悪徳領主の慟哭
街道の往来を妨げていた、ハーベスト伯爵家との領主間戦争は、思いもよらぬ形で終結した。 伯爵の処遇は、王都のジルベルトに任せれば上手くやるだろう。 彼にもメリットがある筈だ。
「悪いですね義兄上、任せてしまって」
「なあに、物流はウチの専売特許よ。 素人が手を出す前に任せてもらった方が、寧ろ手間は減る」
戦後復興を進めるハーベスト領都に、マッケィン侯爵家から義兄マイクが手伝いに来てくれた。
「では、お言葉に甘えて、一旦領地に戻ります。 実際に無事か確認したいですので」
「ああ、妹にもよろしく。 でも、部隊を連れてかなくて大丈夫なのか?」
「よからぬ者が、火事場泥棒に入るかもしれませんからね。 僕一人なら如何とでもなりますし」
「そうか、じゃあ気を付けてな」
ともあれ、我家に帰ろう。 あまり放っとくと、ダイアナが機嫌を損ねそうだ。
+++++
いったい何がどうなってる? ノア・マクブライトは『領都陥落』と報告を上げていた。 あれは嘘だったのか?
「惨敗したにも関わらず、勝利を喧伝し、強引に状況を覆そうとした。 ハーベスト卿のやり方は、貴族社会の根幹を否定するものだ」
「どういう事ですか? ハーベスト卿」
「寄付金を騙し取る気だったのか?」
「巨乳幼女の代金は払ってしまったでっしゅ!」
おのれ忌々しい。 マーカス・ベイとかいう法衣子爵。 黙らそうにも、家族は何処かに匿われ、本人に送った刺客も尽く失敗した。
「皆、落ち着こうではないか」
「ジルベルト殿?」
「領主間戦争の件は報告に行き違いもあったらしい。 あまり失敗を責めるのも酷だ」
ヘロウ公爵家の長男ジルベルト。 奴が俺を庇うなどありえない。
「寧ろ問題にしたいのは、領都が占領されたことで発覚した数々の不正だ」
「あれは何かの間違いでは?」
「そうだ、恐らく代官の独断だろう」
「巨乳幼女の誘拐なんて依頼してないでっしゅ!」
自分から関与を認めてどうする。 奴らを調べられたら証拠が揃ってしまう。
「成程、この件は良く調べてから、再度審問を行いましょう。 さて、最後に確認しなければならないことが・・御璽の件です。 病床の陛下に成り代わって書簡に御璽を捺した不届き者がいる」
「なんですと!? 聞いてないぞ」
「御璽の不正使用は極刑に値する」
「巨乳幼女をぽくから奪う不届き者でっしゅ!」
おい待て。 あれはレビゾン製の呪具で完璧に隠蔽してある筈だ。 何故知っている?
「呪術と解呪は常にイタチごっこ。 2年も経てば旧式。 隠蔽した書類も簡単に暴かれてしまう」
俺が作成した返上承諾書。 表向きは準備書類を装った。 一旦、署名してしまえば、契約魔法の効果で決定は覆せない。 確実に爵位を剥奪する為に用意した保険だったのだ。
「ハーベスト伯爵が作った監察着手を承諾する準備書面。 これに、『聖母テラ謹製:解呪の護符』を近付けると・・この通り」
「爵位返上承諾書だと? 御璽まで捺されている」
「騙し討ちではないか!」
「巨乳幼女を騙す者は極刑でっしゅ!」
粗末な護符をかざした途端、ただの準備書面が本来の姿に戻った。 怒号が飛び交う中、近衛騎士が俺を後ろ手に縛って議場から連れ出す。 どんな高みに上り詰めようと、結局あの一族には見下ろされていたのだ。
*****
地下牢に幽閉された俺を、ジルベルトが訪ねてきた。 態々嗤いにきおったか。
「俺を蹴落として満足か?」
「それは心外です。 貴方は少々やり過ぎたのだ」
「俺にこんな事をしてマリーダ様が黙ってないぞ」
「彼女は持たざる者には興味ない。 貴方自身が一番ご存じでしょう?」
そんな筈はない。 マリーダと俺は愛し合っている
「これ、差し上げます」
「牢に入れるだけでは飽き足らず。 今度は俺を呪うつもりか?」
「いやだなあ、あの時の解呪の護符です。 数量限定の非売品なんですよ」
「ふんっ 500万Ptもした禁制の呪具が、こんな陳腐な護符に破られるとはな」
「貴方に掛けられた厄介な呪いが、解けることを願っております」
そう言い残して、ジルベルトは帰って行った。
*****
「訳の解らんことを」
俺が呪いに掛かってる訳がなかろう。 そうは思いつつも、不思議な引力に魅かれて、何とななしに護符を手に取った。
「えっ? 俺は・・何故こんな? 馬鹿な」
ここ数年、自分がしてきた愚かな行為が頭の中でグルグル回る。 俺は成人君主ではない。 しかし、貴族の矜持を抱き、王家への忠誠も家名に掛けて誓っていた。 なのに。 娘と同い年の女に感けて、貴族の務めを放棄し、家族を蔑ろにした。 マリアンヌが『好色卿』の愛妾に落ちたのも、俺が執拗に奴を追い詰めたからだ。
「おぉ・・うぅ・・うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」




