第15話 悪役令息のお父様と怠惰肥満な御兄様の邂逅
《セイフライド家 本邸》
私の名前はハイド・セイフライド。セイフライド家の現当主で私の息子シンの父親だ。
現在、当主室でセイフライド領地に関する定時報告書を読んでいる。
セイフライド領地内の盗賊は日に日に減り。モンスターは北の魔王支配地域とアルビオン帝国国境へと住みかを変えつつあるか。
そのお陰で領地全体の治安が良くなり。アルビオン帝国とラクス皇国からの移民が流れ込んで来ているが。セイフライド領地でとある教祖が興したジン教なる新興宗教団体がこれを保護という体で介入させ入信者を急増させている。
「ジン教……シン?……いやいや。あり得ん。あの子はまだ6歳の男の子だぞ。確かに約半年前までは誰の言う事も聞かない悪童だったが。最近は改心してアレクシア様とも仲良くやっている」
妻との約束でアリス魔法学園に入学させるまでの間はお目付け役となる特定の執事やメイドは付けず。自由奔放にさせている。昔のサギールと同じ様に。
それが我が家《セイフライド家》の代々の教育だそうだ。男の子が産まれればセイフライド領地の過酷と自然豊かな場所で育てゆくゆくは父親の元で領地管理を学ばせていく。
女の子が産まれれば王都で貴族の淑女としての知識や作法を学ばせ。将来良い嫁ぎ先に嫁げる様に教育していく。
とはいったものの私の教育の仕方が悪かったのか。サギールは自身を磨こうともせずにセイフライド家の名をかさにして使用人や領民達を下に見る様になり。
半年前のシンも誰の言うことも聞かず。傍若無人に振る舞う悪童に育ててしまった。
それも公爵としての仕事が忙しくなかなかあの2人に構ってやる事が出来なかったせいだろう。
サギールとシンには申し訳ない事をしてしまったとふと後悔する事がある。
コンコン……ゴトッ!!
「急を告げる時のノック音?……オーフェンか。入れ」
「はっ! 失礼致します。ハイド様」
いつも冷静沈着なオーフェンが息を切らせながら入って来るとは。余程の事があったのだろう?
「そんなに慌てて何かあったのか?」
「は、はい。検問を守備していた兵達からの急報が来ました……」
「まさか盗賊でも出たのか? 最近は領地が平和過ぎてセイフライドの兵達も暇を持て余している。たまに肩慣らしに一団を向かわせて」
「いえ。それが隣の領地『スカーレット領』より許可無く一台の馬車がスカーレット領地へと通行許可証も提示せずに入領したそうです」
「何だと? どこの不届き者だ?」
「サギール様と……その婚約者であるスカーレット家の関係者かと」
「何? スカーレット家だと? どんな方だ?」
「いえ。それがハイド様とお会いするまでは名乗らないの一点張りでして」
スカーレット家はリゲイン王国の軍部に強い影響力を持つ名門貴族。
その関係者がサギールと共に我が領地にやって来ただど?
まさかこの約半年間で起きているセイフライド領地の良い変化に気づいたのか?
「スカーレット家の関係者とやらはどこに待たせている? オーフェン」
「はい。セイフライド家本邸前に止めている馬車で待機して頂いて下ります」
「王から守る様に仰せつかった国の重鎮達は皆。別邸に避難させてあるな?」
「滞りなく。アレクシア様とレイラも現在はシン様と共に居りますので。ご帰還後は別邸にお帰りなられるかと」
リゲイン王国の政権も一枚岩ではない。中央政権の中で最近は権謀術数を仕掛ける裏切り者が入るとも聴く。
その為にシンやアレクシア様達の家庭教師という名目で王の側近達を匿っている事が軍部にバレたのだろうか?
「大広間の客室へと通せ。それとオーフェン。何かあれば……頼む」
「はっ! 即座に対処致します」
攻めて来る様ならば。直ぐに拘束し人質にする。こちらも最愛の妻クリスティナと娘達を王都に住む貴族達に人質にさせられているのだ。そのくらいのしても構わんだろう。
アリス魔法学園であまり良い噂を聴かないサギールがセイフライド家へと帰る正確な日時を伝えて来なかったのも厄介だが。
それよりも厄介なのがスカーレット家───紅戦闘狂。その関係者とは
「ならば会おう。サギールと……スカーレット家の関係者とやらにな」
嫌な予感がする。現在のセイフライド領地は安定し。そのお陰か隣国からの移民達も積極的に受け入れ人口も増えている。
その移民達も謎の新興宗教の《ジン教》なる穀物、酒、下着を崇拝するだけで何の事件も起こさず慈善活動に積極的に動き回っていると言うしな。
やれやれ。どうやら我がセイフライド領地の発展を気に喰わない者がとうとう来てしまった様だな。
◇
《セイフライド家 本邸玄関》
「おおぉ! お父上。お久しぶりでございますっ! セイフライド家次期当主サギールが戻って参りました」
サギール・セイフライドは容姿は実に私似の息子だ。そして、シンは私の最愛の妻、クリスティナに顔立ちが似ている。
背も高く容姿はそれなりに整っているのが………だいぶ肥えたな。アリス魔法学園で自堕落な生活をしているとは聴いていたがここまで肥えるものなのか? これではまるで豚の様ではないか。
「あぁ、サギール。元気そうで何よりだ。リゲイン王都のクリスティナ達も元気にしているか?」
「お母上達ですかな? いえ。俺は学業等が忙しい為。王都では1度もお会いしていませんがね」
お会いしていない? 会いに行っていないの間違いではないだろうか。王都で情報収集にあたらせている部下達からの報告ではアリス魔法学園では公爵の立場をかさに偉そうにし。王都でも毎日の様に豪遊しているとは聞いているぞ。
「……そうか。それは残念だ。最近のクリスティナ達に付いて聞いておきたかったんだがな」
「それは申し訳御座いません。お父上。それよりも最近は私が相続するこのセイフライド領地がだいぶ豊かになっているとか……お父上の懐もだいぶ潤って入るようですし。俺への仕送りの金額を今までの倍になどできますかな?」
「何? 今でさえかなりの仕送りを毎月送っているというのに。その倍だと? 何に使う気だ? あれほどの金額の仕送りならば王都でも数年は働かなくても暮らせる筈だぞ」
「え、ええ。普通はそうなのでしょうが。セイフライド公爵家の俺には広い交遊関係があるのです。ですからそれを維持する為にも現在よりもお金がかかってしまつのですよ。グヒヒッ」
あぁ、何とも腹黒そうな表情だろうか。
初めて産まれた長男だった為か。小さい頃から甘やかして育てて来た。
裁量もあり才能もあると感じ将来は有望に育つだろとアリス魔法学園に通わせてみれば貴族社会の風習に当てられ。こうも肥えた息子に成長してしまうとは。
サギールも幼少の時はやはり都会などには行かせず。シンの様に私自ら成長を見守っていた方が良かったかもしれんな。
「……仕送りの増額は無しだ。むしろ逆に減らす」
「減らす? それはどういう事ですか? お父上」
「少しは我慢を覚えろサギール。それではいずれは弟のシンに抜かれる事になるぞ」
「シン? あの野猿や悪童とか言われてる奴に何を抜かれるのですか? アイツは弟でセイフライド家の家督を相続する権利すらないというのに」
……サギールの言っている事は正しい。貴族の代々の家督を譲られるのは基本的に嫡子である長男だ。
それ以降に産まれてくる弟ならば幼少の時に勉学に励み。騎士団か公務の試験を受けて王政の中で働く為にいずれは家を追い出され。
長女や妹に産まれれば幼少期間の間に習い事の日々を送り。良い貴族家系へと嫁いでいく。それができない場合は……商人か軍人の家系へと嫁いでいく事になる。
「それはこれからのお前の努力次第だな。サギール……あまり魔法学園や王都でセイフライド家に泥を付けるようならばな」
私はサギールにそう告げると鋭い眼光を最愛の息子に試練と思い向けた。
「ぐっ! あんな才能も無く口も態度も悪い愚弟に何が出来るというのですかっ! それよりも俺にもっとお金をかけて頂きたくわざわざ来たくもないこんな辺境のど田舎にやって来たのですよ」
焦り始めて本音が駄々漏れではないか。
「ならば努力と成果を見せてくれ。そうでなければ仕送りの件はこのまま減額の方向でいかせてもらう」
「そんな。それはあまりにも理不尽では?……ぐぉ?! オホッ!」
「ちょっと話が長過ぎるわよ。サギール《ブタ》。いい加減に私にも自己紹介させなさい」
………さっきまで静かに私達のやり取りを傍観していたスカーレット家のお客人がサギールの脇腹を蹴りあげ。サギールはとても嬉しそうな表情を浮かべ私は複雑な気持ちになった。
「おっと済まない。済まない。お父上。この恋人は俺の……」
◇
《セイフライド家 別邸》
「わ~! 面白いの~! 直ぐお家に着いちゃったのよ~!」
「凄いです。シン様~!」
「……汚されちゃったニャア……身体中2人にモフモフされてルナは毛玉になっちゃったのニャア~……」
「門……成る程。門型の転移魔法なら複数人を安定して転移させられるんですね」
シュベルト山地へと遊びに行っていた僕、アレクシア、レイラちゃん、毛玉《ルナ君だったモノ》は僕が造り出した転移用の門を潜ってセイフライド家別邸へと帰って来たんだけど……
「転移魔法。便利といえば便利ですが魔力消費がとんでも無いないですね……」
オーフェンさんに毎日殺されかけて死に戻りで魔力量は増え続けているけど魔力も無尽蔵じゃない。
連続で使い続けでもすれば。幾ら僕の膨大な魔力も底を尽きる時が来るかもしれないね。
「アレクシア様」「御待ちして下りました」
「ユラとサラ~! ただいまなの~! ギューッ!」
「はい。アレクシア……ギュッ!」「ギューッでございます……フフフ」
アレクシアの姉妹専属メイドのユラさんとサラさんが僕達を出迎えてくれた。
この2人はシュリディンス家の裏の事情まで詳しく知っている人達で。アレクシアが赤ちゃんの時から面倒を見ている乳母らしいんだ。だから僕達が門の中から出てきても顔色一つ変えなかったのはその為なんだろうね。
これだけ美人さん達なのに《乙女達は男装乙女に恋をします》のゲーム内では攻略対象外なんだ。ドスケベイベントも無いなんて残念過ぎるよね~!
ギィィ……ガコンッ!
「シン様。お戻りになられて居りましたか。お帰りなさいませ。ハァ…ハァ……」
別邸の玄関口が開いたと思ったら。慌てた様子のメイドのヨルンさんが僕の方へとやって来たよ。何だろう凄い色っぽくて僕もハァハァしちゃいそうだよ。ハァ…ハァ……。
おっといけないアレクシアが僕の背中をツンツンしている。心を落ち着かせなくちゃ。首チョンパされる前にね。
「ヨルンさん。そんなに慌ててどうなさったんですか? お土産のゲンカク茸いっぱい取って来ましたよ」
僕はヨルンさんに籠いっぱいに詰め込んだゲンカク茸を渡した。
「わぁ~! ありがとうございます。これ食べると頭がフワフワして来て幸せな気分になるんですよね」
ヨルンさんは籠いっぱいのゲンカク茸を嬉しそうに天に掲げると恍惚の笑みを浮かべて始めたよ。
うーん。やっぱりこの茸ヤバい茸だったんだ。今回も外れだね。後で回収して捨てておこうっと。
「はっ! こうしている場合ではありませんでした。シン様。至急セイフライド本邸へと帰還してほしいと旦那様がお呼びです」
「お父様がですか?……ですがもうじき日が暮れてアレクシアを送り届けてあげないといけないのですが」
「アレクシア様と……レイラもご出席してくれとの事です」
「ご出席? 何にですか?」
「サギール様のご帰還とリゲイン王国の名家スカーレット家の歓迎会を開くそうです」
おっとっ! このタイミングでやって来るのかい。僕《悪役令息》の御兄様との邂逅と……スカーレット家だってぇぇぇ?
まさか御兄様の恋人って、まさか……あのヒロインだったりするのかな?
◇
《セイフライド家 本邸》
「へ~、急な歓迎会だったというのに結構な数の御客様が入らしているんですね~」
随分前からこうなる事を分かっていたって感じかな? 御兄様を立てている派閥がやたら多いのもそのせいだらうね。
「シン君。私ドレスを着たの始めてなの。似合ってる~?」
白色の服に銀色の薔薇の刺繍が施されたドレスを着てニコニコ笑顔のアレクシアが身体をクルクルと回転させて僕に感想を聞いてきた。
「はい。妖精国で出会ったエレイン女王よりも。お綺麗ですよ。アレクシア」
「エヘヘ。ありがとうなの~!」
グヘヘ。似合ってるよ。アレクシア。ドレス姿も尊いよ。アレクシア~!
「シ、シン様。メイド見習いの私までサギール様の歓迎会に出席させて頂いて良かったのですか?」
レイラちゃんは黒色のドレスだね。とても清楚で可愛いらしいや。
「それは大丈夫でしょう。何せレイラちゃんは王都では……」
ドーンッ!
「サギール様とスカーレット家のホロウ様のご入場ですっ!」
お父様が急遽手配した楽団が演奏を開始し始めた。そして、今日の歓迎会の主役サギール御兄様……ではなく。リゲイン王国の軍事部門の一手を担う名家。スカーレット家の関係者の機嫌を損なわない為の歓迎会が始まったんだ。




