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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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誰がために君は戦う

 季節は巡って春を迎えた。 間も無く次の辺土統括軍の招集が始まる。 


「レビゾンから急使です」

「通せ」

 嫌なタイミングでの急使だ。


「参戦を見送らせて頂きたく参った次第です」

「見送りだと?」

「はい」

 見送りとは事実上の不参加だ。 何故、そのような言い回しをする?


「事情を伺ってもよろしいか? この6年で初めての事態だ」

「何も申し上げられませぬ」

「ダイアナ殿下はご健勝か?」

「何も申し上げられませぬ」

「委細承知した。 下がっていい」

 使者の代表は見覚えのある人物だった。 ゾンダ王家に仕える七剣士の一人・・名はシンシアだったか。 一方で、伴ってきた2人の態度に若干の違和感があった。 相互監視・・かな。


「シンセスの部隊はどの辺りか?」

「はっ 既に国境は越えております。 到着は1両日中かと」

 シンセス聖教国側の動きに違和感はない。


 パンパン

「お呼びでしょうか? ブルース様」

「国境を監視しろ。 動きがあったら、最優先で報告を寄越せ」

「御意に」

 状況からして、ダイアナの指示ではない。 嫌な感じだ。


 *****


 翌日、サンサーンス率いるシンセス六芒軍が統括軍本部に到着した。 今回は聖騎士が更に増えて総勢500騎だ。 サトシの意思表示と取っておこう。


「レビゾンが参陣しないと聞きました。 何事でしょうか?」

「私には何とも。 状況が解かり次第共有します」

「お願いいたします」

 騙してるようで申し訳ない。 不測の事態があった際、彼らの存在は非常に有難いのだ。


「エンリケとマイクに伝えろ。 何があっても応戦するな・・と」

「はっ」

 既に『影』の報告で、旧ハーベスト領の新街道を西進するレビゾン軍が確認されている。 今は逃げてくれればいい。


 *****


 王都方面から街道を北上する一団も確認された。 やはり、安易に家族を王都へ送らなくて正解だった。


「ベアトリス、体調はどうだ?」

「安定期に入りましたので、問題ございませんわ」

 妊娠して、表情が柔らかくなったベアトリス。 願わくば、彼女に悟らせることなく、事態を収拾したかった。


「女達を連れてシンセスに避難して欲しい」

「王都にも敵が居るのですね」

 ベアトリスに動揺の色は全く見えない。


「女といえば、最近お気に入りとのタクトさんも、連れて行きましょうか?」

「ふ・・不要だ。 迷宮都市はエンリケが上手くやる」

 タクトはいいとして、妊娠中のクレアが心配だ。


「サトシ王配殿下宛の書簡を用意した。 あの方ならば悪いようにはしない。 シルフィーナもいるしな」

「任せて頂ければ、万事上手くやります。 ご安心ください」

「そうだな。 頼りにしてる」

 護衛部隊100騎を伴い、女達はシンセスへ逃がれた。 情報漏洩の懸念から、王都に使者を送れないのが歯痒い。


「私も女なんだけど」

「テラとガイアは悪いが付き合ってくれ」

 君らが居ないと作戦が頓挫する。


「構わんが、自衛以外の目的で人とは戦わんぞ」

「ああ、それでいい」

 僕だって、基本方針は同じだ。


 *****


 5日後、ベアトリス一行が無事に国境を越えたと報告が入った。 これで、後顧の憂いはない。


「ぐっ・・お待ちを。 ジルベルト様の使いです」

「聞こう」

 刺客かと思ったら、公爵家の『影』だった。


「今般の軍事行動に大儀はないというのが国王陛下のご判断です」

「蹴散らして構わないと?」

「どうぞ、ご随意に」

「それで、北上中の部隊の詳細は?」

「はい。 ベレン・マードック旗下の近衛騎士200騎とマードック、パシリス両侯爵家を中心とした諸侯軍2000。 諸侯軍の大半は徴用された農民です」

 最後の情報は、安心材料ではなく釘を刺したな。 他人事だと思って。


「最後に、公爵家の者がシンセスに向かいました。 家族のことは安心せよと仰せです」

「お心遣い感謝すると伝えてくれ」

「御意に」

 さて、西進中のレビゾン軍は3000と報告があった。 数と状況からして簒奪軍の可能性が高い。 シンシアを潜入させている時点で、ダイアナも取り敢えずは無事と見てよかろう。


「サンサーンス殿に伝えてくれ。 予定通り『奈落』へ出発する」

「はっ」

 ともあれ、僕の本懐は『奈落』の鎮静化だ。 連中の相手はその後でいい。


 +++++


 いよいよ、マスタング辺土伯領都が見えてきた。 奴との再戦がこんな形になろうとはな。


「シュナイダー様、この戦に大儀はあるのですか?」

「レグルス様を疑ってはならん」

 最早、叱責と云うより自分に言い聞かせているような状況だ。


「マスタング夫人のネックレスを奪えなどと、閣下の命を何だと思っているのです」

「黙らんか! きっと深い考えがおありなのだ」

 レグルス様は、ヴェロニカお嬢様と再会されてから思慮が浅くなられた。 そして、マリーダ嬢が現れてからは暴走状態と言ってもいい。


「ご命令下さい。 私がマリーダを斬ります」

「落ち着くんだスーザン。 先ずは任務をやり遂げて、レグルス様の真意を問おう」

 頼りの精鋭部隊は士気が最低。 数だけ揃えた寄せ集め部隊は言わずもがな。 こんな状態で、あの男と戦えるのだろうか?


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