異世界からきたお父さん
宿泊先のホテルに戻った僕は。
「うぇ―――ん!!! ブルース様に嫌われましたわぁ!!!」
ピーピー泣くセレスティアの前に土下座をしながら。
「流石にあれはやり過ぎだ! このっ! このっ!」
「よくも私のお義姉さまを! このっ! このっ!」
ダイアナとフィナにガシガシ踏まれてる。 ん? フィナだと?
「フィナ、こんな所で何をやってる?」
「追いかけてきたに決まってるでしょう? これ以上お義姉さまを傷付けさせはしないわ」
これまでシルフィーナ王女とは、アキラを篭絡してセレスティアを貶めた毒婦だと聞いていた。 しかし、アップル姫として出会った彼女・・フィナはありふれた世間知らずのご令嬢で、少なくとも率先して義姉を陥れる心根の持ち主ではない。
「フィナぁ―――! 私もフィナを護りますわぁ!」
「・・お義姉さま?」
シルフィーナが自分を助けにきたと聞いて、セレスティアは彼女に抱き付きオイオイ泣き始めた。
よく解らないけど良かった。
コンコン
「マスタング辺土伯さま、お客様がお見えになってます」
「客?」
このタイミングで?
ジルベルトは『知らない』と首を振り。 ダイアナは『暗殺ではないか?』と耳打ちしてくる。
「どんな御人だ? 何と名乗っておられる」
「はぁ 中年の紳士お一人で『娘の父』とだけ。 お断りしましょうか?」
暗殺者にしては違和感がある。 ふむ
「解った。 応接に通してくれ」
*****
「これは驚きましたな」
「なに、これでも若い頃は、それなりに勇者として活動してきた。 隠蔽魔法くらい造作もない」
応接で待っていたのはサトシ。 セレスティア、シルフィーナ姉妹の父で現女王代理だった。
「ブルース殿、君に頼みがあってきた」
「セレスティアは教会に渡しませんよ」
一人お忍びできた状況からして、蛮族は演技だとバレている。 もう、いろいろ誤魔化す必要はない。
「ああ、それでいい。 寧ろ彼らから娘達を守って欲しいと頼みにきたのだ」
「貴方ならセレスティアを庇えた筈だ。 それを今更」
「買い被りだよ。 私はね、召喚される前はあっちの世界で運送会社のドライバーだった。 戦う術など知る由もない、勉強も苦手で何方かというと落ちこぼれの部類だった」
サトシの告白は、世界を渡った男の赤裸々な半生だった。
*****
「私は力を持たない繰り人形だ。 無知なドライバーに政治は難しい。 つい先日など、エルフの娘に『陰謀の才能ないわね』と揶揄されたよ」
「長命な彼らから見れば、人間の知恵なんて大差ないですよ」
この人はただの不器用な父親だった。 セレスティアに冷たかったのは、彼なりに教会から娘を護っていたのだろう。
「君に伝えなければならない事がある。 レビゾン、シンセス、両国の過激な勢力がティアを捕らえて『結界装置』にしようと目論んでいる」
「愚かな・・本当に試みる者がいようとは思わなかった」
聖女の魔力は慈愛の精神に宿る。 故に歴代の聖女は強欲な権力者に阿らなかった。 その結果、聖女を隷属させる試みが闇で行われ尽く失敗してきた。 『聖』と『呪』は互いに反発する。 隷属の呪具『制約の首輪』を嵌められた聖女は、力を失い深い眠りに落ちてしまう。 僕らが最も警戒する事態だ。
「悪辣だが愚かとも断じきれない。 レビゾン連邦の最新式『制約の首輪』は、聖法魔力を持つ回復術師の制御に成功したらしい」
「はた迷惑な」
何でも最新式にアップデートすりゃいいってもんじゃない。
「追手が掛かる前に出国した方がいい」
「解りました。 今夜にも出発します」
そうと決まれば早きこそ吉だ。
「あと、これは私からの餞別だ」
「・・なっ! これって」
立ち上がろうとした僕を片手で制すと、突然サトシは何もない空間から大剣を取り出した。
「私は向うで運送会社に勤めていたと話しただろう? 勇者のくせにこのスキル・・『亜空間収納 LvⅢ』を持つ理由はその為だ」
成る程、前世の経験が活きるということか。
「君にこれを・・くっ やはり重いな」
「立派なバスターソードですね」
艶消しグレーの刀身が冷たく光る。 ただの鋼でないことは明らかだ。
「痛っ・・えらくシャープだ」
「エッジは私の世界の日本刀に近い。 叩き潰すバスターソードとは設計思想が全く違う」
「あまり繊細な武器は駄目にしてしまいそうだ」
手に取った剣は刀身に触れただけで指先が切れるほど鋭かった。 切れ味抜群は結構だが使う度に刃こぼれしては実用性に劣る。
「案ずるな。 これは魔隕鉄と呼ばれる特殊な金属を使い、ピーカラン山脈のドワーフ族が打った特別製だ。 破壊力のバスターソードと両断する日本刀の特製を併せ持っている」
「恐ろしい代物ですね」
「ピーカラン山脈に3年間も籠って、ドワーフの棟梁に頼み込んだ成果なんだがな。 如何せん、私の膂力ではまともに振ることもできない。 君なら扱えるだろ?」
「・・確かにいい重量感だ」
通常の5倍はあろうか。
これはいい物をもらった。
「我、サトシ・イイダ・シンセスは『豪剣ムラサメ』の所有権をブルース・マスタングに移譲する。 新しき主とその寄り人に天照の恩寵のあらんことを」
「謹んでお受けします」
神器と呼ばれる武具には神の力が宿っている。 所有するに当たって神様にお伺いを立てる必要があるのだ。 はて? 女神はメフィストフェレス一神だった気がする。
「ムラサメに宿る神と私の真名は内密に頼む」
振り返ったイイダ・サトシは口元にシッと指を添えた。




