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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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領主間戦争

 夜も更けて静まり返るバルコニー。 淡い月明かりが、互いを想う恋人達をそっと照らしていた。


「おお、ガイア。 どうして貴方はガイアなの?」

「マリアンヌ。 もし君が、恋人だと言ってくれたなら。 俺は永劫の命だって捨てるのに」

 鳥かごの姫と流れ者の戦士。 決して2人が結ばれることはない。


「ぐへへぇ 今夜も可愛がってやるぜ。 マリアンヌ」

「ああ、今夜もこの男に穢されるのね。 愛するガイアの見ている前で」

 現れたのは悪辣領主。 愛を知らぬこの男もまた、愛を乞いマリアンヌを抱くのだ。


 決して愛されないと知りながら。


「見られて興奮してるのか?」

「ああ、なんと無体な」

「俺のマリアンヌが・・やっ、やめてくれぇ!」


 *****


 貴族の道を捨て、爵位を返上したマリアンヌ。 マスタング辺土伯家の当主として、僕は彼女の決断を歓迎した。 彼女の献身に少しでも報いたい。 そう提案したのは僕だった。 僕から言い出したことだけど。


「この寸劇は毎回しないと駄目なわけ?」

「一度した約束を反故にしようとは、貴様は器の小さい男だ」

 自分の性癖をカミングアウトしたガイア。 すっかり居直っている。 


「はいはい。 もう好きにしてくれ」

「それで、帰郷の件だが」

「ああ、ゆっくりしてきたらいい。 セレスティアにもよろしく伝えてくれ」

 この翌日、ガイアとマリアンヌは、タカシに乗って重無ヴェルヌへと旅立った。 賢人会から契りの許可を得る為だ。


 *****


 さて、恋人たちの居ぬ間に住ませておくべき仕事がある。


『度重なる強盗、略奪、越境、赦し難し。 武力に訴えることも止む無しと私は判断した。 我、マスタング辺土伯家当主ブルース・マスタングは、ハーベスト伯爵家に対し宣戦を布告する』


 お隣・・ハーベスト伯爵家は、もう親戚でも何でもない。 貴族院から入手した領主間戦争許可証を添えて宣戦布告を行った。 彼らは僕個人を襲撃しただけではなく、街道周辺でかなりの無法を働いている。 祖父は『人間同士の争い』を虚しいと否定したが、人命が奪われる現状はとても看過できない。 まして、此方が譲歩した所で、状況が悪化することは、祖父の代で既に証明されている。


「聞け! これは領主同士のくだらない小競り合いだ。 よって軍属以外への無用な暴力は固く禁止する。 略奪や強姦を働いた者には重い罰を与えるから、肝に銘じるように」

「はっ」

 萎えることばかり言っては戦意が削がれる。


「ハーベスト領には若い町娘も多い。 圧政から解放したおまえ達はきっと歓迎されるぞ」

「おお」

「これは嫁取り戦争だ!」

「うおぉぉぉ!!!!!」

 軍属が多いマスタング辺土伯領は若い女性が極端に少ない。 娼婦は多いけど。 若い騎士の嫁取り問題は、何気に深刻なのだ。


 *****


 ハーベスト伯爵領に進軍したマスタング辺土伯軍の数およそ300。 全面侵攻が目的ではないので、大半は領都に残してきた。


「攫われたと思しき男女20名ほどを保護しました・・酷い状態です」

「男も居るのか?」

「あ・・はい。 用途は同じようです」

 あー 聞きたくなかったやつだ。 先ず陥落させたのは傭兵の詰所。 数時間の小競り合いの末、傭兵の大半は逃走した。 


「残党が奴隷に紛れている可能性もある。 男の方は気の毒だが拘束を解かないように」

「了解しました」

 これはルールに則った陣取り合戦だ。 相手が降参するまでは進軍は続く。 さて、相手はどう出るか。


 *****


 行く先々の村や町は何処も貧しい。 侵攻というより救援に来たみたいな状況だ。


「救援はマッケィン候に任せて、先に進んだ方がいいかもな」

「ですな。 残党の略奪行為は目に余ります。 放置すれば被害は拡大するばかり」

 ここまで、真面な戦闘は発生していない。 領軍も傭兵も、僕らが接近した時点で、街を捨て逃げてしまうからだ。 


「進軍速度を速める。 準備しろ」

「はっ」

 領都に迫れば、状況も変わるだろう。


 *****


 広大な敷地に豪華絢爛な調度品。 途中 見てきた寂れたハーべスト領都の雰囲気とはあまりに乖離している。


「邸内の制圧、完了しました」

「ご苦労」

 侵攻開始から5日目。 半日の攻防の末ハーベスト伯爵軍は降伏。 我々は領主邸に入った。  


「閣下、貴族院から使者が来ております」

「そうか、応接に案内してくれ」

 ハーベスト伯爵はこれまで全く無反応。 このままでは、爵位も剥奪されてしまうと思うが、何を考えているのやら。


 ***** 


 貴族院からの使者をハーベスト邸の応接に迎え入れた。 30代の洒落た偉丈夫といった雰囲気。 典型的な法衣貴族だ。 


「貴殿がハーベスト伯爵軍の指揮官か」

「は?」

 指揮官殿ならば既に拘束済みだ。


「私は貴族院から派遣された戦時監査員のマーカス・ベイン子爵だ。 ハーベスト卿からマスタング領都陥落の報告を受けて、参った」

「それは、ご苦労様です」

 あれ? 話があべこべでない?


「本日付でマスタング辺土伯家は取り潰し。 辺土はハーベスト伯爵家の領地となった。 念の為、マスタング卿とも面会したい。 彼を生きておるのか?」

「はい。 元気にしてますよ」

 見ての通り。


「宜しい。 では、彼をここへ連れてきてくれ。 取り潰し後の処遇を相談したい」


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