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なろう俳優  作者: Moa
3/6

3話


 「鞘?」

「ん?」

「こんな形で言うことになっちゃったけど、好きです。結婚を前提に付き合って下さい」

「ふふっ、私も奈郎が好き。でも結婚までは、まだ考えられないかな」

「、、、やっぱり遺伝するのは嫌だよね?」

「そうじゃなくて、まだ大学生だし、就職したら離れ離れになる可能性だってあるから」

「なろう俳優の仕事は東京がほとんどだから、鞘の就職先次第?」

「、、、夫婦ってさ、同じ場所を歩んで行く二人のことなんだと思う。二本の線が重なったように見えても、横から見たら高さも角度も違うとか、一瞬交わっただけとか」

(もっと時間が必要か)

「平均寿命まで二十年しかない奈郎が焦る気持ちもわかるけど、私も働かないと、もしもの時に困るから」

「そう、、だよね。ごめん、分かってたつもりなんだけど」

「ううん、正直に話せて良かった」

「俳優仲間に山越さんっていう見た目が怖い人がいるんだけど、子供が二人いて、長男がなろう体質でさ」

「うん」

「四十歳まであと五年しかないから、色んなバイト掛け持ちして、お金貯めてるみたい」

「それは、つらいね」

「死が見えてるから、出来ることもあると思うんだ。うちの親も、一人で、困ら、ない、ように、、ズピッ」

目から涙が溢れる。抱き寄せられた鞘の胸を鼻水で濡らした。


 「あ~あ~~か~わのながれの~よ~~に~~」

着信音で目を覚ました。鞘は横で寝ている。

(片桐さんからは珍しいな)

「もしもし」

「奈郎君、今、家にいるよね?」

静かにベッドから出て、トイレへ向かう。

「はい、もしかして、検査行くの忘れてました?」

「いや今、部屋の前に来てるんだけど、直接話せる?」

「えっ? あっ、服着るのでちょっと待ってください」

電話を切って服を着る。時間は朝の四時前。カーテンの隙間から見える空は白み始めている。

「ガチャッ」

ドアを開けるとラフな格好の片桐さんと、後ろに知らない男。ドアの陰にももう一人男がいて、こちらに背を向けている。

「ごめんね、朝早くに」

「は、い」

様子がおかしい片桐さんに戸惑う。

「今から、ある所に一緒に来てほしいんだけど、急いで準備してもらえるかな?」

数日前のニュースが頭をよぎる。

「片桐さんもそっち側の人だったんですね。子供の頃から、」

「落ち着いて、落ち着いて。ちょっと耳貸してくれる?」

恐る恐る顔を近づける。

「例の研究について公表されたら、君たちが狙われる可能性があるから、政府は数か所に集めて保護するつもり」

「集めて人体実験するんでしょ?」

「失踪したのは志願者だけで、強制的に参加させてるわけじゃないよ。情報漏洩を恐れて基地に閉じ込めたから大騒ぎになっただけ」

「信用できないです」

「だから僕が来たんだよ。担当の検査官がこうして一人一人説得して回ってるわけ。二、三日でいいから従ってほしい。中露の動きを掴むまで」

「はぁ、わかりました。でも彼女になんて説明すれば?」

「起こして、二、三日検査に行くって伝えて。後で連絡できるようにするから」


 寝ぼけて戸惑う鞘に部屋の鍵をまかせ、身分証とスマホだけを持って外に出ると、見慣れない黒い車が三台止まっていた。セダン二台に挟まれたバンに乗り込むと、なろう体質の人が一人乗っている。

(検査のときに見たことあるな。説得して回ってるのは噓じゃなさそうだ)

「スマホは預かるよ。あと二人拾う予定だから」

「どこで保護されるんですか?」

「横須賀」

「米軍基地じゃないですか」

「日本政府に要人保護の用意があるわけないでしょ。情報も筒抜けだし」

「そんなに危険な状況なんですか?」

「西側同盟国は同時に動いてるとまでしか言えない。本当は彼女さんも保護するべきなんだけど、とりあえず今は君だけでもね」


 一人ごねて時間がかかったが、通勤ラッシュの前に横須賀に着いた。基地に入ると宿舎の前で降ろされ、入り口で持ち物検査、医務室で軽い問診を受ける。米兵の案内で入った部屋には二段ベッドが二つ。

「山越さん! 呉郎も」

「おう、やっと来たか」

「ちわーす」

「あまりにも急で、何が何やら」

「うちもだよ。家内と娘も別の宿舎にいるよ」

「家族もなんですね。人体実験なんじゃないかってずっと疑ってましたけど」

「夕方に説明あるようだから、のんびり待とうや」

「テレビもねぇ、ラジオもねぇ、窓には格子がはまってる。オラこんな宿いやだぁ~」

呉郎が不満げに歌うと、隣の部屋から笑い声が上がった。

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