するべきことをする
マスタング辺土伯軍800、シンセス六芒軍550から成る辺土統括軍は領都を出発した。
「宜しいのか? マスタング家の増援は心強いが、領都の守備隊まで連れ出して」
「ええ、彼らは元より統括軍の予備役だ。 状況に対応しただけです」
「しかし、領都の守りはどうされる?」
「かかる火の粉は弟たち・・ヌゥイ族が払ってくれますよ」
「ほぅ 閣下が従える土人ですな? よく手懐けておられるようだ」
ヌゥイ族は長い歴史の中で度重なる脅威を退けてきた。 その最たるが、異民族の侵略だ。 彼らには彼らなりの戦い方がある。
何れにせよ、領都の民はヌゥイ族のキャンプに避難させた。 仮に街を破壊されたとて、再建すればいい。
「冒険者ギルドは無理しなくていいぞ」
「俺達は料金分の仕事をしているだけだ。 お貴族同士の揉め事には関わらん」
「そうしてくれ、中立なだけで助かる」
輜重隊の編成は諦めていた。 しかし、ギルドマスターは無理を通して従軍してくれている。
「討つべき相手は『奈落』の魔獣だ。 有象無象にはそれが解らん」
「ご尤も・・僕のアピール不足も原因の一端だと、ベアトリスに言われてるよ」
「はっはっはっ 領主なんぞカミさんに譲ってしまえ」
それもアリだな。
*****
領都近辺の緊張が伝播したのか、何時もより辺土魔境の魔獣は気が立っていた。 それでも、予定通りの行程を経て『奈落』外輪山、前線基地が見えてきた。
「閣下・・基地を何者かが占拠しております」
「そうか」
思ったより早かったな。
「全隊ここで待機。 ちょっと行ってくる」
「は? 危険です」
「大丈夫だ。 私が行く方が話が早い」
辺土統括軍の旗を背負って、僕は単騎で前線基地に向かった。
*****
丸腰で魔剣士に囲まれた状況は流石に肝が冷える。 相手が知った顔でも。
「やあ、シンシアさん。 暫くぶり」
「何時もながらやり方が豪胆ですね。 マスタング卿」
「中に入れてくれるかな?」
「どうぞ」
砦の重厚な扉が開き、僕は中へ通された。
*****
砦内はヒリヒリする緊張感に包まれていた。 鋭い視線が僕に突き刺さる。 猜疑、不安、期待・・若干の恐怖、そんな感情が見て取れる。
「お入りください」
「ああ」
作戦参謀室で待っていたのは、思った通りの人物・・ダイアナだった。
「やあ、ダイアナ。 少しやつれたね」
「先ず、確認だ。 貴殿は私の敵か?」
挨拶はスルーか。 余裕がないな。
「何方でもない。 友人だと思ってる」
「レグルスとウィリアム王太子の軍が領都に向かった筈だ。 何故、ここに居る?」
「僕らの仕事は『奈落』の魔獣を掃討することだ」
阿保と遊んでいる暇はない。
「自分の城が攻められているのだぞ?」
「それは、お互い様だ」
ダイアナだって他ではない『奈落』に居るではないか。
「シンセスも同行しているようだが?」
「あ・・サンサーンス殿は何も知らないから」
「は? 騙したのか?」
「心外だな。 出陣しますよ~と言ったら同行してくれたんだよ」
噓は言ってない。
「それを騙すと言うのだ」
「サトシ王配殿下は、何やら感づいてる気配がある。 でも、彼は何も言ってこない」
「好きに使っていいと仰せか」
勝手な解釈だけどね。
「取り敢えず、部隊を砦に入れていいかな? 森の魔獣が殺気立ってる」
「そうだな。 ブルース、よく来てくれた」
「最初にそれを言えよ」
画して、我々はダイアナ率いるゾンダ王家親衛隊200騎と合流した。 総勢1550騎は過去最大規模だ。
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ウィリアム殿下の命で俺とステファンは直ちに軍を編成した。 マリーダから宝玉を盗み、この国を我が物にせんと目論む悪役令嬢。 俺が成敗してやる。
「食料は途中の街で徴用すればいい。 とにかく急げ」
「ははっ」
思い返せば辺土に俺が訪問した時も、あの女は妙に落ち着き払っていた。 『好色卿』に食い物にされていたとは思えない。 あの魔女は辺土で『好色卿』を支配し、虎視眈々と復讐の機会を伺っていたのだ。
『その宝玉が無いと、マリーダはバドッグ王国に帰れないと言うんだ』
急遽帰国された殿下は、そう俺達に訴えられた。
『宝飾品一つの為に軍を差し向けるなど理解に苦しむ』
『譲渡頂けるよう願い出てはどうか?』
『そのような横暴を働いては、公爵家も黙ってはおるまい』
ハーベスト伯爵の没落以降、ヘロウ公爵率いる保守派が勢力を盛り返してきた。 マリーダ宮の建設はストップし、ウィリアム殿下の資質を疑う声まで上がっている。 この状況を放置する訳にはいかない。
『宝玉さえ奪い返せば、皆も解ってくれる』
『お任せ下さい。 私が部隊を率いて、辺土の悪漢を滅ぼして参ります』
全ては俺の双肩に託された。
「全て破壊してしまえ! 女子供とて容赦はいらん!」
「ははっ」
この戦いは、この王国を・・マリーダを救う聖戦だ。 その先頭に今俺は立っている。
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