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残り物には福がある  作者: 橘 葵
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奥様攻略

 王都に到着して数日でアポイントメントは取れた。 使者を送ったのはベアトリスの実家ヘロウ公爵家、ジャネットの実家マッケィン侯爵家、マリアンヌの実家ハーベスト伯爵家、あと王城だ。


 先ず王城に行った使者がその場で断られた。 シンセス聖教国との賠償交渉は外交案件なのだが、彼らは辺土に興味が無い。 まあ、筋を通しただけで予想通りだ。


 嫁たちの実家からは順次返事があり。 今日はジャネットを連れてマッケィン侯爵家を訪れている。


「こっ・・この度はお日柄も良く。 義父様に於かれましてはご壮健で・・・。」

「義父と呼んでいいと許可した覚えはないが」

「はうっ!」

 やっちまったー!


「父上、おふざけが過ぎます」

「いいじゃないか。 一度やってみたかったんだ」

「あははー ですよねー」

 なんだ冗談か。


「改めて自己紹介させてもらう。 私がマッケィン侯爵家の当主ジョセフだ、隣が次男のジョージと妻のミリアン」

「これはご丁寧に。 私はブルース・マスタング、若輩ながら辺土伯を賜っております」

「うん。 噂に違わぬ精悍な男ぶりだ」

 えっと・・噂って好色な変態云々かな?


「先ず礼を言わせてくれ。 ジャネットを救い出してくれて本当にありがとう」

「頭を上げて下さい。 私もまさか教会があのような非道を行うとは想像だにせず、恥じ入るばかりです」

「教会内は治外法権だ無理もない。 女神の代弁者が聞いて呆れるよ」

「ご尤もです」

 教会を公然とに何する貴族はこの国では珍しい。


「そしてジャネット、辛い思いをさせてしまった。 不徳な父を責めてくれていい」

「お父様に非はございませんわ。 それより、報告を受けて尚シンセスに抗議しない議会こそ問題です」

「結局、相変わらずですか」

「残念ながら。 私には当事者であるからと発言権すら与えられない」

 勇者暴走の件でも、レビゾンは責任を追及しているがバドックに動きはない。 結局、僕が直接乗り込む羽目になった。


「暗い話はここまでにしましょう。 こちらが結納品の目録です」

「おお、これはご丁寧に・・って魔狼ウルフの毛皮20体分に壁蜥蜴ゲッコーの革を10体分も?」

「下処理を施しただけの素材で恐縮ですが、加工は王都のインポートブランドに依頼した方がよろしいかと思いまして」

壁蜥蜴ゲッコーの革を使ったエルメのバキ―ンは400万Ptはしますのよ! それが10体分も」

 反応は上々だ。 だめ押しに。


「奥様にはこれを」

 僕は取り出した化粧箱を開きながらテーブルに置いた。


「まあ、素敵ね」

 化粧箱に納められているのは赤い宝石を奢ったシンプルなネックレス。 言葉とは裏腹に反応は淡泊だ。


「こちらは一見すると大粒の魔榴石ガーネットのように見えますが」

「まさか魔石ですか?」

 横から口を挟んだのは次男のジョージ。 魔石とは魔獣の体内から取れる魔力を帯びた宝玉。 通常、体長5メートルの魔狼ウルフから取れる魔石で2㎜ほど。 この赤い魔石は親指大はある。


「はい。 今季、私が斃した大百足センチから取れたものです。 全長100メートル越えの大物でした」

「ひゃっ・・100メートルの大百足センチ

「こちらも原石でお持ちしようかと考えたのですが、ご迷惑が掛かるからと止められまして」

「・・どういう意味ですかな?」

 結納品を揃えるにあたって手配を行ったのはもちろんベアトリスだ。 同じ質問をした僕に彼女は説明してくれた。


「長命な大百足センチは生涯成長し続ける魔獣です。 巨大に成長した大百足センチの魔石には不老の加護があると言われております」

「なんですって!」

 奥様・・ミリアンは思わずといった様子で立ち上がる。


「・・それ程までに貴重な物を受け取るわけには」

「ありがたく頂戴いたしますわ!」

「・・おい!」

「母上ったら」

 断りかけたマッケィン侯爵を押し退け、ミリアンはネックレスを豊満な胸に仕舞い込んでしまった。 もう絶対に手放さない構えである。


「この件はこの場限りと言うことで」

「ですな。 妻が失礼しました」

「いえ、喜んで頂けて嬉しいです」

「では・・ミリアンはジャネットを連れて下がりなさい」

 ここからは貴族の当主同士の密談だ。


 +++++


「ジャネットちゃん。 苦難を乗り越えよく頑張ったわね」

「ええ、マリアンヌと二人で何とかね」

 娘を労りながらも、母は落ち着きなく首に下げたネックレスを弄っている。


「それで・・マスタング卿は遠征以外で『奈落』に行ったりするのかしら? こう素材を集めにとか」

「『奈落』への降下は高度に軍事的なオペレーションだと聞いているわ。 個人で行けるような所ではないと思う」

 母は42歳にしては十分に若々しい。 でも加齢による肌の衰えは万人に平等に訪れる。


「欲しい素材のリストをお渡しすれば、遠征に行ったついでに回収して頂けたりするわよね? もちろん全て買取るわ」

「善処してくれると思うけど生き残るのに必死な状況なのよ。 希望が叶うとは限らないわ」

「もう。 意地悪しないでジャネットちゃんからもお願いして」

 やれやれ、ベアトリス様の思惑通りとはいえ。


「素材を回収する余裕を持たせる為にも」

「支援の件なら私に任せなさい」

 自分の家族が掌で転がされるとは何とも微妙な気分だ。


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