1 少女?
あれから、勇者と一言も話す事無く町に着いた。
あんなの話しかけられるわけがない。
「おい」
「は、はい!?」
「俺は少し用事を済ませてくる。お前は中央にある広場で待っていろ」
「わ、わかりました」
勇者は愛想無く言うと宿の方向へ歩いて行く。
びっくりした。急に話しかけられてめちゃくちゃびっくりした。勇者ってもう少しさわやかで優しそうな人だと勝手に思っていたけど、妙に刺々しいと言うか、とても話しかけにくい。
とりあえず広場に向かおう
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「ふぅ……」
道に迷いながらも広場に辿り着いて、噴水近くにあるベンチに腰掛ける。
少し疲れた。町に来るのは初めてという事もあってか肉体よりも精神的に疲れた。
しかし、町っていうのは活気があって賑やかだな。つい、キョロキョロと見渡してしまう。
見渡していると周囲の人目が自分をチラチラと見ていることに気がつく。
「……」
そりゃあそうだ。目出しのずだ袋を被った男が、キョロキョロと周囲を見渡したりしていたら怪しいにもほどがある。
すぐにでもこの場所を離れたい気持ちになるが、勇者を待たなければいけない。なるべく目立たないように顔を伏せておとなしくしていよう。
「お兄さん」
できるだけ気配を消そう。目立たないよう目立たないよう。
「お兄さんってば!」
「ッ!?」
自分が呼ばれている事に気がつき、顔を上げると目の前に長く青い髪、薄青い瞳の少女が立っていた。
「な、何かな?」
「別に用事があった訳じゃないの。私、今暇だから、ちょっとお話相手になってくれないかなーって」
少女が満面の笑みで自分の隣に腰掛ける。こんなに怪しい俺に話しかけるなんて、度胸あるなこの子。だけど、話しかけられて少し嬉しい。
「えっと、何をお話すればいいのかな?」
「うーん…あ! お兄さんってこんなところで何してるの?」
「俺かい? 俺は今、人を待ってるんだよ」
「そうなの? 私もお母さんのお買い物が終わるの待ってるの!」
「君はお買い物は好きじゃないのかい?」
「うん。私はあんまり興味ないんだぁ。」
少女は退屈そうに足をぷらぷらさせている。なんとも可愛らしい。
「お兄さんは、お買い物好き?」
買い物か…。そもそも買い物というものをしたことが無い。基本的に屋敷から出してもらえなかったしな。
「俺は、わかんないなぁ」
「好きでも、嫌いでもないってこと?」
「そうかもね」
「そっかー」
「君は、よくここに買い物しに来るのかい?」
「ううん。ここに来たのは今日が初めてだよ」
ん? 買い物と言うからってきりこの町に住んでいるのかと思ったけど違うのか。
「遠くからきたの?」
「うん、とーっても遠くからね」
旅行かなにかで来たのかな。いい所のお嬢さんっぽいし。
「それよりも、お兄さん」
「ん? なんだい?」
「お兄さんはどうして袋なんて被ってるの?」
「あー……」
真っ直ぐで吸い込まれそうな瞳で、言いにくい疑問をぶつけられる。
「えっと…俺は顔に大きな火傷の痕があってね。皆が驚かない用に袋で隠してるんだ」
「そっかぁ。でもお兄さん、その袋も皆驚いちゃうよ」
この子の言うとおり町の人には不審がられているんだろう。この子と話している今でもチラチラと見られているようだ。
「お兄さんは誰にも見せたくないの?」
「どうだろうねぇ……」
俺が見せたくないか、と言われるとそういうわけでもない。
それどころか、何故かこの子には見せてもいい気さえしてくる。
それくらい真っ直ぐでどこか不安になる瞳で見つめられる。
「私は、お兄さんの素顔見たいなぁ。ねぇ、お兄さん」
そう言って俺の目の前に回り、少女が頭のずだ袋に手をかける。
「ねぇ、いいよね?」
どういう事か、まるで抵抗しようという気が起きない。
「あ、あぁ」
ゆっくりと丁寧にずだ袋が脱がされる。他人に顔を見せるのが久しぶりなせいか鼓動が高鳴る。
「私の思ったと通り。お兄さんの目、袋越しに見るよりもとても綺麗な瞳をしてる」
「そう、かな?」
少女の言葉が頭に直接響く。
うまく言葉が出てこない、少女の赤い瞳が自分の全てを見透かしているような気がして思考が働かない。
あれ…?、この少女の瞳は青で……でも今俺を見ている瞳は真っ赤で。
「髪も真っ黒でとっても綺麗」
少女が俺の頭をなでる。人に撫でられたのが初めてだからか頭が混乱する。
「お兄さん、お顔真っ赤だよ?」
目の前の少女が少しからかうように笑う。
その言葉で一気に意識がはっきりする。
やばい、もの凄く恥ずかしい。
「あはは、もう袋被るね?」
顔を見られて驚かれなかったのは嬉しいけど。恥ずかしすぎる。
「お兄さん、照れ屋さんだね」
子供にいいようにされてしまった。自分がいかに人慣れしてないかが思い知らされた感じがするな。
「別に隠さなくてもとっても綺麗な髪と瞳なのに。魔力だって」
「…魔力?」
「あ! な、何でもないよ!?」
「そ、そう」
少女があたふたしている姿がかわいい。魔力とか言ってたような気がするが、もちろん奴隷だった俺が魔法なんて使えるわけもなく。
まあ、おそらく聞き間違いかいい間違いだろう。
「顔の火傷痕も気にすること無いと思うけどなぁ。とっても可愛かったよ?」
「あ、ありがとう。そんな事言われたの初めてだよ」
少女の言葉で顔が熱くなるのを感じる。ずだ袋を被り直しておいてよかった。
それにしてもこの少女はませてると言うか。どこか大人びてる子だな。
言動一つ一つにドキっとさせられてしまう。話題を変えなければ。
「君のお母さん遅いね」
「お母さん?」
「あれ? お買い物中のお母さんを待ってるんじゃなかったの?」
「………あッ! そ、そうだね! お兄さんとのお話が楽しくて忘れてたよ~」
忘れられてるお母さんかわいそう。
「お、お兄さんが待ってる人はまだ来ないの」
そういえば遅いな。少し用事があるとか言ってたけど。
「んーまだ来ないみたいだね。もしかしたら忘れられてるかも?」
少し笑いながら冗談を言ってみる。
自分で言っておいて何だけど、本当に忘れられていたらどうしよう。
「お兄さんが待ってる人って、どんな人なの?」
「勇者様だよ、用事を済ませるとか言ってたかな」
「勇者……?」
少女の顔が少し強張ったように見える。
どうしたんだろうか。
「どうしたの?」
「え? な、何でもないよ。勇者の仲間だなんてお兄さんすごいね!」
「あはは。俺はただの荷物持ちだよ。パーティに入るのも今日からだしね」
「そうなんだ……」
少女が俯き何かを呟いている。これは、なかなか撫で回したい可愛さがあるな。
本当に撫でたりしたらドン引きされるだろうが。
ただでさえ怪しい風貌をしているんだ。最悪捕まる可能性もある。
考えるだけで恐ろしい。
「お兄さんは、自分が望んで勇者のパーティに入るの?」
何かを考えていたと思ったら、今度は真剣な顔をしてこちらを見る。
表情豊かな子だなぁ。
自分で望んでパーティに加わるか…と言われると違う気がするな。
買われたのか、譲られただけだし。
「別に、自分で望んでって訳じゃあ無いかな?」
「そっか!」
少女の笑顔が眩しい。何故か嬉しそうな少女にこちらも頬が緩む。
今凄く気持ち悪い顔してそうだな俺。
「それじゃあお兄さん、よかったら私と…」
「ここにいたのか。少し探したぞ、奴隷」
背後から声をかけられる。
「あ、勇者様、用事は済みましたか?」
「あぁ。では、仲間が待機している酒場に向かうぞ」
俺の質問にぶっきらぼうに答え。酒場の方に歩いていく勇者。
やっぱり何だか刺々しい。
あ、さっきの少女にお別れを言わないとな。
「俺はお迎えが着たからもう……あれ?」
振り向くと少女の姿は無かった。勇者と話してる間にお母さんの所に行ったのかな?
そういえば、名前も聞いてなかったな…。
「まったく…、なんとも無粋な勇者じゃ。それにしても、あの者……めごい、めごすぎるのう!」
「すぐにでも我の物にしたいが…。まあ、よい。あの者も自分の意思で勇者のパーティに入ったわけじゃ無さそうじゃったし。またチャンスも来るじゃろ…もう少し様子を見るか」
「名前…聞いておいたらよかったかの……」




