第27話 夜の鏡の国の冒険。アレクシアズ・イン・ミラーワールド
エロゲー《乙女達は男装乙女に恋をします》のアリス魔法学園には裏ステージが存在するんだ。
通常ルートをクリアして幾つかのクエスト条件をクリアすると行ける小さな異世界。不思議鏡国に。その小さな異世界は特殊なギミックモンスター『アリス』が居て。
それを倒すことで魔法学園のとある呪いが解かれるだけど。
「まさか入学式が終わった数日で……こんな序盤で来るような場所ではなかったんですがね」
「わぁ~! 綺麗な場所なの~!」
「おとぎ話に出てくるような場所ですね。アレクシア様」
アレクシア達は『妖精祭典』の中から出た後、周囲の様子を見渡しているね。
アレクシアが今着ている服はセイフライド家の屋敷の宝物庫にあったお母様が幼少の頃に着ていた服さ。
この服には『魔除け加護』が付与されている装備型の『迷いの幼女』って魔道具でね。
お母様が幼少の時に不思議鏡国でとある女の子に貰ったんだって。
何でそんな話を知ってるのかって? 1ヶ月前にララちゃん達が試作で作ったジンのお酒を酔い潰れるまでお父様に呑ませてあげたら。ゲロと一緒にお母様の惚気話をゲロったからさ。
どのみちアリス魔法学園に来る事になりそうなら。魔法学園への対策としてお借りしたんだけど……用意しといて良かったね。
アレクシアがすっぽんポンのままなんて色々と不味いしさ。
それとレイラちゃんには僕の神器『冥土順序使女』を貸してあげたよ。
『冥土順序使女』は装備している人の身をある程度守ってくれる神器だから。
元々はアリス魔法学園にあった神器でね。そのせいもあってか。セイフライド領地内にあった時よりも強力になっている筈さ。
もしもレイラちゃんが迷子になっても『冥土順序使女』に護ってもらえるんだ。
「お二人とも。あまり僕から離れないで下さい。ここはとても危険な場所なんですから」
「了解なの。シン君。ギューッ!」
ミシミシミシミシバキッ!……あれ? これもしかしてアレクシアにギューッ!されて僕の肋骨折れてない?……まさかね。
「ですが。シン様。たしかここには1度来たことがありますよね?」
流石がレイラちゃん。鋭いね。最初にここに来た時は馬車の中にずっと居て外の様子なんて把握できる筈ないのにさ。
お得意の魔力感知で世界が入れ替わってた事に気づいてたのかな?
「たしかにここには1度来たことがあるかもしれませんが。あの時とは反転しているんです。朝の鏡の国は安全で楽しい場所ですが……夜の鏡の国は悪意そのものなんですよ」
「「悪意?」」
そう。小さな異世界不思議鏡国は昼に迷い込めば楽しい場所。夜に迷い込めば………死を覚悟しないといけない場所に変貌するんだ。
【そうさ。ここは夜に来るべきでない場所。昼の不思議の国じゃあない……不思議鏡国。狂った場所に変わるのさ。迷子達。土魔法〖泥蛇〗】
「危ないっ! 闇魔法〖闇刃〗」
パキンッ!
「キャアッ!」「怖いですっ!」
【フヘヘ……小さい子供が怖がってる。愉快愉快】
……セイフライド領地では僕のマブダチのモンスター達と一緒に居てモンスター慣れはしているね。
でも。いざ悪意むき出しのモンスターにいきなり攻撃されたら驚いて怖がるのも無理もないじゃないか。
「鏡の国の蛇馬魚鬼ですか。いきなりこんな中ボスが出てくるなんて。難易度高過ぎませんかね?」
【ん~? 何だお前。何で俺様の名前を知ってるんだ? 俺様は有名なのか? 凄いのか? ん~? おい?……お前。どこかで見たことがある顔だなと思ったら。俺様の愚弟か?】
その見た目はグロテスク。昆虫とドラゴンが合体した様な姿で。顔が………なんだかお兄様に似ていないかい?
【ギヒヒ。まぁ良い。実家からの仕送りもなく途方にくれている所を生徒会長に拾ってもらったんだよ。そのうえこんな素晴らしい身体にして頂いてな】
あー、間違いないや。あれ。家のお兄様だ。
そういえば数ヶ月前に王都で盗みを働いて魔法学園の監視独居房に投獄されて隔離されてたとかホロウが言っていたね。
餌をあげにいったら姿形も無く居なくて。行方不明って事で皆探しもしなかったとか。
そんなお兄様が化物の姿で僕の前にいるなんて本当に悲しいね。
【クソ愚弟。俺から全てを奪った愚弟。ちょうど良いここなら誰にもお前を消してもバレないよな?】
「僕を消す? お兄様それはどういう事ですか?」
【黙れ愚弟。俺様はお前が昔から嫌いだったんだよ。一年前まで俺と似た様な振る舞いをしてたくせにいきなり心を入れ替え様だと? あの父親も俺様よりもお前を可愛がる様になりやがってっ! ふざけんな。ふざけんじゃねえよっ!……お前を消したらお前の女共は貰うぞ。愚弟】
「……何ですって?」
【ギヒヒ!! 久し振りに女を抱きたいと思ってたからな。ちょうど良い。愚弟。お前の前でそいつ等を頂いてやる事にするか】
「い、嫌。怖いのよ……」「シン様。この方……眼がギョロギョロして…ま……す……」
ドサッ!
「アレクシア。レイラちゃんっ!……この臭い。さっきの魔法。睡眠効果があったんですか?」
【……何だお前? 耐性持ちかよ。つくづくムカつく愚弟だ。だから嫌いなんだ。俺様よりも才能は無いくせに。その才能を埋める対策をして俺様の邪魔をするお前が昔から心底嫌いだったんだよ】
◇
《数ヶ月 王都近郊》
「はぁ? 何だこの手紙は?! セイフライド家次期、家督は父上の弟に譲るだと? カリオス?……あのババアの一派筆頭に継がせるだと? 俺でも。愚弟でも無く。自分の弟に継がせるだと? 父上えぇ?! オマケに愚弟には独立させる権限まで与えた? ふ、ふざけているのか? あの父親はぁ?!……愚弟が改心してから良い事ばかり起こる様になったなど書きやがって……クソ親がぁ!!」
リゲイン王国の西方に位置するセイフライド領地は今全盛期を迎えつつあり。
積極的に移民を受け入れ人口は日に日に増えているが。ジン教とか言う新興宗教に改宗し、せっせと穀物を作り。
何故かその穀物を使い酒造まで行い他国へと販売し莫大な利益を得ている。そして、移民など受け入れれば普通は犯罪も起こり易くなる筈が全くそんな問題は起きていない。
セイフライド領地は年中一定の温暖な気候で綺麗な水源もある。そりゃあ穀物を作れば年中実るだろうよ。
そのうえ領地内のモンスターや盗賊はめっきりと減り領地全体の治安はリゲイン王国でもっとも良いとされている。
それを聞き付けたスカーレット家が俺様に急に接近してきて。ホロウとの婚姻まで進め。後はあの親父が引退するのを静かに待ち当主になるのを待っていたら。親父からこんな手紙が来るとは誰が思う?
「何だ? 手紙の続きか?……もう一枚あるぞ……」
〖シンにはこのまま自由にやらせるつもりだ。アイツはセイフライド家に後ろ楯にされたくない様だからな。アレクシア様もシンに懐かれている為、シンにはこのままアレクシア様と共に今後も居てもらう事にした。あの2人は若き日の私とクリスティナとの関係に非常に似ている。お前も婚約者であるホロウ嬢と親密な関係になれると良いな。サギール〗
「〖火球〗」
ボッ!……パチッパチッ!!
「なれなかったから。婚約破棄もされててんだろう。金を寄越せと言っても寄越さない為、最上級のサービスが受けられる男子寮からは追い出された。俺は公爵家の長男だぞ? セイフライド家の後継者が公に発表された途端にどいつもこいつも掌を返してきやがってっ!……そのうえ仕送りまで止められたらどう生きろというんだ親父っ!! 馬鹿にしやがってっ! 馬鹿にしやがってっ! これも全てあの愚弟にせいじゃねえか。アイツと再会してから全てが狂い始めたんだ」
(そうね。あの子は少々厄介な子よね? サギール)
「誰の声だ?! ここはリゲイン王国の貴族しか知らない王都と魔法学園を繋ぐ闇市だ。こんな若い女の声が聴こえてくる筈……ごがぁ?! 何だ? 口に何かはぎぃってぇ?! おぉぉえぇ!!」
「ヨルンが失敗して駒が不足していたの。あー、でも貴方はヨルンみたいに見た目が美しくないから駄目ね。そう。醜いには駄目。罪よ。罪は償わないといけない。だから貴方も醜い姿で償いなさない。化物」
【うぇぇぇ?! あぁぁぁああ!!! 何だ? 心も身体も解放されていく? 何だこの高揚感は? 最高だっ! 最高じゃねえかっ! ギヒヒッ!!】
◇
【そして、俺様は生まれ変わったんだよ。生徒会長様のお陰で……あの醜い姿からこんな美しい姿になぁ! 土魔法〖泥四角〗】
「それを生まれ変わったんじゃなくて退化してるんですよ。お兄様。闇魔法〖闇玉〗」
【黙れ黙れ黙れ黙れーっ! お前さえ……お前さえまともにならければ。全ては俺の物になっていたんだ。】
お兄様荒れてるなぁ。まさかの中ボス《ジャバウォック》に変身して再登場とはね。
……しかし。前よりもスマートにはなったけどさらにグロテスクになっちゃったね。それじゃあお父様悲しんじゃうよ。ブーちゃん。
「攻撃がお粗末ですよ。お兄様。アリス魔法学園で見たお兄様の試験の魔法映像ではもっと洗礼されていて……」
【ウルセエェェ!!】
おっとお兄様のお腹から出てる無数の触手があっちこっちにうねうねと這い回り始めたよ。
「……転移魔法〖複数転移〗。奏者〖レッド君〗」
少し離れた場所で眠っていたアレクシア達を僕の背中に転移魔法で移動させて……
『キュラララッ!!』
使い魔のレッド君を召喚して2人をその背中に乗せてあげたんだ。
【……何だその力は? いつ身に付けやがった?! 愚弟の分際で。俺様に無い力をどこで手に入れた?】
「あれ? お兄様。書庫の本を読み漁ってないんですか? 攻略知識がないと時間はかかりますけど。最終的に真のセイフライド家の人間なら身に付けるべき技術みたいですよ。この二つの力は」
【書庫だと? 愚弟。お前は何を言ってやがる?】
何をそんなに驚いているんだろうね? お兄様はさぁ。
別に奏者の力も転移魔法を得る方法もセイフライド家の書庫をくまなく探していれば自力で手に入る様にご先祖様がセッティングしてくれているのにさ。
もしかして小さい時。書庫にも閉じ籠ってなかったのかい? 勿体無いね。全くもう。
あの書庫にはセイフライド家の人間がこの世界で生き抜いて行く為の力の付け方の方法が隠されているっていうのにさ。しかもちゃんと僕みたいに生前のゲーム知識が無くても大丈夫な様になってるのにね。
【何だ? 真のセイフライド家の人間だと? お前はいったい何を言ってやがる?】
「あ~、色々と質問したいのはよく分かりますけど。お兄様。貴方、アレクシアとレイラちゃんに攻撃しようとしてましたよね?」
【は? 今はそんな事よりも。愚弟。お前が今使っているその力を得る方法を俺様に教え……】
「〖深淵遊戯〗……少しおいたが過ぎましたね。サギール」
僕は闇魔法で黒い箱の様な物体をサギールの回りに出現させた。〖深淵遊戯〗はあらゆる身体の無駄な部位を殺ぎ落とす精神干渉系と物理攻撃を併用した闇魔法。
【何だ? この棺の用な黒い物体は? 愚弟っ!! 貴様っ! 俺様に何をする気……】
ガコンッ……
「………うるさい。貴方は僕の最推しの娘に手を出していた時点で詰んでたんですよ。どんな姿であってもね。お兄様……僕達がここを出るまで深淵の闇に弄ばれて。姿を元に戻していって下さいよ。そんな姿じゃあ。お父様も悲しみますからね」
【オェェエ!! 愚弟っ!! ここから出せ……止めろ……俺様の身体をゲズルナァ!!!】
ガキンッ…ギイィ!!
「……出しませんよ。この小さい異世界を破壊するまではね。行こうかレッド君。鍵の絵がある場所までね」
『キュラララ!!』
僕はそう告げると。レッド君の背中に乗って。鍵の絵がある家へと向かう事にしたんだ。
あぁ、それにしても。主人公やレイラ《ヒロイン》ちゃんが危ない目に合うかもと思うと出てくるね。
僕の悪い部分がさ。敵と見なした相手に一切容赦しない悪役令息の部分がさ……




