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聖女と闇と転生の勇者  作者: 海のくらげ


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第五話 前哨戦

#第五話 前哨戦


私はナビとして我が身が示す闇の方角を皆に指し示し、来たるべき決戦に向けて身支度を整えた。

きっと皆様にもそれぞれ辛い過去があると思うのだ。でも今は闇が発生し、それを斃すために皆様が集まった。それだけの事だ。


ダルク様はやはりタクミ様の事を心配していらっしゃり、『構えを見せろ』と自らも剣を構えられた。

タクミ様が同じように構えられると、全てを悟られたようだった。

「やはりな。稀人、ここでは女神が闇を斃す時に時々よこす人の事をそう呼ぶ。聖女の癒しの力を何倍も受け止められる資質だ。だが、それだけで闇を斃せる程甘くはない。剣技もままならないお前にはナイフの方がいいだろう。斃す必要はない。払うだけで充分だ」

言って兵からナイフを受け取る。

タクミ様の腰のベルトにナイフのケースを付けてからもう一度向き直った。足を肩幅ほどに開き、膝を軽く曲げる。

「こうだ」

ダルク様の格好をタクミ様も真似される。

右手で左腰のナイフの柄を握りそのまま身体の前を横に薙ぐ。身体から少し離した位置で留める。

「相手を制圧しようとする時、武器を狙う。無効化したいからな。多分鋭利なものを見た時に闇もこれが武器だと理解するだろう。だから攻撃が身体に集中しないよう身体から離す」

「相手が怯まず攻撃して来たら?」

「相手の目を攻撃しろ。目、耳、鼻、五感を断つように攻撃する」

簡単なレクチャーだったけれど、タクミ様の構えも様になってきた。


そんな事をしているうちに災いの先触れが来た。最初に訪れたのは村人への災いだった。指先に闇の染みが出来た事を討伐隊の誰かに伝えた。

闇の気配は例え酔った見間違いでも報告すべし、ずっと昔から伝わって来た戒め。しかし実際には被害が出始めている事を表す報告だった。

聖女様が村人を治して回る。核伐隊が聖女様を護衛する。ものものしい雰囲気だが、聖女様の力は偉大だ。恐ろしさも恐怖も無縁だ。

そして聖導院に自分達が討伐にむかっている間の村の守りを依頼する手紙を出した。それは、万が一自分が負けた場合には闇の討伐を頼む、という決死の依頼だ。


ダルク様から闇の奇襲についての疑問が提示された。今までこのような事がなかったわけではないが通常であればこちら側から仕掛ける。

しかし今回はこちらの戦闘態勢が整う前に奇襲をされたのだ。

ダルク様から何かおかしいと言われた。私はベッドに寝そべり全ての感覚を捨て去ると闇の気配だけに集中した。

今までになかった事態。なんとこの闇は分裂していた。成長途中で分裂し別の個体となっていた。だから気配もほとんど同じで気付かなかった。

「ダルク様、闇が分裂していました。封印された個体から分かれ別の個体として活動しているようです」

ダルク様は一瞬眉を動かされたが、それ以上は何も口にされなかった。予測不能な出来事が発生した時に一番問題なのはパニックになる事だ。次に何もしない事。

ダルク様は努めて冷静さを装い、そして何が最善かを考えられてすぐに結論を出された。

急遽部隊はダルク様の指示の元、分離個体の討伐に向かった。闇が協力するかは不明だが、共通の敵を倒すよう向かって来る事はあり得る。

それならば合流する前に弱い方を叩く。そうして戦力を分散させる事なく集中すれば勝機がある。

目的のリッジ山の隣、フォールス山に向かう。フォールス山は滑落、土砂崩れが多く人があまり寄り付かない。それが闇が広がる理由かも知れない。

それであれば人型ではなく獣を模倣した形がメインとなるかも知れない。

守備隊三十人がベースキャンプを確立する。一番近い闇の末端までの距離を測る。闇は特別な器官を持っているわけではない。こちらに気付く事なくじっとしている。

私は指揮官ではないから、現状をそのままダルク様に報告した。判断を下すのは討伐隊の隊長であるダルク様だからだ。

ここなら開けた場所なので大砲で一網打尽に出来る。闇も無限の命を持っているわけではない。最悪の場合は味方をも道連れにする事になる。


私は集中し闇の違いを探す。まるで双子の違いを探すようなものだ。だが、闇は進化する。その進化は片方が封印されていた数十年の間に全く異なるものとなっていた。

「分かりました。闇の違いを全て理解しました!」

遠くで封印された核の本体。その周りに散らばるように数体の末端がいる。核の本体と情報のやりとりが出来ないので積極的な活動をしていないのかもしれない。

一方で近くにいる核と末端は全ての場所が明らかになった。活発に活動しているものの、こちらの気配に気付く様子もない。

「近くにいる末端は二十体です。まず南側に十メートル先に三体、その先東に二十メートルほどの距離に一体」

私の言葉に核伐隊の皆さんが展開する。何故これほど統率された動きが出来るのか。

「南側、三匹の末端地中から出現!」

モグラとイノシシを合わせたような獣が飛び出た。

剣が空を切る。実体を細切れにされた闇がバラバラと落ちる。そこに聖女様の光が包み闇を蒸発させる。

見える。闇の末端がどこにいて、どう飛び掛かろうとしているか理解出来る。複数の獲物を捕食し能力を複製したとしても、飛び掛かる向きや飛び掛かる瞬間は分かる。

私は的確に指示を出し、核伐隊は的確に切り刻む。聖女様の力によって闇が蒸発する。

闇は人間を脅威と思っていない。人間に会った事がないのかも知れない。戦力を集中させず小出しにして来る。

順にやって来る末端の場所を示し核伐隊がまるで剣の鍛錬でもするように薙ぐ。

とても人間技と思えない連携で一歩づつ進み、核にまで到着した。ようやく核は自らの判断が誤っていた事を理解し、全ての戦力を核を守るために費やす。襲い掛かる闇の末端を勇者様がどんどんきり刻んでいく。

勇者様はダルク様に教えて戴いた構えをきちんと実践している。やはり勇者様はお強いのだ。

闇の末端の勢いは衰えない。全て勇者様を狙って来る。まるで斃すべき相手は勇者様しかいないかのように。

しかし、勇者様の力も全く衰えない。聖女様がそばにいるおかげで疲れも傷もない。

ダルク様に教えられた構えを練習するかのように何度も何度も繰り返している。

一時間程経つと闇の力が衰え始めた。少しずつ闇の末端の大きさが小さくなっている。新しい末端を作る時に使えるエネルギーが減って来ているようだ。


闇の末端の力は明らかに衰え、最後には手の平ほどの大きさの闇の末端が襲い掛かった。

聖女様が祈りを捧げる。一瞬で光が当たりを包み、核がボロボロと崩れ、塵となって蒸発した。


かつて闇は人間を襲う魔物だった。だが、聖女様、勇者様、そして討伐隊のおかげで制御出来る猛獣と同じレベルにまで到達した。

例え不測の事態が起きたとして、それを乗り越えて行くのが人間だ。

準備体操、リハーサルと呼ぶにはとても物足りない戦いだったが、フォールス山での闇の討伐は国に報告され、各自報奨金が得られるはずだ。


討伐隊は村に戻る事なくそのままリッジ山に向けて侵攻し始めた。リッジ山はフォールス山と比べても劣らないほど険しい。

獣道があればそれに沿って歩くのだが、ここには獣道さえない。木々が生え下草も充分にあるのに獣道がないという事は獣がいない事を意味する。

闇が全ての獣を捕食したのか、それとも闇から逃げるように獣がいなくなったのか。

気付けば鬱蒼と茂る下草が意思をもったように足に絡まって歩きづらい。

「おい、ナビ。この草、闇じゃないか?」

ダルク様が草の動きに気付いてそう尋ねられた。

「かすかに闇を感じますが植物です。もしかすると植物を模倣するだけじゃなくてコントロールが出来るのかも知れません」

気付けば辺りは薄く闇が広がっていた。

「闇の末端は分かりますが、薄く闇が広がっているせいで分かりづらくなっています」


異変に気付いたのはフォールス山の峠を越え、くだり坂になった時だった。闇の末端からは相変わらず離れているのを確認し、ダルク様に報告をした。

等間隔に展開している守備隊三十人は特別な笛で定期的に様子を伝え合っている。人間の耳には聞こえないその音は、空気の振動を感じる事で情報を伝え合う。

その音が途絶えた。ダルク様は笛を吹き迎え撃つように指示を出す。通常であればその指示には『御意』、が返って来るはずだが何故か無音が続いた。

ダルク様は緊急事態を告げた。『皆で固まって防御』の指示を出す。


守備隊の気配が全て消えたのは三十分もしないうちだった。悲鳴も断末魔もなく、そっとどこかで息絶えているようだ。

あんなに大勢いた守備隊の誰一人として返事がない。そして闇の気配ももちろんなかった。


「どうやら弄ばれてるようだな」

ダルク様は自嘲気味に言った。素人ではない兵士達をたやすく倒してしまう闇の知能の高さを見誤っていたみたいだ。

「闇の末端はまだ遠くにあります」

相変わらず遠くにある闇の気配を再度確認して報告する。

「そうだ。一番最初からずっと遠くにいなかったか?」

その言葉に鳥肌が立った。何故そんな簡単な事に気付かなかったのだろう。油断していた。

「そう言えば最初から位置が変わっていません!」

「なるほど、それはデコイだな。こちらの意識を向けさせる目的でわざと見つけやすいようにしている」


闇は私が思ったよりも高度な作戦を実施しているようだった。わかりやすく見つかる?

「わざと見つかっていた、という事ですか?」

「そうだ。闇はこちらが居場所を察知出来る事を知っている。だからデコイに意識を集中させ、植物に少しずつ闇を紛れ込ませ分かりづらくして襲い掛かっているようだ」

「植物にほんの僅か混ざるだけの弱い状態で人間を倒せるものなのでしょうか?」

「人間には太い血管がある。例えば首。そこを傷付ければ簡単に殺せる」


ダルク様は皆に聞こえるように声をあげた。

「全員聖女から離れるな。敵は極小の末端となって攻撃して来る!」


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