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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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愚弟落つ

 突然現れた女剣士の手で辺りの魔壁蝨マダニは殲滅された。 しかし、未だベレンに噛みついた一匹が残っている。


「素材はいらない。 失礼するわ」

「まっ・・待ってくれ」

 俺達を見止めた姉妹剣士は、あからさまに嫌な顔をして、早々に立ち去ろうとする。 それは困る。 俺にはベレンを助けられない。


「君らは俺達をよく思っていないだろう。 しかし、彼は苦境の俺に手を差伸べてくれた親友なんだ。 どうか助けてやってくれ」

「お涙ちょうだいなようで、謝らない所がなんとも貴族だわ」

 ベレンに殴られたオレンジ髪の女が吐き捨てた。


「物心ついた頃からの癖なんだ。 気に障ったなら謝る。 昨日のことも」

「勘違いして欲しくないけど、個人的な感情で見捨てようとしている訳じゃない。 私達には助けられないのよ」

「何故だ? 闇の魔剣士は容易に魔壁蝨マダニを両断したではないか」

 彼女の剣ならベレンJrを避けて斬ることも容易に思える。


「知識のない初心者がよく失敗するのよ。 一度噛みついた魔壁蝨マダニは、死んでもその顎を離さないの」

「殺してから顎を開けば良いのでは?」

「それが無理なの。 肉ごと千切り取ることになるわ」

 肉ごと・・千切り取る?


「いやだぁぁぁ!!!」

 話しを聞いたベレンが取り乱して後ずさる。


「炎で炙るとか、雷魔法で気絶させるとか、方法はあるけどお勧めしない」

「アレも丸焦げ」

「やめてぇぇぇ!!!」

 千切れるか、丸焦げか・・とても選べない。


「では、どうしたらいい? 方法を知っているのだろう?」

「教えてもいいけど、マリアンヌ様に謝罪すると約束して。 酷い目に遭って傷付いてた彼女に、その男は追い打ちした」

 酷い目に遭っただと?


「いったい何が?」

「話せない」

 言われてみれば、あの時の彼女の取り乱しようは異常だった。


「謝る! いくらでも謝るから! 頼むぅぅ!!」

「俺からも謝罪する」

 とにかく今は、一刻も早くベレンを助けなければ。


 *****


 辺土に住む忌色の瞳を持つ土人ヌゥイ族。 各種薬草に彼らの独自魔法を施した鼻薬を使えば、魔壁蝨マダニは顎を外して逃げるという。 冒険者ギルドが緊急時用にストックを検討したが、残念ながら件の鼻薬は日持ちしないらしい。 作成はギルドを通じて領主に依頼すれば、半日ほどでヌゥイ族が用意してくれる。


 つまり、冒険者ギルドへ駆けこめば助けてもらえたのだ。


「坊ちゃまは我々が責任もって連れて帰ります」

「王都へ戻るなら、私も連れて行ってはくれまいか?」

 そして、魔壁蝨マダニ騒動の10日後、マードック侯爵家から迎えがきた。 ヌゥイ族の鼻薬で魔壁蝨マダニの顎は外れたものの、大量に血を吸われ、感染症に罹ったベレンは熱にうなされ続けた。 治療費がかさみ、路銀は絶え、挙げ句はギルドのベンチを借りて寝かせる状況に陥った。 俺がマードック侯爵に窮状を訴え、助けを乞うたのだ。


「我が主は、廃嫡されたエンリケ殿と坊ちゃまの関係を良しとしません。 願いは聞き入れられませんね」

「よくわかった。 ベレン様をよろしく頼みます」

 とうとう、俺は独りぼっちになった。


 *****


 金が尽きた俺は稼がなければならない。 このままでは、王都への帰還はおろか、明日の食費も賄えない。 異母姉に頼らないのは最後の意地だ。


「雑用でも荷物持ちでもいい。 俺をパーティーに加えてくれ」

「はぁ 止めた方がいいと思うよ」

 俺は恥も外聞も捨てて、件の姉妹剣士アイカとライラに頭を下げた。 ギルドで確認したところ、俺とベレンのパーティーが全滅(?)を喫した魔壁蝨マダニはこの辺りで魔蛭マビルと並んで最弱の魔獣だという、つまり、俺一人では生き残ることすらままならない。


「俺は身の程を知った。 強く美しい君達の後ろで学ばせて欲しい」

「顛末は知ってるから、同情はするけど無理なのよ」

 どうせ組むなら、夜の相手を頼める女がいい。 よく見れば、2人とも中々いい女だ。 王都に戻るまでの繋ぎとして悪くない。


「もう一度考え直してくれ」

「貴方のために言ってるの」

 王都の令嬢から羨望を集める俺をなぜ拒絶する? 


「まさか異母姉上から何か言われたのか?」

「下種の勘繰りは止しなさい」


 *****


 アイカとライラ姉妹に袖にされた夜。 俺は己の浅はかさを思い知る。


「おめぇ 俺の女に手を出したなぁ」

「なんだ貴様?」

 2人の恋人を自称する少年に襲われたのだ。


「おらぁ 死ね死ね死ねぇ!!!」

「くっ くくっ ぐあっ くそっ」

 技や力の問題ではない。 狂気を孕んだ明確な殺意に身が竦む。


「死ね死ね死ね死ね死ねぇ!!!」

「ぐっ・・がはっ かっ」

 俺は路地裏に引き倒され、馬乗りになった少年にメッタ刺しにされる。 王都の煌びやかな街並み、花の咲くマリーダの笑顔、将来を嘱望される優秀な仲間達、全てが遠く夢のようだ。 俺はいま、血と泥に塗れ、惨めな最期を迎えようとしている。 父上、俺はいったい何処で間違ったのでしょうか? 


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