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夜会で高らかと「あなたと婚約解消します」と叫んでみた、私が。  作者: 琴乃葉


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13/16

レオポルドと議会


 レオポルドは、急遽開かれた議会で額から汗をだらだらと流していた。


 先程、国王陛下からリアナをレオポルドの婚約者に選んだ理由の説明があった。それを受け、今は大司教がレオポルドに男爵令嬢セレスティアとの関係を質疑している最中だ。


「では、レオポルド王太子殿下は、王命による婚約者がいるにも関わらず、セレスティア・コラティアと不貞を重ねていた、と言うことで間違いございませんか」

「……そうだ」


 レオポルドが重い口を開き、肯定する。


 この国の高官の中には愛人を持っているものだっているし、不貞なんて皆しているだろうと思っていたのだが、周りの目は意外なほど冷たかった。


「だ、だって。愛人がいる貴族なんて珍しくないだろう。どうして俺だけ責められなくてはいけないんだ」

「教会としては愛人を認めてはいないのですが、まあ、殿下が仰るような方もいらっしゃるでしょう」

「そうだろう! だったら別に構わないはずだ」


 大司教はゆっくりと頭を横に振った。眉間に浮かんだ皺が、まだ分からんのかと無言の圧を発する。


「婚約者、妻を尊重し大切にするのは人としての道理。婚姻の儀まで双方ともに清い身でいるよう戒めているのは、相手に対する礼節と、神への誓いが崇高なものだからです。レオポルド王太子殿下、あなたはセレスティア男爵令嬢を愛していると公言し、身も心も捧げた状態で、神の前でリアナ伯爵令嬢と愛を誓うつもりだったのですか?」


 ここにきてやっと、レオポルドは大司教がどうしてそこまで怒っているのか思い至った。

 神の前で偽の誓いをすることは、大司教にとって神への冒涜に他ならない。


 この国の愛の誓いの文言が「妻を生涯愛することを誓う」というもので、「唯一の愛を捧げる」ではないことまで理解したかは不明だが、自分のやらかしには気づいたようだ。  


 興奮で赤らんでいた顔が、すぅと血の気を失っていく。


「そ、それは」

「セレスティア男爵令嬢と身も心も結ばれ、彼女こそ運命の愛の相手だと公言されていたそうですね。その口で、神の前で何を誓うおつもりですか?」


 ひたりひたりと、額から汗が流れる。これはもう謝ってすむ問題ではない。それに、そもそもセレスティアと別れる気は毛頭なかった。


「そ、それなら。俺は真実の愛を貫くことをここで宣言します。セレスティア・コラティアを妻として、ふたりで協力して国を治める。それで問題ないだろう!」


 最後は決意の固さを現わすかのように拳を握って、宣言した。

 レオポルドは息を整えながら、議会の面々を見渡す。これで文句はないだろうと、丸まっていた背中が伸び、鼻の穴がふんと広がる。


 思ったより長い沈黙を破ったのは、国王だった。


「では、レオポルドとセレスティアの婚約を認め、早々に手続きに入る」


国王が苦渋の表情で議会を終わらせようとしたとき、すっと手が挙がった。そして指名される前に、宰相が立ちあがる。


「ひとつご提案がございます。半年後、レオポルド王太子殿下とセレスティア・コラティア男爵令嬢が、王太子夫妻として相応しいか、審議の場を設けていただきたく存じます」

「レオポルドが王太子として相応しいか、話し合おうというのか?」


「レオポルド王太子殿下だけではなく、セレスティア・コラティア男爵令嬢も含めてです。そもそも国王陛下がリアナ・クリムウェル伯爵令嬢を婚約者に選ばれたのは、レオポルド王太子殿下が不慣れな分野を彼女に補わせようとしたからですよね」


 その「不慣れな分野」が「全分野」なのを、レオポルド以外の人間は重々承知している。国王も、不承不承ながら頷いた。


「では、ふたりはひとつと考えるのがよろしいかと。お互いが足りない部分を補い、次期王太子夫妻に相応しいのであれば、議会としてもレオポルド王太子殿下とセレスティア男爵令嬢の婚約を認めます。それまでは、セレスティア男爵令嬢は婚約者候補という扱いにしてはどうでしょうか」


 宰相といえど、臣下から「認めます」と上から目線で言われたレオポルドは、カッと顔を赤くさせると、宰相を指さした。


「王族である俺に対し、なんという言い草だ。不敬罪で罰する……」

「レオポルド、やめろ。ここは話し合いの場だ。議会の決定がこの国に置いて最も優先されると知らないわけではあるまいな?」


 ギロリと睨まれ、レオポルドが口を閉じる。「そうだったかな」「だって」と口の中でもごもごと言う息子を、国王陛下が黙れと目で圧する。

 国王は視線をレオポルドから宰相に移した。宰相が発現を続ける。


「もし、レオポルド王太子殿下とセレスティア男爵令嬢を王太子夫妻とするのに不安がある場合には、レオポルド王太子殿下には王太子の座を退いていただきたく存じます」

「なっ」 


「そうして第二王子であるハースタント殿下が十五歳になられたとき、改めてどちらを王太子に決定するか議会を開いていただきたい」


 第二王子は二十歳のレオポルドより十歳も年下。今年、貴族学園に通い始めたばかりの子供だ。

 そんな奴に負けることなどあり得ないと、レオポルドは宰相の提案を鼻で笑った。


「いいだろう。では今日より、セレスティアを俺の婚約者候補とする。国王陛下、よろしいですね」

「異論はない。半年後の議会までに、セレスティアも含め、王太子夫妻として相応しことを証明しなさい」

「承知いたしました」


 国王陛下が議長に目配せをすると、議長は手にしていた木槌をコンコンと二度鳴らした。

 議会終了の合図を聞くと、レオポルドはさっそうと議会をあとにする。

 その背後に向けられる数多の視線の意味を知ることもなく、廊下には彼の足音が高らかと響いたのだった。


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