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第五章 「友」の目醒め③

オープニング曲 『クレハの季節』

https://x.com/HanashioKikei/status/2013089880767598755?s=20

ツイッター(現X)にて公開中

「俺たちは剣士だ、それゆえ、飛び道具や魔法にはからきし弱い。そういう手合いは専門のヤツに任せればいい。そういう意味では、お前のとこの捕縛魔法な、あれはお前との相性というかコンビネーションは抜群だったな」

「ええ? そんな卑怯な手で勝っても」

「卑怯もへったくれもあるか! 護らねばならんものがあるなら、守ったほうが勝ちだ。そのために手段なんか選んでられねぇ。足止めしてブン殴る。こんな楽な話があるか」

 なんと。憧れの剣士からこんな話を聞かされるとは…それで憧れの理想像がガラガラ崩れる、なんてことはないが。これこそが実践の重みというものなのだろう。

「まぁクレハ、お前は真面目すぎる。俺たちは剣士ではあっても騎士じゃぁない。たとえ騎士団で騎士服なんつぅのを着ててもな。お前が追うもう一人のターゲット、カナート殿は、一振りで相手の【設定】を全部ぶっこ抜くそうじゃないか。【人格設定(コア)】も身体も傷ひとつ付けないで」

「はい。目の当たりにして、本当に驚きました。その奪った【設定】も、全部返してしまうのですが」

「その気になりゃいつでも奪えるってことだろ? 怪我もさせずに相手の戦意を完全に喪失させるんだ、それほど強力な力はそうそう無いだろう。俺はやりたかねぇよ、そんなヤツと」

 あはは。おっかしい。先生ほどの方が、カナート君と戦いたくないなんて。

 確かに…【設定】を返してしまうなんて、なんという甘さだ、と以前は思ったが、立場変われば見方も変わる、か。大切なものを護ることが目的で、相手が戦う意志を失うというなら、逆に完全勝利とも言えるのだ。面白い人だ、カナート君って。ほんと、お話ししてみたい。どんな人なんだろうな。

「さて前置きが長くなっちまったが、刃物同士ならどうしても近接戦は避けられない。薙刀や槍だとなおさらだ。今からやるのはその辺のとこだ。こっちも短めの得物でいくから、巧く捌いてみろ!」

「はい! お願いします!」

「どの辺でいってみっかな…まぁ、こんなもんか」

 と先生が壁掛けから取ったのは刃渡50cmほどの短剣。これをメインで戦う剣士はまずいないと思うが、剣の腕も立つ魔術師やアーチャーならそういう勝負になることもあり得る。こちらの殺傷範囲半径内に踏み込まれれば、確かに危険だ。予備の剣やナイフを抜くという手もあるが、主力の薙刀を手放すのかどうかという選択も生じる。そこへ予備を抜く時間も考えれば、すでにこちらは串刺しだろう。

 さて、どうする?

「それじゃいってみるが、まずは懐に入られないようにしてみろ! いくぞ!」

「はい! お願いします!」

 双方構える。

 こちらはまず踏み込まれないよう下段に構え、接近すれば足から薙ぎ上げる姿勢。

 同時に、間合いの内に入らせない意思表示でもある。

 対する先生は、剣を片手持ち。

 もう片方の手で薙刀を止めるつもりだろう。

 先生は細かく左右にステップを踏み、こちらを牽制、その動きに合わせ、こちらは薙刀の刃を標的にロック、常に正面から見据える。

 張り詰める空気。

 微かな気の緩みで踏み込まれる。

 ありがたいことに短剣なので、『舞い』に見惚れる心配はない。

 刹那、先生が踏み込んだ。

 即座に薙刀を奔らせる。

 が!

 先生の足は薙刀の刃の付け根を蹴り飛ばし、踏み込んできた!

 手、ではなかった。

 そこからは速く、一気に迫り、短剣の間合いに。

「さぁ、どうする?!」

 今、目の前に、先生が。


ドキンッ


 大きな鼓動。

 まるで時が止まったかのように。

 先生と、目と目が合っている。

 まるで時が…本当に止まっているのか?

 あとは刃を突き立てられればこちらの敗北が決するのだが…

 死を覚悟した時は走馬灯のように云々と聞くが、相変わらず目の前に先生がいるだけだ。

 ならば…逆転の…チャンス?

「こうしますっ!」

 刃を引く時間はない。

 ならば柄を回し、柄の尻で


ドゴッ


 相手の胴を突く。

 決まった!

 …ウソ…入った…?

「ゴホォッ!」

 短剣を落とし、先生が蹲る。

「せ、先生ッ?!」

「ガハッ ゴホッ グ…クレハ…それで…正解だ…」

 蹲りながら右手で親指を立てる。

 正解を認めてもらえたのは嬉しいが、今はそんな場合じゃない。

 私は何か取り返しのつかないことをしでかしてしまったのではないか?

「先生ッ! 大丈夫ですかッ?! お怪我はッ?! 先生?!」

「ばっか、お前、柄の尻で突かれた程度でケガする間抜けがいるかよ…ゴホッ あまりにもいいところに入っちまっただけだ、ゴホッ」

「そうなんですか…? 本当に、本当に大丈夫なんですかっ?」

「大丈…スマン。本当に大丈夫、だ」

「はあぁぁぁぁぁぁぁ…よかったぁぁぁぁぁ…」

 ぺたぁ、っと床にへたり込む。

 心配による極度の緊張が、一気にとけた。

「スマン…泣かせるつもりは、なかった…」

「え…?」

 目尻を擦ると…確かに濡れる。

 私は涙を流しているのだ。

「本当だ…気が付かなかった…でも、これ、きっと嬉し涙ですよ。無事だった、っていう」

 私は出せるだけの笑顔で応える。

 先生に余計な心配をかけたくないから。

「スマン」

「先生が謝ることないのに。やっちゃったのは私なんですから」

「本当にスマンな…だがお前のやったことは、アレで正解だ。無理に斬ろうとして刃を引けば間に合わない。なら、刺される前に柄尻でもなんでもブチ当てて距離を取る。それで戦闘がリセットされる。1対1ならそこからやり直しだ。敵が複数ならちと話が変わるが、それでも刃だけでなく柄尻も有効に使えというのは変わりない。よくやった」

「わぁぁ…ありがとうございますっ!」

「俺としたことが…どうしちまったんだ…」

「先生、保健管理室(ホケカン)行きますか? どうなさいます?」

「ヤなこった、あんなおっかねぇ女がいるとこなんかよぉ」

「えー? オランジェット先生、優しいじゃないですか」

「柄尻で生徒にノされたなんか、口が裂けても言えねぇよ。まぁちと腹を殴られた程度だ。心配するな」

「はい!」

「さて、ちと早いが終わりにするか?」

「あの…痛むんですか…?」

「いや、全然。だから言ったろ、ちと腹を殴られた程度だって!」

「それなら…もう少し…お迎えが来るまで、お相手、お願い…できますか?」

「クレハ。お前、そんなに練習好きだったか?」

「嫌いではないと、思います。それに今の感じ、忘れないよう、反復練習しておきたいな、と。何しろスティーズ=ヴァンフォード先生の門下生ですからね」

「言ったな。よし、分かった。とことんまでシゴいてやる!」

「はいっ! お願いしますっ!」

 ということで、近接戦闘の練習は続いた。

 しかし、さっきのようにはいかず、何度やっても全て先生に刃先を突き立てられゲームセット。逆になんでさっきは上手くいったのか、不思議だ。

 それにしても…先ほどの、柄尻がヒットした瞬間。当たったのは胸の辺り、あるいは鳩尾だったかもしれない。だが柄に伝わった手ごたえ。硬かった。鍛え抜かれた男性の身体というのはこうも(つよ)いのか。刃物ですら通せるのか、疑問に思う。私なんかじゃ無駄に付いてる脂肪のかたまりがあるだけだ。体格というか材質というか、その違いを知らしめられた思いだ。

 でもこの身体相手に、オランジェットさんは勝った、そうだ。凄いな…



「ヴァンフォードさん。そろそろ時間です」

「おう! それじゃ、本日はこの辺にしとくか。ああ、あと明日一日しかないが、道場のシャワー室、使えるように申請しておく。汗びっしょりで戻るのもアレだろうからな。使うなら着替えも持ってきておけ」

「はい! 今日もありがとうございました!」

「あ、待て待て。いかんいかん」

 先生がこちらへ小走りで。

「凍結しとらんよ」

「あ、いけない! そうですね! はい、それではよろしくお願いします!」

 朝と同じように左耳を差し出す。

 そして同じように耳を摘まれ、耳たぶの封印具(シーリング)に触れる。

 ピピッ、と【設定】が凍結された合図。

「よし、これでOKだ。それじゃまた明日」

「はい! それでは失礼します!」

 道場を出て、警護の方の後について行く。またあの部屋へ戻るのだ。

 …耳を触られて…やはりくすぐったいのだけど、嫌な感じではない。むしろ嬉しいというか。不思議な気分だ。



エンディング曲 『私だけ(F)』

https://x.com/HanashioKikei/status/2013221745772376537?s=20

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