閑途徒然
うっそ・・今度は、成金オジサンの好感度がゼロになった。 不正がバレて処刑されるのって、私が帰国する直前・・もう少し先だった筈だけど。 エンリケも行方不明だし。 う~ん。
「どうした? マリーダ」
「え? ああ、何でもないわ。 あっは~ん 感じちゃう」
いけない、今はレグルスとシテる最中だった。 彼、スペックは最強なのに、コッチは全然よね。
「ふっ 可愛い女だ。 今夜は寝かせないぞ」
「いや~ん 虜になっちゃう」
下手くそな上に長いってホント勘弁。
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報告は受けていたけど、いつも通りのマスタング領に胸を撫でおろす。
「おお、領主様でねぇかい」
「ああ、おっちゃん精が出るね」
領都の南側は緩い坂になっていて、日当たりは良くとも、水源が低地の小川しかない。 畑には向かない土地だった。
キューカンッ カキンッ
小川から聞こえる少し耳障りなノイズ。 僕が手探りで作った水撃ポンプの動作音だ。 人力を介在させずに水流の力だけで水を高所へ持ち上げる機構。 残念ながら運べる水の量は少ない。
「この暑さでバテとるで、トマト食ってき」
「おっ・・サンキュ ごっそさん」
それでも、野菜の生育には十分な水を撒けるようになった。 今はトマトや瓜といった夏野菜が旬だ。
*****
「おけぇりなせいませ。 領主様」
「ただいま。 僕のいない間、何か問題なかった?」
外壁門の番人は農夫が持ち回りで担当している。 彼らは槍を構える、示威的な振舞いは取らない。 来訪目的の確認と領内のルールを軽く説明する程度だ。
「謝肉祭の角兎が足りねぇと、カカアがぼやいておりました」
「それは問題だね。 何とかするよ」
彼らに担当してもらう理由は、来訪者に無用な警戒感を与えたくない思惑と、天候で収穫量が左右される彼らに、安定した現金収入を与える目的もある。
*****
「ザック、いま帰ったよ」
「はっ お早いお帰りで」
護衛騎士のザックに声を掛けて、正門から領主邸の敷地内に入る。 この邸の敷地には、領主の自宅と行政施設だけでなく、騎士と使用人の住居、軍の訓練施設、レビゾン連邦とシンセス聖教国の領事館を内包する。
「あー! 先生、ブルースが帰ってきたよ」
「あら? 領主様、お帰りなさい」
敷地内の正門に近い場所に小学校がある。 僕が当主になった年に、領内で義務教育制度を導入した。 導入当初、働き手を奪われる農家から反発が多かった。 しかし、開校から5年が経ち、子供が様々な将来像を描く姿を見て、次第に理解は広がってきている。
*****
「此度の戦勝、誠におめでとうございます」
「ありがとう。 いま帰った」
領主邸の正面玄関。 ベアトリスを中心にマァリ、ジャネット、シルフィーナが並ぶ。 邸内に入ると 、使用人も仕事の手を止めて歓迎してくれる。 エーレンティカは未だ寝てるのかな?
「王都の兄から連絡がありました。 『万事、滞りなく運んだ』との事です」
「そうか、義兄上には世話になってばかりだね」
「いえ、兄も得るところが多いですわ。 どうぞ、お気になさらず」
まあ、そうだろうけど。
「それで、兄から旦那様に頼みごとをされておりまして」
「何だろう? 珍しいね」
魔大蛇の魔石が欲しいとかかな?
「ハーベスト伯爵の助命を旦那様から願い出ては頂けないかと」
「ふーん、解った。 嘆願書を用意すればいい?」
「あ・・あの、よろしいので?」
「いいさ、最初からそのつもりだった」
だって、彼はマリアンヌのお父さんだ。 酷いことはされたし、犠牲も出てるけど、もう終わったことだ。
「その寛容さは美点なのでしょうね」
「そうかな」
欠点・・危うさでもある、と言いたいのだろう?
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マスタング領に戻った俺は、兄上と共にシルベストリを訪れている。
「暫く冒険者ギルドの建物に間借りをさせてもらおうと思ってる。 風通しを良くする意味でも、この機会に彼らと関係構築をしておくといい。 この街の基本は冒険者だからな」
「ええ、当面は金を喰う箱ものは必要ありません」
人は城・・豪華な館を構えたところで、人材が揃わねば砂上の楼閣と化す。 今は人材育成と関係各所との信頼醸成が最優先だ。
「じゃあ、紹介するね。 シルベスタ迷宮支部の責任者クレアだ」
「お久しぶりにございます。 エンリケ様」
「どーも」
「おっ・・2人は既に知り合いだったのか」
あの受付嬢が責任者だと?
「はい。 ゴールドラッシュでは大変お世話になりましたわ」
「クレアの話はよく聞くように。 彼女の言うことはだいたい正しい」
「で・・しょうね」
俺の黒歴史が・・気まずい。
「あら? 人の話を全く聞かないブルース様がそれを仰る?」
「む・・僕はいいんだ」
「牙獣の件も聞きましたわ。 私がどれほど心配したかご存知?」
「すまない」
あ・・何となく解かった。 俺がフラれる訳だ。




