第六話 進化の果てに
#第六話 進化の果てに
闇には核があり、核の大きさは能力を示す。核が大きければ能力が高く、小さければ能力が小さい。
闇はネットワークのようなもので個体同士がつながっている。末端が捕食する事でエネルギーが中央の核に送られ核が大きくなる。
大きくなれば処理する量も増え、末端の指示も子細になり獲物の捕食もたやすくなる。
更には制御可能な末端の数も増え、より捕食がしやすくなる。
末端が捕食する事で得た情報も中央の核に即座に共有され、捕食した獲物を模倣する事で生物の進化を模倣する。
昆虫を捕食すれば外骨格を得て核を守り、草食動物を捕食すれば逃げる事に特化した能力を持つ。
植物、昆虫、草食動物、肉食動物、ありとあらゆるものを捕食し、進化を繰り返す。
そして、人間を捕食すると、人間の姿形を模倣する。それは人間同士では攻撃しないという習性を利用するものだ。
例えば見た目、人間にとっての服は闇にとっての敵味方を区別するための形となり、服も模倣する。
手にもった剣は腕の延長と理解しているのか、両手で剣を持つ。
例えば仲間の連携の時の声、これすら模倣し自分を仲間と勘違いさせようとする。
リッジ山は闇で覆われていた。封印が解けてない状態で尚闇の末端が溢れ次から次へと勇者が末端を無効化し、見えぬところで核伐隊が核を砕いた。
中央の核は封印されているものの、封印を免れた、もしくは滅されなかった末端はほそぼそと中央の核を守って来たらしい。
聖女は粉々になった核を滅していく。闇と聖女の戦いは力と力のぶつかりあいではいけない。戦略をもって挑み、戦術をもって局面を支配し、核伐隊の力で場を制圧し、勇者の力で聖女を守り、聖女の力で闇を滅する。
さもなければダルクの初めての闘いでの屈辱が繰り返される。聖女は命を削っている。その事をしっかりと理解すべきだ。
末端の核は再生不可能と思えるほどに砕き聖女の力を最小限に抑える。ダルクは皆にそう伝えた。
「聖女、核を滅するのに毎回全力を出すと疲れる。次は手の平からだけ力を出す事を意識してくれ」
「分かりました」
ダルクの指示を尤もだと理解したのか聖女も頷く。
本体の核が封印された状態では高度な作戦は不可能なのか戦いは一方的に進み、一方で闇も進化を続けた。
いつの間にか草食動物から肉食動物へと変わる。尖った角は武器になると理解し角を持った状態で模倣している。
突進を躱し、横から剣で突く。断末魔の叫びを上げて横たわる。
「まて、不用意に近付くな。これは死の擬態だ」
ダルクが言い終わる前に核伐隊の一人が剣で角を切り落とす。
バキンと金属的な音がして角が折れる。それと同時に死んだはずの獣を模した闇が起き上がり飛び掛かる。
再び無数の剣で貫かれ、ダルクの剣が首を落とし核伐隊の一人がハンマーで核を叩き壊す。
聖女がハンマーでぐしゃぐしゃになった頭部に手を翳す。闇の染みが手を捕食しようとするが、聖女の力には近付く事すら叶わない。一瞬ためらったのち核に直接手を触れる。隙間から光が漏れ、そして闇が蒸発した。
「飲み込みが早いな。これなら力を温存しておけるだろう」
「ええ、ありがとうございます」
恐れていた事態。倒された守備隊が敵となって現れた。ゆらゆらと揺れながら手にもった剣で突いて来る。
ガキンと鉄と鉄がぶつかる音。闇は鉄をも模倣出来るのだろうか。一瞬不安がよぎる。
核伐隊は冷静に後ろから首を刎ねる。模倣された兵士の身体は力なく崩れ断面から無数の粘液が伸びて、斬り落とされた首と繋がろうとしている。
ハンマーが叩き下ろされ頭も核もぐしゃぐしゃに潰れ聖女が手を翳し光を放つと闇が蒸発する。
「ナビ、本体はどこだ?」
「あと二キロほどの距離です」
もっとはっきりと守備隊の動きを模倣するものが現れ、勇者の剣技では倒す事が叶わなくなった。
勇者の役目は別にある。勇者は聖女と共に守られる立場になった。
いつしか断末魔をあげる闇の末端が増えた。これも模倣にすぎない。味方の最後を見せられると油断が出来る。
何度も闇を斃すうち、命乞いをするものが現れる。これも模倣。躊躇なく斃す必要がある。そうでなければ倒される。
草に広がった闇が急に一箇所に集まり人の形を成す。ナビは的確に場所を指示したが、それも三体同時では指示に遅れが発生する。
核伐隊の一人が後ろから肩を貫かれた。振り向きざまに闇の首を刎ねる。首が地面に落ちるさまを見ていると足に激痛が走った。
首のない闇が地面に倒れ込む前に核伐隊の太ももを刺し貫いていた。三体の闇を聖女が斃したのち、ダルクは核伐隊の手当てをする。
「ジル、大丈夫か。肩を貸してやるから来い。聖女の癒しの力でそのうち動けるようになるだろう」
「いいえ、今戦力が二人減るよりは一人減るだけの方がマシです。暫くここで待機してから追いかけます」
「分かった、ここで待ってろ。すぐに闇を斃して戻って来る」
隊長であるダルクの判断ミス。核が近いから戦闘はそこに集中するだろうという期待。討伐隊の通ったあとは闇にとっては危険な場所なので暫く近付かないと判断した事。
あと五百メートルほどの距離。闇が守りを固めているのが見てとれる。ここからが本当の闘いだ。
すっと地面から闇が生えて来た。と思うとついさっき分かれた核伐隊のジルの姿形をしている。
「お前」
記憶まで模倣されているらしく剣技の癖にジルの面影が重なる。
「ジル」
「ジル」
「ジル」
「ジル」
核伐隊一人一人が呼び掛けながら剣で刺し貫いた。核伐隊は家族のために闘う。一度家族を失った者同士、核伐隊を新しい家族とする。家族のために生きる。
ダルクが核伐隊に作った掟。
皆の目に涙が浮かぶ。
そして、ジルを斃すとひときわ大きい核の元にたどり着く。核を守るように山に展開する末端が全て集まる。
だが攻撃して来ない。何かを待っているように思える。それは音もなく始まった。
核の外部、石化して白い部分にヒビが入る。
「来る!」
ダルクが短く言う。
封印が解かれる。石化したところからどろりとした液体が垂れる。水たまりのように地面に広がる。
末端の一人がそれをすくって悲しそうに捧げる。
「ああ、封印された期間が長すぎて核を保てなくなったか。悲しんでやがるな」
ダルクがそう言ったがそれは事実ではなかった。
末端はすくった核の液体を飲み干すような仕草をし末端の中に入り込んでいく。何度かそれを繰り返すと地面がすっかり乾いたように見える。
代わりに末端は核伐隊の格好をした男に変わる。再びジルが目の前に現れた。
「うう、ああ」
ジルは呻くような声を出す。呻くと言うよりも発声の練習か調整をしているようにすら見える。そして、恐れていた想像が現実となる。
「人間諸君。初めまして。核という硬い物質をやめ柔らかな性質を得た事で身軽になった」
闇の進化が更に進み人間の脳を模倣している。
「ようやく君たちが我々を殺す理由が分かった」
ジルは数少ない討伐隊を見回し、一人一人に言い聞かせるようにそう言う。
「お前は何者だ?」
ダルクが言う。ジルは顎に手を置き首をかしげ何か思案をしているような仕草をする。それがジルの考える時の癖だという事にすぐ気が付いた。
「何者?名前はないが記憶を辿ればジルと言うらしいな。以後お見知りおきを。まだ脳というものに馴染んでないので、戦いはまた今度にしよう」
ジルは背中から羽根を生やした。それは今まで捕食した鳥の模倣。鳥になられると活動範囲が桁違いに広がる。斃すべきは地上を徘徊する今だ。
ジルの身体から汗のように闇が剥がれ落ちていく。身体が大きすぎて空に浮くのに重すぎるようだ。
体重を調整して半分ほどの大きさになった時、羽ばたきが身体をゆっくりと浮かび上がらせた。
勇者タクミが無言で飛び掛かる。聖女ユーリが両手を組み祈る。核伐隊が四方八方から飛び掛かる。ダルクは仁王立ちしてジルを睨みつける。
「ぎゃあああっ」
人間の痛覚も模倣し、痛みに叫び声を上げながら身体から煙を出し燃え上がる。身体が見る間に朽ち溶けた蝋のようにドロドロになり、最後は聖女ユーリが両手から放った光で蒸発した。
辺りから闇の気配が欠片もなくなった。中央の核も集まった末端も、相変わらず草原に広がった末端も残らず斃された。
ゆっくりと聖女様は立ち上がられる。
「タクミ様、ダルク様、皆様、ありがとうございます。被害はありましたが、闇を斃す事が出来ました」
女神様の代わりに一人一人に礼を言うように目を見て仰られる。そして、勇者タクミ様の手を握る。
「貴方はこの世界の住人ではないのに、ここまでよく頑張られました。貴方のおかげで救われました。感謝してもしきれません」
「俺は何もしていない」
そうおっしゃられると勇者タクミ様はなすべき事を成したと判断されたのか、細かい粒子となり光と共に消えた。
ダルク様は村へ戻ってから国への報告書を書かれるそうだ。闇の生態、進化の程度、それらはこれからの闘いが非常に厳しいものになる事が予想される。勇者タクミ様の事をどう書かれるのかも気になる。
聖女ユーリ様は現れた女神様から感謝の言葉を賜り、女神様の使徒としての役務を果たしたとして、再び人間に戻られた。
私はナビとしての研鑽を積むために旅に出る事にした。まだ多くの人々が闇に苦しめられている。
そして闇は色々な罠と進化をもって人間に襲い掛かって来る。それらを少しでも広め対処出来るようにする事が自分の責務のような気がするのだ。
そして、稀人、タクミ様は王から勇者タクミとしてこの村に像を贈られた。剣技を持たぬ勇者のために右手には短いナイフが握られていた。
完
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#六話 あとがき
ミルブルック村遠征及び討伐報告書
概要
リッジ山並びにフォールス山にて闇の発生について討伐隊を組みミルブルック村に遠征を敢行し闇を討伐完了。
本来指摘されたリッジ山の闇から分離独立したと思われるフォールス山にも闇が出現。こちらも討伐済。
討伐隊
守備隊: 30名。全員死亡
核伐隊: 5名。1名死亡。
死亡隊員名:ジル
勇者: 名: タクミ。生存。
稀人:既に帰還。
聖女: 名: ユーリ。生存。
女神からの指示を完遂、還俗。
討伐隊長: 名: ダルク。生存
ナビ: 生還
闇に関する知見
・ナビの存在を認知し、デコイを置きこちらの意識を逸せる作戦が見られた
・草を模倣、もしくは草を操作する事によって守備隊全滅、ナビでの気配察知が役に立たないため脅威
・聖女のそばで固まるしかないが、今後検討の余地あり
・封印された本体核の外側にいた末端の核が分裂し別の個体として成長していた
・ナビが観察する事によって違いが分かるが、一緒に行動している可能性もあり注意が必要
・封印された状態で核は液体となっていた、その後に脳を模倣し会話が可能な状態に
・捕食した人間の記憶や感情も能力として取得可能
・体の一部を翼に変え、空を飛ぶ事が可能なよう
・ただし、今回は体重を減らすために身体を削りつつある状態で討伐
討伐詳細
・目的地のリッジ山ではなく、隣のフォール山から闇の気配を察知、戦力差を鑑み先にフォール山へと向かう
・途中で分化したためかフォール山の闇は人間との戦闘に不慣れで問題なく討伐、リッジ山へ移動
・デコイによるジャミングを利用した、草の操作にて守備隊全滅
・硬い核を捨て、脳を模倣したジル(核伐隊を捕食)の出現、会話が可能な状態となる
・脳に慣れておらず、戦いは次回へ持ち越しと宣言、翼を生やして逃げるところを勇者タクミ、聖女ユーリによって討伐
所感
・今回闇を斃せたのは身体形状に手間取っていたためで、決して稀人タクミのおかげではない。
・稀人タクミには剣術がなく、本人もその自覚あり、我が国も稀人、勇者というだけで討伐に向かわせるのではなくきちんと剣士としての育成が必要。
・聖女の力についても全身から浄化の光を発するのではなく、手の先だけに集中する事により体力の消耗を抑える訓練が必要。
以上
ダルク




