最強。
そんな死臭に耐えながらしばらく歩いていると広い空間に出る。
「暗いな。ソフィ、頼めるか?」
「うん、まかせて」
ソフィが人差し指を立て、くるっと回すと光の球が現れ辺りを明るく照らす。
「…ッ!」
「なんだ……これは…」
その空間には血の海が広がり。森でも出くわしたサイクロプスの亡骸が大量に転がっている。
さっきの臭いの正体はこれか? かなりグロ気持ち悪いことになってるんですが。
「サイクロプスがこんなに……」
「おいおい…」
パーティ全員がこの異常な光景を目の当たりにして顔色を悪くしている。
洞窟に入るのが初めてな俺でもこれは普通じゃないと理解できるぞ。
洞窟の中が年中出血大サービスだったら堪ったもんじゃない。
「イグナス、見てくれ」
「これは、サイクロプスを捕食している奴がいるのか…?」
アルクが指差した先には無残に食い散らかされたサイクロプスであろう残骸があった。
あんな巨人を食べる奴がいるのか…。ていうか食べられるのか? 毒とかありそう。
「やっぱり町に一度戻ろう。これは普通じゃないよ」
さすが賢者様いいこと言う。
俺も早く帰った方がいいと思う。
「いや、もう少しだけ調べてみよう。これをやった奴の情報を得られるかもしれない」
そう言うとさらに奥へ進んでいく勇者達。
この勇者まったく人の話をきかない。そのせいでソフィの顔がより一層険しくなる。
可愛いけど怖い。賢者様こわいい。
「ここだけ…明るいですね」
「…どうやら、洞窟の天井に大穴があいているらしい」
本当だ。上を見ると外がはっきりと見える位大きな穴があいている。
それにしても、さっきの場所と違ってここにはサイクロプスの死体が一つも無い。
それどころか、不自然な位整っている。
「イグナス、もういいだろう? エレノア、転移魔法……を」
近くで何かが羽ばたくような音が響く。
鳥……じゃ無いよな。鳥にしては大きすぎる。
「こ、この音はまさか…エレノア! はやく転移魔法を!」
ソフィが血相を変えて叫ぶと、それをかき消すような咆哮が木霊する。
物凄い鳴き声だ。サイクロプスなんて比にならない。
その爆音だけで視界が揺れる。
「きゃああああっ!」
「おいおい…まじかよ」
一気に洞窟内が暗くなったとおもえば、目の前に巨大なバケモノが着地する。
おい、なんだよこれ。翼の生えたトカゲ?
威圧感で身体が竦み、パーティ全員が動けないでいた。
「ワイバーン…だと!?」
「…ッ! エレノア!」
「は、はい!」
エレノアが転移魔法の詠唱を開始するが、ワイバーンはそれを阻止するように翼を羽ばたかせ突風を起こすと、俺達の身体を容易く吹き飛ばす。
「!?…つぁ!」
何もできず、壁に叩きつけられる。
背負っていたアイテムがクッションになるが鈍痛で視界がチカチカする。うまく呼吸できない。
何とか立ち上がり、ワイバーンに目をやるとソフィに追撃を加えんと歩み寄る。
「ソフィ!逃げろッ!」
彼女にそれを伝えるために大きく叫ぶ。
「ぅ…くぅ!」
ソフィは力無くフラフラしている。
壁に叩きつけられたダメージが残っているようだ。
そして無情にもワイバーンは攻撃の態勢に移る。
頭よりも先に身体が動き、ワイバーンの攻撃から守るようにソフィを抱きかかえる。
ワイバーンの尻尾により再び壁に叩きつけられる。
「君…なんで」
一度目を遥かに凌ぐ衝撃が全身に駆け巡り。立ち上がろうにも身体に力が入らない。
「あ、ああ…ねぇ! 大丈夫かい!?」
ソフィが俺の身体を抱え起こす。
どうやら彼女に怪我は無いようだ。
「き、君、そんな。血が、こんなに」
どうやら俺は出血しているようだ。
体に感覚が無く痛みすら感じない。
「エレノア、彼に回復魔法を。ね、ねぇ!」
「あ…うぅ」
「ど、どうして…イグナス!アルク!」
「くっ…」
「………」
どうやら三人ともワイバーンの恐怖により身動きできないようだ。
こうしている間にもワイバーンがこちらに近づいてくる。次の攻撃を受けてしまうと確実に二人ともやられてしまう
彼女を逃がす為に何とか声を絞り出す。
「ソ…フィ、逃げ…て……くれ…」
「君だけ見捨てて逃げられるわけないじゃないか! お願いだ…死なないでくれ」
それを聞いたソフィは大粒の涙を流しながらそれを拒否する。
ワイバーンが俺達の間近に迫り、翼爪を一気に振り下ろす。
ちくしょう。自分を犠牲にしても仲間一人すら守れないのか、俺は……すまない、ソフィ。
自分の無力さを呪いながら目を閉じる。
「遅れてごめんね、お兄さん」
誰かの声に目を開けると町で出会った少女がワイバーンの攻撃を片手で受け止めていた。
「お兄さんの魔力をたどるのに時間がかかっちゃったよ。すぐ片付けるからね」
そう言うと少女の体が黒炎に包まれ、見えなくなる。
炎が弱くなると青い髪は黒く染まり、頭には二本の角が生えた少女がいた。
ワイバーンは危険を察知したのか、少女から一気に距離を取る。
「さて…と、おぬしに死なれては困るからの。ほれ」
少女が俺に向かって手をかざすと体が楽になるのを感じる。
「あの傷が一瞬で……あの子はいったい」
それを見たソフィが目を見開き驚きの声を上げる
俺が回復するのを見て、安心したような表情を見せた少女は再びワイバーンを睨みつける。
「トカゲ風情が、我のお気に入りを傷つけた罪は重いぞ?」
少女にどす黒い殺気が溢れ出す。それに怯んだワイバーンは、慌てて逃げるように飛び立つ。
それを見た少女はワイバーンに向かって小さな黒い光球を飛ばす。
「たわけが!逃がすわけなかろう!」
高速で飛んで行った光球が直撃すると、ワイバーンは苦しそうに空中でもがき跡形も無く消滅する。
あれほど恐怖を感じた敵が一瞬で消し飛んでしまった。
ワイバーンを倒した少女が俺達の方に歩いてくる。
俺を抱えているソフィの腕に力が入る。
「な、なんだい? 彼に手を出すならぼぼ、僕が相手になるよ!」
ソフィが少女を睨みつけ、震えた声で精一杯の強がりを言う。それを見た少女は少しキョトンとした後大きな声で笑いはじめた。
「クハハハハ! 安心せい。我はそやつの知り合いじゃ」
「知り合い? 本当かい?」
ソフィが少し警戒しながら俺に聞いてくる。
知り合い…というか遊ばれただけどいうか。なんとも言えない
「えっと…髪の色とか変わっちゃったけど、多分」
「多分とは酷いのう。あんなに熱く視線を交わし、語り合った仲ではないか」
それを聞いたソフィの顔が真っ赤になり俺をジトっと睨みつけてくる
ああ、賢者様のジト目こわいい!
「それよりも。おぬし、いつまでそやつに抱きついておるのじゃ?」
「え? あっ!!」
俺を抱えていたソフィが離れると、力を抜いていた俺は地面で後頭部を強打する。
「ーーーーッ!くぁぁぁぁぁ!!」
いってぇ! 目の前に星が飛んだぞ星が。
「わぁ! ご、ごめんよ。大丈夫かい!?」
声にならない声を上げ後頭部を両手で押さえながらゴロゴロと転がる俺を不安そうに見るソフィ。
「ソフィ!大丈夫か!?」
そんなやり取りをしていると、今更勇者が走ってくる。
もっと早く来てくれよ。
「…ああ、大丈夫さ。彼と、この子のおかげでね」
勇者に刺々しい視線をむけるソフィ。
賢者様ガチギレである。ものすっごい睨んでる。
「なんじゃこいつは?」
「彼はイグナス、一応勇者だよ」
ソフィが少女の疑問に答えると、少女はお腹を抱えて笑う。
「こやつが、勇者? クフハハハ。冗談じゃろ? ワイバーンに怯え、死にかけの仲間を見捨てたこやつが?」
勇者を指差し、馬鹿にしたように言う。
この少女容赦ないな。
勇者も怒りからか顔を真っ赤にしプルプルと震えている。
何か言いたいんだろうけどあのワイバーンを一瞬で倒した相手に下手な事は言えないみたいだ。
「き、貴様はいったい…」
勇者の苦し紛れな言葉に少女の顔が一気に無表情に変わる。
場の空気が一気に冷たくなるのを感じる。
こわっ!少女可愛いのにその顔は怖い!
「……本当なら貴様のような男に聞かせる名ではないが、まあよかろう。あやつにも我の名を覚えておいてもらわんとな」
少女がちらりと俺のほうを見るとまた勇者へと向き直る。
「勇者よ我に畏怖し、しかと聞け。我の名は黒の魔王アリス! かつて……特に何もしていない…かの? あと今は魔王じゃないから元魔王じゃ!」
「黒の魔王……だって!?」
ソフィは少女が魔王と名乗ったことに驚きを隠せないようだ。
魔王…魔王って何だっけ? 王様みたいなもんだったか?
「ソフィ、あのアリスって子は凄いのか?」
「…あの子が言ってることが確かなら、数いる魔王の中でも最強と噂されている魔王…僕達人間の敵さ。それ以外は一切不明だけどね」
まじかよ。助けてくれた少女が完全にラスボスだった。
「助けてやったのに敵などと…酷い奴じゃのー」
アリスと名乗った少女は拗ねたように頬を膨らませこちらを見る。
おおぅ。ラスボスが可愛い。
「な、なぜ魔王が勇者である俺達を助けた!?」
勇者が疑問をぶつけるとアリスの顔はまたもや無表情に変わる。
その顔こわいやめて。可愛いままの君でいて下さい。
「貴様、思い上がるなよ。我は貴様や向こうで無様に立ち尽くしている二人になんぞ興味は無いわ。我の目的は…」
アリスはゆっくりと俺の所に歩いてくると俺の顔を見て微笑みを浮かべる。
思わずドキッとしてしまう。無表情からのそのプリティフェイスはずるい。
「我は…おぬしを迎えに来たのじゃよ」
「俺を迎えに?」
「ああ。我はおぬしがほしい。こやつらがおぬしを仲間とし、おぬしが幸せそうなら諦めようと思ったが……そこの賢者以外おぬしを仲間だと思っていなかったようじゃし。何よりも我はもう我慢できん」
「う、うわ。何を」
そう言うとアリスは俺を抱きしめてくる。
やばいめっちゃいい匂いするし柔らかい。
「んー、照れておるのか? やはり、おぬしはめごいのう」
「な、何をしているんだ! は、離れて! 君もデレデレして…もう!もう!」
ソフィが強引に俺とアリスを引き剥がすとアリスは口を尖らせる。
「むう…いけずじゃの。まあよい、続きは連れ帰ってからとするかの。ということで、こやつは我がもらう。よいな?」
「だ、駄目だ! 彼は僕達の仲間だよ!」
「仲間だと思っているのはおぬしだけじゃろうに。あやつらと共にいてもいいようになるとは思えん」
「う、うぅ……」
アリスの言葉にソフィは言い淀む。どうやら何も言い返せないようだ。
「さて、ゆくぞ。我と共に来るのじゃ」
アリスは俺の手をとり笑いかける。
満面の笑みだ満面の笑み。愛くるしさ爆発。
「えっと…俺の意思とかそういうものは…」
「おぬし、わ、我と一緒は嫌なのか?」
さっきまで満面の笑みだったアリスは一気に涙目になってしまった。
違うんです一応言ってみただけなんです。
でも今までよくしてくれたソフィとも離れにくくてですね?
「い、いや。そういう訳じゃなくて。その…」
俺はソフィに目をやるとソフィは不安そうに俺を見ていた。
だって賢者様あんな顔してるんだもん。可愛い顔が完全に悲しみ一色だ。
「ふむ……賢者よ、おぬしも共に来るか?」
「ぼ、僕も一緒に?」
「どうするかはおぬし次第じゃがな。おぬしが共に来たければ我の手を取るといい」
ソフィに向かって手を差し出すアリス。そして明らかに迷いの表情を見せるソフィ
「何を馬鹿な! 勇者である俺の仲間のソフィが魔王の仲間になるはずが!」
「…………」
「そ、ソフィ? どうした早くこっちに」
「…ッ!!」
勇者の言葉とは裏腹にソフィはアリスの手を取った
「ソフィ!? なぜだ!」
「ごめんね、イグナス。僕は彼と一緒に行くよ」
「待ってくれ!ソフィ!」
「さようなら、イグナス。」
ソフィが別れを言うとアリスが転移魔法を発動させる。
その瞬間視界が暗くなり。意識が深い闇に落ちていった。
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