王の死
ウィリアム王太子殿下が招集した辺土侵攻軍が敗北した。 王宮内は誰に与するか、如何に立ち回るか魑魅魍魎が情報を求めて蠢いていた。
「彼奴は我が侯爵家に弓引いた。 国軍を招集して悪漢マスタングを討つべきだ」
「それは事実関係が違います。 一方的に侵攻したのはパシリス卿の息子達です」
「我が息子を害したのは事実であろう?」
「ならば、マスタング卿は素直に討たれるべきだったと? それこそ、秩序を乱す暴論だ」
「ヘロウ公爵は娘を誑かされて目が曇ったようだ。 『好色卿』を擁護されるようではな」
「マスタング卿は王国防衛の要たるの辺土伯だ。 其方の目こそ曇っておるのではないか?」
此度の父上に遠慮はない。 宰相の息子はベアトリスの殺害を仄めかしていた。 赦される暴挙ではない。
「ならば、此度の損害は彼奴に払わせる。 神銀鉱山の権益は当家に引き渡してもらおう」
「ご冗談を。 賠償を払うのは卿の方だ」
「何だと? 被害を被ったのは我が方だ」
「何度も言わせないで欲しい。 一方的に侵攻も、無様な敗北も、全て卿の息子が仕出かしたことだ」
「なっ・・何だと?」
性懲りもなく神銀鉱山を横取りしようとする。 そもそも、迷宮都市はエンリケの領地だ。
「皆の意見はよく解った」
「陛下、私は未だ納得しておりませぬ」
「私は解ったと言ってる」
ここにきて、国王陛下が口を挟まれた。 珍しいことだ。
「君の友達が、マスタング卿に迷惑を掛けたようだ。 ウィル君は知ってたの?」
「へ? いや、私は何も知りません」
「じゃあ、お友達が勝手に内乱を起こしたのかな?」
「仰る通りです」
「そうか、ウィル君の意見もよく解った」
ウィリアム王太子はそういう人物か。
「追って沙汰する。 本日は以上だ」
+++++
息子の暴走は極まった。 反省も弁解もない。 決断すべきタイミングだろう。
「此度の件、如何されるおつもりですか?」
「うん。 ウィル君に王位は荷が難いと解った」
イザベラは反対するだろうけど、親子の情と為政者の道理は相容れない。
「そうですか。 ベアトリスの婚約を破棄した時点で、半ば既定路線だったのでしょうね」
「すまない。 目を瞑る訳にはいかないよ」
下級貴族の庶子にこうも翻弄されようとは。 まるで、レビゾン帝国を衰退させた『傾国の魔女ヴェロニカ』の再来ではないか。
ズンッ
熱く重い何かが胸を貫く。 愛する妻に酷い顔をさせてしまった。
ズンッ ザクッ ザクッ
もういいんだ。 私は声を上げないし、抵抗もしない。
「あぁぁぁ!!!!!!」
泣かないでおくれ、愛しき妻よ。 どうか心安らかな余生を。
+++++
バドッグ王国国王フィリップ2世が崩御した。 予てより患っていた心臓の発作だったという。 一時帰国していたウィリアム王太子が急遽即位し新国王ウィリアム3世が誕生した。
「これ、絶対やばい状況だよね」
「そうですわね。 帰国を伸ばすべきだったでしょうか」
王都より届いた訃報と前後して、シンセス聖教国に避難していたベアトリス達が帰還した。
「そう言わず、色々と相談に乗ってくれよ」
「よろしいですわよ」
先行き不安な昨今、頼れる妻の存在はありがたい。
「賠償とか責任の所在はどうなるかな?」
「有耶無耶でしょうね」
やっぱり。
「当面は新体制の準備に手一杯で、辺土に興味は示さないでしょう」
平和であればいいか。
「ところで」
「はい」
「ダイアナ殿下も、私のお仲間になったという認識でよろしい?」
「あ・・はい」
お仲間って、そういう意味だろう。
ダイアナは忠臣を伴い辺土に亡命政府を立ち上げた。 掃討戦の1ヵ月前、レグルスは国王を公の場で殺害。 帝位を宣言したらしい。 国内の反発は強く、ダイアナを支持する者も多いそうだ。
「まさか、フィリップ国王も暗殺とかだったりして」
「当然ですわ」
「え?」
なんちゃって・・と言うつもりが、即答で肯定?
「公然の秘密的な?」
「陛下を知る人物であれば、心臓の病は仮病だったと知っております」
止めてくれよ。
+++++
俺とステファンは、馬車で何処かへ護送されている。 窓のない荷馬車の環境は劣悪。 糞尿の臭いと馬車酔いで何度も吐いた。 もう、2週間は経っただろうか。
あの日、爺と共に辺土から脱出した俺は、ステファンと合流して王都を目指した。 そして、食糧を得るべく立ち寄った村で最悪の再会をする。
「兄さんこいつらよ! 私を攫った変態ピアスと切り株男」
「おい、待て。 おまえも悦んでいたではないか。 寧ろ感謝してもらいたい」
「この男、最悪だ」
こいつらは何に憤っているのだ?
「行き違いがあったようだな。 とにかく暖かい食事を用意しろ」
「はぁ?」
とにかく、今は腹が減った。
「おめぇらに喰わせる芋はねぇ」
「芋など要らん。 パンにしてくれ」
「この村でパンが喰えると思うか?」
何を訳の解らないことを。
「坊ちゃま、ここは私が・・すまぬが、何か残り物を分けては頂けまいか?」
「俺はこいつらの食い残しなんてお断りだ。 さっさと何か作れ」
「坊ちゃま!」
爺に制止されて初めて気付いた、殺気立つ男達に囲まれていると。
気付いた時には荷馬車の中だった。 爺は消えて、ステファンと2人きり。 目的地は知らされていない。
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