表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残り物には福がある  作者: 橘 葵
23/106

王都へ

 頭を潰した赤紫の魔人はこぶし大の魔石を残して灰になった。 


 魔人とは人型の魔獣とも異界の悪魔とも呼ばれるがその正体は解っていない。 数十年に一度の周期で現れ、街に潜伏して悪事を働く。 少年の姿で受付嬢に近付いた理由は、彼女に好感を抱かせ魅了する為だろう。 そして、彼女を媒介に女日照りの冒険者を支配する。 その後に起こるであろう混乱は想像するにゾッとする。


「お陰で助かった。 留守の間に領都が滅んだ可能性もあったと思う」

「ええ、本当に良かった。 やっぱりブルースは頼りになるわ」

 戦う女に覚醒したジャネット()()は歴戦の友みたいな物言いをする。 実際に手慣れた連携だった。


「この場の処理はギルドに任せて一旦屋敷に戻ろう。 色々とほったらかしだ」

「そう言えば、王都を経由してシンセスに向かう予定だったわね」

「・・そうだよ」

 それを君が強引に停めたとは言わない。 恩人だからな。


「私も一緒に行くわ。 この際だからティアも救いたい」

「君さえ良ければ助かるよ」

 王都へ寄るのは同行する大使と合流することと、ついでにジャネットとマリアンヌの実家に挨拶する目的もある。 前世を含めて妻の実家に挨拶(事後報告)は初体験だ。 本当に助かる。


「お父様とは10年振りか。 ふふっ 変な感じ」

 もう、あれこれツッコむまい。


 *****


 王都への道程は馬車で5日ほどの旅となる。 最初の夜は開拓村の近隣で野営して、以降は街道沿いの宿が利用できる。


「やっぱ若い身体は最高ね」

 2日目の宿でジャネット()()は新たな覚醒を披露した。 エッチなお姉さんの猛攻にオジサンたじたじである。


 そんな気持ちのいい・・もとい楽しい旅程は順調に進み。 5日目の正午過ぎには王都の表玄関に到着した。


 *****


 王都に着いて早速 面会依頼の使者を方々に送ったのち予約したホテルに落ちついた。 ベアトリスが手配した3つ星の高級ホテルである。 高額な宿泊代に反対したものの、必要な出費だと主張する彼女に押し切られた。


「元気そうで何よりだね」

「おかげさまで。 それより今回は相当な被害が出たとか、心配していたのよ」

 そして、王都に着いた翌日、僕は貴族向けのアパルトメントを訪れている。 一人で暮らす母に会うためだ。


「何とか命を拾ったよ。 聖女様のおかげでね」

「セレスティア様もお元気かしら?」

「それはもう。 少し大人っぽくなってきましたよ」

「まあ」

 他愛のない近況報告に花が咲く。


 *****


 そして本土に入った。


「こんな部屋を借りて、母さんは戻ってくる気が無いの?」

「偶に会えればいいじゃない」

 母は前々回の掃討戦が終わった辺りからずっと王都に滞在している。


「いったい何の為に? 何か不満があるなら言ってください」

「ふふっ 私も王都の社交界に興味があって」

「母さんは都会が苦手でしょ? 気取った茶会も」

「王都で所領の物産をアピールをすることは貴婦人の務めです」

 そんなの、領地に帰りたくない都会かぶれの世迷言だ。


「で、本当は何故です?」

「もう。 女の秘密を暴こうなんて悪い子に育てた覚えはありません」

「心配なんだよ。 母さん」

「その言い方はずるいわ」

 そして、やっと母は本心を語ってくれた。


 5年前、父が他界して成人前の僕がマスタング辺土伯家を継いだ。 そして、若い領主に対し相対的に母の影響力が強くなる。 当時の僕はその気配を察していたものの、親子関係は良好で何の問題意識も無かった。 しかし、ベアトリスを迎えて状況は変化する。 大奥様派と奥様派で家内が割れたのだ。 


「はた迷惑な」

「あら、派閥の形成は大事な処世術よ」

 理解はしたけど納得いかない。


「では、邸内に離れを建てましょう」

「それこそ対立が顕在化するわ」

「じゃあ王都にタウンハウスを・・アパルトメントに一人なんてあまりに」

「半端なタウンハウスを構えては他の貴族から侮られるわ。 維持費だって馬鹿にならない。 せっかくベアトリスがあれこれ計画してるのに足を引っ張りたくない」

 でも、だからって。


「心配ないわ。 いまこういうアパルトメントは若い貴族の間でブームなのよ。 家政婦や護衛も常駐してるし、慣れると小じんまりとした感じが落ち着くのよね」

 日本の3LDKマンションと比べれば格段に広く機能的な空間。 前世の感覚では十分贅沢な邸宅ではある。 でもさ。


「バァバが居ないとミィカが寂しがる」

「たまに会いに行くから」

 少し寂しそうに微笑む母に、それ以上なにも言えなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ