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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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証人尋問

「雅なだけでなく、戦もお強いとは感服致しました」

「なあに、学院時代はヤンチャしておったでな」

「それはそれは。 ところで、これなるは次男のパットセン。 学院では外交学を専攻しておりました」

「パットセン・ノッカーレでっしゅ! 巨乳幼女が好物でっしゅ!」

「これは利発な息子さんだ」

「息子は辺土の領事館に興味がありましてな。 お傍で学ばせてやって頂きたく」


 領主間戦争に勝利したことで、ハーベスト伯爵はこの世の春を謳歌している。 新たな利権に群がる寄生虫を侍らせ、すっかり主流派 気取りだ。


「辺土の砦で見た『好色卿』の私兵は精強だった。 そう簡単に敗北するとは思えない」

「それだけ、ノア・マクブライトが優秀だったのではないか?」

「確かに奴は俺の次に強い男だ。 しかし、単騎でやれることなど限られている」

 仮に俺があの砦を落とすとしたら、少なくとも2個大隊は連れて行く。 ハーベスト伯爵の私兵は中隊規模だ。 指揮官云々で如何にか出来るとは思えない。


「ベレン様の見立ては正しいと思いますよ」

「おまえ?」

「王都に戻っていたのか? エンリケ」

「お久しぶりです。 ステファン様 ベレン様」

 ()()()()()で、辺土に置いてきたエンリケ。 以前より少し大人びた雰囲気がある。


「いったい今まで何処に居た?」

「ご心配をおかけしました。 公爵領に行っておりまして」

「そうか・・それで、何か知っているのか?」

「いいえ。 ただ、姉上から手紙で、小豆モナカを買ってきてと頼まれてます」 

「小豆モナカ?」

「なんでも、ダイアナ殿下の好物だとか。 少なくとも、領都が陥落していないことは確かでしょう」

 エンリケは悪役令嬢と和解したのだろうか?


「では、また辺土へ行くのか?」

「はい。 申し遅れましたが、私この度、迷宮都市シルベストリの代官に就任致しました。 以後、お見知りおきを」


 +++++


 ハーベスト伯爵家領主邸の執務室に、大量の書類と証言者が集められた。 戦時監察官マーカス・ベインに状況を理解してもらうためだ。


「これが傭兵団に出された命令書です。 実際に君らは、街道で略奪を行ったのか?」

「ちっ 俺達がやった」

「次に、各種脱税の証拠に違法呪物の取引履歴諸々、違法奴隷の出所は?」

「ちっ 俺達が襲った商人や付近の村人だ」

 以上、証言者A傭兵団団長リヒト君の証人尋問でした。


「君が率いるハーベスト伯爵軍は、マスタング領に進軍したのだろうか?」

「いや、防衛と撤退を繰り返しただけだ」

「密命を受けたと聞いたが、もう一度教えてくれるか?」

「ああ、事故に見せかけマスタング卿を殺すよう指示された。 見返りは代官の地位だ。 従う気はなかったがな」

 以上、証言者B指揮官ノア・マクブライト君の証人尋問でした。


「つまり、貴族院に出された訴えは全て事実だった」

「信じてなかったので?」

「領都を制圧されたのは、マスタング辺土伯家ではなくハーベスト伯爵家の側だっただと?」

「まあ、見ての通りです」

 怒ってワナワナする気持ちも解かるが。


「貴族院の書簡もおかしくないですか?」

「何がだ?」

「私の署名欄が空欄の返上受諾書に、何故、国王陛下の御璽が捺されているので?」

 これは誓約魔法に縛られる正式な書面。 権限ある者にしか作れない。 まして、御璽は国王の専権事項だ。


「陛下の裁可は、我々が奏上した後だ。 そんな筈は・・これは?」

「はぁ バドッグ王国は、何時から陛下不在で政治が動くようになったのか」

 ご丁寧に隠蔽魔法で王印が隠されていた。 この書簡の作成者は、国王に黙って僕から爵位を剥奪する気だったのだろう。


「私の与り知らぬ事実だ」

「貴族院からの指図は?」

「早急に戦後処理を終えて、領地割譲を進めよとだけ」

 この人はただの使いで、何も知らされて無いのだろう。


「戦後処理に関する申請書類は、既に我々の方で作成しております。 内容を確認いただき、貴族院に持ち帰って頂けますか?」

「しかし・・こんな報告を上げたら私は」

 粛清されてしまうか。


 パンパン

「お呼びでしょうか? ブルース様」 シュタッ

「彼に暫く付いてやれ。 暗殺の危険がある」

「御意に」 フッ

 思えば彼らを初めて使う。


「王都に着いたら、家族を連れてヘロウ公爵家に身を寄せて下さい。 私が紹介状を用意します」

「あ・・ありがとうございます」

「御璽の不正使用は、それだけで極刑に値する重罪」

「そうですな」

「それに、領地を持たない貴族の悲哀はよくご存じでしょう?」

「・・・。」

 たとえ豊富な人脈を持とうと、広大な領地を持つ貴族の発言力には到底及ばない。 法衣貴族のベイン子爵ならよく解っている筈だ。


「自ら王都に乗り込まないのですか? 上手く立ち回れば王宮での影響力も増すでしょうに」

「その手の仕事は頼りになる義兄上が王都に居ます」

 政治や駆引きは、前世で散々やってきた。 


「マスタング家の戦場は辺土にある」

 今世は脳筋あるのみ。


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