謝肉祭
さて、政治向きの難しい話も終わった・・ということで。 今日は皆で角兎狩りに来ている。 ピクニックシートを囲む奥様方に娘のミィカも見ている。 ここは、家長として威厳を示さねばならない。
「どぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
そこか。
「シッ」
ドゴォ―――‥ン!!!
「逃がしたか?」
「こんの馬鹿ものぉ!」
いった~い。 ダイアナがグーで殴った。
「『逃がしたか?』じゃない! 巣穴ごと粉々に吹き飛んだではないか」
「えーだって。 1羽ずつ手掴みにしてたら、勝てないし」
僕が追いかけ回している隙に、ダイアナ、バルボア姉妹の魔剣士組は遠距離からスパスパ狙撃するし、エンリケは意外と弓が上手いし。 ブーブー
「辺り一帯から角兎の気配が消えた」
「ていうか、ブルース足手まとい」
ガーン! 僕を全肯定するライラまで批判に回るとは。
「皆の邪魔だから、こっちでミィカの相手でもしてなさい」
「ふぁい」
大人しくピクニックシートに座って、サンドウィッチを頬張る。 美味しい。 近頃は小麦の流通が安定して、パンが食卓に並ぶようになった。
「エンリケ、頑張ってー!」
「サンキュ、沢山獲るから楽しみにしてろ」
何だかんだで、エンリケとリィアもいい感じだ。
「ケーニッヒ男爵は益々意気軒昂のご様子で」
「ぐっ・・兄上、意地悪を言わないで下され」
先日、ヘロウ公爵から勘当を解かれたエンリケ。 マリアンヌが返上したケーニッヒ男爵を、彼が継ぐことになった。 領地もシルベストリ周辺をマスタング辺土伯家から割譲する予定だ。
「学院は卒業しておかなくて良かったのか?」
「俺にはやるべきことが沢山あります。 しかも、残された時間は限られている」
「そっか、そうだな」
リィアから寿命を半分『魂与』されたエンリケ、残された寿命は30年と数ヵ月と限られている。 家族を持ち、子供が自立した頃には人生が終わるくらいの期間だ。
「なあ、マァリ。 教えなくていいのか?」
「今はやる気になってるし、暫くは良いんでない?」
実はリィアを正式に『嫁与』するにあたって、祝儀としてヌゥイ族の皆から60年分の寿命を預っている。 今回のように、特段の事情がある場合、家族が少しずつ寿命を融通する習慣があるのだ。
「パー・・パ」
「ミィカちゅわ~ん。 パパ頑張ってきまちゅよ~ん」
さて、娘にカッコ悪い所は見せられん。
「どぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「やめーい!」
角兎の大猟を以って、この日の狩猟会は終了した。
*****
翌日はマスタング辺土伯領上げての謝肉祭だ。
「あーあー 本日はお日柄も良く、お集りの皆さまにおかれましても・・。」
「ひっこめ―!」
酷くない?
「謝肉祭の開催だぁぁぁ!!!!!!」
残暑が続くこの季節、お肉で精を付けて秋の収穫時期に備えましょう、という趣旨で5年前に始めた謝肉祭。 上手い肉が喰えるとあって、この日は冒険者も休業して祭りに参加する。
「謝肉祭で角兎とは侘びしいかと思っていたが、こいつは上手いな」
「だろ? 柔らかくて仄かに甘いんだ」
王都では猪豚のように脂がのってボリューミーな肉が好まれる。 しかし、猪豚は雑食で臭みが強い。 一方の角兎は草食で、特に今の季節は野苺やタンポポが主食だ。 断然美味しい。
「いよいよ、帰国か」
「ああ、世話になったな」
神銀取引契約も纏まって、ダイアナは明日にもレビゾンへ帰る。
「大丈夫か?」
「私より自分の心配をしろ、馬鹿者。 派手に暴れおって」
「今更だよ。 それより、婚約を破棄した後はどうする?」
「さあな。 一生独身でもいいと思ってる。 弟も居るし」
「勿体ないな」
「なんだ? おまえのハーレムにでも入れてくれるのか?」
「歓迎するぞ」
「悪いが、遠慮しとくよ」
またフラれた。
「フィナ、全屋台制覇するわよ!」
「待ってよテラ。 もう、たべられな~い」
夜半まで続いた謝肉祭は、今年も盛況のうちに閉会した。
*****
エルフの郷は驚きに満ちた世界だった。 常世の賢人と崇められる彼らは、簡素な小屋に住まい、暮らし向きは極々慎ましい。 贅を尽すことに価値を見出す王都の貴族が酷く下品に思えてしまう。
「ド・・よ決意は変わらないのだな?」
「たとえ、夫婦の時が100年で終わりを迎えようと、1000年分の愛を捧げると誓う」
「あい、わかった。 賢人会は2人が契りを結ぶことを認めよう」
社交界を追放された私が、エルフ族の末席に加わることを許された。 シンセス、レビゾン両国の初代王とブルース・マスタングに次ぐ4人目だとか。 『好色卿』って何気に凄いのかしら?
「誠心誠意ド・・様に尽くすことを誓いますわ」
「うむ、息子を頼むぞ」
そして、彼の両親からド・・様の真名を教えて頂いた。 彼の真名はネルトラン・レ・ヘルンタイン。 不思議だ。 ネルトラン様と繋がりを感じる。 これが、真名を知るということ。 胸に秘め、決して忘れてはならない。
儀式の最中、無重力酔いの末に起きた惨状は忘れようと思う。




