第32話 それは運命、彼方より来たり
あと1……
世界を断つ者の脅威、未だ黒は白を追い詰める……
いずれ必ず黒に屠られる……しかし運命は、"彼"に依って大きく揺れる────
白いオーラと黒いオーラ、純白の姿と漆黒の姿、白と黒そのもの。その激突、激突に次ぐ激突、ひたすらに激突! 今この場に存在するは、太古の因縁でも、魔法使いの性でも、この世界の危機でも無く、純粋に力と力をぶつけ合う最強同士だ。
「『七色魔手・火』! 『煌嵐原始炎』ゥッッッ!!!」
『【完全再現・燃え盛る赤き龍】!』
霊乃が雷炎の化身たる火の魔女の技を用いたと同時に、黒の男が幻真の技を用いて来た。赤い龍が男の左手の拳に吸われるようにして火炎と化し、同時進行で稲妻走る業火が霊乃の右手の拳に灯る。互いに拳を突き出した瞬間、解き放たれる灼熱、迸る炎……
周囲100kmを容易に焼き溶かし、一撃で地形を変えていく。一瞬で焼かれた建物は跡形も無く消し飛んだものも有れば、溶け流れて地面と一体化するものも有った。
そんな地形を変える一撃を放って尚、白と黒は拳を突き出したまま、押し付けあったまま……
「はぁぁぁぁぁああああああーーーーッッッ!!!」
『おぉぉぉぉぉぉおおおおおーーーーッッッ!!!』
咆えて更に力を拳に込めて全身を使い、押し切らんとする!
灼熱の炎で変形した景色が二人の膂力の衝突で更に変形する。膠着状態に陥ったなら不利になるのは、恐らく白の方だ。ならば力のぶつけ合いより、技で挑むのが吉。
「『七色魔手・水』! 『神に好かれた聖水』!!!」
『【完全再現・縦向きの渦潮】!』
激水の使徒たる水の魔女の技、指先に水を集めて超高密度に圧縮した水の球体を形成する。直後に炸裂させて放たれるレーザー状の極太水流は、黒の男の目の前で展開される渦回転の障壁に完璧に防がれた。
男は更に右足を低く振り上げて僅かに溜めた後、水流を完全防御した回転障壁を霊乃に向かって蹴り飛ばした。回転障壁は水流を物ともせず無力化しながら霊乃に目掛けて飛んで行く。
「『七色魔手・地』! 『超絶怒涛滅凄覇』!!!」
これぞ大地の暴君の絶技、全身を使った右拳の打突は水流を蹴散らす回転障壁を容易に打ち破り、その先に居る黒の男諸共殴り飛ばさんとする。が、男は霊乃の拳の一撃の衝撃波を身を翻して躱し、天地逆さの状態で膝蹴りを繰り出して来た。
眉間を一点に狙う膝蹴りを間一髪両手で防ぎ、即座に男を蹴り離そうと右足を前に突き出した瞬間、黒の男が右足を肩に抱えて掴み、体を左へ振って霊乃を無理矢理錐揉み回転させる。体に無理矢理回転が加わり、為す術無く回されると、男が回転の中で体勢を整えて彼女の右足を掴んだまま左足の踵を霊乃の背中に叩き込む。
背中、背骨から伝わる超重量の一撃に驚きと衝撃で霊乃は思わず肺の中の空気を全て吐き出した。更にそこへ男は蹴った直後の霊乃の背中に左手を翳し、蹴りの威力でグンッと動く瞬間の彼女の上半身へと追い討ちを掛ける。
『【完全再現・切り刻まれる空間】!』
男の左手から透明な球体状の空間が発生し、霊乃を覆い尽くすと全身を容赦無く斬撃と言う斬撃で滅茶苦茶に切り刻み始めた。右足を未だ男の右手に掴まれたままの霊乃は、防御不可能の無数の斬撃に晒され、その肉体を次々と切創が覆っていく。
「ぐぅぅぅッ!! ぬぅぅぅうううううううああああああああああッッッ!!?」
振り解こうにも右足を掴む右手の握力が桁違い過ぎる。もし変に暴れようものなら、男に右足を潰され兼ねない。当然の話だが耐えるにも限度がある! 一体どうすれば? 何か手は無いのか!?
「炎龍! 水龍! 雷龍! 風龍! 氷龍! 暗黒龍! 光龍! 幻龍!」
「『霊魔追尾弾』! 『縦向きの渦潮』!」
「圧縮! 凝縮! 螺旋! 回転! 歪曲! 密集! 『圧縮される空間』!!!」
霊乃が壮絶な無数の斬撃に苦悶するその時、黒の男目掛けて8体の龍が大口を開けて襲い掛かる。男はこれを全身から発する圧のみで消し飛ばすと、今度は背後から螺旋の弾丸が数兆、数京、数垓と飛来し、夜桜の技の応用で防いだ瞬間、眼球数ミリの位置に乱回転する極小の球体が突然現れた。
直後、極小の球体は男の正に目の前で横に巨大化し、凶悪な二次元的殺戮刃と化した。頭部を頭蓋とその下で分かとうとする凶悪な回転障壁は男の体を反らした回避で敢え無く躱されてしまうが、その際の驚きと怯みでつい霊乃を手放した。霊乃を再度掴もうと右手を伸ばすが、それをさせまいと男の進行方向にのみ目の前の空間が閉じるように収縮する攻撃に咄嗟に手を引っ込め、その隙に青空のような澄んだ閃光が駆け抜けて霊乃をその場から攫う。
『……なかなかやってくれるじゃあないか。なぁ、幻真ぁ! 夜桜ぁッ!! 海斗ぉぉぉッッ!!!』
この見事な連携に感動と苛立ちを覚えた男は各々の名前を叫んで呼ぶ。その一声一声で地球は勿論のこと、ゴゴゴゴッッッと宇宙がまるで恐怖でも感じてるかのように強く震える。
そうだ。8体の龍も弾丸も回転障壁も収縮する攻撃も、果ては霊乃を攫った閃光も、全て彼等の行動であり成果だ。その一部始終に翻弄された黒の男の結果はご覧の通り大層御立腹のようだ。
この気迫、この威圧だけで白旗を掲げて回れ右をしてしまう勢いだ。だがそれでも退けない。退ける筈が無い! 何故なのか判らない、でも、確信している事はある。
霊乃だけが、あの男を止められる。この戦いに終止符を打てる唯一の存在なのだ。なら、死なせるワケにはいかない……いかないんだ!!!
「み、皆さん……すみません、助かりました……」
「頼むぜ霊乃、まだくたばるタイミングじゃ無いだろ?」
男の猛攻から解放された霊乃は一息吐いてから三人に礼を口にして海斗の腕から下りて自身の足でしっかりと立つ。立って直ぐに背後の海斗から鼓舞の言葉が霊乃に入る。当然と言わんばかりに海斗に笑顔を向けた後、霊乃は正面を真っ直ぐ見詰め、黒の男を視界に入れた。
今一度睨み合い、静かに威圧をぶつけ合う。そこに、白の背後に、胸を押さえながら口から血を垂らして歩いて来る男と、僅かに宙に浮きながら左腕と左脚が力無く重力負けして揺れる女が集まって来た。
彼等彼女等も、まだ出し切れてなどいない。
「腕や脚を折られたくらいなんだっての……こちとら右腕と右脚一回無くしてんだから!」
浮遊しながら右腕と右脚に力を入れて夜桜は言葉を放つ。闇の魔女……オンブラ、私に勇気を与えて頂戴……恐怖をコントロールする、黒を踏み抜く勇気を────
「肋骨が全部逝っていたとしても、呼吸は出来る。こっちに至っては逆に腕と脚の骨は生きてるからな」
口周りの血を拭いながら掌を閉じて拳に変えて強く呟く。木の魔女……ブルーム、俺に意志を与えてくれ……撃破する為であり、黒を倒すと言う確かな意志を────
「俺は無双のお陰で骨も折れなければ傷も負わない。代わりにダメージは有るが、見た目に無けりゃ気合いで幾らでも耐えられるんだよ!」
全身から発する強風で自身の血を弾いて気合いをまま口にする。天の魔女……シエル、俺に覚悟を持たせてくれ……これで終わるつもりなんて毛頭無い、黒を制して生きて帰る為の覚悟を────
「貴様を倒すのは私であり、みんなであり、七聖魔法士の全員だ。生半可で倒せると思うなよ!!?」
三人の言葉を背に感じて、霊乃はもう一度なった白の姿で更に魔力を爆発させて咆える。皆さんの力の、全部を使わせて頂きます。その代わりに、私が必ず、みんなが必ず、この世界の平和を取り戻す!!!
『それはこちらのセリフだ白よ。生半可で俺に挑んでるのが良い証拠だ、やっと完全体になったらしいがお前はまだまだ雑魚程度だ!』
「生半可……それは否めないのかもしれない。強い黒自身が言うのだから尚更だ。でも、こちらも生半可なつもりは無いぞ黒。白単体で生半可なら、僕達を、全てを合わせて、お前に勝つ。そうだろ霊乃ちゃん、それと馬海斗くん」
唐突に聴こえて来た声に、黒の男よりも海斗が先に気付いた。黒の男の発言に対し肯定しつつもそれを認めず覆さんとする覚悟ある言葉を放つ者。分厚い本を片手にかつて超高層ビルだった瓦礫の山の頂点に立ち、男を驚かせた。
それはシルク。右手を砕かれ蹴り飛ばされた彼が、今や砕かれた筈の右手でしっかりとペンを握り、その場に立っている。
『驚いたな。お前、怪我はどうした? 見るに壊した右手の骨が見事に治癒しているが、まさか……』
「御察しの通りだよ黒の男。僕のこの本で治癒の証明を書き上げた。ご覧よ、もう全員完治済みだ」
男がシルクの言葉の終わりを耳にした直後、周りから気配が集まって来ているのを感知した。見るまでも無く、それが彼等彼女等の気配である事は理解出来た。
如何やらハッタリでは無いようだな、尤も右手が治っている時点で当然ではあるが。はて、少々手加減が過ぎたかな……
『塵も積もればなんとやら、か? 霞を集めて一体何山を作ろうと言うんだい?』
黒の男は嘲笑した。数字にして無量大数とゼロもの差が有るモノを、幾らゼロを重ねたとて積み重なるモノは所詮無だ。お前達は餓鬼の石積みでもしたいのか? 男は、頭の中でひたすら彼等彼女等をそう蔑んだ。
ならば解らせる他は無い。その肉体に、その精神に、雑念一つ入る余地の無い絶対の強さを示してやろう。
『おもしろい。かかって来い……全員纏めて甚振ってやる』
瞬間、黒の男から溢れ流れる"黒"がより濃く、より強く、周囲どころか全てを吞み込もうと空間を、景色を、世界を、侵食していく。いよいよ本気と言う事か、途端彼等彼女等の体を凄まじい恐怖が支配した。
全身の血が恐れを遠ざけ、もしくは自ら遠ざかるように引いていき、心臓はまるで鷲掴みでもされたかのように動悸に異変が生じ、息が詰まって思うように呼吸が出来ない。
これが、本当の、真の恐怖と言うものなのか……いや、これですらまだ氷山の一角に過ぎないのかもしれない。相手はただ、本気になっただけなのだから────
「出来るものならやってみろ! 私は、私達は、絶対に諦めない! 必ず、貴様を倒す! 『正義・輝想心』……!!!」
霊乃は黒に臆する事無く前に出て、金色の光を全身から放つ。光の魔女の唯一扱う神秘を再現した技。光は彼等彼女等に触れた瞬間彼等彼女等から恐怖を淘汰する湧き上がる勇気を与えた。立て、勇者よ、英雄よ……これからが、本番だ。
「行くぞォッッッ!!!! 『七色魔手・光』! 『七色魔手・闇』!!」
全身から発する咆哮で光の魔女と闇の魔女の力を引き出し、黒の男へと駆け出す。同時に黒の男も霊乃へと駆け出し、白と黒の絶大な爆発が起こると、その直後に周囲の時間がピタリと止まり、再び霊乃と男だけの世界での格闘が始まった。
攻撃の動作の度に黄の光の描く軌跡がその場に留まり、紫の闇がそれに追従して墨のような特殊な足跡を残していく。流麗にして豪傑、決死の一撃は無数であり、霞の如き回避もまた当然の域。もはや何が当たり前なのか当たり前の概念がゲシュタルト崩壊を起こす。
知った事か。第三者の疑問を蹴散らさんばかりの膂力の激突……白と黒がぶつかり合う────それ以上の常識もそれ以下の常識も存在しない。
私は
お前を倒す為に今此処に居る!
俺は
「黒オオオオオオオオオーーーーーーッッッ!!!」
『白オオオオオオオオオーーーーーーッッッ!!!』
両者の咆哮、それだけで止まった世界に亀裂が走って割れて弾ける。拳が交差して互いが互いの一撃を紙一重で躱す。しかし、拳の向いた方向へ絶大な破壊が到達し、巨大な穴を多数連なる建物に穿つ、穿つ! その一撃が0秒の世界をも穿ったのか、二人の動きに置いてけぼりをくらった世界が再び動き出した。
同時に横から海斗が黒の男に向かって身体を閉じて縦に回転しながら接近し、自身の間合いまで詰めた瞬間体を開きながら右足の踵を渾身で男に振り下ろす。
悠々と男が踵を躱した一瞬、絶対の宣言が黒の男へ届く。白い髪と白い装束の男、アルマに依って……
「お前は"俺達の攻撃を防げないし躱せない"! これは絶対だッ!!!」
『何ぃ!?』
その絶対に、縛られる!!!
「今の内に叩き込めぇぇぇッ!!!」
身体を翻しながら海斗は号令をかけ、空中で渾身の回し蹴りを黒の男の顔面に叩き込む。それに続いてアルマと何処から現れたか白谷が蒸気のようなオーラを出しながら黒の男に拳と飛び蹴りを思い切り叩き込んだ。その隙を突いて白の霊乃もガラ空きの男の腹部へ1垓発の連打を叩き込んだ。
『……なら、反撃は有りと言うワケだな? 存分にぶちのめしてやるッッッ!!! 【デッドリーソーン】!!!』
三人の攻撃をくらった状態で、剰え白の超連打を受けておきながらも、男は驚く程の余裕を見せながら怪しく笑みを浮かべ、全身から黒い細針を全方位に乱れ打ち、四人を容赦無く貫く。堪らず離れた四人へ追撃、自身の黒を増大させて放つ究極の属性の一撃!
『【エレメント・ブラックバイター】ッ!!』
三方向へと分裂した巨大な黒い悪魔のようなシルエットが海斗とアルマと白谷を貫き、体の外部と内部を同時に破壊されるような途轍もない激痛に襲われる。細胞の一つ一つがまるでプチプチと指で潰されていき、それが全身へ瞬く間に広がるような、形容し難い痛み。
『お前にはこれだ白! 【オーバーロード】ッッッ!!!』
一気に間合いを詰めた黒の男は白の霊乃の鳩尾目掛けて鉤爪状に開かれた掌打を下から振り上げるように打ち込み、体内部へと深く減り込ませた後に漆黒のエネルギーをこれでもかと放出して霊乃を呑み込む。内臓を潰され、黒の莫大な放出を無防備にくらい、それでも霊乃は全身に力を入れて技を咆哮する。
「『鬼神が如く』ァァァァ!!!」
その間アルマと白谷は黒の攻撃に耐え切れず落下するが、海斗は黒の属性を無双で浄化して難を逃れ、再び接近を試みた。再び世界を置き去りにする0秒の刻……白と黒に海斗を交えた絶対領域。
青空の如く澄んだ目の男、海斗の繰り出す1260°右後ろ回し蹴りは的確に黒の男の顔面を捉えていた。だが男はそれを上半身を引く事で易々と躱す。しかし海斗は空振りに終わった右足を即座に振り下ろし、左足を振り上げる力に変換、継続、1260°から1440°左回し蹴りへと繋げた。
無論、この程度黒の男なら予想が出来ない攻撃では無い。ならば当然避けてみせる。胸を中心に頭を振り回すように男は海斗の蹴りを潜り抜け、その動きに続けて身体を捻り込み、自身も右後ろ回し蹴りを海斗に放った。
「ふんッッッッ!!!」
が、男の右後ろ回し蹴りは白いグリーヴを纏った左脚に止められる。霊乃、海斗の背後でタイミングを計っていた彼女は男の回避で発生する海斗の隙を突かせて左足の蹴りで男の蹴りを見事に止めてみせた。瞬間、回し蹴りの勢いをまま利用してその場で更に回転、1620°右後ろ回し蹴りを霊乃と男の蹴りの丁度真下から斜め上に振り上げて黒の男の右側頭部に踵を直撃させた。
踵落とし気味に繰り出された右足の蹴りがメリメリと勢い良く減り込む生々しい音がする。同時に一瞬男の動きが止まった事に気付いた霊乃はその一瞬を逃さず左足の底からノータイムで巨大な黄色い光を放射した。
「『輝光星撃』ぇッ!!」
眩い光の迸りに男が呑み込まれたと同時に海斗がその場から離れ、それに合わせて右足を左足同様に突き出して紫の闇をこれまたノータイムで放射した。
「『黒天崩撃』ぁぁぁッ!!!」
まだ終わらない。これに更に付随する────成長しろ、我が一撃よ!
「『七色魔手・木』……『成長・樹大閃』ッッッ!!!」
ただでさえ巨大な光と闇が更に増大、速度を増して男を押し切ろうとする。木の魔女の特性を用いた成長を促す技は、今放つ魔法や技を極限まで威力を高める。その、極限まで威力の高まった光と闇の中を突き抜け黒い何かのシルエットが明確に手を翳した。
たった、たったそれだけの動きだけで、光と闇の放出が弾けるように消し飛んでしまった。
『そんなに死にたいならお望み通り殺してやろう』
「だったらさっさとやれよ……勿体ぶって無いでよ……!!!」
『……なに?』
黒の男が翳していた左手から黒い閃光を放つ瞬間、その背後へ忍び寄る全身から火を噴出する男が一人。男の存在に黒が気付いた時には既に遅い、男の直ぐ近くの周囲と突き出す両手の周囲に所狭しと高火力と一発の爆発力が売りの銃火器達が一斉一挙に火を吹いた。
「『銃火器爆発物一斉処分祭』、超縮小版ッ!!」
男は活躍。全身から噴き出す炎は能力で付随したモノだが、自身の動きと火力を結び付け、宛ら体力と言う燃料を全て消費した上で獲得出来る世界を超えてない者の最速最強膂力だ。その状態から放たれる彼の銃火器は未だ曾てない威力を有する。
だが悲しいかな、それでも黒を傷付ける事は叶わず。銃火器の一斉攻撃は黒の男を僅かに浮かせただけに終わった。でもそれで十分だ────
「『切り刻まれる空間』!」
「『ソウルドライブモード3』ッ!」
僅かに浮いた、そんな僅かな隙を縫うように一人の男が黒の真横で剣を振り被っていた。男が剣を振り下ろすと、その際の感触が奇妙だった。一閃と言うには鋭さが無く、断割と言うには重さが無く、両断と言うには破壊力が無い。
強いて言うなら、ふわりとした空間の感触くらいだ。
そこで黒の男は初めて気付いた。目の前の男が、否! ハッキリ言おう、この男は幻真だ! その幻真が闇の魔女に粉々に砕かれた筈の『真神剣』をあろう事か刀身の無い状態で黒の男に対して振るった。
何を無意味な事を……そう思った瞬間だった────
「安心しろ、攻撃はもう終わってる」
なに?
直後、黒の男を無数の斬撃と言う斬撃が襲う。これは、夜桜の『切り刻まれる空間』!? いつ攻撃していた? どこからだ? 一体何処から!? いやよく見ろ、幻真の手に持つアレは、何だ!?
黒の男はまたもや気付く。幻真は刀身の無くなった剣で攻撃したのでは無い。夜桜の技を上手く剣の刀身に形成して結合させた真神剣で自分を斬ったのだと。
瞬間、幻真は雄叫びを上げながら真神剣を超光速で何度も振るい、最後に横一閃で黒の男を通過した。
斬撃は更に強固に、更に忙しなく、更に鋭くなって自身の放った切り刻まれる空間の威力にも迫った。だが傷付かない! それでも黒の男を傷付ける事は叶わない! 堪らず駆け出した霊乃が0秒移動で黒の男へ接近し、左足の飛び蹴りを放った。
蹴りは一直線、黒の男へと吸い込まれるように顔面に間も無く当たるだろう。
黒の男が"反撃"をしなければ……
『【ブレイカー】……」
「な、ぎゅぅぅぅッッッぐばああああああッッッ!!?」
それは本当に一瞬だった。0秒の中で男は黒い流れを噴出させ、右手をゆっくりと突き出して何かの衝撃波を放った。その直後、霊乃の攻撃が中断され、それどころか霊乃が全身を強く握り潰されたような声を発しながら苦悶の表情をして、また直後にそれから解放されると同時に血を大量に吐き出し、その後も湧き出るように仰向けの状態から血を吐き続けた。
衝撃波が放たれた直後、黒の男を斬り続ける斬撃が止み、続けて男が手を四方八方に突き出して衝撃波を発し、続々と彼等彼女等が霊乃と似た様子で倒れ、血を吐き続けた。一体何が起こったと言うのだ??
『やれやれ、全くもってやれやれだ。俺の最後の能力【破壊】を使わせるとは……とは言え、最後の最後までこいつを使うつもりは無かった。使えばそれだけで終わってしまう虚しい力だからな……』
黒の男は目の前で口周りを未だ流れる血で汚し続ける白の霊乃を見て、悲しそうな表情を浮かべた。今までの様子からは考えられないくらい真に悲しみに満ちた表情を見せている。瀕死ながらも、霊乃はそれをしかと感じていた。
『今のでアルマくんの能力は解除、その他攻撃も消し、彼等彼女等の命も奪う手前まで持って行った。もう終わりだ、白。実に惜しいが、この闘いに終止符を打とう』
「待てよ。終わったなんて、誰が決めたんだよ?」
血を吐きながら霊乃は声のする方向を見た。霊乃が視線を向けた先に居たのは、何処から紛れ込んだのか、今のこの場には場違いな紺色のブレザーを着た一見すると中学生程度の少年だった。
身長170cm以上、体格は悪くないが、あの少年にどうにか出来るとは、霊乃は思えなかった。
『誰だお前は? 部外者は退場してもらおうか、今この場は白と黒の因縁の場なのだよ』
「白と黒、か」
何!? 突然声が別の方向から聴こえてきたと思えば、いつの間にか少年は霊乃と黒の男の目の前に。しかも黒の男に至っては背後に立たれていた。
一体何が!? 少年からは何も感じない! この世の何処にも存在しないかのように、何も感じない!?
当然その驚きは黒の男にも伝播した。これが現実に起きているのだから当たり前だろう。何せ9段階もの世界を超えし者の"0秒"を簡単に振り切れるなど、絶対に有り得ない事なのだから。
『────何……だと!?』
「事情は全然知らないが、あんたをこのままにしとけば、今あの場に倒れてる人や、周りのお仲間を殺しちまうって事だけは、よーく理解出来た。今からあんたをぶちのめす……本気で来いよ、でないと死ぬぜ? あんた」
男の驚きを他所に、少年は構えずに立ち尽くした。僅かに噴き上がる青白い闘気は、この世界で無くとも異質と取れる何かを誇っていた。
『……良いだろう。もう勝負はついたのだからな、お前と暇潰しをするのも、悪くない!』
「へぇ、暇潰しか。人の話を訊いちゃいないな」
その時、驚愕の現象が起こった!
黒の男が黒い流れを噴出させながら渾身であろう右拳を突き出した瞬間だ。その瞬間、少年が右拳を突き出して黒よりも圧倒的に速く顔面に直撃させ、黒よりも強く殴り、黒よりも余裕でその場に居た。
一方黒の男は少年の右拳を左頬にくらい、吹き飛んだかと思えば少年の背にぶつかって止まって倒れた。男の様子は見るに、歯が吹き飛び、顔面の骨が粉々になり、左頬を真っ赤に腫らして余りの痛みからか地面をのたうち回る。
え、ええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!??
今まで一片たりとも見る事が無かった黒の男の痛みに悶絶する姿。それを実現させてるのが、体格で負けてるあの、ブレザー姿の少年だと!? それだけならまだしも、黒の男、今、目の前で飛んで行って少年の背にぶつからなかった!? それって地球一周したって事ですよね!? しかも少年ぶつかられても微動だにしてないし! な、何者なんだ!!?
「お、悪い。今治すからな。『癒しの波動』……」
少年は霊乃を見て重傷である事に再び気付くと、目前まで軽く駆け寄ってしゃがみ込み、右手の平から緑色の優しい光を放出した。それが霊乃に触れると、忽ち霊乃の重傷を治癒し、血すらも引いて体力すらも戻り、完全完治へと至らせた。
「す……凄い」
「他の仲間もすぐ治してやるからな」
そう言うと少年は右手を頭上に上げ霊乃に当てていた光を真上に向けて放出。あちこちで倒れてる彼等彼女等も瞬く間に完治し、その回復から驚く者が後を絶たない。無理も無い話ではあるが、少年にはそれが当たり前なのだ。
「あなたは一体……!?」
霊乃は溢れ出す疑問に耐え切れず、少年に尋ねた。一体何者なのか? 何故それほど強いのか? 何故助けてくれたのか? それを少年は振り返って明るく微笑んでみせると、直後に黒の男へ向き、歩み寄り始めた。
「話は後だ。ちょっとだけ手伝ってやる、暫く休んでな」
続く!?
………………




