悪戯の天使
いま、俺は新しい婚約者ヴェロニカさんと2人きりでホテルの一室に居る。 ほんのり甘くやや苦い香り。 これがシルフィーナにはない大人の色香というものだろう。
「どうぞお寛ぎになって。 いまお茶を淹れますわね」
「あ・・ああ」
き・・緊張して気の利いた言葉が見付からない。
「そ・・そう言えばレグルス殿はご不在か?」
「あら? やはり兄上とお話がありましたか。 当然ですわね・・男性は女より天下国家と政がお好きだから」
ヴェロニカさんは『ふぅ』と納得したように溜息を一つ落とした。
「違うよヴェロニカ。 俺は君に会いにきたんだ」
「・・まあ、嬉しい」
一転して花のような笑顔を咲かせるヴェロニカ。 俺が彼女を笑顔にさせた。 その事実がくすぐったい。
「今日は2人の未来の話をしよう」
「ふふふっ 少し照れ臭いですわね」
*****
「・・そのレビゾン旧皇領に綺麗な湖があってね」
「うんうん」
「畔のコテージがとても素敵なの。 アキラ様もきっと気に入るわ」
「ほう、確かに行ってみたいな」
嬉しそうにあれこれ話すヴェロニカ。 俺との生活が待ちきれないのだろう。
「女の退屈な話に耳を傾けて下さって。 アキラ様は本当にお優しい方だわ」
「ふっ 君がそうさせるんだ」
「アキラ様が居られれば、兄にもしものことがあった時も安心ですね」
「・・もちろんだ」
もし皇帝が死んだら俺はどうなる?
「兄にもしものことがあれば、私が旧皇家を継がねばなりません」
「・・そうなるのか」
ヴェロニカが旧皇家の当主に。
「その時は私に代わって即位して下さいますか? 女の私に政なんて」
「君が望むなら力になろう」
なんて可愛い女だ。
「兄の婚約者は300年前に帝位を簒奪したゾンダの狂犬・・ダイアナ様ですから。 いつ暴走した彼女の手で兄にもしものことがあっても不思議ではありませんわ」
「安心していい。 その時は、俺がヴェロニカと旧皇家を支えよう」
「なんと頼もしい。 これでいつ兄にもしものことがあっても大丈夫ですわね」
あの狂犬がレグルスを殺せば。
俺が新生レビゾン帝国の皇帝だ。
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「勇者は帰ったのか?」
「ああ、身体中を舐め回してご満悦さ」
アモンはあざといポーズでおどける。
「毒婦ヴェロニカの魅力にどっぷりか・・異世界の勇者も他愛ないな」
「貴様がその名で呼ぶな」
「あーあー、怒るなよアモン」
100人の乙女を生贄に捧げて私が召喚した天使アモン。
「その姿を選んだおまえも悪い」
「適任だろ? レビゾンの血縁なうえ何より実績がある」
アモンが擬態するその姿は『傾国の美女ヴェロニカ』レビゾン皇家が300年前に帝位を追われるきっかけを作った毒婦のものだ。
「ふざけた奴だ。 きっちり仕事は熟してもらうぞ」
「俺は女神メフィストフェレスの天使であって貴様の下僕ではない。 間違うなよ」
まあいい、俺とアモンの利害は一致している。 全ては順調。 このままいけば。
俺が新生レビゾン帝国の皇帝だ。
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形式的な出国の挨拶諸々をジルベルトに任せ、夜のうちに聖都を脱出した。 ヘロウ公爵家から馬車1台と騎士5名を借り受けている
「ダイアナ様もご一緒できたら良かったのに」
「彼女は聖都に残ってレグルスを監視してくれてる。 またすぐ会えるさ」
借りた馬車はセミダブルの寝台とティーテーブルが設置された寝台馬車だ。 この車内に4人で乗り込むのだから、さながらパジャマパーティーの様相を呈している。
「ところで私を連れ去ろうとは如何いう了見かしら? これは王女誘拐よ」
「なんだよ。 当たり前のように付いてきたくせに」
「国外に脱出するなんて聞いてないわ。 私は曲がりなりにもこの国の王女なのよ」
ギャーギャー騒ぐシルフィーナ。 僕だって連れてくるつもりは無かった。 でも、サトシに『娘達をよろしく』とか『娘達を護って』とか繰り返し言われては察してやるほかない。
「じゃあ、戻ってアキラの側室にでもなるか?」
「ぜったい嫌! あの権威至上主義の屑が私を丁重に扱う訳ないわ」
「だったら辺土でのんびり暮らせばいい」
「どうせ私の身体が目的でしょ? だから誘拐したのね」
否定はしない。
「ブルース様、フィナの身体に何かあるのですか?」
「さあ、何があるんだろうな」
そうか姉妹丼もありだ。
帰りの道程はバドック王都を経由せずに直接辺土に向かう。 東の国境さえ越えればマスタング辺土伯領だ。




