3 魔物討伐?
結局まったく眠れなかった。眠れるわけがない。賢者様の寝息可愛いし、なんかめっちゃいい匂いするし。
とりあえずベッドから出よう。この魔の領域にいちゃ駄目だ。
ベッドから出てソフィの方を確認すると彼女はまだ眠っているようだ。それはもう幸せそうに眠っている。
天使みたいな寝顔だな。ほっぺも柔らかそうで……、少し位つついてみても大丈夫だろうか……。
「んゅ……」
やわ、何だこれ!?やわらか! すげー。賢者様のほっぺすげー。
「………」
これ癖になりそう。この感触癖になりそう。
「何をしているんだい?」
「うおぉ!?」
やばい、起きてた。
じっとりとした目でこちらを睨んでる。
「え、えっとぉ。お、起きてらっしゃいましたか?」
「寝ていたさ、寝ていたけどあれだけ頬をつつかれたら誰だって目が覚めるよ。それで君は、何をしていたのかな?」
「あの、その」
怒ってる、賢者様怒ってらっしゃる。
「君にはがっかりだよ。僕は仲間の君を信用して寝床を共にしたのに。君は寝ている女の子に手を出すような男だったなんてね」
「うぅ、すみません…」
つい出来心だったとはいえ彼女を不快にさせてしまったのだ。頭を下げて謝ることしかできない。
「っふふ、あはははは!」
「え? え?」
頭を上げてソフィを見てみると、彼女はお腹をかかえて笑っている。怒りで振り切れてしまったのか?
「ソ、ソフィ?」
「あは、昨日の仕返しをしただけさ、怒ってないよ。少しからかっただけでそんなにシュンとなるとはね。可愛いところもあるじゃないか」
ソフィはニヤニヤしながらこちらを見ている。びっくりした、彼女が温厚で助かった。次はこんな事をしないように反省しよう。
「びっくりしたよ。でも、本当にすまない、勝手に触ったりして」
「いいよ、頬をつつかれたくらい気にしないさ。寝顔を見られたのは、恥ずかしいけどね。でも、どうしてあんなことをしたんだい?」
「え、あー……えーっと」
「ん? どうしたんだい?」
どうしよう、言いにくい。賢者様の寝顔が可愛すぎて我慢できなかったなんて言いにくい。け、けどこれしか理由が無い……。
「そ、ソフィの寝顔が可愛すぎてーですね? 我慢できなくて…ごめんなさい」
「か、かわッ!?」
ボンッ!と一気にソフィの顔が赤くなり手を胸元でもぞもぞさせている。うん、可愛い。純度100%可愛いぞこの賢者様。
「は、恥ずかしいことを言うんだね君は! ぼぼぼ、僕を可愛いだなんて! もう! もう!」
「す、すまない! そんなに恥ずかしがるなんて思わなかったから」
さっきから謝ってばかりだな俺。
でも可愛いのはソフィが悪い。だって可愛いし。
「恥ずかしいに決まっているじゃないか、男性にそんなことを言われたのは初めてだったんだ。…でも可愛いって言われた事は悪い気はしないかな、ありがとう」
顔を隠すようにフードを深く被るソフィ。
抱きしめて頭を撫で回したい衝動に駆られるが、グッっと堪えろ俺。
「さ、さて! 僕は少し準備するから、君は先に皆と合流してくれるかい? そろそろ皆、酒場に集まっている頃だろうし」
「わかった。じゃあ先に行ってるよ」
そう言い俺は先に部屋を出る。
「なっ!? なぜ貴様がソフィの部屋から出てくる!?」
部屋の前に勇者が居た。勇者は俺の顔を見るや否や大声を上げる。
何だか勇者凄く怒ってないか? 殺意が物凄い。
「聞いているのか? どうして貴様がソフィの部屋から出てきたかと言っているんだ!」
「昨日、俺の寝床が無かったのでソフィの部屋に泊めてもらったんです」
そう言うと殺気がさらに凄くなる。
これは逆鱗に触れてしまったかもしれない。
「奴隷風情が賢者であるソフィと寝床を共にするなど…! まさか貴様、ソフィに手を出したりしていないだろうな!?」
今にも斬りかからんばかりの殺気を溢れさせる勇者。
どうしよう、添い寝をして寝ているソフィの頬をつついたなんて言ったら殺されるだろ、これ。
「うるさいよ、イグナス」
ソフィが部屋から出てきて少し不機嫌そうに勇者を見る。
「イグナス、少し勘違いしているけど。彼を部屋に招いたのは僕だ。彼は、君が部屋を用意していなかったから野宿をしようとしていたからね」
「こ、こいつは奴隷だったんだ。奴隷は野宿で十分だろう?」
「僕は昨日も言ったはずだよ。彼は仲間だ、奴隷だったかなんて関係無い。それよりもイグナス、君は国から選ばれた勇者なのだろう? なぜ勇者が奴隷を差別するんだい?」
「ッ……!」
はっきりと怒りのこもった視線をイグナスに向けるソフィ。
勇者には大ダメージだったようだ。
「…とりあえず、この話は終わりにしようか。皆と合流して魔物退治に行こう」
「わかった…」
先に酒場に向かう勇者。
通りすがりざまに俺を睨み付けていたのは多分気のせいじゃないよな?
「さあ、僕達も酒場に行こうか。あまり皆を待たせるわけにもいかないからね」
「ああ、…ソフィ、庇ってくれてありがとう」
ソフィに向かって頭を下げる。彼女が庇ってくれなければ勇者に何をされていたかわからない、それ位の殺気だった。
「いいさ。君は本当に悪く無いんだ。何も気にすることは無い」
ーーーーーーーーーーーーーーー
酒場いる残りの仲間と合流し魔物が出るといわれる森に到着する
「ふぅ…ふぅ…」
重い、アイテムや装備を運ぶとは聞いていたけど。まさか、こんなに大量のアイテムを一人で運ばされるとは思わなかった。
「君、大丈夫かい? 僕が半分持とうか…?」
「い、いや。大丈夫だ。ソフィは戦闘に集中してくれ」
「そいつの言うとおりだソフィ。最近この辺りで魔物がよく目撃されているらしい。後ろを警戒してくれ」
「わかったよ、イグナス。 君、辛くなったら言うんだよ」
そう言うとソフィはパーティの後ろにつく。
「……ふん」
勇者は俺をひと睨みすると前へ歩いて行く。
ずいぶん嫌われてるなぁ。
「お前、イグナスにかなり嫌われてんな。まあ俺もお前の事嫌いだけどな。奴隷なんだからあまり目立ったことすんなよ?」
俺、何か嫌われるようなことしたっけか? 初対面の時からソフィ以外には嫌われてる気がする。
とりあえず、このタイプの人間に反論するのは逆効果だろう。
「えっと…、すみません」
「奴隷なんか黙って言いなりになってればいいんだよ。そうだろ?」
「……はい、そうですね。気をつけます」
いつもながら奴隷の立場っていうのは理不尽という他無い。否定すれば痛めつけられ、拒否すれば殺される。
まあ、今回の答えは間違いじゃなかったみたいだな。満足してそうだし。
ズダァン、静かな森に突然大きな音が響き渡ると目の前の大木がメキメキと音を立てて倒れる。
「うおぉあ!?」
「おー、キタキタ。敵さんのお出ましだぜ」
俺以外のパーティメンバーが一斉に戦闘態勢入る。
俺は邪魔にならないように後ろに下がろう。
「フシュー…ルルルル」
でけぇ…軽く三メートルはある単眼の巨人が涎を垂らしこちらを凝視している。
なんだあれ。魔物って皆あんなにでかいのか? そもそもあんなのが人間にどうにかできるのか?
「そ、そんな。サイクロプス!? 町の近場にどうしてこんな危険なモンスターが…」
「エレノア、ぼーっとすんじゃない。イグナスに補助魔法を!」
「は、はい!…イグナス様!」
エレノアが胸元の十字架を握り締め、祈りを捧げると勇者の体が淡い光に包まれる。
補助魔法により勇者の身体が発光している。どんな効果があるのかわからないけど少なくとも勇者感はパワーアップしてるな。
「イグナス、アルク。少し時間を稼いでくれないかい?僕が大きいのをぶつけるよ」
「いいだろう」
「俺様にまかせとけって!」
二人が魔物を足止めするために突っ込んでいく。
俺も何かできることはないだろうか?
「ソフィ、俺にも何かできないか?」
「君は僕の後ろに回って、他の場所から敵が来ないか見張ってて」
「わ、わかった!」
見張りぐらいしかやれることは無いみたいだな。自分の弱さがもどかしい。
せめて見張りはこなそう。
「ぐるぅおおおおおぁああああぁあ!」
サイクロプスが大きく咆哮を放つ。一番後ろにいる俺すら耳が痛くなる。
「おらおら!こっちだ!」
アルクは素早く動きながら的確に矢を当てていき、サイクロプスの注意を引きつける。
「があぁああああ!」
サイクロプスの攻撃がアルクに集中すると、その隙を逃さないように勇者が攻撃を加える。
「貴様の相手は一人だけでは無いぞ」
二人は、どちらかに攻撃が集中しないようにうまくサイクロプスの注意をそらす。
「すー…はー…さあ、いくよ」
その隙にソフィが魔法の詠唱を開始する。
正面に手を突き出したソフィが何かを唱え始めると、地面が青く光り、突き出した手の正面に文字のような物が刻まれる。
すげぇ。これが魔法なのか、ソフィの足元にも高速で魔方陣が広がっていく。
「ばあああぁあるああああああああ!」
サイクロプスは完全に二人に翻弄され、こちらには気がついていない。
「ちぃ! 硬ってぇな。矢が刺さらねぇ」
「まだかソフィ!? こちらもさすがに消耗してきた」
「………準備完了だよ。二人とも退いて!」
掛け声と同時に二人は左右に飛び退く。それを見たソフィが魔法を発動させる。
魔方陣の光りが強くなり赤く染まる。
「さあ、逃げ場は無いよ! イラプション!」
ソフィが大きく呪文を唱えるとサイクロプスの周りを炎が囲み逃げ道を封じ、足元から炎が噴出する。肉の焦げる匂いとともに叫び声が辺り一帯に響き渡る。
そして、暴れまわっていたサイクロプスが力無く膝をつき。ズゥンと倒れ伏す。
「ふぅ…」
敵が完全に沈黙したのを見て。一息つくソフィ。
「ヒュー。やっぱりソフィの魔法はすげぇな」
「そうですね。いつも助けられています」
仲間が皆ソフィーを労う。俺も一声かけておいた方がいいよな。何もしていないんだから一言くらい何か言っておかないと。
「お疲れ様。ごめんな。俺は何もできなくて」
「ありがとう。気にしなくていいさ、皆自分のできることをしているからね。君には君の役割がある」
ソフィはそう言ってくれるが、本当に荷物持ちしかできない俺は申し訳なく感じてしまう。
「イグナス様、やっぱりおかしいです。洞窟の奥地に住むサイクロプスがこんな森に…」
「そうだな、俺もおかしいと思っていた。近場の洞窟も調べておいた方がいいかもしれないな」
勇者とエレノアが話し合っている。さっきの魔物がこの森に出てきた事がそんなにおかしいのか?
「ソフィ、さっきの魔物…この森で出てきた事はそんなにおかしいことなのか?」
「普通ならまずありえないだろうね。サイクロプスは太陽の光をあまり好まない種族なんだ。だから、普通なら光があたる森には出てこないのさ」
「ありえないほどなのか。ってことは洞窟に何かあるって事か?」
「その可能性が高いだろうね。何だか嫌な予感がするよ」
嫌な予感って。怖いこと言わないでくださいよ賢者様。
そんな話をしていると、先ほどエレノアと話をしていた勇者がこちらに話かけてくる。
「少しいいか?」
「ん? どうしたんだい?」
「やはり、こんな日中にサイクロプスが洞窟から出ているのはおかしい。この先にある洞窟を調べようとおもうんだが」
「そうだね。僕もそれがいいと思うよ。何が起こっているのか調べておかないと」
どうやら次は洞窟に向かうようだ。
ソフィは嫌な予感がすると言っていたけど…。
まさかな。
大丈夫だよな?
戦闘描写の難しさったら無いですね




