4話
朝の構内を歩いていると、奈郎の男友達が一人こちらに向かってくる。
「遠藤さん」
「おはよう」
「最近、奈郎に会った?」
「朝早くに検査に行っ、、あ」
「あ、いや、まぁ、、、とにかくこれ見て」
渡されたスマホの画面にはSNSで何かを訴えるなろう体質の人。
「政府に連れ去られそうになったって話が沢山あるんだ。特に欧米でね」
「奈郎も連れ去られたってこと?」
「連絡しても通じないから心配で」
「二、三日かかるって言って出て行ったけど」
「うーん、自分からついて行ったなら事情があるのかな?」
(あの件の後で、そんな簡単に自分からついて行くだろうか?)
少し無言で歩く。
「ともかく、遠藤さんみたいな人が奈郎の傍に居てくれて良かった」
「?」
「つるんでた連中が男女の仲になると話し難くて、最近は誘うことも減っちゃってさ。悩みを相談されてないのに励ますってのもおかしいし、、」
「気にせず誘ってあげてよ。奈郎は自分の事はちゃんと考えてるから、、」
急に涙がこぼれる。
「え、遠藤さん?」
「ごめん、あたしこっちだから」
涙を拭って、足早に別れる。
(孤独を理解したつもりになってた。二十年後、誰が奈郎の傍に居るのだろう)
正午に始まったヨーグルトストン大学の会見で、世界は大騒ぎになった。昨日までなろう症を気にも懸けなかった人々がもてはやしている。夕方、部屋のテレビをつけると、シラネ屋が終了時間ぎりぎりまでこの話題を扱っていた。
「野村さんね、その、別世界に行けるってことですけど」
「えー、これはなろう症の皆さんには是非ね、社会に貢献する機会だと思って、頑張ってもらいたいですね」
「チープさんね、アメリカでも大きな抗議運動なんかもありましたけど」
「’諍い’から’Isekai’に転生できるんじゃないですか?」
(差別の被害者をジョークのネタにするなんて)
どのコメンテーターからも隠し切れない差別意識がチラつく。
夕方になり、数部屋まとめて会議室に呼ばれた。先に説明を受けた部屋の人達は興奮気味に戻って行った。研究者風の男が疲れ気味に話し始める。
「えーこの度我々はなろう症患者の研究により、皆さんを別の世界に送る方法を発明しました。約百年前にアインシュタインが立てた仮説を証明し、それを実用化することに成功したのです」
「何人殺したんだ?」
正面に座っている男が問う。
「えー、実験の参加者にはリスクとそれに見合った報酬を事前に説明し、承諾を得た上で行っております」
「死んだら報酬もクソもないだろ」
「その場合は、家族にお渡しするという方法もありますし、主に三十歳後半の志願者を募って進めて参りました」
正面の男が舌打ちをした。
「本日の正午に会見が行われ、皆さんの体が異世界に繋がっていることが公表されました」
紙とペンが全員に配られる。
「これから説明する内容は機密扱いのため、目の前の書面にサインをお願いします」
目の前の紙には’誓約書’と大きく書かれ、真ん中に一文のみ書かれている。
「、、私は、日本政府の保護と管理に従い、任務上のすべての機密を秘匿することを誓約します?」
(任務って何だ?)
「おいおい、だれがこんなもんにサインするかよ。保護と管理だぁ? 何様だよ」
「サインしていただけない場合、隔離棟に移っていただくことになります」
「今の時代にそんなこと許されるわけねぇだろ! もういい、俺は帰る」
正面の男が立ち上がり、出て行こうとする。
「基地の外に出ることはおすすめ出来ません。今回の公表により、皆さんは狙われる立場になったのですから」
男が立ち止まる。
「中国とロシアはなろう症の研究により、多くの患者を消耗してきました。現状、国内の患者を搔き集めて人口交配させても、アメリカより十五年は出遅れます。他国から拉致してでも数を確保すると、我々は見ています」
男は黙って席に戻った。
「あの、任務っていうのは何ですか?」
「まずサインをお願いします」
研究者がこちらを見て言った。




