第八章 紅葉(クレハ)の旅立ち②
オープニング曲 『クレハの季節』
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「それじゃ決勝、始めるぞー!」
「どっちだと思う?」
「順当ならヴァンフォードだろ」
「でもよ、ここまでのオランジェットは凄かったぜ?」
「俺はヴァンフォードに…100」
「オランジェットだ。200行くぞ」
「マジか? 俺はヴァンフォードで。100だ」
(まったく…人を博打のコマにしてくれちゃって…)
そもそもはモルドレン支部内の練習試合だったのだが変に盛り上がり、さながら武道大会の様相となった。トーナメント制の勝ち上がり方式、決勝まで進んだのはヴァンフォードとオランジェットだった。
「はじめッ!」
「ハァッ!」
ヴァンフォードが先に仕掛けた。実戦さながら彼はメインウェポンのグランソードを振り翳す。刃渡りで2mはある大剣、並の剣士なら大振りから次のアクションまでの間がそのまま隙となり反撃を許してしまうが、そこは『舞』のヴァンフォード、流麗な剣捌きで付け入る隙を与えない。
対するオランジェットは素速さで勝負をかけるスタイル。隙を見ては懐への侵入を試みるが、『舞』の前には成す術がなく、攻め倦んでいた。
両者とも有効打が入らず、対峙する。両者の見事な剣技に観衆も固唾を飲んだ。
「オランジェット。お前、何か隠してるだろ」
「あら。バレちゃってるのね」
「俺を誰だと思ってるんだ?」
「なるほど、ね」
「見てぇ、なぁ」
「…本気でヤバい敵相手に取っておくつもりだったけど…サービスしちゃうわねッ!」
「来いよッ!」
両者前に出る。
「【音速の重金属】ッ!」
◆
「私、ソイツに勝っちゃってね」
「ソイツって…スティーズ先生のことですよね?」
「そうよ。ふふ。名前呼びできるくらいには仲良しになったんだ」
「あ…!」
しまった。私はほんとボロが出やすいな…
「その辺は後々聞くとして」
聞くんだ…
「勝っちゃダメだったのよ…」
「え? でもスティーズ先生は強い人、お好きじゃないですか」
「それは仕事の同僚とかそういう意味でね。恋愛対象としてはさっぱり振り向いてもらえなかった…強すぎちゃダメだったのよ。彼にとって、ブッ倒すための目標になっちゃうから。それに気付いて…私は治安部を辞めて救護科に。元々そんな資格も持ってたし。もちろん、彼に引き留められた。お前は強いんだからって。でもね、私が欲しかったのは力への賞賛じゃない。愛のささやき、とかそういうのが欲しかった。救護科に移ってからは、なんだか憑き物が落ちたみたいに親しくなれたわ。でも、やっぱりちょっと距離を取られているな、って。それでも全く疎遠になるよりはマシかなって、同僚として、異性の友達としてのお付き合い。そんな感じ」
やっぱり、オランジェットさんは先生のことが好き、だったんだ…
「そんな頃、入団した中にいい素材がいるぞ、って、彼、大興奮で話すのよ。アイツは美しい、姿勢から何からみんな美しいって」
美しい…って、まさか…
◆
「よぉオランジェット! 今、手、空いてるかっ?」
普段は難しい顔をして、どちらかと言えば無愛想なヴァンフォードが、満面の笑みを湛えキラッキラとした目でホケカンへやってきた。
「ヒマじゃないけど、忙しくはないわね」
あまりの変容ぶりに、オランジェットがヒマにも関わらずそう言って予防線を張るほどだった。
「ちょっと聞いてくれよ」
「何? 健康相談? イボ痔にでもなったんならホケカンじゃなくて街のお医者さんに行きなさいな」
「…何てことを言いやがる…そうじゃねぇんだ、今期の新人にスゲーのがいるんだよ!」
「スゲーって…強いの?」
「いや、強くはないんだが…」
「珍しいわね。強くもない人に興味を持つなんて。どんな子なの?」
「藤枝紅葉っていうんだがな」
「紅葉? 女の子なの?」
「ああ」
「へぇぇぇ…」
この堅物が珍しく女の子の話?とオランジェットはニヤニヤする。
「な、何だよ…」
「いや、べーつにー? で? その子が? 紅葉ちゃんがどうしたって?」
「うーん…」
ヴァンフォードは腕組みをして思案している。
「どう言えばいいんだ…」
「何?」
「美しい…」
「ハァッ?」
想定外にストレートな褒め言葉にオランジェットの声は裏返っている。
「うーん、他に言葉が見つからん。とにかく、その、美しいんだ」
「はぁ…美しい、ねぇ…可愛い子なの?」
多分そういうことが言いたいんだろうな、と言い換えの助け舟を出したつもりだったが
「分からん」
とまで言われてはもはや何とも。
「ハァッ? 分からんって…美しいんでしょ?」
「ああ。美しいんだ。こう、剣を構えた姿とか、斬り込みに行く時の目とか、間合いを取りに戻る時とか、剣を躱されてもまだ相手に向かって行こうとする表情とか、打ち込み終わって礼をする時とか、足捌きとか、剣を鞘に収」
「あー、もういい、分かった分かった!」
このまま喋らせれば何時間でも紅葉ちゃんの話を聞かされそうだ。そう思ったオランジェットは強制的にヴァンフォードの話を打ち切り
「それじゃ手が空いた時にでも見に行ってみるわ、ヴァンフォード先生のお眼鏡に適った紅葉ちゃんとやらをさー!」
ヤケクソ気味に言った。
◆
「彼に気がある者としてはさ、面白くないじゃない? 他の女の話、しかもベタ褒めでさ。それでチラッと道場へ見に行ったのよ。それでね…ああ、私はこの子に勝てないなって、思った。容姿ももちろんなんだけど、おっぱいデカいしさ、でもやっぱ目、よね。すっごい真っ直ぐな目。向上心の塊みたいな、強い意志を持った目。彼が美しいっていうのも無理ないなって。それでね、なんだか毎日来るのよ、ヤツは。ホケカンに。その子の話をしに。もうね、熱く熱く語る訳よ。それで、私もさすがに気付いてね、ああ、これって、惚れちゃってるんだなって」
そう言ってオランジェットさんは呆れ顔。でも嬉しそうに続けた。
「でも剣技一筋で生きてきたような人だからさ、気持ちを伝える頭なんかないし、それ以前に自分の気持ちに気付いてすらなかったからね。それでもさ、元片思い相手だけど、応援したくなっちゃうじゃない。この人が幸せなら、私もまぁいいかなって。そう思ってたんだけど…治安部の選抜審査があってね、彼は彼女を通したい、本人の希望通りに治安部に入れたかった気持ちは強かったんだけど、でも、入れなかった。今のままじゃ危ないって。最前線には出せないって。せめて大剣諦めてくれれば、って言ってた。でもそれが彼女の信念だっていうなら尊重しなくちゃって、変なところでモルドレンのしきたりが入ってくるのよね、あの人」
言ってることはスティーズ先生を下げるような内容だけど、オランジェットさんは目を細めて嬉しそうに語る。
でもそれを、私は俯き、黙って聞いているしかなかった。
「でもまぁ、彼なりの気遣いとかじゃないかな、危険な目に遭わせたくないっていう。過保護とも言うけどね。女にとってはそれが鬱陶しい時もあるんだけどさ。でも大変だったのよ。仕事サボっちゃ民生に顔出しててさ。見に行ってるのよ、その子を。遠くから。恋する乙女かよって。いや、ストーカーかも」
ひどい言われようだが、知らなかった…そんなの…よく廊下ですれ違うな、とは思ってたけど。
「それからしばらくして事件が起こってね。外回りしてた子が大慌てで支部舎に戻ってきて。応援要請で」
◆
エンディング曲 『私だけ(F)』
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