5話
「呉郎も書きなさい」
呉郎が戸惑いながらも従う。
「山越さん」
「もう、元の生活には戻れないよ」
「自分から権利を手放すなんて」
「そんなもの最初から無いんだよ。後から見れば、良い時代だったなってだけさ」
「、、、」
「家族の面倒も見てくれるようだし、先に説明を受けた人達の反応も悪くなかったじゃないか」
他の人達もサインし始めた。
「皆さんを外に出すのは難しいですが、面会は条件を満たせば可能です」
(鞘と一緒にいられないなんて)
「僕はサイン出来ません」
ため息が会議室に響いた。
隔離棟の個室に移され、ベッドに横たわって無機質な壁を眺める。
「奈郎くん」
外から片桐さんの声がした。開く扉を見て背を向ける。
「騙すような事をして悪かった」
「、、、」
「彼女に電話してあげて」
向きを変えて起き上がると、自分の物ではないスマホを渡される。
「別れを告げろと?」
「まだそうと決まったわけじゃないよ。外の世界を捨てて、君について来るかは彼女次第だけど」
「一生を塀の中で過ごしたい人なんてどこにいるんですか? 、、鞘に、それを強要しろと?」
「任務に参加して成果を上げれば、待遇も良くなる。まぁ、アメリカにある軍人と家族のための町に住むことになるだろうけど」
(鞘はアメリカについて来るだろうか?)
「なんて言えばいいんですか」
「僕が鍵を取りに行くって伝えて。これからの事は僕から彼女に話してみるから」
画面に表示された通話を押す。
「、、、」
「もしもし」
鞘の声。
「もしもし鞘? 奈郎だけど」
「奈郎? 大丈夫? 今どこにいるの?」
片桐さんが首を横に振る。
「あぁ、安全なところだから大丈夫。個室でご飯も食べたし、心配ないよ」
「そう、良かった。いつ帰って来るの?」
「しばらく帰れそうにないから、部屋の鍵を知り合いの片桐って人に渡してほしい。後で片桐さんから連絡あるから」
「分かった」
「じゃあ、、」
通話を切る。
「なろ、」
途切れた鞘の声を聞いて、涙が溢れた。
「一晩、考えて。明日はサインしてほしい」
そう言うと片桐さんは出て行った。
暗い部屋で天井を見つめる。
(鞘とは、たった一時だけ交差してできた点なのかな)
誓約書にサインし、元の部屋に戻された。
「近くん、心配したよ。もう会えないかと」
「お騒がせしました」
「いや、無理もないさ。まだ人生が半分残ってるんだから」
「俺はもっと残ってるけど」
「お前は世界に合わせて生きるしかないんだよ」
親子の掛け合いを見て、もう一人の部屋人が笑う。
「飲み込みの検査が終わったら麻雀しよう。全自動卓を用意してくれたらしい」
「はぁ、俺、あの検査苦手なんだよね」
「子供にはつらいよね。最近は前より大きい物を飲み込まされないですか?」
「そうだよな。喉に詰まらせないギリギリを攻めてる感じが嫌だったけど、全てこれのためだったわけだ」
「どこまで用意周到なんだか」
「先人の犠牲があって、俺たちにチャンスが巡ってきたんだ。感謝しよう」
「そうですね」
部屋ごとに医務室に呼ばれ、アーモンド程の大きさのカプセルを各自三つ飲み込まされる。呉郎は薄くするために口に含んで少しなろう化させ、なんとか飲み込んだ。会議室に行くと、他の部屋の人達も集まり、雀荘のようになっている。
「よう、兄ちゃん。結局サインしたのか」
空いた席に座ると、左に座る昨日会議室を出て行こうとした男に話しかけられた。呉郎が右に座り、山越さんが後ろで教える。
「他に選択肢もないようなので」
「まったく、たまげた話だよ。異世界の探索者になれなんて」
「検査結果次第ですがね」
親が決まり、順番に牌を取っていく。
「つまらん世界とおさらば出来るんだ。楽しくなりそうじゃないか」
(原因も分からず消滅した人のことは考えないのか?)
「ポン」
「こらっ」
呉郎が鳴いた。




