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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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愚弟デビューす

 マスタング辺土伯邸から追い出された俺達は、気を取り直して冒険者の街ゴールドラッシュへ向かった。 木端な騎士など不要とベレンは吐き捨てる。 俺も同じ意見だ


「ここが冒険者ギルドか」

「みたいだな・・って、なんだ? この穴は」

 冒険者ギルドの建物に入ると、センターホールの床に大穴が空いていた。


「ああ、すみませーん。 補修工事が終わってなくて」

「さっさと直しとけ。 ボロい建物だ」

 溜まった苛々から、つい受付嬢にあたってしまう。 だが、よく見れば悪くない女だ。 今夜の伽をさせてもいい。


「きつくあたって悪かった。 詫びに今夜、俺の部屋に」

「結構でーす。 ご用件は?」

 ふんっ 所詮は辺土の平民女。 相手にする価値もない。


「ふっ 災害級の魔獣、獣型牛魔人レッサー・ミノタウロス討伐の依頼を受けようと思ってな」

「災害級・・ですか? えっと、獣型牛魔人レッサー・ミノタウロスの素材でしたら、随時買い取っております。 是非お持ちください」

「素材だと?」

「真に受けるなエンリケ。 冒険者ギルドのお約束だ。 揶揄われたんだよ」

 そういうことか。


「災害級魔獣の討伐は国家事業だ。 懸賞金を詰んで依頼するような代物じゃない」

「成る程な。 で、出没地域は解っているのだろう? おい女、教えろ」

「はぁ 郊外の森に行けば、割とすぐ見付かると思いますよ」

 まさに、街が滅びる直前に俺達が登場したわけか。


「あの・・もしかしてお2人、王都からいらした方ですか?」

「そうだが」

 やはり、都会の男に憧れるか。


「だと思いました。 貴族様っぽい格好をされてたので」

「ぽい どころか、俺はヘロウ公爵家の次男、彼はマードック侯爵家の跡取りだ」

「それは失礼しました」

 今更、媚びてくるつもりか?


「でしたら、険保の加入をお勧めいたします」

「けんぽ・・だ?」

「はい、冒険者障害保険のことです。 万が一の怪我はもちろん、病気や呪いにも対応した充実な保障が、なななんと1ヵ月5,000Ptぽっきり!」

 この女もベアトリスと同じ守銭奴だったか。


「不要だ。 そもそも、怪我などしない」

「皆さん、最初はそう仰るんです。 確かに、マスタング領の領民や長期滞在して納税の義務を果たした方()()()領民皆保険制度が適応されますが。 他所からきた貴族様や自由民は完全に()()()()()()()! 怪我をしたら野垂れ死にますよ」

 くそっ 説教じみた所もベアトリスにそっくりだ。


「不要だと言ってる。 しつこい女だ」

「守銭奴など相手にするな。 エンリケ行くぞ」

 今日は本当に気分の悪い日だ。 この日は、ゴールドラッシュで最も高級な貴族・高ランク冒険者向けホテルに宿を取って休んだ。


 *****


 翌日から早速、俺達は獣型牛魔人レッサー・ミノタウロス討伐に出掛けた。 さっさと成果を出して王都へ帰りたかったのだ。


「郊外といっても、ずいぶん距離があったな」

「今日は、ようす見でいいだろう。 先ずは出現ポイントを絞る行程だ」

 冒険者の街ゴールドラッシュから歩くこと3時間、漸く森林地帯が見えてきた。


「大型の魔獣を相手にエンリケの剣技はやや不安がある。 俺の前には出るなよ」

「ああ、解ってる」

 森が近付きベレンも戦闘モードに入った。 頼りになる男だ。


 草原から森の中へ、風が止み辺りが暗くなる。 緊張感で口の中が乾いてきた。 そして、10分ほど森に分け入ったその時、背後から ボトッ と何かが落ちる鈍い音が。


「うぇぇぇ 気持ち悪い! 何だこいつ?」

「落ち着けエンリケ。 ただの魔壁蝨マダニだ」

 蹴球技の球ほどの大きさ、ぬめぬめの皮膚、目のない頭、短い八本脚、まばらに生えた毛が気持ち悪さを際立たせる。


「いい傾向だ」

「何処がだ?」

 ボトボトと、次々に落ちてくる。


「こいつらは、大きな魔獣の身体に寄生する魔蟲だ。 近くに獣型牛魔人レッサー・ミノタウロスがいる可能性が高い」

「そうか」

 流石はベレン。 冷静に状況を見ている。


「今日、冒険者デビューしたおまえにはお誂え向けの獲物だ。 見ていてやるから斃してみろ」

「わかった。 やってやる」

 俺も落ち着きを取り戻した。 いける!


「はっ!」 バイ~ン

 剣が弾かれただと?


「おいおい、手本を見せてやるよ。 はっ!」 バイ~ン

 ベレンの一撃まで弾かれた。


「侮り過ぎたな。 本気を出す必要がありそうだ」

「ああ、獅子は兎を狩る時も全力を出すと言う。 教訓は得た。 あとは実践するのみ」


 バイ~ン バイ~ン バイ~ン バイ~ン


「これは噂に聞く特殊個体という奴だ」

「なに? そうだったのか」

 どうりで、小一時間 斬っても傷一つ付かない訳だ。


「このまま、この災害級の魔蟲を放置する訳にはいかない」

「そうだな。 だが、どうする?」

 動きの鈍い魔蟲とはいえ、数時間もあれば街に到達する。


「マードック家一子相伝の剣技で殲滅する」

「やるのか?」

 ベレンは黙って頷く。 覚悟は決まったようだ。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 ベレンが気を溜め始める。 大地からエネルギーを充填するかのようだ。 俺は英雄伝説の一幕に立ち会っているのかもしれない。 次期近衛騎士団長ベレン・マードックは、まさに今、無辜の民を救うため、その力を振るうのだ。


 時は満ちた。


「王国に仇なす災害の魔蟲よ滅びるがいい! 暴竜大地列斬!!!!!!」


 バイ~ン


「弾かれただと? ぐわぁ!!!」

「大丈夫か?」

 遂に魔壁蝨マダニからの反撃か?


「おっ・・俺のベレンJrがぁぁぁ!!!!!!」

「ジュニアっておまっ・・ぷぷっ」

 見れば、ベレンの股間に魔壁蝨マダニが喰い付いていた。


 笑ってはいけない。


「いま助ける」


 バイ~ン バイ~ン


「やめろ、ジュニアに響く」

「だったら、それどうすんだ?」

 これまで、斬っても傷一つ付かなかった魔獣だ。 対処のしようがない。


 ズパパパパーン!


 その時だった。 突然現れた女剣士の手で、辺りの魔壁蝨マダニは一瞬で粉微塵になった。


「森で騒がないで」

「ライラ、いったい何の騒ぎ?」

 現れたのは、マスタング辺土伯領主邸でハーベスト伯爵令嬢の護衛をしていた姉妹剣士だった。


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