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第五章 「友」の目醒め④

オープニング曲 『クレハの季節』

https://x.com/HanashioKikei/status/2013089880767598755?s=20

ツイッター(現X)にて公開中

 拘置所前に着く。

「それではまた明朝、迎えに来ます」

 と、拘置所入り口で警護の方は帰って行った。ここからは一人で中へ入っていいってこと、だろう。随分と扱いが緩和されたものだ。


 牢へ続く短い階段を下りると、人集り、というのは大袈裟だが、3人。いつも見る拘置所管理人の方と、おそらくは治安部の方。それと白衣の…

「オランジェット先生?!」

「おや、クレハちゃんお帰り」

 その人集りはシャルの部屋の前。

「あの…シャルが…どうかしました…か?」

 胸騒ぎ。何しろ形態亡失でヒトとしてのカタチを失っているのだ。その先に何があるのか、何が起こるのか私は知らないから。

「ああ、ちょうどいい。ちょっと、彼女を確認してもらえるかな?」

 彼女? そこに誰かいるのか? シャルではないのか?

 鉄格子前に立つ。

「ッッッッッッッッッッッッッッッッッ?!」

 驚き過ぎて声が出ない。

 そこには、黒いサラサラとしたストレートヘアの少女が正座していた。


挿絵(By みてみん)


「…誰…?」

 そう聞かずにはいられない。

「…シャルロット=ポワールです」

 シャル?! これが…シャル?

 だって…顔が…ハムスターじゃ、ジャンガリアンハムスターじゃ、ない。

「だって…あなた…顔が…」

 言われて気付いたか思い出したか、シャルロット=ポワールを名乗る少女は自分の顔を髪を弄る。

「え…アタシ…ジャンガリアンハムスター…これ…人間の…」

 いま初めてそうなっていることに気付いたようだ。そしてその顔、初めは驚愕。それも段々と崩れ、泣き顔へと変幻する。

「これ…そんな…今頃…なんで…う、ウウ、ウワァァァァァァァァ」

 大声で。涙を流すことを厭わず、ボロボロと。

「ねぇクレハちゃん。この子は、ホントにシャルロット=ポワールで間違いないのかしら?」

 当然の疑問だろう。ここに運び込まれてきた時には頭がハムスターの半獣人だったのだから。

 写真の撮れないこの世界では、人相は言葉で表される。当然、彼女の場合には「ハムスター(ジャンガリアン)」などと表記されるはずだ。それがいつの間にやらヒトの顔となっていれば、他の誰かと入れ替わったのか?と疑われても仕方ない。

「自信は無いですが…ねぇ、あなたがシャルロット=ポワールだということを証明したいから、幾つか質問に答えてもらえるかしら?」

「グズッ グズッ …はい…」

「あなたは何号室?」

 当然ロッジの話なのだが、これで意味が分からないなら別人だ。

「…5号室です」

「このモルドレンに入る朝、私が用意した朝ごはん、憶えているかしら?」

「…パンと目玉焼き、ベーコンを焼いたもの、飲み物はいつものコーヒーでした…でも、アタシはそれをあまり食べず、残して…申し訳なく思っています…」

 言ってることに間違いはないが、なぜ敬語? そこは引っ掛かるけれども。ましてごはんを残した程度で謝罪など。

「…オランジェット先生。間違い無いようです」

「そう…何か話したいことがあれば。私たちはちょっと席を外すから。みなさん、行きましょう」

 オランジェットさんを先頭に、私が先ほど下りてきた階段を上がっていった。今この牢のフロアは、いわば旧ハルキチームのみとなった。

「カヱデ様」

 …様?

「アタシを、一緒に、連れて行ってください…」

 土下座…?!

 高飛車で、気位が高い、あのシャルが?!

 私に三つ指着いて、土下座。

「連れて行くって…ハルキを探しに?」

「…はい」

「聞こえていたのね…」

「…はっきりと、ではないですが、どこからかカヱデ様の声が聞こえて…来ました」

 この子と出会ってから今までの、様々な思いが、心に去来する。

 そして…被虐心が刺激される。

「私と、一緒に?」

「はい」

「散々な思いをさせた、私と?」

「はい…申し訳ありませんでした」

 もうすぐ夕刻を迎える牢だが、通路の照明がまだ灯らないので、薄暗い。

 小さな窓から取り入れられた、僅かな夕陽の紅で、牢内が辛うじて見える程度。

 だから、シャルがどんな顔でこんなことを言っているのか、見ることはできない。

 まして土下座をしているのだ、額が地に付かんばかりに。

 私から見えるのは彼女の後頭部だけ。

 しかし。

「顔を上げなさい」

 それが見間違いでなければ。

「冗談じゃないわ」

 彼女の顔からは無数の水滴が滴り落ち、コンクリート製の乾いた地面を濡らしている。

「…え…?」

 微かに期待したものを取り上げられて、失望の支配の元、小さな希望が消え行く、落胆と驚愕の混じった声。

「あなたは、私と同じ。あの男に、ハルキに非道い目に遭わされた者同士」

「…」

「私と一緒に行きたいという人が、私に『様』なんか、付けない」

「…」

「だから、私と一緒に来るというなら、『様』なんか、付けないでほしい」

「え…」

「そして…私はもう、『カヱデ』じゃない。私は生まれ変わったの。私はクレハ。藤枝クレハ。だから、シャル。あなたは私を、こう呼びなさい。クレハ、と」

「…ク、レ、ハ…」

「そう、私はクレハ。あなたの友人のクレハ。一緒に。彼を探しましょう。シャル」

「ク…レ…アアッ! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 彼女は、アレをしている時をはるかに凌ぐ大声で、泣き、叫んだ。

 鉄格子に縋り付くシャル。そのシャルに、格子の間から手を差し込み、抱きしめる。

 シャルが、何を思ってあの男を探しに出るのか、会おうとするのか、それは分からないし、知らなくてもいいことだと思う。だから、【魂の観察者(ソウルスポッター)】で心を覗き見ることも、しない。私は、モヤシ君やゴリ男君の身が解放されれば、それでいいのだから。シャルの身は、彼女自身に決めてもらおう。あの男と深い関係を持つ者としての立場で。

 コツコツと靴の音。オランジェットさんたちが戻ってきた。

「まぁあれだけ大声で泣かれちゃ聞こえちゃうから。ごめんね」

「いえ…それで、私はシャルロット=ポワールを、反町ハルキ捜索隊の一員として連れて行こうと思います。申請はどうしたらよろしいでしょうか?」

「まぁその辺は私がやっておくから。でも…いいの?」

「はい。多分…私も女だから、でしょうか…」

「…なるほど。正当な理由ね。あ、お届け物は部屋に入れておいたから」

「あ、はい。ありがとうございます」

「シャルロット=ポワールの分も、今日中は無理でも明日朝には。それと、彼女にはこれから取り調べに応じてもらうけど、いいかしら?」

「私は別に…シャル。大丈夫?」

「…はい」

「ねぇ…そんな返事、しないでよ。私の調子が狂っちゃう。それで、聞かれたことには、正直に答えて。それは、お互いのために」

「はい…うん、わかった…」

「それじゃ、クレハちゃんも、自分の部屋に入ってくれるかな?」

「はい。お手数かけます」

「まるで犯罪者ね」

「いえ、そうですから」

「うーん…あんまり自分を責めちゃダメよ?」

「はい。ありがとうございます」

 私が自分の部屋に入って間も無く、警護の人が2人。シャルを連れて行った。私は今日持ち出した荷物の整理、それから、追加で入れられた荷物を開ける。久しぶりに見る、自分の洋服たち。これらを見るだけでも、自分の女性としての自覚というか自我というか、そういったものが目覚めるような感じだ。そして、荷物の中に、まるで誕生日プレゼントのような包み紙。多分、オランジェットさんの仕業だろう。全く、素敵なことする女性(ひと)だ。こんな心遣いができる女性に、私もなりたい。見倣うところが多いな。任務が終わったら、いっぱいお話ししたい。お話ししたい人がいっぱいだな、私は。

 それで、包み紙を開けてみる。

 ほぉぉ。そう来たかぁ。でもこれは…私、持ってたっけ? まさかオランジェットさんが? 明日、確認とお礼をしよう…また保健管理室(ホケカン)来たのか、ってイヤミ言われそうだけど。


エンディング曲 『私だけ(F)』

https://x.com/HanashioKikei/status/2013221745772376537?s=20

ツイッター(現X)にて公開中

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