2 合流?
酒場に着いた。
ごつい男たちが酒を飲み、大きな笑い声をあげている。
ここでパーティと合流するらしい。
緊張で口の中がからからだ。
「少し待っていろ」
「わかりました」
勇者が店主であろう男に話しかけている。
店主もごついな。見た目だけで威圧感がすごい。そして何よりも自分の場違い感が物凄い。
「おい、行くぞ」
「は、はい」
酒場の奥の方へ進んでいく。
ここでは、あまり人に見られていない気がする。
なんとなく居心地がいいな。
「おーい、こっちだこっちー」
赤髪の優男が椅子から立ち上がり勇者に向かって手を振る。
「すまない、遅くなった」
「いいっていいって、ん…?なんだその汚いの」
優男は俺のことを指差しながら言う。
汚いのって言われてしまった……少しショックだ。奴隷なので綺麗とは言わないが汚いと言われるのはショックだ。
「アルク! 汚いなんて失礼じゃないか!」
アルクと呼ばれた男の奥の席に座っている、頭からローブを着た恐らく女の子であろう人物が言う。いかにも魔法使いといった風貌だ。
「えっと…イグナス様? それでこの男性は?」
修道服を着た栗色ロングの女の子が勇者に質問する。この子も一目見ると僧侶だとわかる見た目をしている。
「以前助けた商人から譲り受けた奴隷だ、荷物持ちや雑用をやらせようとおもう」
「奴隷…ですか?」
「ああ、そうだ。皆も好きに使ってくれて構わないぞ」
あー、何となく予想はしてたけど。これ、仲間としてじゃないな。少し期待してたけど、こんなもんか。
「え…えっと、僧侶のエレノアです。よろしくお願いします、奴隷さん。」
「あ、はい。よろしくお願いします」
丁寧な挨拶をしてくれるわりに目を合わせてくれない。人と距離を置くタイプの人のようだ。ただ俺と目を合わせたくないだけかもしれないけどな。
「へえ、面白そうじゃん。おい、奴隷。このアルク様の言うことは絶対だからな? 逆らったりすんなよ~?」
「は、はい。わかりました」
あ、こいつ。あのデブと同じ人種だ。奴隷を人とも思わないパターンだな。
「彼の言うことは気にしなくていいよ。何にしろ今日から仲間だね。僕の名前はソフィ。一応賢者を名乗っているよ」
ソフィと名乗った女の子がローブのフードを脱ぐと、藍白の髪と紫色の瞳が露出する。
「よろしくね」
彼女は椅子から少し身を乗り出しに握手を求めてくる。
「よろしくお願いします、ソフィ様」
俺は慌てて握手に答えると頭を下げる。
「はは、そんなに畏まらないでいいよ、仲間なんだからね。あと、僕のことはソフィでいいよ」
天使か何かかこの人は。さすが賢者様。すげーぜ。
「えっと……。君の名前はなんていうのかな?」
賢者様が小首をかしげながら聞いてくる。
名前、俺は物心ついた頃から奴隷だったから名前がない。いや、もしかしたらあったのかもしれないけど知らない。
「あー……えっと。名前は無いです…ずっと奴隷だったので」
「そ、そっか。ごめんね」
賢者様が悲しそうに目を伏せてしまう。
気にしてない。気にしてないから。
「大丈夫です、気にしてません。」
「奴隷の呼び方なんて何でもいいじゃねーか。おいとかお前とかでいいんだよ」
こういう人もいるからね。気にしてない、うん、気にしてない。
「自己紹介はもういいだろう? 先日この町の自警団から魔物討伐の依頼があった。念の為に作戦会議をしておきたい」
「どうせ、このあたりの魔物なんてゴブリンとかオークだろ?楽勝だって」
「アルクさん、油断しちゃ駄目ですよ。」
「そうだよ、一瞬の油断でパーティが全滅することだってあるんだ」
四人で作戦会議を始める。戦力になれないであろう俺は黙って成り行きに身を任せることにする。
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数時間ほどして、話がまとまったようだ。
「ふぅ…、結局いつもと変わらないね。」
「ああ、俺が前線で敵を押さえ、アルクが中衛で援護射撃、ソフィが後衛から敵の数を減らし、エレノアが傷付いた者の回復だ」
「まかせとけって、俺が全員撃ち抜いてやるさ」
「わかりました、回復はお任せください」
「彼はどうするんだい?」
「奴隷、お前は俺達のアイテムを持って後衛で待機だ。もし後衛に敵が接近した時はお前が盾になれ」
「ソフィ様とエレノア様の盾にでしょうか?」
「そうだ、二人が戦闘不能になると戦力に大幅に削られるが、例えお前が死んだところで何も問題にはならん」
「は、はい。わかりました」
お、おう。この勇者は涼しい顔をしてとんでも無いことを言ってくれるな。
盾になるって痛いんだろうか、できれば死にたく無いんだけど。
「イグナス、君は仲間になんてことを言うんだ!」
ソフィが勇者に怒りの声を上げる。賢者様優しい、本当に女神なんじゃないだろうか。
「ソ、ソフィ。仲間といってもこいつは奴隷だ。奴隷とは使い捨てる物だろう?」
「奴隷かどうかなんて関係ないじゃないか! 彼は今日から僕達の仲間じゃないのかい?」
「う、ぐ……」
勇者がたじたじになっている。どうやら賢者様には弱いようだ。
「まあまあ、もういいじゃねえか。今日はもう疲れたし寝ようぜ?」
「そ、そうだな。では、今日は解散だ。皆、疲れを残さないようにな」
勇者が席を立ち、逃げるように去っていく。
「それじゃ、俺様も寝ますかね。二人ともおやすみ~」
アルクが手をひらひらと振りながら席を離れる。
「私も宿に戻りますね。ソフィさん、おやすみなさい」
ソフィにお辞儀をしエレノアもまた席を離れる。二人とも俺は無視ですか。
「まったく……。君、さっきイグナスが言った事は気にしなくていいからね」
「えっと、盾になれって言われたことでしょうか?」
「うん。君は非戦闘員だからね、自分が生き残ることを一番に考えるべきさ。イグナスやアルクだって居るし僕やエレノアだって自分の身が守れないわけじゃないからね」
ふふん、と胸を張り笑顔を向けてくるソフィ。愛らしい、愛らしいぞこの賢者様。頭をくしゃくしゃに撫で回したい。
「ありがとうございます。俺もできるだけ自分ができる事を頑張ります」
そう言うとソフィは満足そうにうんうんと頷いた。
「さてと、じゃあ僕達も部屋に戻ろうか。よく眠って明日に備えないとねって……君、イグナスに部屋は取ってもらっているかい?」
宿? そんな話はまったく聞いてないな……。恐らく取ってない、いや、確実に取ってない。
「…何も聞いてないみたいだね。どうしよう…今からじゃ部屋も空いてないだろうし」
宿が無いんじゃしょうがない。今日は野宿かな、久しぶりの野宿だけど一日位大丈夫だろうし。
「あの、俺は野宿で大丈夫ですよ。結構慣れてますし」
「駄目だ、野宿だと疲れが取れないし。最悪病気になるかもしれない。何より町の中だといっても夜は危ないからね」
却下されてしまった。だけど、他に手は無い気がするんだが。
「よ、よし!ぼぼ、僕の部屋に行こう!恥ずかしいけど緊急事態だ、仕方が無い。」
顔を真っ赤にしながら提案してくるソフィ。さすがにそれは駄目だろう、賢者様少し涙目になってますよ?
「さ、さすがにそれは悪いですよ!俺は本当に大丈夫ですから」
「駄目だ、もも、もう決めた!さ、さぁ行くよ!」
片手を強引に引っ張られる、なにこれ賢者パワーすごい。その小さな体のどこにこんな力が詰まってるんだ。
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「さ、さぁここだ。遠慮しないで入るといい!」
半ば無理矢理部屋に押し込まれる。賢者様完全に混乱してるじゃないか。
「ソフィ様、やっぱり俺は外で寝ますよ。無理をしてるでしょう?」
「少し、まってくれ。き、気分を落ち着けるから。すー、はー。すー、ゴホ」
深呼吸で咽てる。本当に可愛いなこの人。
「よ、よし!もう大丈夫だ。…それよりも君」
ジトっとした目で睨み付けられる。賢者様可愛い、怒ってる顔も大変プリチー。
「は、はい。何でしょう?」
「それさ、それ。その話し方。僕達はもう仲間なんだしもっと砕けてもいいんじゃないかな? さっきだって僕のことをソフィ様だなんて、僕のことはソフィでいいと言ったじゃないか」
「え、えっと。すみませ…」
「…………」
無言の圧力を掛けられる。勇者がたじたじになってしまうのもわかるかもしれない。
「すまない…」
「ふふ。まだ、たどたどしいけど、よしとしようか」
口に手を当てクスクスと笑うソフィ。どうやら完全に持ち直したようだ、さっきの混乱具合は見る影もない。
「さて、そろそろ寝ようか。あまり夜更かしはよくないからね」
「そうです……そうだな。じゃあ、俺は床で寝るから羽織る物を一枚貸してくれないか?」
「だ、め、だ! 床なんかで寝たら体を痛めてしまうかもしれないだろう? 一人用のベッドだけど僕は体が小さいからね、二人でも大丈夫だろう」
…ん? この賢者様はいったい何を言ってるんだ、さすがに同じベッドで寝るのは駄目だろう。
「いや、さすが男女が同じベッド寝るのは…」
「何か問題があるのかい? もしかして君は親切で一緒に寝ようって言ってる女の子に何かしちゃうような男性なのかい?」
「あ、いや。そんな事は」
「それじゃあ、問題ないじゃないか。ほら、寝るよ」
ソフィがベッドを半分空けるように横になる。賢者様、さっきの部屋に上げるだけで顔を真っ赤にしていた混乱具合はどうしたんだ。
「し、失礼します」
ソフィに背を向けるようにベッドに入る。思った以上にまずいぞこれは。
「そ、それじゃ。おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
おやすみと言ったものの眠れる気がしない。気がしないというより眠れるわけがない。
「……ソフィ?」
「ふぇあ!?」
…ふぇあ?ふぇあってなんだ?
「な、なんだい?」
「いや、もう寝たのかなぁと、それよりもふぇあって?」
「き、君が急に話しかけてきたからびっくりして…。ぼ、僕だって恥ずかしいんだ!男の人と、こんな」
あああああ、隣でもぞもぞしてる賢者様可愛い。ぎゅっとしたい。
「く、ははは」
「むぅ…、笑うなんて。君はいじわるだ」
「くふ、すまな、はは」
「もう! おやすみ!」
しまった、少し怒らせてしまっただろうか? けど笑ったおかげで少し落ち着いた気がする。今なら眠れるかもしれない。
うん。無理だな。




