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第六章 色づく紅葉(クレハ)②

オープニング曲 『クレハの季節』

https://x.com/HanashioKikei/status/2013089880767598755?s=20

ツイッター(現X)にて公開中

 気合いを入れ直して、稽古開始。

 また余計なことを考えて、ぶっ飛ばされたりしないように。オランジェットさんに呆れられないようにしなくては!

「それじゃまずは打ち込みで身体あっためたら、そうだなぁ、昨日の続きで、近接戦の練習、ってことでどうだ?」

「はい! お願いします!」

 昨日は最初だけであとは完封だったのだ、今日は一本くらいは取りたい。

 打ち込みの最中、ドアの開く音。それに続いて

「失礼します!」

 元気な声。

「クレハ! 止め!」

 先生から休止の掛け声。

「おはようございます! ヴァンフォード先生! クレハ隊長!」

 リョウカちゃんだ。あ、いや、リョウカ。うーん、可愛い子を見るとちゃん付けしてしまう癖、直した方がいいな。

「リョウカか! どうした?」

「はい! 部屋で待機していても退屈なので! 身体を動かしに来ました!」

「いい心がけだ! おう、そうだ。リョウカ! クレハの練習に付き合わんか?」

「はい! 喜んで!」

「どうだ? クレハも。ここを出る前に部下の力量を見ておくのも悪くないだろう?」

「いやー、練習はもちろんいいのですが、部下とか力量とか…私はリョウカに胸を貸してもらうだけです」

「謙虚は美徳だが、上下関係がある時は毅然としろよ」

「はい。心掛けます」


 こちらが実戦用の薙刀を使用する関係上、リョウカには騎士服を着用してもらった。確かに赤服。だが赤服だからといって舐めてはいけないというのはグランディールさんから学んだことだ。先生のお墨付きでもあるリョウカの力量。侮ってかかってはいけない、と肝に銘ずる。

 とはいえ…

「大…剣…?」

 リョウカが構えるそれは、間違いなく大剣。壁掛けの物と同じくらいだが、彼女の身長が160無さそうなので、剣が大きく見える。

「そうだ。昔のお前と同じで、言っても聞かん。とはいえ相応に使いこなしてはいるからな。その辺を見てやってくれ」

 見てやれるほどの余裕はこちらにはないのだが。それに「言っても聞かん」ということは、おそらくリョウカが抱えている問題点も、私と同じはず。そのあたりを見ろということなのだろう。

「リョウカには一つ注文だ。踏み込んでクレハの懐に入れ。顔以外なら突いても構わん」

 さすが鬼教官。練習でも容赦ないな。さっき打ち込みって言ったのに。だがそれも私のため。先生のような巨漢でも苦労はするが、自分より小さい相手が踏み込んでくるのも厄介だ。これはそういった機会、先生相手ではできない練習と言える。

「準備はいいか? では、始めッ!」

 開始の合図と共に、私は刃を下げ、侵入に対し牽制する。

 リョウカもまた、剣を正面に構えると、虎視眈々とこちらの隙を窺う。

 その剣の構え。ああ、ヴァンフォード門下生なのだなと分かる。生き写しというか、ヴァンフォード先生のミニチュア版、と言ってもいいくらい。もちろん男女の体格差などもあるが、それにしても、である。

 そして

「トゥワァァァァァァァッ!」

 来

 速いッ!

 咄嗟に薙刀を跳ね上げるが、すでに刃の殺傷圏内を通過、こちらが不利な間合いに入っている。

 迎撃態勢。

 柄を回し柄尻で突く。

 先生より遥かに背が低い分、柄尻を下へ向けねばならず、その分突き出しが遅れる。

 突いた頃には私の左側へ飛び移り、突きのモーション。

 躱す。

 突きで崩れた(たい)を狙い、薙刀を振り込む。

 刃の殺傷圏内ではないが、まずは剥がさないことには。

 しかし、身軽であればこんな芸当もできるのか。

 彼女は薙刀の柄にわざとぶつかるように身体を充て、私が振り回す力を利用して、こちらの攻撃圏外へと跳び去った。

 なるほど。これが白服候補の実力。だが、やはり。私は彼女の突きを躱わすことができた。来る瞬間が読めていたのは先生との練習の賜物と自分を褒めてあげたいが、それでも、多分読めていなくても避けていただろう。理由は簡単。突きの初速が足りない。大剣の重さに振り回されているのだ。重ければ重いほど、その物体が動く方向を変えるにはより大きな力が必要だ。その力が足りていない。私と同じだ。そして、それでも大剣を諦めない理由。『舞』たいのだ。ヴァンフォード先生の『舞』に魅せられ、身の程を知らずそれを目指し、しかし悲しいことに頭は頑固なので、それを諦めることができない。それも私と同じだ。多分先生の『舞』についてリョウカと語り合ったら夜が明けるだろう。でも、決定的なところで物別れかもしれない。私は先生の背中を追うことを止め、リョウカは追い続けている。彼女に、それを止めろ、とは言えない。言えば大喧嘩だ、多分。私がそうだったから。今は先生を、見て、真似て、それが身に付いて。自分でも成長を感じている時期だろう。まだ彼女は壁にぶつかっていない。ぶつかって、己を振り返る時、さらなる成長が待っているだろう。その時が白服を着る時だ。彼女を導いてあげたい気もするが、私はそんな器じゃないからなぁ。

 さて距離を取ったリョウカ。

 次はどう出る?

 来た。

 真っ直ぐ突っ込んで来る。

 速い。

 身の陰に刀身を隠し、ということは…やはり。

 フェイントの大振りから突き。

 読めてる上にタイミングが遅いから合わせやすい。

 ならば。

 これを、(たい)を捻り回し、その流れで背後を取る。

 おっと、振り返りも速い。

 昨日の先生もこれで取れなかったが、リョウカもまた。

 だが振り返りざまの突きも読んでいたのでこれを水平に回した柄で払い、さらに(たい)を捻り回して刃で横薙ぎ。

 躱された。

 すばしっこいな。

 それにしても、私もなかなかじゃないか? 攻防がスムーズにできている気がする。簡単に攻め返されちゃってるから、まだまだ先生の境地には程遠いけど。

 間合いを取るもリョウカの動きが止まらない。

 速い上にスタミナも大したものだ。

 上段から袈裟に振り下ろし…

 何ぃ?!

 射程距離手前で急ブレーキ、躱された!

 さらに突っ込んでくる!

 しかも速い!

 迎撃間に合わない!

 どうする?!

 チイィッ!

 わずかに引いた薙刀を道場の床に突き刺し、押し込むと同時に後ろへ跳躍。

 腕と脚の筋力の合計の分、もっと後ろへ下がれる。

 おかげで突きは躱せたが…あの剣の軌道…顔を突きにきた…?

「そこまでっ!」

 先生が終了の号令を掛ける。

 が。

 刺した薙刀に体重を掛けたもんだから、刃がしなった力で柄が跳ね上がる。


ビィンッ

バシッ


「イッタぁッ?!」

 柄はリョウカの顔を直撃した。顔を狙った分のお釣りよ、受け取っておきなさい。ふふふ。

「バカモォンッ!」

「「ヒィッ?!」」

 どちらが怒鳴られたか分からないので、リョウカと私、二人揃って首を竦める。

「クレハッ!」

 私かっ?!

「は、ハイッ!?」

「武器を手放せばそこで負けは決定だ! あとは串差しになるか八つ裂きになるかの違いでしかない!」

「ハイッ! 申し訳ありませんでしたッ!」

 ビシッと気をつけ!の姿勢からパキッと腰から折れて、深々と頭を下げる。

「まぁ、咄嗟の緊急避難としては最善手だ。そこは褒めておこう」

 少し褒められた。

「次! リョウカッ!」

「ハイッ!」

「顔を狙うなとあらかじめ言ったはずだ!」

「すみませんッ! 申し訳ありませんでした!」

 私同様、ビシッと気をつけからポキっと折れる。

「謝るのは俺じゃねぇ!」

「ハイッ! すみませんでした! クレハ隊長!」

 と、今度は私に向かって折れる。

「まぁ大事に至らなかったから。でもなんでやっちゃったの?」

「あの…熱くなり過ぎました…隊長の薙刀捌きが、まるで先生の『舞』みたいで…」

「え? あら。褒めても何も出ないわよ?」

「いえ、攻めれば攻めるほど攻守が滑らかで…」

「確かに中盤から動きがとてもスムーズだった。なかなか良かったぞ、クレハ」

 うわー。また褒められちゃった! 私、顔緩んでないかな? 大丈夫かな?

「もう一つ…あの…下からだと上がよく見えなくて…」

「ん?」

 どういうこと?

「ん? あーあーあー。そういうことか。まぁ次から気をつけろ、リョウカ。身内同士でやり合ってケガでもすればいい笑いものだ。ホケカンのヌシに笑いのネタを提供したくないからな…」

 そこが本音か…

「ハイッ! すみませんでした!」

「クレハ。リョウカはどうだ?」

「リョウカは良い俊敏性を持ってる。あとはそれを生かして…生かした戦術を取ると良いんじゃないかな?」

「…はい! ご忠告、ありがとうございます!」

 忠告、か。伝わっちゃった、かな…?

「さて、ぼちぼち昼時か。リョウカ。お前も一緒にどうだ?」

「私は本日、ステラと食堂で一緒に食べる約束をしています! お誘いいただきありがとうございます!」

「そう、残念ね。まぁ明日からは一緒になるのだから、よろしくね」

 手を差し出す。が。

「はい! よろしくお願いします!」

 と、頭を下げる。

 握手はできなかった。

「では、失礼します!」

 そう言ってリョウカは剣をしまうと、道場から出て行った。

「さて、俺は昼メシ買ってくるから。ちと待ってろ」

「はい、分かりました。あ、それではその間にシャワーを使わせていただきます」

「構わねぇ。好きに使え」

 そう言って先生はそそくさと道場を出て行った。



「こんなラフな格好ですみません…」

 シャワー後の着替え用で持ってきたTシャツと短パン。

「まぁ風呂上がりならそんなもんだろ。それで支部舎内を歩かれたら困るがな」

 良かった。叱られなかった。

 お弁当は今日も支部舎の食堂のもの。そして…大盛りも相変わらず。唐揚げ弁当なのだが、中身に押し上げられ、フタが浮いている…

 それをモリモリ食べながら、今日もお話を伺えるチャンスタイム。

 だが。

「クレハ。リョウカはどうだ?」

 話題の中心はリョウカだった。

「どう、とおっしゃいますと?」

「捜索隊で使えるか、というのもあるが、主に剣技だ。お前、さっき何か言い掛けたろ?」

「どこまで正直に言って良いのか…」

「変な気を使うな。大方、大剣は向いてねぇとか、そんなとこだろ」

「…おっしゃる通りです」

「それで、自分と同じ、とか思ってんだろ?」

「…はい」

 図星。やはり誰もがそう思うのか。

「だが、アイツは話を聞かねぇ。お前より聞かねぇ。お前は、言えばまだ考えるが、アイツはそれができねぇんだ。だから小難しいこと言わず、見て盗め、的な指導になっちまってるんだが、今日のお前の立ち回りを見て、経験して、アイツがなんか感じてくれたら良いんだがな」

 はぁ。やはり先生だ。よく生徒を見ている。そして私はそれ程までに話を聞かないと思われていたか。少しショック。

「それで、今回の捜索隊にブチ込んで、外の世界を見せてやって、一皮でも二皮でも剥けてくれりゃ、と思ってる」

「あれ? 裏切り者は消す、みたいな話ではありませんでしたっけ?」

「ありゃ表向きだ。俺のカワイイ生徒をそんなことで消させてたまるか。だから、隊員選定の立場を利用して、チョチョイと、な」

「良いんですか? そんなことして…」

「なんだ、クレハ。お前、裏切る予定でもあんのか?」

「いえいえ! 滅相もありませんっ!」

「なら、そういうことだよ。それで若手の育成になるなら一石二鳥じゃねぇか。なぁ?」

「ふふふ。そうですね」

「だからアイツを。リョウカを頼む。俺からのお願いだ」

「そんな…はい。承りました」

 この人は…先生は、本当に生徒のこと、を考えているのだな。羨ましい。

「自分の時とは大違い、とか思ってねぇか?」

「い、いえ、そんなことは…」

 ああもう!

 どうしてこうも考えを読まれてしまうのか。

 顔に出てる? それとも私が単純過ぎるのか?

「昔と今じゃ、白騎士団の性質や規模が違うからな。クレハの頃は、とにかく即戦力から順に採用するしかなかったが、今じゃ規模も大きくなって、その分、育成に時間をかけられるようになった。おかげで、今もこうして現場にも行かず、ゆっくり昼メシを食ってられるってことよ、ハハハ……まぁ昔のお前には不本意な思いをさせちまったが、この3日間で、少しは穴埋めしたいな、と思ってたんだがな」

 ヤバい。そんなこと言われちゃったら泣いちゃいますよ、先生…

 ああん、ダメダメ!

 こういうしんみりした空気。

 先生の前では明るく元気に、笑顔でいたい。

「ああ! そう言えば今日は保健管理室(ホケカン)、行ってませんね」

「当たり前だ! あんなとこ、毎日行く方がおかしいって」

「それはそうですが、オランジェット先生のお顔を見られないのは、残念です」

「俺はそうそう会いたくねぇぞ。さぁ、食ったら再開するからな!」

「はい!」

 良かった。いつもの調子だ。これで午後もがんばれる!



エンディング曲 『私だけ(F)』

https://x.com/HanashioKikei/status/2013221745772376537?s=20

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