第五章 「友」の目醒め②
オープニング曲 『クレハの季節』
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「なんともなくて安心したぜ…」
「申し訳ありませんでした」
道場へ戻り、ヴァンフォード先生に報告。叱られはしなかったが、ご心配をおかけしてしまった。
「まずは食っとけ」
「はい」
今日も先生が昼食を用意してくださった。支部舎内食堂のテイクアウト品のお弁当。今日はカツ丼だ。そして…間違いないだろう、大盛りだ。食べ切れる…かな…? いや、先生のお出ししてくださったものだから全部いただくつもりではあるけれど。食べ終わってから、お腹が重くて動けませんでした!なんてことになれば…さすがに呆れられるだろう。すでにおバカポイントが1つ付いてるし。
相変わらず先生の方が食べ終わるのが早いので、私が食べ終わるまで色々お話を伺うことができる。質問すれば答えていただけることも昨日分かったので、色々聞いてみることに。
無論、
「どうすれば先生の『舞』のような華麗な剣捌きを身に付けられるのでしょうか?」
とは聞いてみる。が。
「そりゃ俺も聞きたいよ。どうすれば教え子に身に付けさせられるかなんて、言葉で説明できりゃぁな」
やはり。天性のものは言語化し難いのだろう。
「もちろん、鍛錬はするんだぜ? たくさんな」
どの世界の天才も、同じことを言う。それでも、同じ境地に辿り着けるのは、極々一部だけなのだ。生まれついての、という言葉は、この世界では【設定】と、己の決めることのできるモノに置き換わるのだが、安易な言葉で【設定】する程度では先生のような剣士にはなれないのだから、【設定】以外の何か、あるいは【生前設定】のような、容易くは真似られない何かがあるのだろう。
「ただ、心掛けとしては、俺は守ることを優先している」
驚きだ。
「攻撃ではなく、守備?」
「守備ってほどじゃないが、いかに相手の攻撃を受けないか、と言った感じだな。それで、受けて流して、できるだけ早く次のこちらの攻撃を入れる、といったところか」
言語化されても困る話だった。それができれば苦労はしない、というヤツだ。
「俺は、自分すら守れないヤツが他人を護るなんてできない、と考えている。自分がやられちまえば、護りたい者も護れないからな」
目から鱗。その通りだ。そうか。先生の示す、勝つためではない剣。その意味が分かってきた。
「昨日、お前が言ってたオスカレッテ=グランディール、な。アイツの剣は、俺とは性質が違う」
「どの辺りがですか?」
「いま言った通り、俺は守ることも頭にあるが、アイツの剣は守るより先に相手を倒す、という感じ、かな? 相手に攻める隙を与えない、攻められる前に攻める。軽量なレイピアならではのスタイルとも言えるな。手数で勝負するスタイルだ。それゆえか『千の棘を持つ薔薇』なんて二つ名があるくらいだ」
凄い二つ名だ。でも分かる。彼女は強いだけでなく、とても整った綺麗な顔立ちだった。女子校だったら、きっとアダ名は王子だな。
先生はもちろんなのだが、確かに彼女は、次の剣が早い。しかし引っ掛かるところがある。
「あの、お言葉を返すような言い方で恐縮なのですが、グランディールさんは防御も素晴らしかったです。私の、拙いながらも大剣を、絡めるようにいなして。むしろ先生のスタイルに近い印象を持ちました」
「そうか。まぁ俺は相変わらず大剣振り回してる昔の教え子がいつ串刺しにされちまうか、ヒヤヒヤもので見てたからな。グランディールまで見てるヒマはなかったさ」
そうだ。先日の市街地戦は先生も見てらしたんだった。
「みっともないところをお見せして申し訳ありません…」
「全くだ。まぁアイツも元々防御ができないわけじゃない。こちらの攻撃の手数を減らされるからな、防御を見ることがあまり無かったのかもしれんが…だがそこまで見抜けるとは、もしかして、俺よりお前の方が優秀なんじゃないか?」
「そんなこと! あるわけ無いじゃないですか。同じ剣を振るって、昨日は先生相手にあの有様ですよ?」
「ハハハ。そうか。まぁ、実際に剣を交えた者が言ってることだ、それを否定はせんが、あるいはアイツの方で、何か心境の変化でもあったのかもしれんな」
「心境の変化? で、変わるものなのですか?」
「変わるさ。何よりクレハ、お前がそうだろう?」
ハッとした。
私の場合、武器そのものが変わったからスタイルが変わったとも思えるが、確かに「勝つための剣」を意識しなくなって、変わったかもしれない。
「そうですね。そうかもしれません」
「しれません、じゃない。お前は変わらなきゃいけない。お前も変わりたいんだろ?」
「はい!」
「まぁ、強ぇヤツはゴロゴロしてるもんさ。俺より強ぇヤツ。しかも女でだ」
「エエッ?!」
男女の平等がうるさいここモルドレンでは今の先生の発言は諌められるべきではあろうが、それでも驚きを隠せない。
女性で?
先生を上回るって、グランディールさんをも上回る?
「ほえぇ~。世の中広いですねぇ…」
驚きのあまりなんとも間抜けな返事をしてしまっているが。
「広いんじゃねぇ。狭いんだよ。身近にいるんだ、そういうヤツが。お前も知ってるぞ」
「私がっ? え? 誰、だ…?」
心当たりの先輩剣士を思い浮かべてみるが、先生を上回る、まして女性って…
「…オランジェットだ」
「はぁ? 何言ってるんですか? オランジェット先生は保健医の先生ですよ?」
「その、保健医になる前は、治安部にいたんだ。お前が入団した時にはすでに救護科に移動してたから知らんだろうが」
「はい…治安部の諸先輩方を思い起こしてみましたが…」
「練習試合というか、模擬戦でな、当たったことがあって、全く歯が立たなかった。男女含め、それほどの戦力差を実感したことはそうそうない。まして女相手じゃ唯一だ」
グランディールさんと互角とおっしゃった先生が、オランジェットさん相手で歯が立たない、なんて…
「…それで、それほどの優秀な剣士が、なぜ保健医に…?」
「分からん。こればかりは彼女の胸の中だ。治安から移動って聞いて、引き留めたんだが、理由は教えてくれなかった。こんな強ぇヤツと一緒にやれるって、楽しみだったんだがな」
「そう、だったんですか…」
「なんだ? 何しょぼくれてんだ?」
「いえ、なんとなく…」
「別に理由はどうあれ、人それぞれさ。自由な世界なんだ、みんな好きにやればいいさ」
「はい…」
しょぼくれている…というか、何か胸の中にモヤっとしたものを感じる。その正体を分かりたくない、となんとなく思った。
ところで、さすがの大盛りカツ丼だったが、すでに私も食べ終えている。話が弾んでいる、と言えばそうかもしれないが、それでも先生は練習の虫なので、よほどの話題でない限り切り上げてさっさと練習に入ると思うのだが、そのそぶりがない。
「あの、先生。練習はしなくてよろしいのでしょうか?」
「あれ? そうかまだ言ってなかったか? 待ってるんだ」
「誰を?」
「さっきメシ買いに行く時、事務から呼び止められてな、お前の、これから行くことになってる反町ハルキ捜索、それのお供が決まって、これから挨拶に来るって話だ」
「私の見張り、ですか?」
「そうとも言うな」
そうとも、って…そんな呑気な話だったかな?
コンコン
「おう。入れ!」
ガチャ
「「失礼します!」」
元気な声と共に入ってきたのは…子供?
女の子が、二人。
「紹介する。まずこっちはリョウカ=セルテイト。今シーズンから治安部に配属になった。こう見えてもエース級だぞ?」
紹介された一人目。一目見て男の子かな?と思うくらいボーイッシュ。キリッとした顔立ち。
「リョウカ=セルテイトです! 現在は治安部の赤服です! 白服目指してがんばっています!」
エース「級」と先生がおっしゃったのはそういうことか。今は赤でもすぐ白を着れるほどの実力がある、と先生は判断しているのか。あとは経験を積んで、ということなのだろう。
「もう一人は訳あってサージエンスからモルドレンへの貸し出しになっている、ステラ=レマーレだ。訳あっての訳は、俺は知らんのだが」
二人目はなんとも可愛らしい女の子。このまま部屋に飾りたいくらい、と妙なことを考えたくなるほど。
「ステラ=レマーレで~す。サージエンス支部から~、モルドレンへ行ってこいって言われて~、来ました~。よろしくお願いしま~す」
なんともフニャフニャな。ぽわわぁとしてて、掴みどころがない、というか、何を考えているか分からない、というか。
「お前も」
「はい。私は藤枝クレハ、と言います。みんなと一緒に反町ハルキという男、それからその男の行方のヒントになるかもしれない、カナート=オヌマーという方を探しに出ます。よろしくお願いします」
と、二人に頭を下げる。下げた頭を起こすと、二人は見合って不思議そうな顔をしている。いや、いくらなんでも初対面で大きな態度は取らないぞ、私は。
「あの、藤枝クレハ隊長」
と、リョウカ=セルテイト。
いま何て?
「隊長ッ?」
「はい。私たちは、反町ハルキ捜索隊の一員で、その隊長が藤枝クレハさんだと聞いています」
「先生っ?! こ、これ、どういうことなんですかっ?!」
「ああ。捜索に当たっては部隊として組織、構成する必要がある。それで、まずはお前の地位を俺の直属の部下と位置付けて、お前を中心に隊を組んだ。今の3人構成の中ではお前が年長に当たるから、隊長欄にはお前の名前を書いておいた。変だったか?」
「あ、いえ…そういうことでしたら…分かりました…」
確かに昨日の夕方、牢に戻る時、戦技教官補佐となった、と言われた。すっかり稽古に夢中になって、確認するのを忘れていた。そしてそんな地位を与えられた意味が、いま分かった。
「あの、藤枝クレハ隊長?」
「あ、はい。ごめんね、何もかも急な話ばかりで私もよく理解できていなくて。呼び方は…リョウカちゃんと、ステラちゃん、でいいかな?」
「仕事ですし、隊長ですので、呼び捨てで構いません」
「そう。それじゃリョウカとステラ。改めまして、よろしくお願いします。私はクレハ、で構わないから」
「はい! クレハ隊長!」
「クレハたいちょー。よろしくお願いしま~す」
リョウカは敬礼、ステラは…フニャフニャと頭を下げた。
私は…リョウカに合わせ、モルドレン支部式の敬礼で返した。
「では、二人は別命あるまで自室で待機。待機時のルールは書面で確認。まぁとりあえず外出時には届出提出しとけってくらいだ。以上!」
「はい!」
「は~い」
としっかりとフニャフニャの返事を残して二人は出室した。
「私…隊長、なんですね…」
「適任だろ?」
「そう…でしょうか…」
「まぁ、任務達成まで、仲良くやってくれ。さ、こっちはこっちで練習再開するぞ!」
「はいっ!」
委員長だの隊長だの…長が付く器とは思えないのだがな、私は。
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エンディング曲 『私だけ(F)』
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