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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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客将ノア

 マリアンヌが愛妾落ちだと? 『好色卿』一人繋ぎ留められんとは役立たずな娘だ。 まあいい、傭兵どもの成果は上々。 街道の安全が不安視され、奴の統治能力を疑問視する声がも上がっている。 何れ鉱山を奪い返す機会も巡ってこよう。


「これはハーベスト卿。 大変な事態になりましたな」

「ああ、何のこれしき、大したことありませぬぞ」

 貴族院の議員か・・『大変なこと』とは何の話だ?


「まさか、マスタング辺土伯が貴殿に領主間戦争を挑もうとは・・若造は血気盛んでいかん」

「全くご尤もですな」

 あの小僧が俺に宣戦布告だと?


「して、勝算の程は?」

「もちろん、直ちに彼奴の領都へ逆侵攻させますとも」

 馬鹿な小僧め。 こいつは好機だ。


「それは頼もしい。『無敵』は必要なさそうですな?」

「いやいや、彼の『無敵』の加勢があれば、盤石の態勢で『マリーダ宮』建設に腐心できます」

 思惑はな何かと思えば、売り込みであったか。


「して、見返りは?」

神銀ミスリル鉱山の権益1%でいかがか?」

「冗談を申されるな」

「では、『マリーダ宮』担当者リストに名を加えさせて頂きましょう」

「結構」

 人脈しか武器の無い法衣貴族め。


 *****


「伯父の紹介で伺いました。 ハーベスト卿」

「貴殿が用兵盤で『無敗』を誇ったノア・マクブライトか」

「ふっ 用兵術など所詮は机上の遊戯、俺は己が武威にこそ自負があります」

「ほう?」

「男爵家の3男では国軍の騎士には採用されない。 しかし、俺は次期近衛騎士団長と噂されるベレン・マードックにも模擬戦で勝利している。 真の実力者は俺だ!」

 いい面構えだ。 反骨精神が滲み出ている。


「あいわかった。 ならば、自らの手でブルース・マスタングの首を取ってまいれ」

「領主殺害は禁止の筈だ」

「ルールがあっても事故は起こる。 貴殿に代官の地位が転がり込むかもしれんぞ」

「朗報をお待ちください」

 貴様のような狂犬に、代官は任せられんよ。


 +++++


 着任早々に傭兵団は壊滅。 その後も我が軍は撤退に次ぐ撤退の末、ついに領都を包囲されてしまった。


「甘ったれるな! さっさと出撃するんだ」

「俺に騎馬突撃なんて無理です」

 俺の戦術が全く機能しない。


「左翼! 槍衾が薄いぞ。 何やってんの」

「はいぃ」

「対空防御! 矢雨がくるぞ」

「ひぇぇ」

 ハーベストの騎士がとにかく弱いのだ。


「王都に急使を送れ。 『領都陥落 至急、戦後交渉に当られたし』・・と」

「ですが・・まだ、城門は落ちていません」

「この状況からどう挽回する? 潔さもまた美徳だ。 行け!」

「ははっ」

 だが、まだ終わらんよ。 俺自身は最後まで抗ってやろうではないか。


 *****


「続いて接近する部隊2つあります」

「なんだ?」

「騎士のようです」

「重騎士か」

「でも、マクブライトさん。 このスピードで迫れる重騎士など在りはしません。 1騎の重騎士は通常の3倍のスピードで接近します」

「マ・・マスタングだ。 破滅の魔獣だ」

「何だ?・・ええっ 破滅の魔獣ブルース・マスタング」

「総勢100人の傭兵団が奴一人を前に撃破された。 にっ・・逃げろぉ!」 

 多少は強かろうが人間じゃないか、俺だって。


 *****


 流石は一軍の将、俺が単騎で出れば奴も応じた。


「貴殿はブルース・マスタング辺土伯とお見受けする。 我はハーベスト伯爵家客将ノア・マクブライトだ」

「如何にも私がブルース・マスタングだ。 戦いの趨勢は決した。 これ以上の犠牲は無益だ。 直ちに降伏されたし」

 傭兵から『破滅の魔獣』と恐れられるブルース・マスタング。 その実力、見極めてくれよう。


「貴殿と一騎打ちを所望する。 応じて頂ければ、武器を捨て開門しよう」

「承った!」

 これで、俺の名誉はギリギリ守られる。


「よろしいか?」

「いざ!」

 マスタング卿は大盾と大剣を捨て、短剣に持ち替えた。 悪くない判断だ。 1対1で大物は必要ない。 求められるのは技と速度。 貴殿の健闘を讃えて命は奪わないでおこう。 所詮、ハーベスト伯爵家は一時の腰掛け。 立てる義理はない。 


「シッ」

「え?」

 はて? おかしい。 視界には空・・そして大地、また空・・ああ、意識が。


 *****


 目が覚めたのは3日後。 既に領都は制圧され、騎士団は解体、傭兵は拘束された後だった。 あくる日の午後、マスタング卿が領主邸に軟禁されている俺の下を訪れた。


「なあ、ノア・マクブライト殿。 ハーベスト伯爵は、君がマスタング領都を制圧したと主張している」

「へ?」

 怒りを誤魔化し引きつった笑顔のマスタング卿。 隣には訝しげな表情の紳士。


「君・・王都へ何と伝えたのかな?」


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