企業誘致
魔道具とは、魔法が存在するこの世界で、誰もが目にする日用品であり、産業やインフラの要でもある。 成り立ちの異なる科学文明とは、似た物もあれば、互いに存在しない物もあったりする。
例えば製氷機に相当する魔道具は高価ではあるが存在する。 一方で原動機にあたる魔道具は見当たらず、移動は専ら馬が頼りだ。 逆に幻影系の魔道具は、S.Fで登場する光学迷彩より洗練されてたりする。
そんな魔道具であるが、家電製品と同じように動作に必要な回路や機構が組み込まれている。 つまり、不思議なインクで謎な魔法陣を描けば完成!・・とはならず。 きちんと理論に基づいた構造をしている。
そこで、必要になるのが神銀と呼ばれる不思議金属だ。 例えば薄く伸ばした神銀を張り合わせると、魔力を溜める蓄魔器に、円筒状に加工した神銀に絶縁した金線をコイル状に巻くと、半導体になったりする。
これら、神銀製の素子と動力源の魔石を組み合わせる事で魔道具は完成する。 高度な技術とそれを支える産業基盤があってこそ、魔道具は生産が可能になるのだ。
「だから、半導体工房を誘致しようと思うんだ」
「兄上、今の話から、何故『だから』となるのでしょうか?」
思ってた反応と違う。
「神銀を掘って売るだけでは、儲かるのは領主とギルド、あと冒険者と商人だけだ」
「それで十分なのでは?」
「資源国は往々にして立場が弱い。 技術の価値は実際に技術を持つ者にしか解らない。 だから簡単に言い包められてしまう」
「結局、食い物にされると仰るのですね?」
産油国は先進国たり得ない。
「そう、だから人材を育成して、半導体の生産は何れウチが独占する」
「反発は大きそうですが」
「だろうね。 でも、実現すれば、魔道具産業を軸にレビゾン連邦と共依存関係を創り出すことができる」
「共依存・・ですか?」
「言いかえれば、互いの経済を人質に取るというやり方だ」
新たな産業には相応のリスクが伴う。 今回の場合でいえば勇者の侵攻とか。 これは、産業の創生に安全保障を組み合わせた考え方だ。
「という方向でダイアナと話を付けよう」
「頑張ります」
そこは『任せろ』と言って欲しいな。
*****
マスタング邸の応接室、エンリケを伴い、ダイアナとのトップ会談だ。
「だから、ゾンダ家の公営工房をシルベストリに誘致して貰いたいんだ」
「ブルース、今の話から、何故『だから』なのかが理解できん」
おまえもかよ。
「問題の発端はアウクブル神銀窟の枯渇だろ?」
「ああ・・そうだ」
一応、機密扱いだったのかな?
「魔道具関連の公営工房を運営しているのは、王家のゾンダだったね」
「うむ」
「一方、アウクブル神銀窟を保有するのはレビゾン旧皇家だ」
「そうだな」
「ならば、旧皇家は神銀の枯渇を理由に、卸価格のつり上げや出荷制限といった圧力を、半導体工房に掛けるだろう」
「明察だ。 忌々しいがな」
思った通りか。
「それでは、神銀をウチが融通したところで、旧皇家の支配から抜け出せない」
「何故だ? 神銀さえあれば、旧皇家に頼らずとも生産を再開できる」
「じゃあ聞くが。 既に半導体工房の多くが、旧皇家に取り込まれているだろ?」
僕ならそこまで手を回す。
「つまり、今後は半導体工房を通じて圧力を受けるというのか?」
「思い当たるふしがあるだろ?」
「ああ、ぞんざいに扱ったつもりは無いのだがな」
彼らにも生活がある。 そう単純でもない。
「だから、この機会に膿を出してしまえばいい」
「話は理解したが、移転せずとも納品先を選定すれば十分では?」
「職人同士の横の繋がりを舐めない方がいい」
「どういう意味だ?」
「ゾンダ家を裏切ったか否か以前に、彼らは苦楽を共にした同業者だ。 仲間の為に声を上げる者がきっと現れる。 もちろん、旧皇家も裏で糸を引くだろう。 やがて、反感は大きなうねりになり」
「批判の矛先はゾンダに集中する」
真面目なダイアナは本当に気の毒だ。
「だから、物理的に引き離してしまえばいい」
「しかし、旧皇家の息が掛かった工房が移転を希望したらどうする? 断れば元の木阿弥ではないか」
「そこはほら」
「事前にご連絡いただければ、代官の私が断りを入れます」
「しかし、それは卑怯ではないか?」
真面目か?
「僕はダイアナに意地悪する恩知らずに、来て貰いたくない」
「は?」
「つまり、これは僕個人の我儘だ」
おまえは僕を頼っとけ。
詳細は実務者に任せるとして、大枠としては。
一、レビゾン連邦との神銀の取引は、ゾンダ王家が一括管理する。
一、レビゾン連邦から任意の半導体工房をシルベストリに誘致する。
一、半導体に関する技術供与に制限は設けない。
といった感じで話は纏まった。
ダイアナは恐縮していたけど、ウチの方が得るものが多いと思う。




