第六章 色づく紅葉(クレハ)③
オープニング曲 『クレハの季節』
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午後はリョウカとだけでは足りなかった分の近接戦の練習。だが昨日とはメニューを変えて、剣や槍などの長モノで。懐内からの攻撃が無い分、いかに早くこちらの攻撃態勢を整えるのかが課題。防から攻へのスムーズな変化。つまりは薙刀を使っていながら『舞』を目指すようなものだ。リョウカ相手ではそれなりだったことが、先生相手ではなかなかに難しい。それは先生相手だからと臆しているのではなく、攻撃の質の違いから来る。やはり先生の攻撃は重いのだ。剣でも。槍でも。受けた後、次の動作に遅れが出てしまう。
「よし、止め。クレハ。お前、なんでそんなにまともに受けちまうんだ?」
「え? でもそうしないと先生の攻撃は重くて」
「そうだろうが、そんな受け方してりゃ、男相手だといつも苦戦することになるぞ?」
いやー、それはさすがに…先生の攻撃が特別な気がするが…
「それと、攻撃を受けるってだけじゃ話がそこで終わっちまう。受けた攻撃の力を、次の自分の攻撃の力に利用してやりゃぁいいじゃねぇか。っていうか、俺はそうしてるんだが」
おやおや? 今、さらっと大事なことをおっしゃいましたよ? 受けた力を利用する? なるほど、それなら防から攻への変化も滑らかにできる訳だ。すなわち『舞』の極意を教えてくれている? うふふ。イイコト聞いちゃった! とはいえ、聞いたはいいが、聞くとやるとじゃ大違い。でも変えるべきところを意識するだけでも違うはずだ。今度こそ!
「さて、特別教習も残り時間が少なくなってきた。お前のリクエストに応えてやろうと思うんだが、まぁ多分コイツだろう」
先生は【設定】を呼び出すと右手に剣が現れる。これは…
グランソード!?
「コイツを受けてみたい、とか思ってるだろ?」
「ハイッ!」
どうしてこんなにも思いを見透かされるのだろう?
「まぁ俺でも強ぇヤツがいるなら、ソイツの本気を見てみてぇとは思うからな。ただ、そう言っておきながらスマンが、このグランソードは初期型の、ちと短いヤツなんだ。最新版だと長過ぎて天井に穴開けちまう」
そんな、私に気を遣わなくても…と上を見上げる。所々補修跡が。
「先生…使ったんですか…?」
「ああ。すげー怒られた」
ふふふ。おっかしー。いつもは生徒の面倒見がいい、とってもしっかりした人だけど、新しいおもちゃを手に入れた男の子みたいな可愛いところもあるなんて。人は見かけによらないし、こうしてお話ししてみて知ることも多いのだな。
「私は構いません。先生の『舞』を受けられるのなら」
「バカ言え。受けてねぇで崩してみろ。俺に一本でも入れてみろ」
先生との訓練もこれが最後になる。ならば記念に一本、と思うが、そう言ってる先生は相変わらずジャージのままだ。入れられるつもりはない、ってことよね。それなら。今まで超えられないと思ってた壁、突き崩してみようじゃないか。
「はい! お願いしますっ!」
「よし、構えろ。開始の合図は無しで行く。攻撃の気配を感じろ」
「はい!」
本気だ。実戦では敵がこれからやりますよ、なんて言ってくれないのだから。来るのを見てからでは遅いのだ。
一気に空気が張り詰める。
…来るっ!
「ダァッ!」
ヴォンッ
ガッシィィィ
先生が先手を取った。
受けるつもりはない、ってことね。
それなら!
「ハッ!」
ブンッ
ガッ
まずは力比べだ。
振り上げた薙刀を肩口目掛けて振り入れる。
当然剣で受けられる。
うーん、堅い。
グランソード自体が相当に重い物な上にそれを握るのが先生。
冗談抜きで、薙刀を壁に叩きつけたような衝撃が柄に伝わる。
これを崩すのだ。簡単には行くまい。
こちらの小細工もことごとく受け躱される。
あの大剣を器用に使い、ある時は剣で受け、ある時は身を躱し。
防御も含めての『舞』なのだと思い知らされる。
だがこちらも負けてはいられない。
先生に教わったこと、それを体現できて、初めて恩返しとなるのだ。
最後の教え。
受けた力を攻撃に利用する。
つまり。
ガッ グンッ
ブォッ
「いいぞ。その感じだ!」
「はいッ!」
柄で受けた攻撃を、そこで止めるでなく、柄を握る手を支点とし受けた力を利用してテコの原理で刃を振り出す。
これは早く、速い。
それだけじゃない。
「オラッ!」
突きが飛ぶ。
ガッ グッ
ジャッ
突きとて同じように利用できる。
全てを自分の攻撃に転化できなくとも、相手の力を利用して、柄を回転させるなり刃の方向を変えるなり、自分で振り回すことなくそれらができる。
それなら、これはどうだっ?!
ブンッ ガッ
ジャッ
「おおっ?! やるな、クレハ!」
「はいッ!」
今のは横から薙ぎに行ったと見せかけて、受けられる直前で刃を回し、剣に当たると同時に刃に沿って進行方向を変えた。
これなら大剣相手でも刃こぼれせず、しかも、決定打では無いにしても相手へのダメージは稼げる。
そう、私の剣は全てを一度で決めてしまおうとしていた。
焦りの剣、とも言える。
先生の大剣に憧れれば無理もない話ではあるが、実際のところ、先生は一撃で決めようなんて思ってなかったし。
そしてあの女性。
グランディールさんの剣を受けた経験も大きい。
彼女もまた、一撃で仕留めようなんてしていなかった。
適所に攻撃を入れ、こちらの態勢を崩してからクリティカルなところを攻めてきていた。
それもいま気付いたことなんだけど。
ああ、彼女ともう一度、剣を交えてみたい。
そしてお話ししてみたい。
無口そうな女性だったけど。
ほんとにお話ししてみたい人がいっぱいだ。
私は他人をもっと知りたくなっている。能力なんかに頼らず、言葉で。
言葉にできることがあれば言葉にしたくないこともある。
でもそれは知らなくていいことでもある。
言葉になるなら、聞きたい。伝えたい。
もっとお互い、分かり合えたら。
争いももっと減るだろうに。
そして。
シャルとも分かり合えるような気がしてきた。
私たち二人はあまりにも何も話してこなかった。
できる状態ではなかったのだが、今なら。
もっと分かり合える気がする。
そう思うと、たくさんのお話ししたい人たちがいて、彼らとお話ししてみたいという希望が未来を輝かせてくれている。
後ろを振り返ってばかりじゃなく、俯いて今の足下を見てばかりじゃなく、顔を上げて前を見よう。
素敵なことが待っているじゃないか。
攻防は続く。
先生の『舞』は、ますます冴える。
こちらもあの手この手で攻めるが、なかなかチェックメイトを奪えない。
白熱する打ち合い。
そんなさなか、事件が起こった。
「ハァァァッ!」
ガシィ
逆袈裟に振り込んだ私の刃が先生の剣で受けられる。
その一手前、脚を狙った攻撃で、先生の剣は刃が下を向いていた。
ならば上から強い力を掛け、受けと同時に力の方向を変えれば、そう思ったのだ。
そしてこれは…
効果があり過ぎた。
ザクゥ
「グワァッ!」
夢中になってしまった。
刃を止められなかった。
グランソードの刃に沿って滑るように落ちた薙刀の、その刃が先生の脚に喰らい付いてしまった。
「ああッ?!」
私は薙刀を投げ捨て、先生に駆け寄る。
「すみませんッ! こんな…すみませんッ!」
「バカヤロウッ! なに謝ってやがる! いい攻撃を入れられたんだ、喜べ!」
もうっ! 無茶を言うっ!
「馬鹿なことを言わないでくださいっ! 傷 アアッ?!」
ふくらはぎがザックリと切れている。
「すみませんッ! ごめんなさいッ! こんなことするつもりは」
気持ちはグチャグチャだ。涙も止まらない。多分顔もグチャグチャだろう。
「だから謝るなっ! まぁアレだ、お前がこんなにも成長してるとは思わず、こんな格好で挑んだ俺が悪い。普段、相手を舐めるなって言っておきながらこのザマだからな。むしろ、お前の力を侮っていた。謝るのはコッチの方だ」
「そんな馬鹿なことを! いや、まず保健管理室へ!」
「えー!? マジであそこ行くの?」
「もうッ! 馬鹿なこと言ってないでッ! 少しは私の言うことも聞いてくださいッ!」
「あ、お、おう。分かった。じゃ、行くか…ッ! 痛ぇ!」
「当たり前ですッ! こんなに切ってしまったのだから…ちょっと待って下さい!」
私は【設定】を変更、騎士服から普段着へ変わる。
「私が肩を貸します! 捕まってください!」
「そんな、俺歩けるって」
「先生ェェェェェッッッッッ!」
正直、キレた。なんだよ、先生だって私の言うこと、聞いてくれないじゃないか。
「お願いですッ!」
「わ、分かった…それじゃ…頼む」
「はい。行きますよ?」
ヨロヨロと立ち上がる先生の胴に捕まり、先生には私の肩に捕まってもらい、道場を後にした。
◆
「結局3日連続でここへ来ちゃったか。あーあーあー。こりゃぁまたやったねぇ」
オランジェットさんは相も変わらず能天気に診察する。もう! そんな事態じゃないのに!
「これは俺の不注意だ。クレハは関係ない」
「あったりまえでしょうが」
「違うんです。これは私が夢中になり過ぎて」
「クレハちゃんさぁ、それは自分を責めるなって言うより、相手に対する侮辱よ?」
「…え…? そんなつもりは…」
「ないでしょうけど。でも、こんなんでも『舞』のヴァンフォードよ?」
「…こんなん言うな…」
「装備が甘かったのは彼の責任。そして、そんな彼の思惑を、あなたが上回ったの。胸を張りなさい。何よりこの人、大喜びよ? 生徒に斬られた、って。教え子が俺を超えた、って。俺の指導は正しかった、って、痛みより喜びが上回る変態さんだもの」
「そこまで代弁して、最後は変態呼ばわりかよ…まぁクレハ。そういうことだ。お前は俺の『舞』を打ち破ったんだ。何よりお前はあの瞬間『舞』っていた。剣先を下げられたところで、すでに俺は詰んでいた」
褒められるのは嬉しい。でも素直に喜べない。大切な人を傷付けてまで、得たい名誉なんて、ない。
「まぁこんなもん、ツバでも付けときゃ治るわよ」
「えぇ…そんな…」
「! あ、そうだ! クレハちゃん、あなた、自分の荷物まとめてきなさい。その間、手当てしておくから。で、この『名誉の負傷』を負った人を、彼の部屋へ送り届けてもらえるかしら?」
「はァっ? 何を言って」
「ハイッ! やらせてくださいッ! ぜひやらせてくださいッ! …あ、でも先生のお荷物は…」
「この人、いつも手ブラだから。ここにある分で全てよ」
「はぁ… 分かりましたっ! 行ってきますっ!」
私は保健管理室のドアを開けると、大急ぎで道場へ向かった。
◆
「あーらあら、飛び出して行っちゃった! うふふ。かわいいわねぇー」
「…オランジェット…お前、何を企んでやがる…?」
「ん? 別にぃー?」
エンディング曲 『私だけ(F)』
https://x.com/HanashioKikei/status/2013221745772376537?s=20
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