第31話 それは偶然、必然を飛び越え
あと2……
目覚めよ。今がその時……
絶対を覆せ、何が何でも────
黒の男は怯んでる間、仰け反ってる間、自身の目の前に立つ男、白谷 磔の"異常"を観察していた。あの男に何が起こった? 背中を軽く小突いただけで吹き飛びビルの下敷きとなった第2段階……いや今は第3段階か。その程度の雑魚が、俺を殴るだと?
攻撃すら見えず、避ける事すら叶わず、剰え攻撃の瞬間の全くの無防備の状態を寸分違わず正確に的確に拳を当ててきただと? しかも常に躱してきた人体の急所に、同時5発────だと?
こいつの【回想する終焉の超騎士】は次動作感知と半自動動作の最速反撃の形態の筈だ。俺に機能しなかったのが、今更機能すると言うのもおかしな話だ。何より俺は『状態系』の能力は無視出来る筈だ。無視し切れなかったとでも言うのか!? この雑魚の能力に、追い付けなかったとでも!!?
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経緯を説明する。
白谷 磔。彼は、黒の男に全く敵わない。それは確かだ。変わらぬ現実、悲しき事実。
だが、それは実力の面での話だ。彼は第2段階『覇者』……要約すると、世界を二つ分上回ったと言ったところ。対して相手は第9段階『断世者』……世界を九つ分上回った余りにも強大過ぎる敵だ。
この七つ分の差を埋めるにはどれだけの努力が必要か。その人の才能にも依り、最短で一瞬、最長で一生……だが今はそんな時間も猶予も無い、有る筈も無い。普通なら、無理だ。
しかし、中にはこの方法を通さず上位の相手にも引け劣らない実力を有する者が居る。更には前述の差を埋める方法は正攻法に過ぎない。そして、今から説明する方法は、特定の条件で発現した"世界を超えし者"に限られる事だ。
その方法とは、『能力』の進化だ。この方法を通したのがアルマと白谷の二人だ。そして、アルマは途中から能力進化を果たしたのに対し、白谷は最初から能力を進化させた。これが、決定的な差を埋める最たる要因にして原因!
能力進化を最初から果たした者にはその能力が進化し続ける準備が整ったと言う事であり、必要な時が訪れた時、能力は"世界を超えし者"の意志に応えて成長する。世界からの枷を外した"世界を超えし者"には限界が無い────故に、段階を無視出来る者が稀に存在出来る!
………………俺はまた、負けるのか。何度も何度も負けて来たけど、今ほど心が折れる事も無いな。
なぁ、二人とも……俺はもう、諦めても良いのかな? 良い、よな……俺には、あの野郎を倒す術が無い。だったら、何をしたって────
その時、彼の脳裏に浮かぶ過去の出来事。ありとあらゆる数多の記憶がズラリと並び、映像となって浮かび上がる。その映像の中で、誰か一人の、迚も大切な言葉を耳に入れた。
その言葉を聞いた瞬間、彼の目の前の記憶が広がって純白の景色に塗り変わり、彼の胸の中心に唐突に灯る蒼い光。そうだ、俺は……俺は────
ありがとう、思い出したよ。俺は……
白谷はビルを最小限破壊して抜け出し、衣服がボロボロに破れた状態で出て来た。白い蒸気のようなオーラを全身から強く速く放ち、その姿は何処か、人間臭いようで、神々しくもある。
直後、0秒で彼が向かったのは黒い流れの在る位置。空気の合間を縫って移動したのか、何故か彼の速さとは裏腹に風が起こらない。到着直後も無風。故に、彼の姿を見た黒の男は不思議に思っていた。今移動して来た筈だが、何も"動いていない"な、と……
だからこそ、いきなり現れた彼を【居た】と認識した。せざるを得なかったのだ。余りの無意識故に、余りの自動故に、余りの完成度故に────
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それが、今に至る。
『フフッ……おもしろい。火の魔女も似た能力を使ってたが、まさかそれか?』
黒の男の問いに対し、白谷はやっと答える。
「かもな。でも思ったよ……俺とあいつの力が両方使えたなら、どうなるのかなって。スゲェ強くなるんじゃ無いかなって……思ったよ」
刹那、白谷の姿が増えた。一人から二人に、男の目前と背後に一人ずつ、拳を力強く突き出して来る。だが男には見えている。だからこそこれに反応して背後に迎撃をするのだが、その迎撃は反撃にねじ伏せられる。
背後からの攻撃が異様な変形を起こして男の顔面に直撃する。男にしてみれば拳の威力は大した事は無いが、自身の攻撃が当たらず相手の攻撃のみが当たると言う一方的理不尽に途轍もない不快感を示していた。
『本当に癪だな。癪だなッ!!!』
更に刹那、黒の男が自身の黒い流れを纏った拳を構え、1000溝もの打撃を白谷に放った。白谷からはこの攻撃、見た目は一発の拳が酷くブレた感じで映る。無論、0秒なのは言うまでもないが、その数を前に白谷は無表情のまま透過するように躱していく。
白谷は1000溝もの数の拳を掻い潜った先に居る黒の男を見据えたまま、男と同じかそれ以上の数の拳を0秒で放つ! その拳は全て、男の鳩尾へ。
1000溝以上の拳が男の鳩尾に集約され、直撃直後に重々しい破裂音が豪快に鳴り響く。思わず鳩尾を押さえて驚く男に、白谷が目の前で最初と同じように立って超重の威圧を掛けていた。その様子を見て眉が痙攣した男は更に上の、更に力強く、今度は蹴りも交えて1000澗もの打撃を白谷にぶつける。
だが拳は不思議な事に当たらない。全て、例外無く全て、先程と同じようにまるで透き通るようにして白谷は男の攻撃を躱し尽くす。躱しながら、同じ様に更に上の、更に力強く、蹴りも交えて1000澗以上もの連打を精密に正確に男の左胸に、心臓に集中して打ち込む。
黒の男は自身の心臓目掛けて降り注ぐ1000澗以上の打撃を受けて止まる事無く、尚も勢いを更に増して連打を繰り出す。怯むどころか更に力と速度を増して連打を繰り返す男を前に、白谷は一切動じる事無く更なる連打を全て躱し尽くし、自身も更に力と速度を上げてそれ以上の連打を返した。
これだけの連打の応酬が行われているので、当然ながら周囲の建物や地面が押し迫る衝撃に薙ぎ払われるワケだが、男の背後の建物や地面だけが何の変化も無く健在していた。そりゃ激闘を繰り広げているのだから破損してないのは逆におかしいのだが、そうでは無く、その激闘の破損以降……つまり白谷が攻撃を開始した時点から全くの無傷で済んでいるのだ。
これは一体どう言う事なのだろうか?
白谷と男の戦闘が開始してから3分後、未だ止まらない連打の応酬が突然、終わりを迎えた。
『ぐぐッ……何ぃ? 何だコレは?』
唐突に喉に詰まる異物の感覚に攻撃の手を止めた男は、白谷から一瞬で離れてから異物を吐き出した。手の平で受け止めて吐き出した異物を確認した男は自分の目を疑った。手から溢れ滴る赤く僅かに粘ついた液体、生物に等しく流れる大切な循環物。男の右手に吐き出された異物は、その正体は、真っ赤な血液だった。
男は真っ直ぐ正面を見詰めた。視線の先には自身が簡単に打ち倒した男、白谷 磔が居る。何故だ、何故あの男が。領域すらも2……いや3段階程度の男が、ただの雑魚が、如何して俺に、この俺に、6段階も上の俺に、血を吐かせられる!?
男の初めて見せる焦燥に、白谷は無表情のまま歩み寄り始めた。尚も男は疑いを止めない。
馬鹿げた奇跡が起きてるとでも言うのか? この程度で、やられるのか? ふざけるんじゃないぞ、このクソ共が!
『【デッドリーソーン・エクストラ】ッ!!』
感情のまま叫ぶ男の全身から黒い流れが放たれ、白谷の周囲を半径1km圏内のドーム状で囲い、流れが急速に細針に変化して即座に一斉に射出される。ドーム内は超大量の細針の嵐で瞬く間に黒く染まり、その中心に佇む白谷を無惨な肉溜まりに変えんと飛来する。
無数の細針が無尽蔵に降り注ぎ、無差別に落下しては地面を貫通して穴だらけにしていく。その序でに白谷の体も穴だらけに変えていくのだろう。
が、ところが……
『全く、癪だ、癪過ぎるな!』
白谷はドーム内で降り注ぐ細針に触れるどころか、不思議な事に全ての細針は白谷を一切の干渉無く透過していく……否、違う……これは、躱している! 先ほどと同じく、まるで透けているかのような最小限且つ最大限の回避で細針全弾を容易に擦り抜けて行くではないか。
「テメェが何を考えて、何を思ってるのかは知らないが、俺から言える確かな事がある。テメェには散々虐げたツケが今来てる。そのツケをテメェに払わせる為に、魔女が力を貸してくれてんだよ、この俺に。闘った火の魔女が、俺に力をくれたんだよ。テメェに負けない力を、テメェに勝てる力を、テメェに、一泡も二泡も吹かせられる力を! この力、『輪廻の超騎士』で、テメェに勝つッ!!!」
ドーム内を抜け、0秒で黒の男の眼前まで接近した白谷は、直後に右手の拳を男の正中線に合わせ、額から丹田に向けて狙いを定めると、瞬間に拳を正中線に打ち込み、音も無く全身全霊の1垓発を放ち終えた。
この1垓発の拳だが、実は一撃毎に1万もの打撃を白谷の持つ技、ネイルシュートの要領で追加で打ち込んでいる。つまりこの連打、1撃毎に1万×1垓で1秭発となる。数字だけで見ればそれ以上の数字が出ているが、白谷の今の形態の膂力と能力なら、高段階の領域である黒の男にも引け劣らない!
この技、その名も────────
「『超騎士は雷炎を身に纏いて』……」
火の魔女の銘を持つこの技は、正に『輪廻の超騎士』にしか出来ない究極絶技。自動と半自動を兼ね備え、常に最適な攻撃と回避を行う超自然体から放たれる無類の一撃の多段撃での急所一点集中連打。正直彼が、白谷が、もしも第3段階より上であったなら、この時点で大幅にダメージを負わせられたかもしれない技だ。
そして説明する。
以前彼は『回想する終焉の超騎士』を開眼して半自動に依る最速反撃の手を得る事が出来た。だが敵が強過ぎる余り半自動の最速反撃は機能せず、ただ無防備に打ち倒される事が多々あった。
そんな時、黒の男に殴り飛ばされた彼は気絶する中で、走馬灯のように自身の記憶の映像を見てきた。そこで彼は、忘れてはならない事を、また一つ思い出し、力の枷を今一度引き千切って突破した。
これに依って覚醒したのが『輪廻の超騎士』なる形態。『回想する終焉の超騎士』が更に進化し、自らに足りない要素を足して戻ってきた。イグニスの使っていた『雷』の、"完全自動"を……
戦士の戦いは終わらない────巡り巡って永遠に。戦いは、強さは、"輪廻"する!
「何度だって強くなってやる。それが俺達に出来る、俺達が持つ、唯一無二の強さだから!」
『くくっ……ならほざきたいだけほざけ。悪いがお前の茶番に付き合い続ける程お人好しではないのでね』
白谷の強い言葉を受けた直後、白谷の無意識0秒連打を急所にくらった黒の男が、まるで先ほどの焦燥が嘘のようにいつもの若干の丁寧口調に戻り、怪しく笑みを浮かべ出した。嫌な予感……否、最悪の確信を白谷の今の形態が告げた、その時だった……
「『無双輪廻』ぇッ!!!」
黒の男の顔を横から強烈に殴り抜く輪廻の如き螺旋の一撃。その一撃で、男は初めて口と鼻から血を吹き出した。右手を強固な握り拳にして突き出す男、海斗は、続けて左拳を構えて二打目の無双輪廻を放とうとした。
『【擬似再現・輪廻の超騎士】……』
その瞬間だった────
「ごォォェッッッ!!?」
左拳を突き出す直前の海斗の水月、つまり鳩尾が突如異様な陥没を起こし、彼の攻撃は嘔吐の如き吐血で中断されてしまった。その瞬間の一部始終を唯一見ていた白谷は、脳内が驚愕一色に塗り潰された。
「嘘だろ……今の攻撃……この技が、輪廻の超騎士が、そんな……」
彼には見えていた。見えてしまっていた。が故に、知ってしまった。今の無駄の一切無い自然体から放たれる急所一点集中の究極連打……間違いなく、完全自動の動き、間違いなく、『輪廻の超騎士』だ。
この黒の男は、誰かの能力や技すらも、使おうと思えば使える!
「簡単に……そんなバカな事があんのかよクソッタレがぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
目の前の事実を否定するように叫び、男に殴り掛かろうとした直後、白谷は突然全身の力が抜け、勢いのまま頭から地面に倒れて数m程滑った。完全な脱力の後、白谷は体が指一本どころか表情一つ、目玉一つ動かせなくなっている事に気付き、同時に意識が徐々に朦朧としていっているのにも気が付いた。
な、何だ……何で……体が急、に…………
『お前、自分の使う力がどんな影響を自分に齎すか考慮してないのか? 擬似再現で使って解ったが、この形態は半自動と完全自動を併用する。それ故に必要とするエネルギー量もかなり膨大となる。通常の人間なら10秒保つかどうか……世界を超えていても精々最短で1分が限度だろう。白谷 磔、お前は5分だ。その制限時間が、たった今訪れた、実に残念な事だがな。
これなら勿体振らずさっさと再現してれば良かったかな? とは言えこちらも再現するのにお前の形態はちと難し過ぎて時間が掛かった。まさかほぼ時間一杯まで耐久せざるを得なかったとはな。本当に癪だったよ……まぁ、おかげで愉しめたよ。俺の演技、なかなか上手いだろ?』
男の問い掛けに白谷は答えない、答えられない。喋る事すらも出来ない状態なのだから当然であり、それに男の言葉も長過ぎて3分の1も聞けていない。視界が薄れ、呼吸も弱まり、耳は遠くなり、肌と口の感覚が有耶無耶となり、今、白谷の五感全てが消えようとしていた。
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「うぅぅぅ……ぐッ……」
ダメージの影響なのか、将又精神の影響なのか、霊乃は白で無くなり、元の姿に戻ってしまっていた。170cmの体躯が彼女本来の140cmの体躯へと戻り、宛ら自らの無力さを再確認するようだった。
これ以上無知で無能で無力で居たくなかったから強くなった……のに、なのに、彼女は黒の男に太刀打ち出来なかった。これが、全てなのか? 今の自分の?
「違う……違うッ……!」
全てでは無い。これが全てなワケが無い。こんなものが全てであってたまるものか。私はまだ全てを出し切ってない、出し切れてないなら出し切ろうともしていない。絶しろ、烈しく記せ、核を変えろ、極めろ、掌握しろ、踏み破れ、覇を唱えろ、到達しろ。
その為には……
「ぐッうぅぅ……! 私の中に、まだ……残ってる、七聖魔法士の魔力よ。もう少し、もう少しだけ、力を……!!! まだ終われない、出し切れてない、燃え尽きてすらない……私は、私には、倒さなくちゃいけない相手が居る! だからもう少し……いやもっと、力を!!!」
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「それ以上、喋るな……! 黒!」
ふと声を聞いて思い出したように声の方向へ男が振り向く。男が振り向いた瞬間、絶大な魔力の爆発が起こり、霊乃を覆いつつ天空を突き破る。霊乃はまだ力尽きてなどいない。先ほどよりも強い膂力を纏って立ち上がる。目前の男、黒を強く強く睨みながら。
『ほぉ、さっきよりも膂力が跳ね上がっ────』
「喋るな……それ以上喋るな。それ以上嘲るな、それ以上虐げるな、貴様は一体どれだけ汚せば落ち着く? 一体どれだけ傷付ければ大人しくなる? 一体どれだけ私を怒らせれば気が済む? いい加減にしろ……私の堪忍袋も限界だ、黒……!!!」
男の言葉を途中で遮り、霊乃は己の怒りの丈をぶつける。言葉を遮られた男は口を閉じて霊乃の全身から噴き出す光を観察した。これは如何した事だ、先程まで虹色だった光が完全な純白と化して猛っている。
怒りの頂点に達して一つ強くなったか。なるほど、やっとこれで対等と言って良いのかな? ホワイトよ……
『ならば、来い。白!』
「……行くぞ、黒ォッ!!!」
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「ぁ……あ゛ぁ……くそぉ…………右手、ぁぁぁ、痛いじゃないか……でも、まだ、ペンと本と……左手が、残ってるもんねー…………」
続く!!!
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