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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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聖女防衛戦線

 豪剣ムラサメの威力もあって、思惑いじょうに素早く騎士隊を制圧することができた。 この大剣は、鋼鉄の槍や鎧を両断しても鋭さに衰えがない。 『潰す』ではなく『切る』ことを前提に戦い方を修正した方が良いかも知れない。


 但し全てが思惑通りとはいかなかった。 逆翼にいた伏兵はなんと魔導七剣士だったのだ。 多少ドタバタしながら駆けてきた彼らと必殺の距離で対峙する。 月明かりでも十分に顔が判別できた。 知った顔は居ない。


「其処元はレグルス殿旗下の剣士であるか?」

「・・・。」

 牽制も兼ねて声は掛けてみたが返事はない。 まあ、ここで『レグルス様の不興を買うお前を討つ』とか宣う馬鹿ならば苦労はない。


 ドド―――ン!!!


 機械科部隊の砲撃が再開された。 主戦力の騎士隊が全滅して同士討ちの心配がなくなったからだ。 僕からは距離を取って魔剣士が立つ位置とは反対位置に攻撃を集中するようだ。


「シッ」


 キィ―――ン!


 流石は七剣士、袈裟懸けの一刀をいなして捌いた。 彼らの握る魔剣は軽量かつ鋭い、加えて射程を魔力で変化させられる優れものだ。 しかし、そんな魔剣も万能ではない。 物理的な衝撃に脆いのだ。 故に彼らは、変幻自在な間合いとスピードで相手を翻弄する戦闘を信条とする。


 『大剣』(クラッシャー)『魔剣』(トリックスター)はまさに対極にある武器だ。


 ザザザザザザッ


 七剣士が連携を取りつつ間合いを詰めてきた。 文字通りの七色の斬撃が虚実交えて襲い掛かる。 いやいや、これ無理じゃね? 


 早々に白旗宣言だ。


 ところが彼らは『ぐっ』とか『ちっ』とか舌打ちしながら芳しくない動きをする。 要所要所で動きが鈍り、喰らうと覚悟した一撃が寸での所で微妙に逸れる。 見れば皆さんかなり苛々されておられる。


 とはいえ、相手はレビゾンの魔導七剣士だ。 精霊の悪戯を気迫で耐えて圧力を増してきた。 飛ぶ斬撃に消える斬撃、軌道が変化する斬撃まである。 辺土統括軍で彼らの手の内を知る機会がなければ、最初の数合いで切り伏せられていた。


 特に赤髪のイケメン魔剣士がやばい。 蝶のように舞い蜂のように刺すを体現する技量だ。


「ぐへ」

 そのイケメン魔剣士が華麗なステップで逆袈裟の体勢になった瞬間、足を取られた彼は仰向けにすっころんだ。 足下から僕を見上げるイケメン顔。 自分に何が起こったかよく解ってない表情だ。


 なんかごめん。


 「なっ! 待て・・おがぁ!」

 顔面をドガッと踏み抜いてワンダウン。 


「おい貴様! シュナイダー様に何てことを! だいたい、先程からチクチクチクチクと恥を知れ!」

「そんなこと言われても」 

 とうとう切れた魔剣士が抗議してきた。 そばかす顔の女魔剣士さんだ。


「みなさん調子が悪いみたいだし今日は帰ったら?」

「そうはいくか! 貴様は皆が憧れる薔薇の貴公子シュナイダー・ローズ様のご尊顔を踏み潰したのだぞ」

 ムズムズする二つ名の御方だった。


「ぜったいに赦さん!」

 女魔剣士さんは大層お怒りだ。 そこに。


 ダカカカカカカカッ


「む?」

「なっ・・なんだ?」

 突然響く無数の馬鳴り。 俄かに上る朝日に照らされたそれは、横隊でレビゾンの機械科部隊に迫る白いマスクの騎士およそ100騎・・2個中隊規模の聖騎士団だ。


「不味いぞ。 やられる」

 七剣士の誰かが思わず呟いた。 速力を上げた聖騎士は既に馬上槍ランスを脇に構え突撃体勢に入ってる。 魔導士と工兵で編成された機械科部隊に抗う術はない。


 ダカカカカカカカッ!!!!!!


 背を向け逃げる者、降参の意志を示す者、そんな彼らに聖騎士団の馬上槍突撃ランス・アタックが襲いかかった。 一方的な殺戮は投降を赦さず、死屍累々と屍を積み上げていく。 酷い。


 僕と魔剣士たちは、その場に立ち尽くす。


「不埒な狂信者どもを迎え撃つぞ」

「・・シュナイダー様?」

 そんな中、最初に口を開いたのは、いつの間にか復活した薔薇の貴公子シュナイダー・ローズだった。


「横槍を入れて奪うやり方は許せん。 貴公もここは休戦といかないか?」

「・・いいだろう」

 朝日をバックに眼差しを向けるその姿は、さぞ様になっていた事だろう。 鼻血が垂れていなければ! つらい。 ここで笑ったら絶対に怒る。


「ふっ 味方となれば、なんと頼もしい男だ」

「・・お互いさまだ」

 む・・無理だ。 これ以上、言葉を交わしたらボロが出る。


「終わったら再戦してもらうぞ」

「先ずは奴らを片付けてからだ」

 魔導七剣士プラスワンが走り出す。


 +++++


「他愛ないな。 レビゾンの筒持ち兵には矜持の欠片も感じられん」

「大勝利でございますなグーテレス隊長」

 レビゾンの伏兵が秘密裏に動きだしたことは察知していた。 奴らが兵を動かせば我らも部隊を動かす大儀を得る。 王配派の連中も治安維持を咎めることは出来ないからな。


「魔導筒は回収しておけ。 美しくないが多少は役に立つ」

「ははっ それで聖女は如何しますか?」

「生臭神官の朝は遅いからな。 包囲して逃げ道だけ塞いでおけ」

 聖法結界を解除するには高位神官を頼るほかない。 手柄を横取りされるようで実に気に喰わん。


「大変ですグーテレス隊長!」

「なんだ? 騒がしい」

「化け者が・・化け物が悪魔を従えて襲い掛かってきます」

 化け物だと? この辺りに魔獣が出没するなど聞いたことない。


「本陣から増援を回せ。 包囲に穴を開けるなよ」

「無理です」

「なんだと?」

 副長が私に口応えするとは、戦果に気を大きくしたか? 若者は往々にしてこの手の勘違いをする。


「がぁぁぁ!!!」

「なっ?」

 突然の出来事。 副長は胸から鮮血を吹き出して絶命した。 彼を背中から貫いたのは、鼻血を垂らした蒼髪の魔剣士。


「包囲を解くか? それとも徹底抗戦するか? 私はどちらでも構わんぞ」


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